月海夜 1
「ディオォォオオオオーッ!!!!」
月光が冴える夜。ジョナサンは憎き相手の名を叫び、石造りの館を駆け抜けていた。
体の至る所にはまだ血の乾ききっていない生々しい傷跡がいくつもあり、ここに辿り着くまでの道中の過酷さを物語っていた。
かたい床にジョナサンの怒りに満ちた靴音が響き渡る。死臭が増すごとに、ディオへ近づいているのだと感じる。
まるで地獄への入口に立ってしまったかと錯覚するような、一際濃くどす黒い悪気が漂う場所をジョナサンは見つけた。館の入口から最も遠い、そして一番暗く陰気なところだ。ジョナサンは彼が、……ディオがここにいるのだと確信した。
扉は重く閉じられていた。扉の下の隙間から冷たい風が吹き、足元をすり抜ける。ジョナサンは呼吸を整え、一気に戸を押し開けた。
静まり返る部屋の荒れようは、主をなくしてから長い年月が経過しているのだと分かる。しかし、さぞ名のある人物が住んでいたのだろう。家具や調度品は色あせてはいたが、どれも見事なものばかりだった。
ジョナサンは息を飲み、気配を探った。
確かにここに居る。
ざわつく皮膚は総毛立ち、ジョナサンは立ち止まる。そして、目をこらした。
部屋の窓は開け放たれ、ぼろぼろになったカーテンは月の光を透かせている。明かりは、部屋にひとつだけの窓から漏れる月明かりのみだ。
居る、とても近いところに。だが、どこなのかが分からない。生き物の気配がしないのだ。ジョナサンは目を閉じ、心を鎮めた。目で見るのではない、耳で聞くのではない、それらに頼らずに、本能で感知するのだ。
闇の中に潜む邪悪、ディオの居場所を。
――ああ、神さま……嘘だと言って下さい!
探し求めていたし、確信もある。それなのにジョナサンは、『いっそ見つからなければ良い』と、胸の底で願ってしまう。現実を目の当たりにしたとき、自身が彼に対しどう思うのか、そして、何をしてしまうのか……制御出来る余裕はきっと無い。
閉じた目の奥が熱くなる。
ふと、闇の色がさらに暗くなった。風が強まり、薄雲は流れ、月を隠していく。眼を開けずとも、瞼から感じる光の加減で分かった。
前触れなく、冷気がジョナサンの体全体を包んだ。考えるよりも先に全身を警戒させてジョナサンはその場から飛んだ。
「……ッ! ディオ……!」
振り向きざま、闇に光る金色の目と合う。ジョナサンは数歩離れ、姿勢を低くし、構えを取った。
「早かったな」
その声にジョナサンは驚いた。一晩でいくつもの年を重ねたかのように、声は落ち着き、とても穏やかに聞こえたのだ。同じ年の、若く高い声色では無くなっていた。
「君は……、君は……本当にディオなのか!?」
声の持ち主が彼とは思えず、ジョナサンは問いかける。
「心外だな、ジョナサン。長い年月を共に過ごした兄弟じゃあないか……」
「そんな風に呼ばないでくれ……ッ」
他人行儀に名を呼ばれ、拳をきつく握り直す。ジョナサンは暗がりに佇んだまま微動だにしない相手を視線で捕らえる。ほとんど光のない部屋では、離れた相手の姿はシルエットもぼやけている。
「ククッ……ジョジョ、君はひとりでここへ来たのかい」
「……ああ、君がそう言ったからだ」
「フフ、君らしい、実に君らしい……!」
瞬きも惜しんでジョナサンはディオの形を見つめ続けていた。笑った瞬間、空気が動き、ディオらしき人物が腕を上げたのがわずかに見えた。
「ならば誰にも邪魔されずに、楽しめるなぁ、ジョジョォッ!」
闇間から伸びてきた手に、ジョナサンは一歩遅れて反応した。恐ろしい速さで喉元を狙われ、鋭く尖った爪が動脈に食い込んだ。
「グゥ……ッ!」
「か弱い……、人間という生き物はなんて脆いんだ」
ディオの爪先はジョナサンの体内に入り込んできている。首の熱がどんどん奪われていく、血管に氷をまるごと流し込まれている気分だ。
「ディ……オ、きみは、……ウッ、君は……ほん、とうに……」
――ディオなのか、ディオで「在る」のか……そうであって欲しい。いいや、そうで無くて欲しい。ディオ、ディオ、ディオ!!!
ニイッと嗤った唇には、見たことの無い牙が見え隠れする。魔物の印、彼がヒトではなくなった証拠だった。
「君は……ッ、君は……ッ!!!!」
堪えていたものが溢れ出す。ジョナサンは悲しみと怒りで、はらわたが煮えくり返る思いを初めて経験した。血が滾る。手足が震える。何もかもがどうでもよくなった。
「ふぐッ!!」
圧倒的勝利に酔っていたディオは、ジョナサンの突如の反撃に体ごと吹き飛ばされた。
「ゲホ……ッ! ぐぅ、ふ……ッ」
鳩尾を膝で蹴り上げられ、ディオは腹部をおさえて咳き込んだ。ディオの胃には吐けるものは何も入っていない、すでに彼は食事を摂る必要が無くなっているからであった。
「ディオ……、何故君は……君はもう、人ではないのか……!?」
「知れたことを……、そんなにおれの口から聞きたいか?」
冷たい床に膝をつくディオを見下ろし、ジョナサンは眉を寄せた。
「おまえの想像通りだ、おれは……ククッ……人間をやめたんだよッ!!」
「何故……、何故裏切った!!」
「それはおかしいなァ、ジョジョ。いつからおれとおまえは同士だったんだァ?」
「ぼくは、君を許さない……」
「いいぜ、くるなら来いッ!」
「死よりも、もっと苦しめばいいんだ!」
追い詰めているのはジョナサンであったが、その表情は全く逆転していた。余裕のある笑みで跪くディオと、涙を流すジョナサン。意を決し、ジョナサンは彼に覆いかぶさった。
首に巻かれた厚手のスカーフを乱暴に剥ぎ取ると、ディオは嘲笑った。
「成る程な、ニンゲンの雄が考えそうなことだ、きさまはやはり単純だ。」
ジョナサンの行動を観察し、無抵抗のままディオはニヤニヤとした笑みを続けている。これからしようとしていることも、ディオにとっては痛くも痒くも無いのかもしれない。ジョナサンはその笑みに腹を立て、平手でディオの笑みで上がる頬を打った。
――バシィッ
横向きになったディオの口元には一筋の血が流れた。ディオは伝う血をペロリと自らの舌で舐めとった。
「黙れ……!」
「ふふ……ッ、ハハハハハ……っ!!!」
「うるさい! 笑うんじゃあないっ!!」
もう一度、今度は更に強くジョナサンはディオの頬をうった。それでも尚笑い続けるので、ジョナサンは自分の右の手の平が痛むほどにディオの顔を何度も何度も打った。
「子どもの頃から変わらないなぁ、ジョジョ。」
「うるさいっ、うるさいっ、黙れっ!」
「おまえはすぐにそうやって力でねじ伏せようとするんだ、自分じゃあ気づいてないだろう?」
ジョナサンは両手でディオの首を締めたが、ディオは涼しげな様子で指一本動かさずに口を開く。
「おまえは相手を傷つけて興奮する下衆な男なんだよ!」
まさしく人ではないディオの冷血な手は、ジョナサンの股をまさぐり、そこを思い切り鷲掴んだ。
「――つッ……!! ウ!!」
「あははははははは!! なんて有様だ!!! ジョジョォ、ここガチガチじゃあないか!! ハハハハハハッ!! おれを打ちながら、こんなところおっ勃てやがって!」
ディオは髪を乱して笑い、手を上下に動かしてジョナサンの張った下腹部を擦り上げた。
「ククク、でもなぁ、残念だったな。おれはおまえが嫌がる顔が見たいんだ。」
自らの服に手をかけ、ディオは尖った爪先で真ん中から裂いていった。破られていく服はただの布切れと化して、ディオの素肌に淫らに張り付いた。ディオの半身は、裸になるよりも淫猥な姿となった。
「おまえの思い通りに、いかせるわけないだろう……?」
爪はジョナサンの頬をかき、首を通り、シャツの一部に切れ目を入れる。そして、そこから左右に引き裂いた。ディオは牙をむきだして、ジョナサンの開け放たれた胸にかじりつく。
まずい、とジョナサンはディオの頭を掴んで引き離そうとしたが、ディオは腰に腕を回して抱きしめてきた。牙はその肌を突き刺す真似はせず、上辺だけを滑った。尖る先が痛痒く、ジョナサンは奇妙な感覚にとらわれた。
体をさらに引き寄せ、ディオはジョナサンの胸を押し、体勢を変えた。床に肩をつけてしまったジョナサンは、仰向けに転がされ、後頭部を強く石の床に打ち付けた。
「どうされたい、ジョジョ?」
額に手を置き、思い切り強く頭を床に押し付けて、ジョナサンに跨るディオは舌を舐めずった。
下腹部の上に重量感のあるずっしりとした尻が乗っかっている。わざとらしく尻の肉を押し付けて、ディオはジョナサンの硬くなった棒をゴリゴリと潰した。
「……ぐッ、ディオ……!」
「フフ、ならおまえがしようとしていたことを、おれがシてやろうか」
ディオの片手はジョナサンの額に力を込めたまま置き、もう片方の手は器用に自身のズボンの繋ぎ目の部分を爪で切った。ビッと糸が千切れる音がし、臀部を隠していたところだけが綺麗に切り取られた。
「何を、して……」
床に押さえつけられる頭の痛みと、下半身を圧迫される痛みで、ジョナサンは吐く息が熱い。
「ただのレイプじゃあ、つまらないからな」
腰を浮かし、ディオはジョナサンのズボンを一気に破く。五本の指の爪が乱雑に布を裂くと、切れ目からはジョナサンの肉棒が頭を出した。
「濡れていないところに入るのは痛いそうだな」
ジョナサンのモノはしっかりと勃起はしていたが、先端に粘液が滲む程度であり、濡れているとは言い難いものだった。敏感なそこにディオの乾いた冷たい指が触れ、ジョナサンが顔をしかめると、満足げにディオは唇を歪ませた。
足を立たせ、ジョナサンの勃起を縦に持ち、ディオは腰をあげる。
「ディオ、君、まさか……」
「フフ、どうしてそんな顔をするんだ? これが、おまえがやろうとしていたことだろう」
尻の柔らかな肉を割り、ジョナサンの先端は何も濡れていない、その穴の入り口にぴたりとつく。
「どんな痛みか、楽しみだなぁ、ジョジョ……ッ!!」
「グッ……!! あ!!!」
ズン、とひといきに腰が下ろされ、肉が無理やりにこじ開けられていく。ぶちぶちと不快な裂傷音がジョナサンの耳にも届く。
「ア゛ッ! ぐ……!」
開かれた足の間に、血がしずくになるのが見えた。ディオの秘部からのものだ。ジョナサンは己の自身がディオの肉体を傷つけたのだと知ると、ますます陰茎の勢いを増させて漲らせていく。
「ディオ……ッ! う゛ッ……はあ、あ……!」
しかし、ディオはすでに人ではなく、傷口はじゅうじゅうと焼けるような臭いを立てながら回復していく。流した血は傷口に吸収されていった。乾ききったソコで、強引に上下に揺さぶられるとジョナサンの弱い下腹部には快感より、痛みばかりが走る。
「はぁ、っは、はは、痛いんじゃないのかぁ? ンー、……ほら、っあっ、あ゛! 痛いだろッ!? くく、くくくッ」
ディオはジョナサンの上で激しく弾み、休みなく腰を打ち付ける。ディオの中は入口も内部も異様に狭く締め付けられ、肉襞は異物のジョナサンを攻撃しようと絡みつきながら食いつく。
「うぐ、ウウッ……!!」
「食いちぎってやるよ! アハハハッ!! あっ、あっ、ああッ! ぅっ!」
ぎちぎちと締め上げられ、射精もままならず、ジョナサンの額からは痛みで脂汗が玉となって次から次へとあふれていた。これほどまでに痛みを伴う行為なら、萎えてしまうのが普通かもしれない。むしろそうなった方が楽だ。ジョナサンの肉体は痛みで快感は得られない。だが、自身の肉杭がこの男を刺していると目で見る度、理性とは裏腹にジョナサンは益々体の熱を上昇させてしまう。
身の下で苦しみながら堪え、動けずにいるジョナサンの姿が滑稽で、間抜けで、愛しくて、ディオは恍惚としてジョナサンの額から頬を手の平や指先で撫で回した。
痛がる顔、嫌がる顔、苦しむ顔、悔しがる顔、どれもがディオを喜ばせる。そして今、ジョナサンはそれら全ての表情を見せてくれているのだ。
ディオの胸には満たされた思いが広がっていく。ほうと詰まった息を漏らした瞬間、腹の奥でありもしない臓器が疼いた。
「あ、ンッ……?!」
じんとした熱さをディオは尻の奥で感じ、きつく乾いていた中から何かがじわっと洩れ出した。
「はぁ……う、……え?」
ジョナサンは肉棒から、今までとは違った感覚を知った。痛みが薄らいでいき、滑りがよくなっていく。気持ち良くなりかけていた。慣れ親しんだ快感が腰から突き抜けていく。
「ジョジョォ……おまえ、アッ、中で、出した、のか……ッ?」
「してない……ッ、君がこんなきつくちゃいけない」
「ン……ッ、じゃあ、あ、……んうッ、これ……は……っ」
急激に襲いかかる快楽の波に、ディオは恐れて自ら銜え込んでいたジョナサンの凶器を一気に抜き取った。
ぬるついた体液が絡み付いて、ジョナサンの肉棒はてらてらと濡れ光っている。
ディオは内腿にジョナサン自身を挟みこみ、粘液を指ですくい取った。ねっとりと糸を引く液体は、白っぽく半透明で、精液に似ていた。
しかし、ジョナサンのものは一定し硬くそそり立ち、射精した様子も見られない。
「く……ウ、ん……ッ」
ディオの腹の奥底で、何か得体の知れない臓器が勝手に動き出す。ディオは腰から力が抜けていき、身を捩らせながらジョナサンの胸板に倒れ込んだ。
「……ディオ?」
「はぐ……ッ! な、なにか……くるッ!」
びくんと腰が痙攣し、ディオの半勃ちだった自身がむくむくと頭を擡げる。申し訳程度に張り付いていただけの股間の布を押し上げて、ディオの欲棒は腹につくくらいに硬く勃ち上がっていった。
「あ、……う、熱っ、あついぃ……ッ、ううっ」
ジョナサンの胸板に頭を押し当て、雌猫のように腰を高く掲げ、ディオはひいひいと声を上ずらせた。
「一体どうしたんだ、……、ディオ、君……」
おかしな様子のディオの体に触れ、ジョナサンは手についたものに驚いた。
「え、……これは……。」