習作 1

「なあ、」
 頭のすぐ後ろから声がかけられている。ジョナサンは無視を決め込んでいた。
「なあって」
 名前を呼んでくれたなら、振り向いてやってもいい。だが、恐らく可能性は低いだろう。
「おい!」
 短気な彼はすぐに苛立ち始め、ジョナサンの肩口を叩いた。
 それでもジョナサンは黙り込んだままで机に向かっている。
「ああ、そうかい。そうしたいなら、すればいいさ」
 ディオは強情な性分で、ジョナサンは頑固な性格だった。相性はすこぶる悪い。どちらかが折れるという場合は、限りなく零に近いのだった。
 どすん、と埃を立ててディオは側のソファーに腰をかける。すらりと伸びた長い足を嫌みったらしく見せつけるようにして、ジョナサンの座っている椅子に無理矢理に乗せた。踵で肘掛けを叩いて、足を組んだ。
「………………」
 ジョナサンは視線だけでディオの爪先を確かめてから、無言のままで居た。
 お互いが同じことを考え、思っている。

「先に向こうが謝ったら、許してやってもいい」

 一体何がきっかけだったろうか。
 些細なことだったろう。
 最早、どこからが始まりだったのかすら思い出せないのだから、馬鹿馬鹿しいものだ。

 ディオはパイプに火をつけ、紫煙をくゆらせた。わざとらしく煙を口先から出し、ジョナサンの横顔を目掛けて吹き飛ばす。
「………………ッ」
 咳き込む素振りを見せた後に、ジョナサンは口元を手で覆った。それでもディオを見ようとはしない。
「……フン」
 肘掛けに乗った靴の踵を鳴らしながら、ディオはじっとジョナサンを見つめる。
 煙を遊ばせるのに飽きたディオは、パイプをローテーブルに置く。それから器用に足だけで靴を脱いでいった。
 片足の靴が脱げ、靴下のままになる。薄い布地で出来た靴下は、足の指の形が透けて見える。
 足の五本の指が、もぞもぞと動いた。
 ディオはソファーの縁に頭をつけて、ゆっくりと瞬きをする。肘掛けから足を外して、ジョナサンの腿の上に落とした。
 ぴくん、とジョナサンの体が反応したのが分かる。ディオの唇が僅かばかりに歪む。
「んっ」
 ディオは欠伸をしながら、腕と足を伸ばした。つま先がぴんと張って、ジョナサンの足の付け根に寄る。
「…………ちょっと、これ邪魔だよ」
 ようやく口をきいたジョナサンが、「これ」と言って腿を浮かせて、ディオの足を指した。
「黙れよ」
 ディオは、足の指を曲げ押し潰すようにして腿の付け根にめり込ませた。
「ディオ……君、いい加減に」
「黙ってろよ」
 払ってやろうとしてジョナサンは手を出したが、それよりも早くディオは蹴りつけるようにしてジョナサンの下腹部を狙った。
「……ッ、うぐ」
 攻撃とまではいかないものの、男性の過敏な器官には充分な刺激が与えられた。
「Mr.ジョースターは、どうせ論文書きでお忙しいんでしょう? ぼくのことなどお構いなく……どうぞ続けて下さい?」
「っく」
 ディオは作った声色で他人行儀に言い、更に足指をジョナサンの股座に埋め込んだ。
「うう」
「さあ、お気遣いなく」
 親指を左右に振って、芯を持ったジョナサンの熱部をぐりぐりと弄くり回す。
「う……っく」
 ジョナサンは唇を噛みしめて、声を我慢した。気を抜けば、情けない声が漏れる。ディオは全く手加減をしてはくれない。同じ男である故に、どれくらい力を入れたら痛むのか分かっているから、容赦がない。
 より強く擦られて欲しい先端は無視して、ディオは腿の付け根にある膨らみを狙っては押していく。親指をクニクニと小刻みに震わせて、敏感部をいじめる。
「……はっ……ッ」
 手でされる愛撫とは違って、どこか的外れな動きになる。わざとそうしているのか、足だからかはジョナサンには分からなかった。
「……う、……うっ」
 額から汗がじわりと滲んだ。思わずジョナサンは目を閉じていた。快感が脳内に走るような感覚がする。余計に感じた。目をしっかと開け、机上の文献を視界に入れ込んだ。文字が意味を成さずに、目玉の上を滑っていく。頭が回らなくなってきた。ジョナサンは拳を握っていた。
「おや、手が止まっていますよ? どうかされたんですか? Mr.……」
 笑みを浮かべているディオは、まるで他人が同席しているかのように振るまう。姿勢はだらけて、足は淫猥な動きをしているのにも関わらず、表情と口調は澄ましているのだから可笑しかった。
「ディ……オッ」
 意地の張り合いでは、負けまいとしている。お互いがお互いに対して、自分が上位なのだと知らしめたいと思っている。
 ジョナサンはここで泣きを見せたら、それこそ今後もディオを調子に乗らせるだけだと知っている。
 けれど、この足を掴んで彼を押し倒すのも、ディオの思惑通りになる。それも経験済みだった。
 ディオはこの状況を楽しんでいた。このままジョナサンが我慢を続けても、辛抱出来ずに自分に覆い被さっても、勝ちが見込めると読んでいる。
 仕掛けた自分に利がある。
「ほら、ほら……ほら! さあ、ペンを握れよ!」
 足の指で、ジョナサンの皮袋をつまみ取ったり、踏んだりを繰り返している。
 守るべき力を持たない箇所は弱々しく、抵抗も出来ない。体重がかけられていなくても、ジョナサンの背筋には悪寒が走った。そして同時に、熱が腹にたまった。
「猿みたいにしてみせろよなァ?」
 ズボンの前を押し上げている部分を、ディオは勿体振るようにしてなぞった。薄い靴下の中で磨かれた爪が覗いている。ジョナサンは光った足の爪を眩しそうに見下ろした。
「……君が……ッ、仕掛けたんだろう……?」
「何が?」
「……ッ、ぼくに……どうしろっていうんだ……ッ」
「フフ、してみせろよ。じゃなきゃ、ずうっとこのままだぜ」
「……う……ンッ」
「おれは一向に構わんぞ。むしろ、もっとその顔を見ていたい」
「……本当、君って、サディストだよね……」
 ジョナサンは、胸から息を吐き出しながら、ズボンの前を広げた。解放されて気が緩むと、少し笑えた。
「おまえほどじゃあないさ」

 ディオは顎をしゃくった。そして、見世物でも眺めるように退屈そうに頬に手を当て、ジョナサンに視線を送った。
 椅子をひき、手を動かしやすくするために空間を作ると、ディオはにやにやと笑ってジョナサンの行動を観察していた。
 手で陰部を覆い、もぞもぞと扱いていると、ディオの足は膨らみを潰しにかかった。
「ぐぅ……ッ」
「おい! 何だそのみみっちいやり方は! 普段もそんな風にやってるのか? 違うだろ? もっと、こう、がさつに、してるんだ、ろ!」
 ディオは足裏全体を使って、ジョナサンの勃起を擦り上げた。薄布と表皮がすれ合って、熱を高められる。
 すべすべとした靴下の感覚にジョナサンは声をあげた。
「あ……ッう」
「おい……まさか、今のがよかったんじゃあないだろうなぁ? 勝手に射精したら、分かってるんだろうな?」
「……へえ……怖い、な……ッ」
 ジョナサンの前髪はすっかり額に張り付いていて、我慢の証拠の汗が流れていた。手元の書類は皺になり、手の汗でインクが滲んでしまっている。
「おれがいいと言うまで、堪えてろよ。手で根元を押さえるのも駄目だ」
 命じられるがまま、ジョナサンはディオの足に身を任せ、奥歯を噛んだ。
「ふうん。流石に我慢強いな。体力と根性だけはあるよなあ」
 粘着質な音がリズミカルに響いて、振動が腹を揺さぶった。ジョナサンは鼻から息を漏らしながら、あれこれと思考を飛ばして堪えていた。
 ディオは片足の親指で根元から先端部までを往復させ続けていた。ある程度まで太くなった雄幹が刺激に慣れきってしまったと知ると、足を離した。
 ディオの片足はジョナサンの先走り汁でべっとりと濡れ、薄布の靴下は使い物にならなかった。
「昔から君に……、色々鍛えられたからね……」
「ふふっ、じゃあ、今の君はおれのおかげであると言ってもいいな! 感謝しろよ」
「そう、だね……」
 ディオはもう片方の靴も脱ぎ落とすと、両足をジョナサンの腿に乗せた。
「これならどうだ」
 乾いた靴下と濡れた靴下に挟まれて、交互に足裏が左右、上下、とばらばらに動いてこすられた。
 じわりと、先ほどよりもぬるつきが多く排出され、乾いていた靴下もすぐに濡れ透けるようになった。
「ふふっ、あはは……、ひどい面だなぁ! 辛いか? ン? もう降参かあ?」
 ジョナサンは、熱を帯びた目でディオを見つめて、荒い呼吸を繰り返した。
 ディオはそんなジョナサンの苦しげでみっともない顔を笑っていた。
 だが、ジョナサンは、ディオが足を放りだして卑猥な動きをしている姿に興奮していた。
 ディオは夢中になると、自らの姿がどんな滑稽な事になっているか、頓着しない。
 両足を浮かせて腰を振るようにして、男の性器を扱いているという事実をディオは言葉にして分からせてやらなければ、恥とは思わないだろう。
「なあ、出したいだろ……!? 出したいんだろっ!?」
 にちにちと粘膜は猥音を絶やさず、部屋中に雄臭をまき散らす。
「うん……出したい。ディオの……足に……、靴下に……ッ!」
「……はあ!? あっ!」
 自由にさせていたディオの足首をジョナサンは掴むと、自らの性器と一緒に握りしめて達した。
 噴出する際、ディオの足指を丸めこませて亀頭部を包ませた。その為、ディオの靴下にはたっぷり我慢させられて濃くなった精汁が染みこんだ。
 とろりとした精液が、脱げかけた靴下の余り布の部分に溜まった。足裏はすっかり透かされていて、どこもぬるぬると光っている。
「あ……、この、誰がおれの足に、していいと言った!」
 びちゃびちゃになった靴下で、ディオはジョナサンの硬い腹を蹴った。びくともしない腹筋に、更に怒ってディオは連続して蹴りを入れた。
「……足癖の悪い」
 ジョナサンはもう一度ディオの両の足首を片手で取ると、そのままディオの身体へ折り曲げた。
「ぼくの、ここを虐めるふりをして……自分だって、足で感じてたんじゃあないのかな……?」
 体がふたつに曲げられると、臀部をさらけ出すような体勢になった。
 つうっとジョナサンの指が、曲線を描いている尻周りを撫でた。
「……ッふ」
「賭けるかい? 君が濡れているか、どうか」
「……っる、さい!」
「感じてないなら、平気な筈だろう?」
 足を更にディオの頭へと持ち上げれば、ズボンが肉体にぴっちりとして隙間を無くした。尻の谷間が、くっきりと浮かんでくる。
 その肉谷に、ジョナサンは指を這わせた。
「あ!」
 ディオがひときわ高い音を上げるので、ジョナサンは身震いした。
「ね、ディオ。賭けるかい……?」
「……ッ、う」
 ディオは首を振った。
「うーん、どういう意味なのかぼくには分からないなぁ。口がきけなくなったのかな」
 言いながらジョナサンはディオの濡れた靴下をそろそろと脱がしてやる。ほとんど機能していない薄布は、精液にまみれてぐっしょりとしている。
 物欲しげに唇が戦慄いているので、ジョナサンはディオに微笑みかけると、その靴下を口元へと運んでやった。
「君は声が大きいからね……」
 塞ぐようにして精液まみれの靴下を咥えさせると、ディオは何かを呻いて、ソファーから逃げるように手足を動かした。
「ダメだよ。今度はぼくの番なんだからね」
「……ふっ……ううっ! ううっ!」
 ジョナサンは名前を呼ばれた気がした。
 やっとディオはジョナサンの名を呼んだのだった。
「順番、決めたのは君だろう」
 唇に出来ない代わりに、ジョナサンはディオの足の裏にキスをした。
 軽い挨拶のようなものから、愛情を交わす熱烈なものまで。ジョナサンはディオの足にたくさんのキスを落とした。



top text off-line blog playroom