milky!

真っ平らで真っ白な、太陽に透かせば臓器すら見えてしまいそうな、
肌だったのだ。

ディオ少年は、自らの胸についてそう語った。
ジョナサン少年は、残念なことにそれを拝んだことは無い。そもそも、同い年の男の胸が見られないくらいで、残念とは如何なものだろうか。普通なら同年代の女子の膨らみかけの乳房のほうに興味があって当然だ。いや、ジョナサン少年は、乳房……否、おっぱいという俗っぽい言い方にしよう。少女の未発達なおっぱいより、いつであったか劇場で見た歌劇女優の、背中や腹や脇からかき集めてきた脂肪の寄せ集め的巨大なおっぱいのほうが、魅力的に思えていた。
つまり、少年は幼き年頃らしく「大きければ大きいほどいい」という単純かつ明朗な理由だけをこだわりとしていた。
故に、おうとつの無い同性のおっぱい……いいや、あれらはおっぱいなどと言っていいものではない。少年の単なる胸部に関しては、さらさら興味がないのだ。そう、無かったのだ。
だから、残念だとか、無念だとか、そう可哀想がる必要など一切ない。そうだ、そういい切れる。間違いなく、そうだ。そうなのだ。
本当に、真実、これっぽっちも、爪の先ほどだって、悔いは無い! と、言うことだった。

・・・

ラグビー部で活動するようになってから、ジョナサンとディオはますます筋肉質になり、日一日と逞しく身体を鍛え上げていった。二人の身長も差ほど変わりなく、腕や脚も同様に太く、がっしりしてきていた。
互いに負けず嫌いな所があるので、日々のトレーニングは張り合うように行ってきた。部の先輩らには、毎日やるのは体によくないのだと注意されていたが、自分が休んでいる間に、相手が力をつけると思うと、うかうかしてられないのだ。
よりその焦りがあったのは、ディオの方であった。ジョナサンは元々の血筋からして、身長も体重も、まだまだ成長過程に過ぎないと見込まれている。おそらく本人もそう自覚しているだろう。
ディオは、どうだろうか。去年に比べると、背の伸び幅が縮んでいる気がする。親の体格を他者に問われるのは許せないが、どうしたって両親の体躯の違いがディオの脳裏をちらつかせた。ジョースター卿に聞けば、ジョナサンの母は割に大柄であったらしい。ディオの母は、痩せていて、いつも背を丸めていたからかもしれないが、人より小さく見えていた。
それでも、同年のもの達と比べれば、ジョナサンとディオは頭ひとつ半ほど抜きん出ていて、その身の厚さも精悍な大人と遜色ないものだった。部の仲間らも、そんなふたりにあらゆる意味で期待を寄せているのだった。
ふたつ上の先輩たちは中には身長が二00センチ近くある人もいる。他校に目を配れば、それくらいの大きな選手もごろごろいるので、珍しくもない話だ。
ただ大きければいいという訳ではないが、あるに越したことはない。ディオは今日も、胃の許容量をオーバーした食事を摂りつつ、練習に余念はない。
ジョナサンはというと、基本的に「大きければ大きいほどいい」というある種の信念を掲げ、よく食べよく動き、よく眠った。彼にも彼なりのストレスは(主にディオ関連だが)あったが、生来、根っこの部分が明るいものだからか、あたたかい布団に入れば、悩みなど思考から消し飛ばせたのだった。そういったところが、彼の身体をより健やかにしていく。

練習着が、一週間で駄目になるような頃。
ジョナサンは、ようやく気付いた。
自分の目線がディオより数センチほど高くなっていることに、だ。
そして、僅かに見下ろすとディオの胴回りの凹凸加減が妙だと思った。
自分の腰周りを手で計り、そこからディオにあわせるようにして、離れて目で測る。
比べると随分細いみたいだ。もしかしたら、自分は太ってしまっているのではないかとジョナサンは不安になった。部の仲間にそれとなく聞いてみると「お前は確かにデカいけど、身長からしたら普通じゃあないのか」との答えが返ってきた。
……そうか。そうなのか。ならば、
「じゃあ……ディオが痩せてるのかな」
そうジョナサンが呟いたのを聞いた仲間の一人が
「スタイルの違いじゃあないのか?」
と言ったのだった。すると、ジョナサンより大柄の先輩が頷きながら言った。
「ああ、そうかもな。ジョナサンはフォワード体型でディオはバックス体型と言ったところだからな。ジョジョは、実際パワータイプだし、ディオはスピードタイプだろう? 使う筋肉が違ったり、元々の体格や骨格の違いだ」
「そうか……なら……」
いいんです。そう言いかけたときには、もう彼らの話題は別のものになっていた。

腰が細いから、腿や胸が相対的に太く見えるだけなんだろう。
ちらと横目で見た尻に関しては、ジョナサンは首を振って記憶から消した。男の尻をじろじろ見ていた、だなんて! 他人にはおろか、自分にだってそんな事実を知らしめたくはなかった。そして、ジョナサンはすぐに忘れた。

練習着が一週間でだめになるとは。
わけは二つだ。
泥まみれ、汗まみれで、洗ったとしても使い物にならないという意味。
ヒューハドソン校の彼らは、ほとんどが上流階級の出であったので、練習着くらいいくらでも用意が出来るからだ。例えまだ使えたとしても、新しいモノに着替えるのだ。たった一枚のシャツにすら色々な思惑が飛び交っているものだ。
もうひとつは、日々成長し続ける彼らの肉体に合わなくなる、という意味。
一週間で駄目になるとは、大げさかもしれないが、あながち嘘ではない。身体に合ったサイズで作られているうえに、激しい活動をするので、すぐに破けそうになるし、実際に破けたりするのだ。メイドか下級生にちまちまと縫い繕ってもらってもいいが、やはりそこも、新しいものに変えることが、彼らの正義だろう。
そして、そんな今日も、ジョナサンは走っているディオのシャツのおうとつが気になった。
胸の下に影が出来ている。もう夕暮れの色をしている。橙と赤をブレンドしたような濃い影の色だった。
影が一段と深まれば、あたりも見えなくなって今日の練習は終わりを告げるだろう。
部長の呼び声が後ろから聞こえて、「ああ、今日は早く終わるのだな」とジョナサンは、移ろいでいく陽の形を目に宿しながら思った。

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