珊瑚の日々

コウジがハリウッドに発ってから、一か月が過ぎた。オバレは活動休止期間に入り、秒刻みに組み込まれていたスケジュールも、徐々に穏やかな日常へと戻りつつあった。
「ふう……」
目覚まし時計が鳴る前にカヅキは目を覚ましてしまった。昔から日の出と共に起きて、両親の仕事を手伝っていたので、朝は強い方だ。
ほんの少し前までは、そうしてきた。二年前、オバレを結成してからもその習慣は続けてきた。
しかし、今はその必要がない。両親は揃ってスペインにいる。始め、滞在はほんの数週間と言っていたので、店も開けていた。それでも学業とアイドルの仕事と、同時にこなせるわけがなく、暫くしてニシナ塗装は長期休業となった。
顔を洗って、ジャージに着替え、カヅキはまだ薄暗い外へ出た。ぼやけたダークグレーの空は、夜明け前独特の色をしている。
店の出入り口に休業中の張り紙がある。達筆なカヅキの字で書かれている。軽くストレッチをしてから、カヅキはゆっくりと走り出した。
動いていないと体が鈍りそうだった。毎日、ダンスやプリズムショーの練習をし、レッスンを重ねている。それでも足りなかった。
忙しかった日々が急に空っぽになってしまい、体を動かしていないと雑念に覆われる気がして、カヅキは毎朝ランニングをするようになった。
早朝、街の中には案外人は多い。カヅキと同じように走る人、犬と散歩をする人。こんな早くから通勤、通学に向かう人。
東の空から明るくなってくる様子が好きだった。太陽に向かって、顔を上げて走った。名も知らない人同士でも、「おはよう」と声をかけあう。その空気が好きだった。
「アメリカは今頃、夕方かな」
カヅキは呟いて、空を仰いだ。コウジからの連絡はまめに来ている。おそらくヒロにも同じようにメールしているのだろう。忙しい合間をぬって、連絡してくれていると知っているので、カヅキも短い文章で必ず返事を出した。
ヒロは芸能活動を休止してから、キングカップに向けて空いた時間をほとんどレッスンに使うようになった。寮に帰ってからは、遅くまで受験勉強をしていると聞いた。ヒロは華京院学園でトップを取れるのだから、どこでも好きな学校に行けるだろう。
ヒロとカヅキは学校や寮で顔を合わせることもあるが、オバレの時のように、共に過ごす時間も少なくなってしまった。互いに避けているわけではない。
ただ、タイミングが合わない。それだけだった。
カヅキは、あれから寮に帰る日も減った。エーデルローズをやめる、と氷室主宰に告げてからだ。寮にあった荷物も殆ど家に持ち帰ってきている。
だが、まだ他のエーデルローズの寮生には言っていない。
氷室主宰は、カヅキの申し出を一旦保留にし、またもう一度話し合いの場を設けると約束した。
今のエーデルローズにとって、Over The Rainbowが休止にならざるを得ないこの状況は非常に厳しい。
芸能活動が出来なければ、エーデルローズに自分が所属していても、負担になるだけだとカヅキは考えた。
プリズムキングカップに出場するのに、資格は必要ではない。なら、フリーでエントリーすればいい。
元々、エーデルローズの生徒では無かったのだから、カヅキは途中から抜けることに抵抗はなかった。ヒロはそう簡単にはエーデルローズを辞められはしないだろう。それに、カヅキが抜けた後、誰がエーデルローズを率いていくのか。適任なのはヒロだとカヅキは思った。
理由を他の誰かに言うつもりは一切なかった。話せば、他の生徒や寮生が代わりになると言い出しかねないからだ。
彼らはきっと良いプリズムスタァになるだろう。新しい煌めきを持った後輩たちが、またエーデルローズを盛り立ててくれればいい。
地べたからやり直すのは、自分だけでいいのだと、カヅキはそう決めていた。
ヒロに本当の理由を伝えてしまえば、「自分も辞める」と言い兼ねないだろう。訳は話せなかった。どれだけ互いを信頼し合っていても、信じていても、仲間だと認め合っていても。大事だからこそ、言えなかったし、言いたくなかった。
「これでいいんだ」
いつものランニングコースの折り返し地点で、立ち止まり、カヅキは独りごちた。
走っても、走っても、そのことばかりを考えてしまう。暗い考えが自分を襲った。らしくないと、笑い飛ばしてくれる仲間は、もう側には居ない。


カヅキは一度家に戻って、シャワーで汗を流してから登校するのが日課になっていた。未だに着慣れない派手な制服に身を包み、学園へ向かった。
華京院は進学校でもあるため、どの教科も気が抜けない。学園には勿論、プリズムスタァ候補生も多く、三年生はアスリートとしてか、アーティストとしてか進路が分かれる時期でもあった。Over The Rainbowの三人のように既に芸能活動をしている者もいる。
ヒロとは別のクラスであることが、逆に好都合だった。互いに気まずい思いをしなくて済むからだ。コウジが居た頃は、昼休みとなれば、コウジお手製の弁当を持って、外で三人で昼食をとるのが当たり前だった。
今は、たまに食堂で顔を合わせたとき、それぞれの近況を話すくらいだ。
「やあ、カヅキ」
「ヒロ」
「隣、いいかい?」
「ああ」
カヅキが食堂のランチを食べている最中に、突然ヒロが現れ、控えめに笑ってみせていた。
「昼飯は?」
「うーん、どうしようか考えてるんだ」
「ちゃんと食ってんのかよ」
「食べてるよ! 前と違って、今は普通の高校生と同じ生活を送ってるんだからさ」
大げさな動作でおどけたように見せるヒロは、どこかぎこちなかった。無理をしているのだという顔をしている。
「何でもいいから、食べておけよ。放課後もみっちりレッスン入れてるんだろ?」
「んー、ダイエット中、かな」
頬杖をついて微笑むヒロは、傍から見れば普段通りだった。だが、のジャケットの袖から覗く手首の細さにカヅキは驚いた。
「待ってろよ。俺と同じもの頼んでくる」
「いいよ。食欲、そんなに無いからさ」
力ない手がカヅキの腕を取った。その手を振りほどいて、カヅキは日替わりのランチをもうひとつ頼んだ。食器に盛られた料理が湯気を立てている。ついでにカヅキは、レモンスカッシュも注文した。
「ほら」
「ありがとう……」
テーブルに置かれた食事を前にして、ヒロは俯いてレモンスカッシュを一口飲んだ。淡い炭酸が喉を刺激していく。
「カヅキ、あのさ……」
ヒロは、カヅキがエーデルローズを辞めるつもりだということを知っている。氷室主宰からは、引き留めようとしていると告げられて以来、事の真相を確かめられずにいた。
フォークを手にしたヒロが口を開いたが、カヅキの顔を見ると、うまく聞き出せなくなった。大切な友を得てからヒロは少し臆病になってしまったようだ。
「コ、コウジから、連絡あった?」
「ああ、きてるぜ。短いけど、一応毎日」
「うん……そう、だよね。いや、俺も毎日、返事はしてるんだけどさ」
「ヒロ? どうかしたのか」
「ううん、ごめん。何でもないんだ。本当に」
フォークをトレイに置くと、ヒロは目尻に触れた。気を緩めれば、ふいに涙がこみ上げてきそうになる。
「何を食べても味が、よく分からなくて……どう食事したらいいのか、分からないんだ……」
「ヒロ、コウジは一生帰ってこないわけじゃないだろ。そんなに思いつめなくても」
「コウジのことだけじゃない」
目の前に置かれた食器ばかりを見ていたヒロが、顔を上げてカヅキを瞳に入れた。
「カヅキ、俺は……」
意を決してヒロが核心に触れようとした瞬間、昼休みの終わりを知らせる鐘が鳴った。
「終わりだ。もう行かないと」
「カヅキ、話は終わってない」
「何のことだ?」
「とぼけるつもりなのかい。それとも」
「やめよう。ヒロが話したいことは、氷室主宰からいずれ聞けることだ。俺たちが今ここでするべきじゃない」
カヅキは空になった食器を乗せたトレイを手にして、席を立った。
「俺たちのことだから、俺たち自身が話す必要があるんじゃないのか!?」
荒々しく椅子から立ち上がったヒロが大声を出した。その大きな音と声の主に周囲の人々が一斉に視線を送る。場のざわめきが瞬間、消えた。
「ヒロ、今はやめよう」
無言のままヒロは首を横に振った。納得が出来ないという形相をしていて、目元に不自然な皺が寄った。
「午後の授業が始まるだろ、な」
子供に言い聞かせるようにカヅキは優しく話したが、ヒロは黙ったままだった。
殆ど手のつけられていないヒロの昼食は、すっかり冷めきってしまっていた。そのトレイを持って、カヅキは食堂のカウンターに返した。
「今は、ヒロは俺の気持ちが分からないかもしれない。でも、ヒロなら分かってくれると俺は信じてる」
肩を叩いてカヅキはそう言い、そのまま食堂を去った。
ヒロは視界から消えていくカヅキの後ろ姿を目に映しながら、ため息をひとつ吐いた。

大切な仲間だから言えないこともある。数年前の子供だった自分なら、仲間だったら思い切りぶつかって分かり合うものだと、明るく言うに違いなかった。
コウジは、ヒロやカヅキ、エーデルローズの為に一人で決めて、一人で海を渡った。ただ俺たちはコウジにに甘えているだけでいいんだろうか。ただコウジを待っているだけでいいんだろうか。
自分自身に持った疑問が日に日にカヅキの中で膨れ上がっていった。
人の相談に乗ることや、頼りにされるのは慣れていても、自分が他人に悩みを打ち明けたりや甘えたりするのは昔から下手だった。それに、カヅキ自身がそう望んでいなかった。
結論は自分で見つけて、自分の答えを出したかった。それが、一時的にでも仲間を傷つけてしまうとしても、それぞれの未来の為に、必要であったのだと思いたい。


午後の授業と個人レッスンを終え、帰宅したのは十八時を回っていた。
リビングのソファーに座って、ズボンのポケットから携帯を取り出した。
「コウジもきっと沢山悩んで迷って、決めたんだ。それから俺たちに話したんだよな……」
最後に送られてきたコウジからのメールを眺めていた。添付されている写真にはハリウッドの夜景が映っている。
「向こうで一人で頑張ってんだもんな、コウジ……」
コウジは何のために、オファーを受けたのかをカヅキはもう一度思い出す。エーデルローズ、Over The Rainbowの為。ヒロとカヅキと、また共に活動していく為に。
「もうガキじゃねえんだ……俺も、みんなも」
そのまま目を閉じて、カヅキは携帯を手にしたままソファーに横たわった。

制服のまま数分ほど寝入ってしまった。目を開けると、部屋は暗く、もうすっかり夜になっていた。
「店のシャッターの方、ちゃんと鍵かけたっけ……」
裏口から出て、店の正面へ向かった。休業中なので、締めきってはいるのだが、朝夕と出入りするのに使うので鍵をかけたかどうか確認しに行く。
皺になったジャケットのままで、カヅキは外に出た。
「おい」
背に声をかけられて、カヅキは店に用がある人が来たのかと思い、返事をしながら振り向いた。
「すいません。今、うちお休みさせて貰ってて……」
「何の話だ、仁科カヅキ」
「……うわッ!」
巨躯が影を成して立ち尽くしている。低い声が不機嫌に夜道に響いた。
「びっくりした……おまえ、いっつも突然来るんだもんな」
そこには着崩した制服姿のアレクサンダーがカヅキを見下ろしていた。
「何をしていた?」
「何って、戸締りだよ」
「エーデルローズの寮には帰らないのか」
仁王立ちのままでアレクサンダーは高圧的な物言いをしてくる。何度と会う内に、それが彼の性分なのだと知ったカヅキは差ほど気に留めずに返事をする。
「華京院から家まで遠くないからな。元々、寮通いする必要は無かったくらいなんだ」
「フン、まあいい。家に入れろ」
「あのなあ、お邪魔しますって言えよな」
普段使っている家の方のドアを目指してアレクサンダーはカヅキより先に歩く。
こうした突然の訪問は、高架下でバトルしてから何度かあった。このあたりで「仁科」の姓はカヅキの家くらいで、店には大きく「ニシナ塗装」と看板を立てているのだから、自宅を突き止めるのは簡単だったろう。
だからと言って、実際にやってくるとは予想していなかったので、アレクサンダーの訪問にはカヅキは純粋に驚いた。
「大和はシュワルツローズのあの高いビルに住んでるんだろ。そっちは門限とか無いのか?」
大抵、アレクサンダーが仁科家にやってくるのは夜に決まっている。エーデルローズの寮には門限がある。――寮生たちが守るかどうかは別として。
「プリミアトップの俺には関係ないことだ」
「ふうん……? まあ、俺が心配するようなことでもないか」
扉を開けると、アレクサンダーはリビングへ向かう。そして本来は家族がくつろぐ場所である大きなソファーに、家人ではないアレクサンダーが堂々と腰をかけるのだった。
「おい、仁科カヅキ」
「何だよ」
口調は荒いが、少なくともアレクサンダーは自分に好意を抱いてくれているのだろう、という程度がカヅキの中での扱いだった。アレクサンダーが年下だと聞いてからは、何となく可愛い後輩に見えなくもない。だから邪見に扱う気にもなれず、カヅキはアレクサンダーの好きなようにさせていた。
「服を脱げ」
「…………え?」
照明のスイッチをつけた手が固まってしまった。丁度部屋の明かりがつき、アレクサンダーと目が合った。瞳は鋭くカヅキを捕えている。
「聞こえなかったのか。服を脱げと言ったんだ」
「……あ? ……え? 服って、制服? ああ、皺になってるもんな。アハハ、さっきこの格好のまま寝ちまったから」
適当にカヅキはアレクサンダーの話を受け流し、ジャケットをハンガーにかけて、皺になった部分を手で伸ばした。華京院の制服は十八世紀の軍服のような派手なデザインだ。装飾が多く、手入れが大変なのだ。
「違う。裸になれと言ってるんだ」
「ハハハ、冗談だろ?」
笑い飛ばそうとしたが、頬が硬直してしまい、カヅキは苦笑いのような表情になってしまった。
「何万人もの前で肌を晒せるのに、一人の男の前では出せないとでも言うのか?」
「な、何の話をしてるんだよ……?」
深く腰掛けていたアレクサンダーがゆっくりと立ち上がり、カヅキの側まで近づいてくる。フローリングの床がみしり、みしりと鳴る。
壁際に追い込まれたカヅキが、百九十センチはありそうな上背の男を見上げた。太い腕が壁を叩き、そのまま囲いのようにしてカヅキを閉じ込める。
「この前のエーデルローズのイベントだ」
「ローズパーティーのことか?」
屈んで顔が近づけられる。思わずカヅキは顔を横に反らした。鼻と鼻がぶつかりそうな程近い。
「しらばっくれてんじゃねえ。あんな格好しやがって」
「……あっ、うわッ」
足の間に腿を入れられ、両足が自然と開いた。そして襟を掴まれ、鎖骨に指が這わされる。
「なッ、何す、んだ……ッよ!」
両手でアレクサンダーの胸板を押し、引き離そうとしたが、乱暴にシャツを持たれてカヅキは目を丸くした。
「他人に見られてもいいんだろ。だったら俺の前でも出せ」
「言ってる意味が分かんねえよ! ああいうのが気に食わないのは知ってるけど、だからって、どうして俺が今、裸にならなきゃいけないんだ!」
カヅキはアレクサンダーの怒りの矛先が「Flavor」の衣装に向いているのだと悟った。古代ギリシャ時代風の衣装は、薄布を纏い、片胸を曝け出した姿だ。以前のコンサートのものからマイナーチェンジしたもので、カヅキの衣装は裾が短くなり、露出が更に増えた。丈は腿の半分まで長さになり、ステージ衣装でなければ、一生着ることはないタイプのものだった。
片足を持ち上げ、カヅキはアレクサンダーの横腹に軽く蹴りを入れた。しかし、その程度の打撃では強靭な肉体はびくともしない。
「罰を受けろ」
「へ……?」
「俺が制裁してやる」
アレクサンダーの眼光がより強さを増し、襟元を握る手に力が籠った。途端、ボタンが弾ける音がして、カヅキが自分の胸元を見た時には既にシャツは開かれていた。
「う……あっ!?」
獲物を捕らえた猛獣が、逃がさないように首元にかぶりつく。柔らかい肉の部分が牙によって傷つけられ、痕が残された。血が噴き出そうになるほどに、強く抉られ、カヅキは襲いかかる獣に爪を立てた。
けれどもアレクサンダーは唇を止めない。そのまま鎖骨へと舌と歯が、すべらかな肌に印をつけながら移動していく。
「イ……ッ!」
快感よりも痛みが勝る。そもそもカヅキはこの行為に性の匂いを感じ取っていなかった。これは捕食者と被食者の関係に似ていた。
「痛てぇって、言ってんだろ!」
胸元に埋められているアレクサンダーの後頭部を拳で殴りつけ、カヅキは両足をじたばたと揺すった。太ももに挟まれた下半身はがっちりと固められ、手で肩口を抑え込まれている所為でろくに身動きがとれない。
「黙れよ」
「う……ッぐ!」
腹のあたりを弄っていたアレクサンダーの片手がカヅキの口を塞いだ。アレクサンダーの体躯に似つかわしい大きさの手は、容易くカヅキの顔を覆う。
「ン、ウッ……ッウぅ〜〜ッ!」
そのまま壁にめり込ませられそうになる程押さえつけられ、カヅキは言葉にならない声で文句を言い放った。
鼻まで手のひらに仕舞われてしまったので、暴れれば暴れるほど、息苦しくなった。
「ふ……ッ、う……ッ」
頬が染まり、酸素不足で涙目になってくる。
「酷い面だぜ、仁科カヅキ」
覆っていた手をずらし、アレクサンダーはカヅキの細い顎を持った。それから無理やり親指を口の中に咥え込ませ、唇を開かせた。
「俺の前でそんな顔をするんじゃねえ」
「……アッ、――ッ!」
降りてきた顔がそのままカヅキの視界の一面に広がった。瞼は閉じられなかった。一瞬たりとも目が離せなかった。
他人の顔がこんなに近くにあるのは生まれて初めてのことだったからだ。
「……ン……ッ」
肩から腕、手から指が、次第に脱力していくのが分かる。カヅキは瞳が乾いてしまうのも構わずに目を見開いて、茫然としていた。
アレクサンダーは目を閉じていて、ややあって顔の角度を変え、より深く唇の奥へ侵入せんとした。
咥えたままだった親指が外され、次にぬるりとした感触が歯の間から舌の付け根へ動いていく。
「ふ……ッんぅ、くっ……」
頬の内側をなぞられ、カヅキはやっと瞬きが出来た。そして、彷徨っていた両手が、アレクサンダーの肩を掴んだ。
「んっ、んっ……ンッ!」
背に回された手が引き寄せられ、抱きしめられているとカヅキは知ってしまった。アレクサンダーの両手がカヅキの背に回り、徐々に下方へ行く。腰のあたりをつかまれ、カヅキの身体が僅かに宙に浮いた。
「んッ、ふ……ッんうっ!」
理性が本来のカヅキを呼び戻すと、とにかく離れようとして、腕や足に力が込められた。カヅキが正気に戻ったのだと勘づいたアレクサンダーは、更に攻撃的な口づけを仕掛けてくる。
舌先を吸い、カヅキの下唇を甘噛んだ。やり方は強引であったのだが、激しさの中にどこか甘えるような動作が混じっている。そうされるとカヅキは引き離せなくなってしまう。長い口づけのさなか、カヅキは瞳から一筋の涙を零した。
「……ふあ……ッ……はあ……はあ……」
完全に抵抗力を失ったのを感じ取ったアレクサンダーは、ようやく唇を解放した。紅潮したカヅキの顔を、薄く開けた瞳に入れる。高揚していく自身を抑え込むので精一杯だった。
アレクサンダーの支えがなければ、カヅキは今にも床に座り込んでしまいそうだった。思考が整理出来ず、カヅキはこの行為がキスなのだと理解するのに随分と時間を要した。
「なんで……」
潤んだままの目を向けて、未だに黙り込んでいるアレクサンダーに問いかけた。口元を歪ませた男が低く腹の底で笑った。
「答えは自分で探せよ、仁科カヅキ」
「な……ッ!? む、ぐッ」
油断した隙に、再び唇を奪われ、今度はもっと簡単に舌が攫われた。開いた唇の間から粘膜同士が擦れ合う、にち、ねちという音がダイレクトに耳に伝わり、カヅキはより赤面していった。
恥ずかしさと屈辱で、顔面に血液が溜まる。火が点きそうなほどに頭が熱い。
それなのに、肉体はアレクサンダーを受け入れているのがおかしかった。
嫌なら、もっと本気で抗えばいい。やわやわと男のシャツを握っていないで、舌でも噛んでやればいいのだと、理性が訴える。
だが、このままでもいいと、頭の片隅に浮かぶ思いが体の動きを鈍らせる。
「ン……う、うあ……んッ」
手口は乱暴なのだが、唇に触れるものは温かく、伝わってくる思いが確かにあった。
恋愛に関しては、カヅキは人より鈍く疎いと自負している。しかし、これほどまでに熱い思いを、直接的に与えられれば、嫌でも知ってしまう。
「も……もう……いいっ……大和、もう、俺……」
「これくらいで音を上げるなよ。終われるわけないだろ」
「や……ッ、いやだ!」
未知の恐怖があった。アレクサンダーから奪われ、与えられるものが、理解の範疇を超えている。体も頭も追いつかなかった。二つも年下の男に、ここまで翻弄されて、カヅキの尊厳はずたずただった。
これ以上、されたくない。素直に恐ろしいと思った。足の指が震え、背中が粟立った。
「俺はてめえに腹が立ってるんだ。おまえを全部寄越せよ」
「俺が……ッ何、したって……言うんだ」
涙で滲む目で必死にカヅキはアレクサンダーを睨み付けた。ボタンが引き千切られたシャツを惹かれ、左胸が露出した。
「こんな所、大衆に曝け出しやがって。てめえがどう思われてるのか、知らねえで」
「ふ……ッあ?」
長く伸ばされた舌がべろりとカヅキの左胸を舐めとった。色素の薄い乳輪を縁取るように舌先がくるりと周りをなぞる。
「ヒ、え……ッ、何……? 何して……ッ」
胸部にあるアレクサンダーの顔を怯えながら見下ろすと、男は自らの舌で唇を舐めた。そして、熱い吐息をカヅキの左胸に吹きかけた。
「ふっ、くぅ……ッ」
「こんなすぐ硬くなるんだな」
膨らんだ乳頭をアレクサンダーは舌先でつつく。敏感になった乳首は、快感をカヅキの脳内に伝えてきた。
「あ……ぐッ」
歯を食いしばり、声を出さないように我慢した。
「てめえに似合いの大きさじゃねえか。だがな……」
アレクサンダーは口を開き、そのままカヅキの乳首を唇で包んだ。そして、口の中できゅっと絞る。
「んッ……ン!」
涎れを垂らしながら、何度もちゅっ、ちゅっと吸われ、硬く膨らみかけた乳首は舌の上で幾度となく転がされた。
「ヤッ……やめ……ろ……ッ!」
「やめろ? まだそんな口を利けるのか」
アレクサンダーは左手でカヅキの右胸を探り、触れられていない方の乳首を抓り上げた。
「あぐ……ッ!」
「片方だけじゃ、満足出来ないよなあ?」
「いいっ、いらないっ! しなくて……ッ! あ……、ヤッ」
柔らかかった乳首は、親指の腹で潰されると、ぷっくりと腫れて丸みを帯びた形に変形した。
「男のくせに、胸を弄られて感じてるのか? なあ、どうなんだ。答えろよ、仁科カヅキ」
「ちが……違うッ……うっ……ンッ! それっ、おまえが……変なさわり、方してる……ッから!」
両手の平で胸板をこねるようにして揉まれ、二つの乳首は上下左右にぐにぐにと押し潰された。
「俺が触るから?」
「あー……ッあっ、あっ、ア!」
アレクサンダーはカヅキの頬に唇を寄せ、囁きながら訊いた。腰に響くような甘やかなトーンで尋ねられ、カヅキは背をしならせた。
制服のズボンの前が苦しくなって、腹の下が痛みを帯びてくる。自分で処理する行為の何万倍もの苦痛と快感が同時にやってくる。
「あや、あ、謝る、から……だから、もう……やめろって」
「許すわけねえだろ」
「ン! や……やァ……ッ!」
右胸の乳首も吸われ、カヅキは鼻にかかった声を上げた。アレクサンダーに触れられる度に悲鳴じみた声が勝手に出てくる。
涙も息もコントロールがきかない。口では何度も嫌だと言えるのに、体の自由を奪われてしまっている。おかしい、こんなの自分じゃない。
それでもカヅキは逃げられなかった。いっそのこと痛めつけてくれたら、正々堂々とアレクサンダーを憎めるのに、とすら考えるようになっていた。
「んう……んうう……ッ」
下半身の力を無くしたカヅキは、やがて床へ倒れ込んでしまった。くったりとした手足は、身を立たせることもままならなかった。
「……ッチ」
片腕を引き上げ、アレクサンダーはカヅキを抱え持った。片手でカヅキを持ち上げると、そのままリビングの中心にあるソファーへ運んだ。放り投げられるようにクッションに落とされ、カヅキはぼんやりと目を開けて、自分に伸し掛かる相手を見た。

また目の前に顔が下りてくる。
何度目かのキスをされ、カヅキはようやく目を閉じて、口づけに集中した。すると自然に手がアレクサンダーの頬を包んだ。
驚いたのはアレクサンダーの方だった。びくりと体が跳ねたのがカヅキにも分かった。それでも頬を包む手を離さなかった。そっと慈しむように、頬を撫で、耳に触れる。ピアスをひとつずつ確かめるように指先がやんわりと動いていった。首筋へ降りていく。
その動きは、愛撫そのものだった。自覚なく、指と手がアレクサンダーの肌をすべっていく。
「……ン……」
絡んでいた舌が唐突に離れ、物足りなそうにカヅキは見上げた。
「何しやがる」
「大和がやってるのと同じことだろ……」
「お前はするんじゃねえ」
「何だよ、それ。ずるい。俺だってお前の身体、触ったっていいだろ」
「やめろ」
手首を掴まれ、頬から剥がされてしまった。その手がきつく握られる。大きな手は簡単にカヅキの体を縛れる。単純な力では敵わないと疾うに思い知っていたので、悔しさはあまり無かった。フィジカルが優れているのも生まれ持った才能だからだ。
ただ羨ましいとはカヅキは思う。高い背、厚い胸板、硬い筋肉、太く長い手足。自分の身体と比べて、一回りも二回りも大きい。
それなのに、アレクサンダーは自身より力が劣る相手に対して、必死に力を込めているようだった。手指からは何か恐れのようなものを感じていた。
「あ……」
こめかみに唇が触れられた。湿り気のある柔らかな感触が、軽く触れては離れてを繰り返しながら、目尻、頬、唇の際、顎先へと移動させていく。唇は押し付けられる度に、水気のあるリップ音がした。
手首を握っていたアレクサンダーの手が這い上がってきて、カヅキの指の間に指が絡まる。片手が握られると、反対の手も同様に握られた。
「や、ま……」
この行いにどんな意味を持っているのか、訊きたくなってカヅキが名を呼びかけると、黙らせる代わりに首筋が吸われた。
「うっ」
しつこいくらいに同じ場所を吸われ、時に皮膚を噛まれた。痛みで顔を歪めても、アレクサンダーはカヅキの訴えを無視し続けている。
鬱血した痕は、性行為を匂わせるような色気のあるものとは違い、傷跡に似たものが残った。赤黒い痣が殴られたように唇の形で印されていた。
「何か言いたげだな、仁科カヅキ」
「だから、さっきから言ってる……だろ。おまえの考えてることが分かんねえって、なんで、こんな……」
「なら、てめえはどういうつもりなんだ。女みたいに受け入れやがって」
「女」と形容され、カヅキは下唇を噛んで、眉を顰めた。そんなつもりは毛頭なかった。そう指摘されて、自覚してしまった。どんな言い訳も出来なかった。無言で、唇を噛みしめる。
「やめろ、舌でも切るつもりか」
唇が切れる寸前になって、アレクサンダーは自身の唇をカヅキのものに寄せた。癒すように舌が動き、カヅキの唇の隙間に割り込む。
「……ッ」
嫌じゃないから、嫌だった。どう考えも、どう答えを出そうとしても、この行為が間違っていて、尋常じゃないことぐらいは分かりきってきた。
男が口づけをする相手は女に決まっていると、そういった当たり前を思い込んでいたカヅキにとって、アレクサンダーから与えられる唇も手も指も、何もかもが未体験で、常識の範疇を易々と超えてくる。
アレクサンダーの慣れた対応に、戸惑いを感じてしまう。そんな自分自身にカヅキは苛立ちを覚えていた。
「お、まえがそういうことするからだろ。あんな、変な風に触ったりして……大体、罰とか訳分かんねえよ」
「俺が悪いとでも言いたげだな」
「そうだろ! 無理やり、こんなことしやがって!」
「そういうことにしておけば、おまえ自身が罪悪感を感じないからか」
「はあ?」
アレクサンダーは握ったままの片手をそのまま持ち上げてカヅキの視界に入れ込んだ。
「この手は何だ?」
しっかりと握りこまれたカヅキの手は、アレクサンダーの指と絡まって、まるで両想いの恋人同士のように繋がれている。
「嫌悪感を抱いているなら、何故俺の手を握る?」
「こ、これは! 癖だから仕方ないだろ! オバレで活動してる時、よくヒロとコウジとも手をこんな風に握るから、それで、つい……」
「この俺をアイツらと間違えたとでも言うのか!?」
「ッ! 耳元で叫ぶなよ……」
殊更強く手が握りこまれ、指の骨が軋む。
「イテェって……、力、つよすぎるんだよッ!」
「ふざけたことを言うからだ」
カヅキの言葉には一切冗談が混じっていないとアレクサンダーも認めている筈なのだが、無性に腹が立ってつい八つ当たりのように自らの力を向けてしまう。アレクサンダー自身が気づいていない、彼の少年性が幼い精神を暴走させる。
「……意味、分かんねえ……よ……ッ、ン」
「それはこっちの台詞だ」
互いへの不満を口にしながらも、指と手は結ばれたままで、二人は唇を寄せた。どちらかが拒まなければならない筈だったと、どちらもが考えている。それなのに、離れがたく。終わりのない行為を目指して、舌が蠢いていた。

「――ヒ……ッ!」
口づけを交わしながら、またアレクサンダーはカヅキの肌を貪った。
浮き出た鎖骨や、筋肉で盛りたつ薄い胸の上を唇が好き勝手に泳ぐ。
「ン……ンう、ウッ」
大きく伸ばした舌の全体で、べろりと胸の肌を舐められる。最大まで勃ち上がった乳首は、痺れを伴っていて、アレクサンダーの息がかかるだけでカヅキは腰を浮かせた。
「赤くなってきたな」
齧られ、吸われ、弄繰り回されたカヅキの両胸は、目を逸らしたくなるほどに痛ましげに腫れ上がってしまった。
「も、いいだろ……いい加減、離せよ……ッ」
「俺は満足してない」
言いながらアレクサンダーは乳首を咥え込み、前歯でかりかりと乳首の根本を擦る。
「ンっ、ん……ッ!」
しがみつきたい衝動に駆られるが、両手はアレクサンダーに掴まれているので、代わりに指の力を強めた。汗のかいた掌が湿っている。カヅキは人より体温が高いと思っていたが、アレクサンダーの熱も相当高いのだろう。手指や、唇、肌が触れる場所は炎に炙られている錯覚に陥る。
「はあ……、クソ……ッ」
片手を解き、アレクサンダーはタイを抜き取って床に落とした。
「仁科カヅキ……ッ! どうしてお前は俺を……ッ!」
本心を言いかけて、アレクサンダーは誤魔化すように口元を拭った。
「どうした……大和?」
「黙れ」
「なあ、俺はお前にどうしてやればいいんだ?」
「黙れ!」
力でねじ伏せて、思うが儘にしても、アレクサンダーの怒りは収まるどころか、より荒れていた。
「お前は、俺の……ッ!」
カヅキは、アレクサンダーのシャツの襟を持ち、触れるだけのキスをした。唇にするのは照れ臭くて、限りなく唇に近い頬にした。
「やられっぱなしなのも、嫌だからな」
触れられた場所をアレクサンダーは片手で抑え、汗ばんだ顔のカヅキを見下ろした。
「ん」
カヅキは自由になった片手を広げて、微笑んでみせた。混乱しているアレクサンダーの首を触り、そして引き寄せる。
「俺、ずっとお前に疑問ばっかりぶつけてた」
「ああ?」
急に抱き寄せられ、アレクサンダーは散々甚振っていた相手の心境の変化に惑うばかりだった。
「分かろうとしてなかったんだよな」
「はあ?」
「ごめんな」
幼子にするような口調で謝り、カヅキはアレクサンダーの頭を撫でた。
「な、何しやが……」
「似てるんだ、俺と大和って。すぐかっとなりやすくて、負けず嫌いな所もさ」
「どういうつもりだ、仁科カヅキ……おまえ、この状況を甘く見てるな」
カヅキは首を横に振った。
「来いよ、大和。ぶつけてみせてくれよ。おまえの気持ち、全力で」
アレクサンダーがどうして、自分にこんなことをしているのか分からずに、反発するばかりだった。アレクサンダーは、ずっとカヅキの肉体を通して、叫び続けていた。それを無視していたのはカヅキ自身だった。
男はまだ少年であり、持て余している力に見合わない心がある。言葉にならない感情が、不器用に育ってしまったのだ。
「お前には、分からない……ッ! 仁科カヅキ、お前だけには絶対に!」
「うん。だから知りたいんだ」
「……ッ、クソ! お前は……ッ、お前は俺が……!」
かき抱きながら、アレクサンダーはカヅキの首筋を噛む。今度こそ、血が滲んだ。
「ン……ッい、てッ……」
「お前は俺の物だ……ッ!」
首筋に顔を埋めたアレクサンダーが振り絞るように、悲痛に呟いた。カヅキはリビングの天井を見上げながら、その言葉を待っていたかのように聞き届けた。
ああ、そうなんだ。と不思議に納得していた。やがてアレクサンダーは握りこめていたカヅキの手を放して、カヅキの身を抱いた。
長い間、握られていた手は、赤みがかったように見える。自分の胸の中で黙り込んだまま、顔を埋めている少年の頭をカヅキは両腕の中に収めた。
「うん……」
カヅキは、そっと返事をして、アレクサンダーの髪を撫でた。


「……笑うんじゃねえ」
しばらくして、何事も無かったかのようにアレクサンダーは身を起こして、シャツの前を閉じ、ネクタイを拾い上げた。
「こっち向けよ、大和」
「うるせえ、知るか」
カヅキも乱れた着衣を整えながら、からかうようにアレクサンダーに話しかける。必死になって自分への思いを口にしてくれたことが嬉しかった。
つい、そのまま肯定するような返答をしてしまったが、今更撤回するわけにもいかないので、どうしたものかと考えた。
けれど、カヅキは困っているわけではなかった。むしろ、どうアレクサンダーが受け取るのかが気になった。
「笑わねえから、顔を見せてくれよ」
崩れた前髪をかき上げながら、アレクサンダーは顰めた顔で振り返る。
「俺さ、無理に大人になろうとしてたんだ」
「は……?」
カヅキはずっと抱え込んでいた荷物を下ろすように、告白を始める。
「でも、大和がそうやって、俺に思いっきりぶつかってきてくれて、思い出せた」
アレクサンダーは真面目な目をして、カヅキの話を聞いていた。
「大人とかガキとかじゃなくて、自分らしいってことを、さ。……やっぱり俺と大和って似てるよ」
「似てねえ」
何だか呆れたようにアレクサンダーは舌打ちをして、カヅキの頬を摘まんだ。
「……ん」
首が曲がり、カヅキはぼやけた不鮮明な世界の中でアレクサンダーの睫を捉える。数回の後に慣れたキスの仕方を真似て、カヅキは顔を傾けた。
「……ッてめえ」
「自分から仕掛ける癖に、俺が積極的になると怯むんだな」
「調子に乗るんじゃねえ」
「乗ってない。それとも、お前って嫌がる俺の方がいい?」
小首を傾げると、アレクサンダーは頬を引きつらせて、固まった。奥歯を噛みしめているようだ。
「下らねえ……ッ!」
「帰るのか?」
側にいたカヅキの身体を引き離して、アレクサンダーは立ち上がり、大股で玄関へ向かった。
「じゃあな、アレク」
後ろ姿に向かってそう呼びかけると、面白いくらいに苛立ちを見せたアレクサンダーが目を吊り上げてカヅキを睨む。
「次は犯してやるからな! 仁科…………カヅキ!」
最後にそう宣言したアレクサンダーは、思い切り乱暴に扉を閉めて行った。静寂に戻った部屋の中で、カヅキは吹き出して笑った。


カヅキは携帯を取り出して、アドレスを開いた。ヒロとコウジへのメールを打つ。
いつか全てが終わったら、言おうと思っていたこと全てを、一番近くて大切な相手に言うと決めたのだった。
それからエーデルローズの仲間へも、黙っていたことを詫び、自分の考えを伝えることにした。
エーデルローズを辞めること自体は、変わらない。それでも、カヅキは、自分自身についていた嘘から逃げるのを止めた。
責められてもいい。引き留められ、悲しまれるのも、全て自分が受け入れるとも決めたのだった。

自分の自由は、どこでだって見つけられる。
思い出させてくれたのは、熱い思いを共有出来る一人の男の存在のおかげだった。






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