悪食

「遊戯ィ!」

童実野町でKC主催で行われているある大会。出場する決闘者はレベルの上下関係なしにグル―プ分けをされ、トーナメント式で勝ち上がった者が決勝へと進める。
Aグループの初戦を勝利した遊戯は、海馬に呼び止められていた。
「海馬、貴様のグループは確かJだったな。オレと闘いたいなら、決勝戦まで勝たなければ、あたらないぜ」
「フ、そんなことは百も承知! どうやら初戦は突破出来たようだな」
「わざわざオレの勝利を祝いにでも来てくれたのか?」
初代決闘王とKC社長が相見えれば、否応なしに目立った。騒ぎを聞きつけた人々が周囲を囲う。群衆の注目を浴びるのは慣れてはいたが、海馬は混乱を避けるために一度場所を移すことにした。
「来い」
「……ッ、あ、おい……ちょっと、何だよ!」
海馬は遊戯の手を強引に掴むと、人波をかき分けて行った。決闘者は芸能人やアイドルのように、ファンがついている。中にはミーハーな女子もおり、ふたりのその様子に黄色い声を上げるのだった。

「海馬……!」
海馬はどんどんと人気のない方を選び、関係者以外立ち入り禁止区域へ向かった。壁際には大会のロゴマークの入ったポスターがあり、観客の待機列を整頓させるためのカラーコーンやロープがひとまとめにして置かれている。
角になった場所は狭い。明かりも届きづらく昼間でも少し暗い印象がある。
「……おい! なんとか言え」
痺れを切らした遊戯は、掴まれていた手首を外して海馬の背に文句を告げた。ややあって振り向いた海馬はあたりを見回し、遊戯を壁際に追い込んだ。
「ここなら、そう人も来ないだろう」
「何だよ……、人の目なんか気にしやがって」
壁に手をつき、海馬は遊戯を見下ろしていた。身長差がありすぎるが故、近づかれると自然と遊戯は上目遣いになってしまう。
「しゃぶらせろ」
「……………………は?」
確かに海馬瀬人の言動に耳を疑うことは多々あった。振り回されることもしょっちゅうだ。だが、慣れたつもりだったし、驚かされるのも珍しくはない。それでも遊戯は、思考が停止してしまった。
「沈黙は肯定と取るぞ」
三秒ほど瞬きも忘れていると、短気な海馬はすでに遊戯のベルトを外しにかかっていた。
「え……いや、待てっ、ちょっと……うわっ、やめ、……だ、……ッ! やめろっ!」
真ん中の固定具を外し、ボトムの前ボタンに手が伸ばされている。遊戯は膝を折り曲げてしゃがみこんだ。
「海馬……お前、真昼間から何考えてるんだ……ッ!?」
「昼間か。そうだな、そろそろ正午になる」
「時間の問題じゃない」
海馬は施設内にあるデジタル時計を一瞥すると、淡々と時刻を述べた。午前十一時四十七分。ずり下がって逃げようとしている遊戯の脇に腕を入れて、海馬は立たせた。
「溜まってるんなら、よそでやれよ! オレは関係ない!」
外されたベルトを元に戻しながら遊戯はその場を去ろうとするのだが、海馬がそう易々と逃してくれるわけがなかった。
「だったら初めから、しゃぶれと言うわ。オレは、貴様のをさせろと言ってる!」
「だから嫌だって言ってるだろ!」
片腕を取られ、壁に押し付けられたまま遊戯は睨みをきかせた。海馬は無遠慮にぎりぎりと腕に指を食い込ませている。
「……その気になったら、いいのだな」
「よ……、よくない!」
顔が近づけられ、遊戯は思い切り横を向いて避けた。唇は守ったが、海馬はそのまま遊戯の耳を舐り、うなじに舌を這わせていく。
「うっ……うぐ」
「もっと色気のある声を出せ。出せるだろう? ……あの時のように」
「ううっ」
海馬は耳殻を噛みながらぼそぼそと話す。手首を持っていた海馬の手は、遊戯の掌を揉むようにして指と指を絡ませてきた。
「ふ……っく」
過敏な指先を丁寧に弄られると、全身の力が抜けそうになる。手など、毎日使って、外気に晒され続けているのに、海馬の指に取られると弱くなった。
「自覚しろ、貴様はオレの獲物なんだと」
「や……っ、あ……」
括れた腰に手が回り、ひと撫でされてから中心へとたどり着く。下部の膨らみから上へと海馬の手指はゆっくりと往復する。
「ん……、んう」
「若いのだから刺激に弱くて当たり前だ、むしろ反応が良いのは健康な証拠だ」
ボンテージパンツを穿いたままで興奮してくると、中は窮屈になって苦しさを覚える。遊戯の腰が退けると海馬は足を開かせるようにして腿を割り込ませた。
「単純だな、貴様は」
「う……っ、や、やらしい触り方、するから……だろ」
「クク、好き者め」
人差し指と中指を揃えて、指の背で海馬は遊戯の勃った所をすりすりと摩る。すると更に質量が増してひくひくと震えはじめる。
「さあ、これでどうだ。……自ら強請りたくなってきたんじゃないか……?」
陰部から鼠蹊部を指先でなぞられる。下着のラインをたどられ、遊戯は下唇を噛む。
「自分勝手に、ひとの……身体で、遊びやがって、誰が言うか……っ」
「強情を張るのは可愛げがないぞ」
「可愛くなくて、結構」
海馬は愛猫にでもするように遊戯の小さい顎の下を撫で、自らへ向かせる。顎の下に置かれた指が器用に動き、首から鎖骨までを同時に撫でた。両足の間に入っている海馬の腿が付け根を圧迫して、ぐいぐいと攻め入ってくる。
「はあ……う……っ、ん……っやだ」
「艶が出てきたな……頃合いか」
海馬は足を抜くと、身を離した。途端、自由になった手は力を失って肩からぶら下がった。
「あ……っ! 海馬ッ……!」
視界から海馬が消えると、その頭は下腹部にあり、しゃがみこんでいた。ボタンを外し、下着ごとずりさげられる。
「涎れなんか零して、だらしない」
濡れかけている遊戯のふしだらな性器に海馬は笑いかけて、片手で持つ。そしていきなり咥内へと含まれた。
「んうっ……ん、く……っ」
じゅる、と水音が立ち、遊戯の腰が揺れた。何とか声を手でふさいで、壁へと体重を預けて立っていた。海馬はもう空いている片方の手で遊戯の腿をゆったりと撫でている。
「やだ……やだぁ……海馬……っ、はな……し……」
奥まで吸い込まれ、射精感が募る。裏側に添えれらている舌が、内部でぬるぬると煽ってシャフトを責める。
内腿を服の上からつままれ、そして手のひらは膝をくるくると弄る。そのまま手は裏側へ回ると膝が折り曲げられ、遊戯の片足が浮いた。
「あ、……う……ぅっ」
両足ですら立っているのがやっとの思いであったのに、無理やり片足を奪われると、地についている方の足はがくがくと震えはじめた。
「や、や……っ、海馬、海馬……っ」
壁は固くて平らで、背は支えきれずに落ちそうになる。どこかにつかまりたいと遊戯の手は惑い、ついに海馬の頭部を掴んでしまった。
前髪を握るようにして持つと、性器を咥えこんだままの海馬がにやりとした。しゃぶったまま、遊戯を見上げてくる。
「う……ちぁう……やう……っ、ふぅう……んっっ」
海馬は遊戯の掴んだ手の意味を、どうやら違った解釈をしたようだった。
唇はきつくすぼめ、海馬は垂らした涎れをすべらせて、上下に振った。ちゅく、ちゅる、と淫猥に音を響かせながらテンポを上げていく。
「う……っうう……っや……あ!」
きゅうっと陰嚢が持ち上がるのを海馬は確かめ、性器を抜き出していく。そして先端部だけを口に入れ、手で扱いてやる。
若茎は充血しきって赤みがさしている。限界が近づき、遊戯は息が止まりそうになる。
「ひ……っ、う……ッ!」
首を振って、遊戯は海馬の前髪を引いた。このままでいたくないという意思表示だった。額が露出しても、海馬は気にせずに舌で亀頭の割れ目を擦っている。
「放、せ……ェ……っ! いや、いやぁー……ッ!」
眼からは一滴の涙が流れ、遊戯は甲高く喘いだ。その声を心地よく耳にしていた海馬は、「思う存分、いけ」と呼びかける。
扱く手が熱を上げ、海馬は仕上げとばかりに敏感部分を甘く齧った。
「あっ……ああっ……! ひっ……ぃ」
そうしてついに、遊戯は海馬の口の中で射精してしまった。二度、三度、と射出されていくのが分かる。海馬はうっとりとして、喉を鳴らして飲み込む。残滓すらも搾り取って、吸われてしまう。
「や……やあ……もう……出ない……」
吐き出したばかりの性器をいつまでも舐められているのは、快感よりも拷問に近い。辛いのに、甘えたような声しか出せないのが遊戯には屈辱だった。
「……ン」
ふやけそうになるまで海馬は遊戯を咥えていたが、全て出たのを確認すると解放した。口の周りについている淫らな汁を、海馬はポケットからハンカチを出してそれで拭いた。食後と同じような仕草だったので、遊戯は自分が空の皿のような気になった。
そのハンカチにまで会社のロゴマークが入っていたので、少しだけ遊戯はおかしかった。
「……大体、三cc、十三から十五カロリーといった所か」
海馬はおそらく神経質で潔癖なのだと思われる。そして、案外面倒見がいいのかもしれない。長男だからだろうか。遊戯の乱れきった下半身をハンカチで拭いてやり、そして下ろした下着とボトムを戻してやる。きちんとベルトも直された。
「か、カロリー……?」
「決闘の合間に食事を入れるのは、どうもオレの性には合わん。だが小腹は減るものは仕方あるまい」
肩からずり落ちていた遊戯のジャケットも海馬は直してやり、皺やほこりを払うように服の表面を叩いている。
「海馬、……まさかオレのこと食い物だと思ってんじゃ……」
「さて、そろそろ十二時か……。前試合が長引いてなければ呼ばれる頃だな」
海馬は自らの前髪を整えると時計を見上げ、立ちあがった。何事もなかったかのようにあっさりとした態度であった。
「貴様だっていつもオレのことを食っているだろう。それも美味そうにな」
「……な、何を……、き、貴様がしろというからしているだけだ! 美味いわけがあるか!」
「そうか? 貴様は、オレの口には合ったぞ。料理人に礼でも言っておいてくれ」
文句を言おうとした唇に海馬は軽くあたるだけの挨拶をして、見事に遊戯の不満を止めてしまった。うまく丸めこまれてしまった。またヤツのペースに流されてしまった。いつもこうだ。

その後、遊戯は海馬との決闘を完封勝利したのは言うまでもない。


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