七つの罪、その罰について 3

五章・・・波紋戦士

 瞬きをし、ややあってディオが瞼を開けると、あの薄明かりは無くなっていた。しかし、変わらずジョナサンの腕はディオの腰を抱いていたのだった。
 暖炉には薪がくべられ、明かりの役目を果たしていた。ランプの爪先ほどの火と違って、勢いよく燃える炎はふたりの体をしっかりと確かめられる明るさだった。
「……ジョジョ?」
 顔に影を落としていたジョナサンにディオは恐る恐る呼びかける。伸びた前髪のせいで、少し表情が見えにくくなっている。
「……よかった」
 安心したジョナサンが、ふうと息を吐いて、ディオの身を抱きしめなおす。石の床に敷かれた布団の上で、ふたりは座り込んで抱き合っていた。様々な色と模様をした布団や毛布が、何重にも敷かれているおかげで居心地はいい。軽い羽布団をジョナサンは肩から被って、その中にディオを入れさせている。
「ここ、覚えてるかい?」
 寝巻きは消え、代わりに戦闘用の服をディオとジョナサンは着ている。乱れた様子はなく、ベルトもかっちりと締められている。
 ジョースター邸とは異なる雰囲気の室内。そして、生活感のない殺風景な様子と、互いの服装でディオは悟った。
「あの石の館なのか」
「そうだ。君とぼくは……ここで――」
「いい……言うんじゃあない」
 ディオは指の腹でジョナサンの唇を閉じた。そして指を外し、自らの唇で塞いでいった。
「考えるな、思い出すな。おれを、今ここにいるおれだけを見ていろ」
 グローブを取り、ジョナサンはディオのベルトに手をかけた。ふたりとも動きやすさを重視した服装だったので、簡単に脱げていった。散らかすのも気にせず、取り払った布らをジョナサンは投げ捨てていく。
「風邪をひく、だとか、気にしてたじゃあないか」
 ディオのシャツを引き抜いていくジョナサンに向けてそう言うと、「吸血鬼も、風邪をひくのかい?」と大真面目に答えた。
「さあ、どうだろうな?」
 そしてディオの身を包んでいた最後の一枚が剥ぎ取られると、先に裸になっていたジョナサンは、柔らかな布団の上に身を倒れこむようにして抱きついた。
「こうしていたら、きっと平気だよ」
 上にかけた毛布で身をくるめて、ジョナサンはぎゅっとディオを腕の中に閉じ込める。
 二の腕はより筋肉質になっていて、胸や腹はがっしりとしていて、ジョナサンは男のディオが抱かれても尚余裕のある体躯だった。この雄大な肉体の至るところまで、貪りたい。ディオは敏感になった肌や嗅覚で、ジョナサンの風味を楽しんだ。
「ディオの、ここ。可哀想なことになってるね。何とかしなくちゃ」
 ジョナサンの両手がディオの胸板を持ち、親指の腹がするりと盛り上がりを撫でていった。胸の天辺に位置する尖りを掠められて、ディオはびくんと背を反らした。
「はっ、ウん……ッ!」
 過敏な態度を面白がり、ジョナサンはそれから何度となく親指をスライドさせては、乳首の先端を弄ってみる。
「んっ、んう……ッ、あっ」
 丸みのあった乳首がさらにむくむくと硬さを増して、赤く充血してくる。炎だけが揺らめいている橙色の視界の中でも、その赤さはジョナサンにも見てとれた。
 素直に快感を受け取り始めれば、ディオはもっと胸を強調するように差し出している。
「あ……っ、う、も……、もっと、しろぉっ」
 むずがるようにディオは背中をもぞもぞと布団に擦り付けて、下腹のあたりに手を置いた。すっかり勃ちあがっている性器は、だらだらと半透明の淫汁をはしたなく垂らしている。
「指がいい? それとも……」
 片乳は、人差し指と中指で挟み込まれてぎゅっと抓り上げられる。悲鳴じみた嬌声があげて、ディオは息を止める。
「おしゃぶりされたい……?」
 男のものとは思えぬほどに実りきった乳首に、ちゅっと濡らした唇を寄せて、ジョナサンは軽く吸ってやった。
「ヒッ……はあ……ッ!」
 発達した胸の肉を寄せ上げて持ち、ジョナサンはぐにぐにと強引に揉みしだいた。
「うぐ……ぅぅっ、んんう! ジョジョォ……ッ!」
 そして、胸の肉で谷間を作り、その肉の線にジョナサンは舌を伸ばす。かいた汗がその渓谷に流れ落ちて溜まる。それをジョナサンは掬い取るようにして、舌を往復させた。
「あ……っぅ! んんう」
 赤々と濡れ光る両乳首を、ジョナサンは交互に口に含んだ。胸のふくらみを押したり、揉んだりしながら、ちゅうちゅうと乳首を吸う姿は、赤子に似ていたのだった。
 生物上、確かに雄であるディオが、そんなジョナサンのいたいけな様子にあり得ない情が湧き起こりつつあった。
 母性と呼ばれるものだった。愛しさと共に、妙な感情がディオに渦巻いている。
 守りたいという不思議な気持ちと、ジョナサンに奪われたいという欲望が、混ぜこぜになって、腹の奥で鬩ぎ合う。
 どちらも、ディオの正直な心であった。
「はあ……んむ……、んっ、ディオ……おいしい」
 乳首は口の中に誘われると、その舌の上で転がされたり、歯でつつかれて意地悪されたり、ジョナサンの好ましいように勝手にされた。しかし、肉体を弄ばれるのがディオにとっての悦びとして芽生えていた。
 両の乳首からふっくらとした盛り上がりの胸の肉のあたり全て、ジョナサンの涎れだらけになってしまった。すっかり濡れそぼった肌は、てらてらと淫靡に艶めいていた。
 しつこい程にジョナサンはちゅぱちゅぱと突起を吸っては、舐め、甘噛んだ。
「んっ、う……っんんっ」
 胸に埋められている頭を抱き、ディオはジョナサンの髪を指に絡ませて、悶えた。
「ディオ……、ぼくも、そろそろ限界かもしれない」
 胸に噛み付いたままで、ジョナサンはディオの太ももの間に、自分の片脚を割り込ませた。
 つるりとした触感の粘膜が、ディオのすべすべとした白い内腿になすりつけられる。その滑らかな肌の上を、感じやすい部分でジョナサンは通っていく。
「ちょっ……と、待て、おい……ジョジョ……ッ! んんっ」
 横向きに寝かせられたディオは、片脚を持ち上げられて開かされた。
 内腿を這い上がった先端部が、行き止まりへとたどり着く。
「はっ……ぁ!」
 ぷにぷにとしている亀頭部の切っ先がディオの尻間にあたる。まだ蕾んでいる孔は、ひっそりと息を殺して静まっているのだった。
「まだ……ッ、だめだ……っ!」
 咄嗟に片脚を閉じると、ディオはジョナサンから逃れるように身を縮めた。
「いきなりだなんて、しないよ……。ごめん、怖がらせちゃったかな」
 つい先ほどまで甘えた赤ん坊のごとく夢中で乳を吸っていた男が、今度は悠々とした仕草で大人の振る舞いをしてみせる。どちらのジョナサンも、ディオにはときめきを覚えさせていた。胸の奥を掴まれている。心の臓を手に入れられてしまっている。こんな思いなど、今まで誰かに持ったことはなかった。やはりディオには、ジョナサンしか居ない。と、ディオは改めて胸を焦がした。
「こうして」
 ぬるりとした先端部分がディオの秘器官をこする。ちゅる、と粘った音がして秘孔がその口をむずむずと動かした。
「あ……ッ」
 ディオの総身を正面に直すと、膕を手にして、ジョナサンはほぼ行為と同じ動きをしてみせた。
「んっ、んっ! あ、う……っ!」
 淫らに両脚を開かされて、媚肉めがけて欲塊は上下に擦り上げられた。にち、にちと水音は絶えず響き、ディオは額や胸にどっと汗をかいてしまった。
 見知らぬはずの肉欲の感が、体の奥深くで満たされるのを待っている。男の味を、ディオの肉体は欲していた。
「こ、こんな……ッ!」
 押さえつけているジョナサンの腕を、ディオは足をばたつかせて振りほどいた。
 案外、あっけなくジョナサンの手は放され、ディオは両脚の膝を立たせたまま、体を起こした。
「真似事など要らんっ! おまえはおれを馬鹿にしてるのか……ッ!」
「してないよ」
 出したくもないのにディオの目から涙らしきものが滲んだ。少しずつ時代を進んでいく毎に、ジョナサンもディオも変になっていく。異常だと知っていても、ディオはこの夢に浸かってしまう。最早、ここが全てなのだと思い込んでいた。
「だったら……こんなまどろっこしいことなんてするなあッ!」
 拳は大した力もなく、ジョナサンの胸板を叩いた。それでもディオは繰り返し、拳を振り下ろした。それはあまりに弱弱しく、ディオはジョナサンの前では無力になってしまっていた。
「すぐには出来ないよ……。ここを傷つけないように準備が必要なんだ」
「そんなのいらない、いいっ」
 駄々をこねるディオを諭すようにしてジョナサンは言い聞かせた。それでもディオは首を振って急かして、ジョナサンの腕と手に爪を立てたりした。
「我侭言ったってだめだよ」
「いやだ。ジョジョ……頼む、はやく」
 妙な焦りがディオを追い詰めていた。一刻も早く、この身を繋げてしまいたい。そうしなければならない。何故、ジョナサンは進んで行為をしていくのに、ディオの嘆きを聞き入れてはくれないのか。もどかしさと苛立ちで、ディオは呼吸が荒くなる。
「君は、悪い子だなあ」
 温かなジョナサンの両手が、ふんわりとディオの顔を包んだ。そして、軽く上を向けられる。細い顎は、戦慄いている。
「ぼくを困らせてばかりだ」
「うるさい! おまえが、……おまえが、おれの言うことをきかないから」
 はらはらと瞳からは大粒の涙雫が落ちてしまった。丸い金色の瞳のふちから、次々と生まれ出ていく。赤みのさした頬を伝い、白い顎に流れて、それからジョナサンの手首へと雫たちは重力に従って行った。
「いつだってそうだったね……。だからぼくは、どうしたら君が、笑ってくれるのかって、ずっと考えてたんだよ」
「……いつだって? いつの話をしてるんだ、ジョジョ」
 思い出の端々には、ディオの泣き顔や寂しげに俯いた顔が刻まれている。作り笑いではない、心からの笑顔をジョナサンは出会ったときから探していたのだった。
「キス、してもいいかい」
「ジョジョ……」
 まだ睡魔はやってこない。それでも、ディオの目が霞み始めている。幾度と経験した感覚がまたやってきてしまう。
 次に目を閉じたら、時は進むだろう。薄々、気づきはじめていた恐怖にディオは直面することになる。
「……ああ、してくれ」
 視界はすっかり水の底であった。瞼を閉じると、溜まりきっていた涙水がジョナサンの手の甲に一粒ぽたりと落とされた。
 どうせ逃れられないのなら、今この一時の幸福に身を委ねてしまえばいい、とディオはジョナサンの口付けだけに意識を集めていた。

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