ぼくらのあたらしいあした サンプル

一章

「う、うわああああああああああああああああああッ!!!!!!」
 広大な土地を持つジョースター家の、所謂『離れ』と呼ばれる別棟のハウスから、長男であるジョナサン・ジョースターの絶叫が鳴り響く。早朝のまだ空も白む時刻のことであった。
 隣で眠っていたディオは耳を劈くその叫び声により、強制的に起こされてしまった。
「な、な、ん、ディ、うっ、あっ、えっ?」
「おい、ジョジョォ……朝っぱらから一体なんのつもりだ……ッ」
 口を魚のようにぱくぱくと開け閉めしながら、ジョナサンはおおよそ人語とは程遠い単語を繰り返している。
「まさか寝ぼけてるだなんて、ほざくんじゃあないだろうなあ?」
 ディオは寝癖のついた髪を後ろに流し、ジョナサンを咎める。まだジョナサンは正気を取り戻せないでいた。蒼い目の焦点が合っていない。目を白黒とさせている。
「ぼ、ぼっちゃま、どうされましたか?」
 叫び声がしてから、ものの数秒しか経っていないのにも関わらず、廊下からはフットマンたちが慌しく駆けつけてくる足音がしていた。仕事熱心な連中だと、ディオは面倒くさそうに舌打ちをした。
「誰も入るな! 何でもない!」
 扉の外に聞こえるようディオが一喝すると、しばらく数名のざわめき声がしていたが、彼らは命令に従いドアノブも回さずに戻って行った。
 あたりは元の静けさを取り戻した。
「なあ、ジョジョ。そろそろ目も覚めたんじゃあないか?」
 ディオはジョナサンの頬に手を添える。すぐさま、その手は弾かれてしまった。
「な、何をするッ!!」
「やれやれ……まだ眠りの最中か」
 呆れたようにディオはため息をつき、おもむろに顔をジョナサンの目の前に持っていく。
「これで目を覚ませ」
 ジョナサンは、うっと息をつまらせた。ディオの顔面が、至近距離にある。それどころではない。肌と肌がくっついてくる。肌ではない。これは、迫り来るこの柔らかさは……ッ!
「な、何をするだあああああああぁ!!!!!!!」
 キスをされるのだと脳が理解したのは、ディオの睫が触れてからだった。後ろに自分の体をふっ飛ばしながらもディオを突き放す。ジョナサンはそのままベッドから落っこちて床に頭を打ち付け、それから目を回した。

 ――何故だ。どうして、ここにディオがいるんだ? ぼくは、ツェペリさんの下で波紋の修行をし、ディオを倒すために……そうだ、ウインドナイツロットにある石造りの館にディオがいると知って……。それから。ディオを……ディオを……倒そうとして。ぼくは、ひとりで……そこへ向かったんだ。
「……ジョジョ」
 ――おかしいな……、頭の中がぼうっとして、肝心な部分が思い出せない。ふわふわする……。ああ、誰かぼくを優しく呼んでる声がする。誰だろう……、母さん……? 父さん……? ……エリナ?
「ジョジョッ!」
「うわあ!」
 ジョナサンの寝巻きの襟刳りを掴み上げ、ディオは優しさとは正反対の声で名を呼んでいる。
「きさま……どういう了見だ。……このディオの口付けを拒んだ上に、有ろう事かおれを突き飛ばすとは!」
「す、するに決まってるだろう!!」
「どうしてそうなる。あれほど毎日しておいて、今更何を言うか!」
「ま、ま、毎日!?」
 言われて、ジョナサンは思わず唇をごしごしと手の甲で拭った。まだ混乱している。
「昨日だって、おれはもう寝たいと散々言ったのに、それでもしつこく乗っかってきた獣男は誰だ! 野獣並みの精力と性欲を持つ男から、そんな初心なお言葉を頂けるとは、なあ。ああ、そうか、今日は槍でも降るのか。それならおれも納得するぜ」
 一体全体なんの話をディオはしているのだ、とジョナサンは早口で捲くし立てられた言葉への理解が追いつかず、口も目を開けたままになった。
 寝不足気味なディオは大きな欠伸をしながらベッドから出て、部屋の中心にある大窓のカーテンを開いた。
「見ろ、まだ夜明け前だ」
 ふらつく頼りない足取りでジョナサンも窓辺に立った。外の景色を眺め、それから痛む後頭部を自分の手で撫でてみる。そして、隣に平然として並んでいる宿敵であるはずのディオに、おずおずと尋ねるのだった。
「付かぬ事を……君に聞きたいのだが、今日は何年の何月何日……なんだい?」
 ジョナサンの記憶が正しければ、今は一八八八年の冬であるはずなのだ。それも正しければの話だ。
 怪訝な顔をしたディオは、細長い指で机に置かれているカレンダーを指した。
 ――一八八九年 十一月
「嘘だろ……」
 ジョナサンは愕然として床に膝をついた。
「一年……経って……」
 意味不明なことを口走ったジョナサンは、そのまま床に突っ伏してしまった。
「……な、何なんだこいつは。………………寝てやがる」
 しゃがみこんだディオがジョナサンの様子を窺うと、彼は苦悶の形相をしつつも深い眠りの中に陥っていた。ディオと同じくジョナサンも寝不足気味だったので、肉体は耐え切れず意識を手放したのだろう。
 ほぼ二メートルの巨躯を引き摺り、ディオはベッドにジョナサンを放り投げた。本当の朝がくるまでディオも隣で二度寝することにした。もしかしたら、これは二人で見ている奇妙な夢なのかもしれない。ジョナサンもディオも同じことをそう考えながら、布団のぬくもりに沈んでいった。

 再び目を開いたとき、ジョナサンは出来る限り気分を落ち着かせ、冷静でいることに徹した。
 黄金色の美しい髪が、シーツの上に波を作っている。その人物は、麗しい容姿には違いないが、男である上にあのディオである。これが美女であったなら……などと落胆してしまう。
「ぼくはまだ夢を見ているんだろうか……」
 何の気もなしに、ジョナサンはディオの豊かな金髪をひと房手にとってみた。さらさらとして、指から髪の毛は一本一本すべり落ちていった。
「どうせ夢なら……ディオでなくてもいいのに」
 手触りのいい髪で指を遊ばせて、ジョナサンはぽつりと独りごちた。
 こんな風にディオの髪を撫でることなんて、したことも無いのに、不思議とジョナサンの手に髪が馴染んでいる。仕草もとても自然で、慣れすらあった。前髪のどこにくせがあるのかも、ジョナサンは何故か知っていた。懐かしい気持ちが湧き起こった。
「変だなあ……」
「全くだ」
 目を閉じて眠っている筈のディオが、急に独り言に答えたので、驚いてジョナサンは髪を梳いていた手を引っ込めた。
「どうした、やめなくてもいいぞ」
「い、いいや! やめるよ。君だって、ぼくに触られるのは嫌だろ!」
 慌てるとジョナサンの声が裏返りそうになる。髪を撫でていた手は後ろに隠して、ジョナサンは首を横に振りまくった。ディオは肘を立たせて、上半身を起こした。
「嫌なものか。そうされるのは、すごく心地いい」
「う、え?」
 珍妙な声をジョナサンが出すと、ディオは俯いて笑った。その笑顔からジョナサンはどうしても目が離せなかった。
「変、そうだな。確かに、変だ」
 ディオはゆっくりと背を起こした。そして、着替えるために寝巻きの合わせを開き始める。ジョナサンは同性であるのだが見てはいけないと思ってしまった。
 くっきりと浮かんでいる鎖骨、滑らかな白い肌、鍛えられている胸部には肉の盛り上がりがある。目を反らそうとはしても、うっかりジョナサンはディオの体を眺めてしまっていた。
 特に、不自然にいくつもある赤い染みは白肌を際立たせていて、嫌でも目につく。
「昨日、いや、正確には今日だな。ジョジョ、おまえがつけたものだろう。何をそんな不思議そうに見る」
「ッ……? え、……え」
 ふざけているんだろうか、とジョナサンは口角をひきつらせた。けれどディオは、眉ひとつ動かさない。恐る恐るジョナサンは自分の寝巻きの中を覗いてみた。
「これは、怪我……だよね?」
 胸のあたりにディオと同じく、痣のような鬱血が何箇所もあった。ジョナサンは、きっとこれは争った痕なのだと信じ込もうとして、ディオに同意を求める。
 だが、ディオは首を振った。
 ジョナサンは卒倒しそうだった。言われなくとも察しが付いてしまったのだった。
「変、変だな……」
 ディオは開かれた寝巻きをそのままにして、ジョナサンににじり寄った。腰が描くカーブが猫科動物のようなくねり方をしていて、ジョナサンはたじろいだ。女性的な動きに見えてしまう。
「おまえは、誰だ?」
 ジョナサンだって聞きたかった。
 ――君は誰だ?
 このジョナサンが知っているディオは、ディオであってディオでは無い。なら誰なんだ。
 ジョナサンの世界にいるディオ……それは、吸血鬼であり、世界を脅かす存在。宿敵、倒すべき存在。元家族、元義兄弟、元友人、……ジョナサンが世界で最も忌嫌い憎むべき相手。
 昨日までのジョナサンなら、きっぱりと断言できていた。だが、何の悪戯か天地は逆転してしまったようなのだ。世界は色を変えてしまった。
 昨日までジョナサンの眼には黒に見えていたものが、今ではどうやら白らしい。頭がおかしくなりそうだった。いや、おかしくなってしまったのかもしれない。
 白なら白でも構わない。元の家族として、義兄弟としてやっていくというならそれが一番だ。でも、ディオがジョナサンを見る目つきは、白なんかじゃあない。痛々しいくらいの赤色。それも、とびきり濃くて、突き抜けて可愛らしい、愛の赤、恋の色。
 つまりディオは、ジョナサンを好いているということだ。それがジョナサンにとって、世界崩壊レベルの衝撃であった。
 そして、おそらく昨日までの自分がそんなディオと両思いだったということが、ジョナサンの歴史にセンセーションを巻き起こしているのだった。だが、今のところ衝撃と驚きはジョナサン一人だけのものであった。









――以下、エッチシーンのサンプルです――




 唇は愉快そうに片側の口角を上げている。ディオの視線の先は、ジョナサンの下腹部にある。さらさらとした布地のディオの服は膝を立てると、腰元から分かれた。分かれ目から覗いた太ももが暗闇でも白く浮かんで眩しい。
 曲げた膝が、ジョナサンの股座を下から上へとわざとらしく撫でる。
「う……ッ!」
 緊張と興奮の真っ只中にいる部分は、些細な刺激にも身震いしてしまう。
「キスで? それとも」
ディオは膝で形を確かめると、くっきりとして硬くなっているシャフト部分を左右に振った。
「おれでこうなった?」
 恐ろしいほどの色香が全身から、だだ洩れている。吸血鬼らしいというのもおかしいが、到底人間では辿り着けやし無い領域に達していた。
「両方だよ」
 答えに満足したのか、ディオは目を細めて笑い声をこぼしていた。
 普通のやり方なら、服を脱がしていき、性器をまさぐって……という順序がジョナサンの頭の中にあった。ただ、同性同士となると何をどうしていいのか手が迷う。
 いざ、ディオの服を解こうと襟元に伸ばされたジョナサンの手が空振った。
 ディオは身を起こして今度はジョナサンを横にさせようとしている。
「え、ディオ……ちょっと、ぼくは……っ」
「いいから、黙って従え」
 慌てふためくジョナサンの唇に、ちょんと指先をあてがってディオは筋肉質な胸板を手で押しやった。
「……あ、う、あ……っ」
 白い手先が、慣れたようにジョナサンのベルトを外していく。ズボンに仕舞いこんでいたシャツを抜き取り、腹が晒された。
 ズボンの釦も外されて、前が開かれる。
「ああ、可哀相に、こんなに辛そうにして」
 ディオはジョナサンの下半身に語りかけている。口ぶりは幼子に向けられるような優しさが含まれていて、ジョナサンはかっと赤面した。
「んん、よしよし」
「あ!」
 するとディオは大口を開けて、先端を口内に入れた。ぬめった感触に包まれて、ジョナサンは手足をぴんと張らせた。
「ん、ふ、……良い子だ」
 涎れをたっぷり纏わりつかせて、ディオは鈴口に唇を押し付けた状態で言った。鼻息と吐息が直接的に性器にかかって、ジョナサン自身が湿る。
 ジョナサンは腹筋に力を込めて、背を持ち上げた。信じられない光景に視界がちかちかする。でも事実だ。現実だった。
 口唇で性器を可愛がる話はいつか本で読んだことがあった。だが、それは作り話の中だけの出来事で、実際行う人はごく少数の性行為偏愛者だろうと思っていた。
「わ、あ、あ……あ」
 それが目の前にこうして実現されてしまっている。逃げそうになる腰をがっちりと両腕でホールドされて、ジョナサンは顔中にどっと汗をかいた。
「ディ、ディオ……そこは……ッ、そこは」
 乱れた呼吸を必死に整えながら、ジョナサンは言葉を紡ぐ。下腹部から顔を覗かせる様子は、浮世離れしていて目にする度に衝撃が突き抜ける。
「ふふん、紳士道に反するとでも言うか?」
 ディオは雄棒の頭を指先で押してやりながら、舌を幹に這わせてジョナサンに見せ付ける。
「ちが、……う。き、汚いよ……ッ」
 不浄にしているつもりはないが、だからといって口にすべき所ではない。しかも、あのディオが自分のそんな所を遊ぶように楽しんでしまうなんて。
「だから……こうやって、きれいにしてやってるんだろうがぁ」
 ちゅぱ、ちゅぱとディオはジョナサンのものに吸い付く。露出した部分は滑らかに光っていて、ディオは肉身と皮の間に舌を差し入れた。
「う……ッ」
 両手でしっかりと竿を扱き、唇は先端を丹念に舐め責める。ジョナサンは足の指を締めて、腰に集中する快感に耐えた。
「んんう」
 肘を敷布の上に立ててジョナサンは半身を起こした。長めの前髪が臍のあたりを触っている。じゅぱ、ちゅぱという卑猥音と共に金髪が上下した。
 体を起こすと、ディオがどんな顔をしているのか見えなくなった。髪の毛を持ち上げて、隠されている肌を覗く。
 頬は紅潮して、口元はいやらしく濡れ淫れている。見ているジョナサンの方が照れてしまうのだった。
「ん、ジョジョ?」
 ジョナサンの熱視線に気づいたディオは口を放した。だが舌を休めることなく、亀頭部をぺろぺろと飴玉のように転がしている。
「その、よく分からないけど、……ディオ、すごく、うまいよ」
 こんなとき、奉仕してくれるパートナーに何と述べるのが正解なのか、ジョナサンは知らない。ただされっぱなしで、黙っているのも性に合わなかった。なのでとりあえず素直に感想を伝えてみた。
「気持ちいいか?」
「う、うん……」
「でも、まだまだだぜ。これ以上もっと、良くしてやるから覚悟しろよ」
 小鼻に雄幹をあてがい、愛おしげに手に持った肉棒に頬擦りする。そして黒々と茂っている翳りを摘んで、毛を指先に絡ませた。
 期待によって、ジョナサンの下半身は馬鹿正直に反応して、その身をヒクつかせていた。



・・・

top text off-line blog playroom