習作 2

 いつだってディオは誰からも注目され、尊敬され、頂点に立つべき人間として他を虐げる地位に君臨していた。
 そしてジョナサンは学校でも、街でも、邸内でも、ディオの配下だった。
 周囲の人間たちは、明るく活発なディオにジョナサンが慕っているのだと思い込み、微笑ましく彼らを見守っていた。実際は暴力と精神的圧迫によって、ジョナサンがディオに掌握されているだけだった。

 自分の正確な生まれ年を知らないディオは、身体の成長でおおよその年齢を見当づけていた。ジョースター卿も、ディオの顔つきや背丈からジョナサンと同年齢だと推定していた。
 出逢ったばかりの頃はディオの方が幾分か背も高かったし、筋力も上だった。
 それが、今はジョナサンの方が身長も体格も僅かにディオを上回っている。最近のディオはとにかくその事実が気に入らない。
 もうひとつ、ディオには無性に腹が立つことがあった。
 この頃、ジョナサンはこそこそとディオに隠れて自慰に耽っていることが増えていた。
 妙に色気づいていると思ったら、これだ。
「だからモンキーだって言うんだ! なんて低俗なヤツ! 気色の悪い! 最低だな!」
 初めて目撃した時、ディオは絶句し嫌悪感を最大値まで上げてジョナサンを罵倒した。
 いつまでもガキだと思っていたあのジョナサンが、忌むべき大人達と同じように手淫に夢中になっているのだから、ディオは当然吐き気を催した。
「こいつだけは、他の人間とは違うかもしれない」と一瞬でも思ってしまった過去の自分の首を絞めてやりたくなる。当時のディオは鬱憤を晴らすようにガーデンの花壇を荒らしまわった。
 物心がつくかつかないか程の幼いディオは大人たちの性行為や、恐るべき性欲を嫌でも見せつけられる環境に居た。その行いがどれだけ汚らわしく、いやらしく、悍ましいものか、無垢であったディオにとっては受け入れがたい現実だった。
 それらの経験は、異性に対して恋心を抱く時期になった現在のディオにも悪い影響を与え続けていた。
 「性」を感じさせる出来事に関して、嫌悪を通り越した「憎悪」を抱くようになっていた。女性的、男性的な健康な成長に逆らうようになり、少女の女性性を否定し、少年の男性性を突き放すばかりだった。
 特に自分に近しい人間に、ディオは攻撃的になった。
 無論、その標的はジョナサンであった。
 「性欲」を持つことがいかに下劣で、下品で、下衆であるということか、ディオはジョナサンに知らしめたかった。同時に、ジョナサンがそういう人種であるのだということに、優越感も持っていた。
 いつしか、ジョナサンがマスターベーションを行っていると、ひどく苛立ち、むかつきながらも、自らも興奮するようになっていた。
 優越感からくる高揚、もしくは胸のざわめき。得体の知れないものを見た場合に起きる未知の感動とも言うべき情。
「フフン。街の仲間たちに言いふらしてやろうか。それともあいつ目当ての女に告げ口でもしようか。どちらにせよ、ジョジョに恥はかかせられるし、しばらくは爪弾きにされるだろうな」
 微妙な年頃の彼らにとって「性の話題」は虐めの種には適している。
 陰毛が生えるのが早いだとか遅いだとか、そんな些細な問題すらも子ども達とってはからかいの対象になる。

 ディオは機を窺っていた。次の晩、必ずジョナサンは「する」。
 確実に現場を押さえる為にはタイミングが肝心だ。
 夜、メイドやフットマンが用事をすませ、部屋をあとにする。それから一時間はそわそわと落ち着かない様子でジョナサンはベッドに横になっている。
 気が昂ぶっているからか、何度も寝返りを打つ。それから、ベッドサイドのランプに火をつけると、起き上がって寝間着を捲る。
「……はあ」
 切ない吐息がもれ、覚えたての自戯をぎこちなく始める。
 ディオは、ジョナサンの声に顔を歪めた。
「忌々しい……」
 そして親指の爪を噛んだ。
 ジョナサンの背が一定の間隔で揺れ動く。静かに部屋の扉を開け、ディオは足音を消してジョナサンの背後へと立った。
「……ッ、は」
「おいッ!」
 無我夢中になって、やっと果てられるという頃合いにディオは声をかけた。
「……ッ!? えっ……アッ!」
 丸まっていた背がぴんと伸びて、ジョナサンは間抜けな声を上げた。
 ディオは目を細めてジョナサンの腹側を覗いた。
「あ……っ、あ……」
「へえー……」
 ふいに声をかけられて、ジョナサンは言葉を発せられないようだった。
 おろおろとした態度が後ろ姿からも見て取れた。
「……なあ、何してたんだい?」
「あ、いや、あのこれは……」
 慌てて陰部を両手で隠そうとするものの、絨毯に飛び散ってしまった精液までは手が回らないようだ。自慰の明かな証拠だった。ディオは目を細めた。
「なあ、ジョジョ。何してたんだい? そんなところを丸出しにして」
「ディオ、どうしてぼくの部屋にっ!?」
「ノックなら何度もしたじゃあないか」
 勿論、嘘だ。ディオは一度もドアを叩いてはいない。
「それなのに返事もない。寝ているのかと思って部屋を覗いてみたら、明かりはついてるし、君は椅子に座っているじゃあないか」
「…………う」
 ジョナサンは耳まで赤らめて、背を丸めて前を隠すようにして身を縮めた。ディオの顔を正面から見られないようだった。
「だから、何をしてるのかなと……」
「な、何って……」
「何?」
 ディオは嫌みっぽく訊いた。そしてジョナサンの顔を覗き込む。口元の笑みは消せそうもない。
「これは、その……あ、あれだよ」
「あれって?」
「アレはアレだろ……ディオだって、したことあるだろ!」
 恥じらいのあまり、ジョナサンはディオも巻き添えにする腹積もりになった。
 論点をずらせば、自らの行為をごまかせると子どもらしく思った。
 だが、その発言はディオの逆鱗に触れることとなってしまった。
「このディオがそんな馬鹿みたいな真似をするものか! おまえのような低俗な生き物とは格が違うんだ!」
「う、うわっ」
 ディオは殴りかかろうとしてジョナサンの襟を掴んだ。
 上に引っ張られた寝間着は、ただでさえ捲られていた裾が腹当たりまで露出してしまった。
「ウゲエッ!」
「あ……ッ」
 中途半端に達した勃起は、まだ芯を持って頭を擡げている。
 濡れた芯先からは、とろりとした白ぬめりが滴り落ちた。
「その……汚いモノをしまえぇーっ!」
「き、君が引っ張るから!」
 若い雄臭が、つんとして鼻につく。ディオはますます目をつり上げた。
「こんなことしているなんて……他のやつらが知ったら何て言うかなァ」
 ディオは初めの目的を思い出し、ジョナサンを辱める言葉を挙げ連ねた。
「…………さあね」
 所が、ディオの思惑からは外れてジョナサンはやけに冷静だった。ディオは、「さてはこいつ、開き直るつもりだな」と表情から読み取った。
「ほう、まあいいさ。君がそんな態度をしてられるのは今の内だけだ。明日には君は街一番の笑い者さ」
「そうかな」
 襟を掴んでいたディオの手に、ジョナサンはそっと自分の手をそえた。熱っぽい手の平が重なって、ディオは反射的に襟から手を放してしまった。
「こんなコト、みんなやってるよ」
 相変わらず、ジョナサンは目線を逸らして頬を赤くしたままだった。
 それでも、口答えする姿勢がディオは大層気にくわなかった。
「みんなって、どういうことだ! 誰と誰がやってると言った!?」
「何だよ……むきになって。街の子たちだって、学校のやつらだって、オナニーくらいしてるよ」
「はあ? 何言ってるんだ? はは、さては「それ」のやり過ぎで頭まで性器になっちまったか!」
「……ディオは、子どもなんだよ」
「な……ッ、」
 今度はディオが赤面していた。恥らいではなく、怒りによる興奮で血流が頭に溜まる。
「男の生理がきてないんだろ。大人になれば、自然とこうするのが当たり前になるんだよ。……ぼく達の年齢になればね」
「だ、誰に向かってそんな口を……!」
「他の奴らも言ってたよ。ディオはまだあそこの毛も生えてないんじゃあないかって。別に、ちょっとくらい毛が生えるのが遅くたって、恥ずかしいことじゃあないさ。ディオは肌も髪の色も薄いし、体質だってあ……」
「ふざけやがって!!」
 有無を言わさず、ディオはジョナサンに殴りかかっていた。もう泣きそうだった。
 街のガキたちも、学校の連中も、自分を慕い、敬い、憧れて、自分に群がっているのだ。誰もこのディオを否定してはならないはずだった。
 それが、このディオの身体を笑いの種にしていたと、あのジョナサンから聞かされることになるとは、夢にも思わなかった。何という侮辱だ。その話をしたやつも、その場にいたやつも、笑ったやつも、みんなみんな殺してやりたくなった。
「うぐ……ッ」
 涙を流すまいとディオは堪えると、喉奥から詰まった声が出た。
「ディオ。ぼくは馬鹿にしてるんじゃあないんだよ。ただ、男ならみんなそういう話は、するもんなんだ。君はそういう話題は全然しないじゃあないか。だから君がいない所で、みんな話してるんだよ」
 腕の力だって、体の大きさだって、あそこだって、どこもかしこもディオはジョナサンより優れているはずだった。今だって全力を出せば、ジョナサンの腕くらい振り払えるはずだ。
 今は、ただ気持ちが昂ぶっているから、混乱しているから、いつも通りの力が発揮出来ないだけだ。そうなんだ。ディオは潤んだ目でジョナサンを睨み付けるので精一杯だった。
「君さえよければ、その……やり方くらい教えてあげる……けど」
「馬鹿なことを!」
「ぼくもその、年上の、そういう話をする相手に色々教えてもらったりしたし……、そういうのって、周りのひとから情報得るのが一番イイらしいよ」
「そんなことくらい! ぼくはおまえより色々知ってるに決まってるだろ! いい気になるな!」
 膝でジョナサンの腿を何発か蹴り、ディオは腕を引いた。それでもジョナサンは真面目な顔つきで、まるで弟を心配しているかのような目をして見つめてくる。
「本当? じゃあ……だったら、ディオもしたほうがいいよ。君がいつもイライラしてるのって、溜まってる所為なんじゃないかって噂になってるよ」
「うるさい!」
 自分の性事情を気に掛けられることは屈辱以外の何ものでも無かった。誰がするものか! 自らの手で、あの部分を擦って、あんなきたならしい汁を飛ばすだなんて。
 あんなものは、このディオの体内には無い。無くて当たり前だ。
 ディオは、普通の人間とは違う。だから普通の「男」と同じなわけがないのだ。
「それとも、やっぱり本当に「まだ」なのかい?」
 息が上がった。ディオはジョナサンの股間を目掛けて、蹴りつけてやろうと足を振り上げた。
「うわっと」
 腰を引っ込めて、ジョナサンはディオの足を避けると、バランスを失って、ベッドへと転がった。手にはまだディオの腕が持たれていた。
「ぐっ!」
「んっ……う。ごめん……大丈夫?」
 丁度ディオの頭はジョナサンの胸元にあった。抱きかかえられるようにして、ディオはジョナサンの上に重なっていた。
「……離せ、離せったら!」
 未だ掴まれ続けている手を引き、ディオは起き上がろうとして身をよじった。
「う……うん」
 今度は素直に、ジョナサンは手を放してやった。あまりにもディオが必死だったので、ジョナサンは少し同情してしまった。
「ごめん」
 もう一度ジョナサンは謝罪を述べると、ディオは唇を噛みしめて横目で睨んだ。
「汚い!……おまえは汚い!」
 ベッドから起ち上がると、ディオは触れられた場所を手ではたいて、そう吐き捨てた。
「じゃあ、君は穢れてないって言いたいのかい」
「そうだ! おまえらとは違う! ぼくは……このディオは……そんな、そんな汚らしいモノなんて」
 口にしようとすれば、ディオの脳裏にジョナサンの行為が浮かんだ。かっと頬が熱を帯びた。
「変だよ……それって凄く、体に悪いよ」
 ジョナサンは、義弟の健康が不安になった。余計な世話だと分かってはいるが、ここまで介入してしまっては後には退けなくなった。
「悪いわけあるか! おまえのほうがおかしいんだ! 毎晩のようにしやがって、気が狂ってる!」
「毎晩!? 何でそんなぼくのこと知ってるんだいっ」
 ジョナサンは指摘されると、再び顔が赤くなってしまった。確かにここ最近は、夜になると自然と自慰行為をしてしまっている。無意識のうちに手が向かってしまうのだった。
「毎朝、毎朝、精液臭いんだよ! 馬鹿が!」
 行為の後はきちんと手を洗って、濡れた箇所も拭いているし、寝間着や寝具も清潔に保たれている。それでも敏感なディオは、義兄のかすかな雄臭を嗅ぎ取ってしまう。
 それはディオがジョナサンを意識しすぎている所為でもあった。
「それは、その悪かったよ……すまない。でもそれとこれとは違う話だろ」
「ぼくはしたくないし、これからもしないと言ってるんだ! やりたくなんか無いって言ってるんだ! もう構うな!」
 そう訴えると、ディオはジョナサンに背を向けて歩き出した。最低で、最悪の気分だった。もう寝て忘れてしまおうと、心に決めた。
「分かった。やっぱり君はまだ「子ども」なんだ」
 ベッドが軋む音がして、嫌な予感にディオが振り向こうとする。両肩を持たれて、ディオは耳元に唇の気配を感じた。
「ひ……っう」
「あれが、「気持ちのいいこと」だって知らないんだ」
「くっ」
 身を強ばらせていると、ジョナサンはそっとディオの腹周りを撫でた。緊張でさらに硬くなった筋肉が収縮する。背から首筋まで肌が粟立っていく。ディオはすっかりその場に立ち尽くしていた。
「大丈夫だよ……知らないってことは全然怖くなんてないし、恥ずかしくもないよ」
 急激に大人へと変化していくジョナサンの腕や、手や、声に、ディオは言いようのない劣等感と寂しさを噛みしめていた。

「……あれ……おかしいなあ」
 やわやわと服の上から何度もジョナサンはディオの陰部を揉んだり撫でたりしていたが、一向に硬くなる兆候は見られなかった。
 ジョナサンが下手なことと、ディオの緊張が相まって、性器は起ち上がってくれそうもなかった。
「だから、いいと言って……」
 勃起こそしてはいないものの、ディオはこの異様な空気とジョナサンの甘さに酔わされていた。一体どういうつもりなのかと問いただしたかったが、うまく口が回らず、大人しくジョナサンの寝台に横になってしまっている。
 着衣はしたままで靴を脱がされ、布の上から肌をまさぐられる。そのもどかしさに、やけに腹のあたりが切なくなった。
「……人にするのって、自分のとは全然違うんだね。加減が難しいや」
 ジョナサンはディオの下半身から顔を上げると、申し訳なさそうに言った。
「も……う、いいだろ」
 ディオはくったりとして、だるい体を持ち上げ、掠れた声で返事をした。
「ううん……」
 先ほどまで下にあったジョナサンの顔が、突然ディオの目の前に現れる。
「げえっ」
「ん……」
 厚みのある唇が小さく窄まれて、ゆっくりと近づいてくる。
「何をする気だっ!」
 手元にあった枕をジョナサンの顔に押しつけると、ジョナサンはもがもがと何かを言いながらシーツに倒れた。
「だって、順序……守ってなかったと思って」
「何の、だ!」
「いきなり、「あそこ」に触ったらダメだって教わったのを思い出して。最初はキスから始めなきゃいけないんだって、言うだろ?」
「知るか、そんなこと……!」
 一呼吸置いてからディオは、気がついた。
「ジョジョ、おまえ……今、このぼくにキスしようとしてたのか!」
「そうだけど」
「おまえっ、やっぱり頭まで下半身になったな!」
「だから、えっと」
「キスがどういうことか知ってるのか!」
 ディオはキスの経験だけは何度かある。触れるだけのものや、奪うだけのもの、ほとんど感情なんて入っていないものばかりだった。
「それくらい分かるよ」
「だったらダメだ!」
 同性だからいけないというより、ディオにとっては「ジョナサン」だからしたくないという気持ちが強かった。してはいけない。「したくない」とは違った、何か別の違和感があった。
「君がそんなに嫌だって言うなら……無理にはしないよ」
 ジョナサンは自分の唇を指先で少しだけ撫でてから、口を閉じた。
 だが、またジョナサンの顔がゆっくりとディオの側に近づいてきた。
「あ」
 ディオが声を出した瞬間と同時にジョナサンは丸みのある頬に口づけていた。
 それから唇は、こめかみを渡り、耳元、首筋へと流れていった。
「は……っ、うう」
 くすぐったさと、奇妙な浮遊感にディオは視線を泳がせた。ジョナサンの吐息が直接肌にあたって、暑苦しかった。
「あ……あう」
 唇の薄い皮が湿っぽく、ディオの肌を濡らしていく。触られていく箇所から、溶けそうになる。
「ボタン、とっていい?」
 首元まできちんと留められているシャツのボタンを外す許可を求められる。
 ディオは返事をしなかったが、ジョナサンはそのままひとつ、ふたつ、とボタンを静かに外していった。
 シャツが開かれると、きれいに浮き出た鎖骨を舌がなぞっていった。寒気とは違うのに、ディオは肌がぞくぞくした。肌が曝されて寒いはずなのに、体の内側が熱い。
 自然と腰が動いた。膝が立って、尻が浮く。
「ふ……っ、ん」
 滑らかな肌の表面を、ジョナサンはじっくりと唇で探った。
 やがて、素肌の上に存在しているぽちりとした突起に気がつく。それまでは気にも留めなかった、ささやかで控えめな器官だった。
 ふっくらとしているが、こりっとして芯を持っている。淡く色づいた尖りが、つんとして胸に聳える。
「は……っ」
「んむ」
 ジョナサンは鼻先で乳輪をなぞってから、尖った先を唇でくわえた。
 ちゅう、と音を立てて吸うと、面白いくらいにディオの身体が跳ね上がった。
「ひゃ……っぅ」
 陸に打ち上げられた魚のように、総身がびくびくと上下する。その動きに合わせて、寝台がいやらしくぎしぎしと鳴った。
「あ……、ねえ、今のって」
 他の誰でもない、ましてや自らの手でもない。ジョナサンによって目覚めさせられた、ディオが知る初めての「肉体の快感」だった。
「ふ……ぐっ」
「ずるいよ。手で口を塞ぐなんて」
 ディオは直ぐさま唇を固く閉ざし、両手で口元を覆った。瞳には薄く涙の膜が張っていて、視界は水底のようだった。
「でも……」
 ジョナサンは言葉の続きを濁らせた。ディオが両手を使わないなら、もっとやりやすくなった……とは言わないほうが良いと察したからだった。
「いいよ。いつまでも、そうやって我慢しててね」
 途端、ジョナサンが本来持っている「意地悪な性分」がむくむくと顔を出し始めた。相手を可愛いと思うほど苛めたくなるのは、少年なら誰しも持ち得る性癖だった。
 ディオと違う所は、あくまでも少年らしい可愛らしい程度の意地悪であって、相手を打ち負かすようなやり方はしなかった。焦らして、焦らし尽くして、相手の音を上げさせる。明るい粘着質なやり方を好んでいた。
「……んっ!」
 またもやディオの背がびくりと跳ね上がった。
「ん……っふ」
 ジョナサンは時折ディオの顔色を確認しながら、左右の乳首をちろちろと舐めては、刺激し続けていた。
 自分の上半身でディオの腹あたりを押さえ込んでいるので、どうやっても逃げ出せはしない。みぞおちあたりにディオの下腹部が当たっているのだが、まだ反応は無いに等しく、ジョナサンはため息をついた。
「くっ……ぅぅ」
 息が吹きかけられると、ディオは胸を反らした。両手で必死に口元を押さえ込んでいるのにも関わらず、艶っぽい声や吐息が指の隙間から漏れ聞こえている。
「はあー……」
 些細なディオの反応のひとつひとつをジョナサンは観察して、その度に動きや愛撫に変化をつけた。まだ人に対して、どういった行いをすればいいのか、どうすれば正解なのか学んでいる最中の少年は、良い反応があれば、それを脳にたたき込む。
「あ……ッつ」
 口内に籠もらせた息を乳首にかけると、ディオは思わず訴えかけるように文句を自然と出していた。
「はあー」
 寒空の下で、かじかんだ手を温めるようにして息を吐き出す。部屋の中は適温で、ディオの胸元は冷えているわけではない。
「うっ……うう」
 ジョナサンの息がかけられた乳輪の付近は湿って、乳首が濡れる。
 ちゅる、と音を立てながらジョナサンは熱くなった乳首を唇で食むと、ディオの腹が横に振られた。嫌、嫌と腰が動く。
「う、ん……ぅ!」
 肌の表面を優しく舐めたりなぞったりしてばかりだったジョナサンは、初めて歯を立てた。
「あっ!」
 敏感になりすぎている乳首の硬い先を囓られて、ディオは大声を上げた。
「痛かった……?」
 ジョナサンは乳首の先端を慰めるようにちろちろと舌先で弄りながら訊く。
「それ……やめろ!」
 ようやく口元から手を外したディオは、目元を乱暴に擦りながら、変わらないきつい視線でジョナサンに言った。
「それって……これ?」
 舌で小さな乳首を転がすと、抑えがきかなくなった唇は想像をこえた嬌声を出した。
「ひぃ……やァ!」
「うわ……ディオ……、君って、すごいな……」
 ディオの胸に舌を這わせながら、ジョナサンは自分の下腹に手をやった。途中からすでに硬くなり始めていたが、今はもうかちかちになって我慢汁が出始めている。
「ひぐ……やっ、あ、やあ!」
「すごい、クるよ」
 利き手でジョナサンは陰茎の先をこすり上げ、あいた手でディオの舐めていない方の乳首を弾いた。
「あっく……!」
 他人の体は、自分の肉体とは違って思っていたよりも、柔らかすぎたり、硬すぎたりして、どのように扱えば分からなかった。
「い……ッ痛い! やめ……あうぅっ!」
「このくらい平気だって」
 そろそろと窺うように、壊れ物のように触っていたけれど、次第にジョナサンは調子に乗ってきた。
 乳首に爪を立てて、何度もかりかりと擦って、硬いままの尖りを指先で転がし続けた。
「ん……やっ、痛い……!」
「嘘だよ、気持ちよさそう」
「あっ、あう」
 血が下半身に集中し始めると、益々理性的な思考は飛び去っていって、ジョナサンはより大胆に、本能的になっていく。
「あー……ぼくもう……ぼく、もう……」
 利き手の動きがさらに速まっていき、ジョナサンはディオの腰を持った。
「ふ……や……、え……何、ジョジョ……ッ!?」
 うまく力の入らないディオは、ジョナサンがしようとしている事に恐れて、足を閉じた。
 構わずにジョナサンはディオのズボンを脱がしにかかった。
「や、やめろ! 離せったら!」
「だってさ……ぼくだけ、おち×んちん見せたのは、不公平だろぉ……、だからディオもち×んちん見せてよお」
 うつろな目をしながら、陰部をさする少年が迫ってくる。ディオは悲鳴こそ上げなかったが、半泣き状態で唸っていた。
「や……だ!」
 完全に興奮状態の獣に、力で抗えるはずもなく、奪い取られるようにしてズボンが脱がされてしまう。
 ディオは両足をしっかり閉じて、シャツの裾を伸ばした。
「ぼく……もう限界、近いかも……っ」
「ひ、やっ!」
 ディオがうつ伏せになるとそのまま上に重なり、ジョナサンは露出したディオの臀部に自らの若勃起をなすりすけた。
「ぎゃっ」
 熱源を感じると濁声でディオが叫ぶ。ジョナサンは、ふうふうと息を肩でして、ディオの身を抱き寄せた。
「ひっ、ぎっ、やっ!」
 ベッドはぎっぎっと天蓋や柱を揺らして、音を立てている。その揺れの根源がジョナサンの律動だとディオは自分の下半身にあたる汚物から読み取った。
「やっ……ひぎ」
 強引に尻肉をつかまれ、むいっと両に開かれた。閉じきっているのが当たり前である筈の器官が、外気に曝される。独特の匂いがした。
「はあ、はあ……」
「やだ! くそお……この馬鹿力がぁ……ッ」
 ぬめる粘膜の先端が、小さく縮こまっている孔に目掛けて滑り込んでくる。流石に一度も使われていない上に、慣らしも濡らしもしていないので、入るわけがなかった。
 代わりにジョナサンはそのふくよかな尻肉に自らの欲物を挟み込んだ。
「あー……あったかいよ……」
「はぐ……っ」
 ぬめり汁を垂らしながら、ジョナサンはしっかとディオの尻肉を固定して、腰を打ち付けた。
「あっ、ひう……っん! くっ」
 ジョナサンからの先汁がディオの臀部や会陰、孔周りまで満遍なく広まると、粘膜同士のすべりが良くなってきた。
「あ……っく……うっ」
 一方的だった快楽が、両者の快感へと変わっていく。
「あ……ディオも……いい? いいよね……?」
 ジョナサンは身を屈めて、後ろから耳朶を舐りながら訊いた。ディオは首を振ったが、身体中はひくひくとして悶えていた。
「気持ちがいいから、こんな乳首が硬くなっちゃうんだよね……?」
 尻肉を掴んでいた両手が、今度は胸にまわってきて、ふたつの乳首を摘まみ取る。しばらく放っておかれた為に、余計に刺激に感じ入った。
「は……ぅ! んっ、んっ、んう」
 背が弓なりに反って、ディオはシーツを噛んだ。下腹部の粘膜は、まるでキスをし続けているかのように、ちゅっちゅっと可愛らしげに鳴いている。
「はぁ……あと、もう……ちょっと」
 ジョナサンはディオの尻に淫部をなすりつけて、腰を揺らした。
 手で擦っているより、何倍もいい。癖になってしまいそうな程に、気持ちが良い。肌が触れあっていること、肉に包まれることがこんなに良いなんて、自分はこんなことを知ってしまっていいのだろうか……。ぼうっとした頭の中でジョナサンは考えていた。
「ふうぅ……んう……」
 そして、ディオはジョナサンに気づかれることなく、男の性を持てあましていた。
 勃ち上がってしまった自分のものが、ジョナサンが腰を揺らす度にシーツに擦れて痛みを生じさせる。しかしこれ以上腰を浮かせると、自分からジョナサンの下半身に尻を押しつける形になってしまうので、ディオは耐えるしかなかった。弱い先端部がごしごしと擦られていくようで、自然と目尻に涙がにじんだ。
「う……ううっ」
 握っていたシーツから片手を放し、ディオは自分の陰部に手をやった。包み込むように握り込めると、それまでの快感の何十倍もの悦さが足先から上ってきて、思わず尻に力が入った。
「わっ……ん、ディオ……」
 きゅっとジョナサンのペニスを締め付けてしまい、悦ばせてしまった。すると、ジョナサンはますます腰をディオに押しつけるようにして、ぐいぐいと進んだ。
「あう……っくうぅ……」
 じんじんと熱が広がっていく。ディオはジョナサンの動きに合わせて手で扱いた。もう顔は緩みきって、唇からは涎れが垂れた。
「はあ……ディオ……ディオぉ……! ぼく……もう! 出るよお、出ちゃうよ……ッ」
「あっ、あっ、あっ!」
 ディオには無い感覚だった。ただ脳天を突き抜けていく何かがある。それだけだった。

「は……ぁ……あー……う……ッ」
 背中から肌の感触が無くなると、次の瞬間にはディオの尻に熱湯がかけられる。
「あ……つ……ッ」
 熱いと感じたのはほんの一瞬で、すぐにぬるい粘液なのだと知った。
 数滴が何回かに分けられて、噴射された。終わったかと思っても、まだ飛ばされる。それが精液なのだと知っていたが、ディオは身動きがとれなかった。
「あ……はあー……」
 吐精が終わると、ジョナサンは詰めていた息を胸から吐き出した。
 そして、しばらくの間ディオの尻にかけた自分の精液を眺めた。
「ご……ごめん、今拭くよ」
 慌てて手拭きを捜したが、側には見当たらず、仕方なくシーツの端で拭ってやった。
「ディオは……?」
 体を反転させて、ジョナサンはディオの射精を確かめようとする。
 だが、そこにはしっかりと勃ったままの幼茎があるばかりだった。
「あ……まだ、なのかい?」
 そろりとジョナサンは手をそこにやった。ディオは、目を見開くと暴れ出した。
「ひっ、触るなっ! あっ、あくぅ!」
「え……?」
 手の中の幼勃起は、びくびくと震え、それに合わせてディオも同様に体を痙攣させた。
「え……あれ? 嘘だ……まさか」
 ジョナサンはディオが腹側をつけていたあたりを触れてみた。さらりとした質感を保ったままのシーツには皺が寄っているだけだった。
「ディオ……」
「ふ、ぐ……っ、んんっ!」
 続けざまに頂点を極めて、ディオは身もだえるようにしてベッドの上で体をくねらせた。
「本当に……まだ子どもだったってこと……なのかい?」
 ディオの足や、尻の間からは、ジョナサンが吐き出した精液が流れていて、染みはそのあたりだけに作られた。
「そんな……ぼくは……本当に君を……汚してしまったのか」
 肉体として未成熟な清らかであるディオに、無理矢理に男の性をぶつけてしまった。
 ジョナサンは今度こそ青ざめてしまった。
 ディオはぼんやりと、それでいて責める様な目でジョナサンを見つめ続けていた。
「この……最低男が」
 そして、蔑むようにディオはジョナサンに言い捨てた。
「ごめん……本当にごめん……」
「このぼくに……こんなこと、しやがって……こんなこと、知りたくなかった……!」
 未だ射精の出来ない幼すぎる性器は、終わりの見えない快感と勃起に、声を上擦らせる。
「……どうしてくれる」
「普通なら、出せば治まるのに」
「くそ……ッ」
 恥じらいも捨てて、ディオは陰部を擦った。それでも感じるばかりで、熱が引かなかった。
「ごめん……ディオ、可哀想に……」
 憐れむようにジョナサンはディオを抱きしめる。自然とそうしていた。

「おい……離れろ」
 掠れた声で命じられ、ジョナサンは従った。
「……ン」
 目の前で起きていることに、ジョナサンの思考がついていかなかった。
 睫の先が当たる。鼻先が頬に当たる。唇が、濡れる。
「あ、……ん」
「……っ」
 頭を傾けると、ディオの唇が開かれ、ジョナサンは誘われるように舌を潜り込ませた。
「……ふ」
「な……なんで?」
 疑問が先に口をついて出た。ディオはむすっとして、無言のままだった。
 疎い、鈍いと言われるジョナサンでも、流石に読み取った。
「……ん」
 差し出された唇に優しく柔らかく口づけると、それからもう一度、「行為」を始めるのだった。
 今度は一方的では無い、相手のために尽くすやり方で、ディオを満足させるのだ。



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