女の子になりたかった

生まれ変わったら何になる?

と、下らない質問をされる。

特に何も思いつかなかったから、アラブの石油王と答えたら、せきゆおうって何?と延々とクエスチョンは繰り返される。

子どもは聞きたがりだ。俺のベッドに座った子どもは、青白い顔をしながら笑っている。手持ち無沙汰の小さな手は、同じように白い俺の指で遊んでいた。
自分が何から生まれ変わってきたかなんて、知りもせずに、また生まれ変わるのか?

輪廻転生を信じてはいないけれど、夢を見ることくらいは、信じてもいい。

「命はね、初めはみんな女だったんだって」

「何か教わったのか」

「うん、本で読んで」

「胎児の時は性別は無い、という話か」

「そう。女性というか、性別ははっきり決まってないってことだけど……」

いつかの時、自分がされたように俺は真田の指で遊んでいる。

爪を撫でたり、関節を確かめるように握ったり、皮をつまんでみたりして、相手は何も気にせずに好きなようにさせてくれている。

全てを許されているような気がして、こんな事をしている時間が好きだった。

「どんなに沢山の情報が溢れていても、生命に関してはまだまだ分からないことが沢山あって不思議だった」

「そうか。……そうだな」

「もし、真田は自分が女だったらどうする?」

「俺がか? 考えたことも無いな」

「考えたこと無いの?」

「幸村はあるのか」

「あるさ、勿論」

「そうだな……もし俺が女だったら、お前とは出会って無いだろうな」

「そう?」

「お前が女でも、だ」

他愛の無い、下らない会話で、強く言わなくてもいい言葉を放つ。

言われなくてもわかっている。

真面目なのだろう、そんな所が好きで嫌いで愛おしいのに。

「こんな関係になることが無いだろう」

「ふうん、残酷なこと言うんだね」

言いたいことは分かるんだ。

出会ったきっかけ、共に過ごした時間、共有してきた数々の出来事、分かち合った夢と、競い合った日々。

これからも続くのはお互いがお互いの為の存在であること。それ故にある愛も、俺たちが同性だからだ。

それでも。

それでも俺はもしもの夢を持っていた。

言いたかった。知ってほしかった、あわよくば、分かって貰いたかった。

お前の為に捧げた体に、お前の命を育むことが出来たなら、と、夢を見ていた。

命は巡らない。

当たり前のことが、叶うことは無い。

俺は男で、真田も男で、ふたりがいくら愛し合ったって、どんなに好きでも、俺に子宮が出来る訳が無い。

それでも、抱き合う理由は確かにあると思っている。