月海夜 15
「んっ……ふ、はぁ……」ジョナサンの股座に顔を埋め、布越しにディオはしゃぶりついた。
「ディオ……ッ」
革のズボンの滑らかな表面に舌を這わせたり、唇がジョナサンの形そのものをなぞったりしている。片手で器用にベルトを外し引き抜いていく。もう片方の手はジョナサンの腰を抱いて、たくましい太腿を撫でさすっている。長い爪が、革に傷をつけたり、くい込んだりして、ディオはせっかちにジョナサンを食おうとしていた。
ズボンの合わせを閉じたまま、ディオは湿った息を吹きかけて、ジョナサンを刺激している。
「う……ッ、く」
ジョナサンは眼前の事態から目を閉じて、自分を押さえ込んだ。いつも、ディオはジョナサンを求めて受け入れる側だ、ジョナサンが動き、精気を与える。体を交えるようになって、初めてディオから奉仕されている。こんな風に尽くすディオの姿は、見ているだけで動悸がしてしまう。金色の髪が有り得ない場所で揺れていて、ジョナサンは戸惑い、頽れてしまいそうだった。
「んっ、……この、三日のあいだ、まさか出してはいないだろうな?」
太腿を撫でていた手が、盛り上がりのはじまりを探り、指先が繊細な動きで硬さを確かめる。
「……してないよ……。」
「本当か? 嘘をついてないか、今から調べてやろう。」
ディオは股の合わせを開き、ジョナサンの自身を取り出して、鈴口の先の穴に鼻をあてがった。とがった鼻先で敏感な赤い頭を擦られ、柔らかい唇の中にジョナサン自身が吸い込まれていく。
「あ……、っく」
勃ち上がりかけていたジョナサンが、ぐんぐん大きく膨らんで、ディオの腔内で上を向いていく。伏せていたディオの顔も角度を上げていく。ちゅ、と濡れた口の中で水音を鳴らして、ディオはジョナサンの自身から唇を離した。
「ふふ、今日は一段と早いんじゃあないのか……?」
少年をからかう妙齢の娼婦のように、ディオはジョナサンの陰茎を唇と指先で可愛がった。硬く屹立したペニスの上から根元まで、人差し指の爪先が、浮き立った血管をつうう、と辿っていく。爪の尖りが弱い皮膚を掠める度に、びくりびくりとジョナサンの陰部は身を揺らして、震えた。ディオは猫目を細くして、震えるジョナサン自身に笑いかけていた。
「ディオ……ッ、」
「おっと、まだだ。出すなよ、……まだ御預けだ。」
溜め込んでいる精と欲が、暴発してしまいそうで、ジョナサンはディオの頭に手を添えた。いっそ食らいついて、貪ってほしい。毎晩ディオの方が、ジョナサンを欲しい欲しいと、腰に抱きついて泣きじゃくって求めてきたのに、これでは立場が逆だ。ジョナサンがディオを欲して狂いそうになっている。こんな思いは間違っている、とジョナサンは後ろめたい。
我慢を限界までさせて、恥ずかしく強請らせるのも、ほとんどジョナサンがディオにさせてきたことばかりだ。言葉と行動は、ディオがジョナサンに「して」欲しがるから、何だってディオに命じて、そしてディオの肉体を虐めてきた。
今晩も、ディオから性急に始めているのに、ジョナサンは苦しかった。口の中でも、尻の中でも、手でも足でもいい。ディオの体のどこかで、滾る欲望を果てさせてしまいたい。
だけどディオはじっくりとジョナサンを味わい、楽しんでいる。
犬が待て、と餌の目の前で御預けされて、よしをひたすらに待ち続けるのは、「待て」も「よし」も、自分の主人の命令だからだ。待ち続ける間、犬はよだれをだらだら流して、ずっと餌を見つめている。素直に主を慕うほど、犬はより従順になる。
ジョナサンが、ディオに命じていたと思っていたのは、はじめに、ディオが欲したからだった。ディオがジョナサンの肉体を欲しがり、そのために、ジョナサンは強請らせた。ジョナサンが、身体をくれるまで、ディオは何だって言うことを聞き、自身の全てをさらけ出し、恥じらいの中に身を投じていった。言う事を聞く理由はひとつの簡単な答えだ。最後には必ず、褒美を与えられると知っているからだった。
ジョナサンは、セックスの時間は自分が上位だと思い込んでいた。彼を命じるのも、虐げるのも、女役であるディオを責めているのは自分の自由だと思い、その意志で、行っていると、……思い込んでいた。
この行為は、ディオが欲しがる精気のために、ジョナサンが身を捧げている。
「あ、く……ッ」
雁首の張り出したところまでを口の中に入れられ、またすぐに外気に晒される。冷たいのは指や、外見の肌だけで、ディオの身体の内部はいつも熱っぽく、粘膜はとろとろに溶けそうに熱い。赤くぬるついた口の中に奥まで入れて欲しいのに、ディオは口に入れたり、出したりして、ジョナサンを困らせた。
「ディオ……ッ!」
涼やかに笑う彼を押し倒して、口の中にペニスを突っ込んで、喉奥で扱いて、射精してしまいたい。
ジョナサンの凶暴な情欲が湧き立つ。だが、そうしたとしても、ディオは怒らないし、泣きもしない。ディオは、ジョナサンのその欲を悦んで受け入れるのだ。
ずっと、彼の上に自分が居ると、ジョナサンは勘違いしていた。
犬が、ジョナサンだった。
そして、主がディオであったのだ。
どんなに、酷く抱いたとしても、いくら辱めたとしても、主はしもべを見捨てない。
何故なのか。
どれも、ディオがジョナサンに対し望んでいることばかりだったからだ。
「ふッ……ここ、ぱんぱんにして……、ああ、ここがジョジョの精気の源、生命力を感じるぞ……」
ズボンを完全に下ろさせて、ジョナサンの睾丸を舌先でディオはつついた。
片手で袋を揉み、反対側は口で喰む。うっとりと、優しくディオは、ジョナサンの下腹部を愛おしんだ。
「ディオ、……、せめて、座らせて、くれないか……ッ」
快感が腰に走ると、ジョナサンは床に踏ん張って我慢した。何度も何度もすれすれの、攻撃的な快楽が繰り返されて、立っていられなくなる。
「だめだ、このままだ。」
柔く握られていた玉袋の手に力を入れられ、ジョナサンは息をつめる。
肝心のジョナサン自身は、手で上辺だけを触られ、ディオは周辺ばかりを唇で責めている。根元に寄った皮のあまりを唇で引っ張りあげたり、茂った陰毛を舐め回したりしている。
「い、っ……!」
毛を歯でむしられ、ジョナサンの目に薄らと涙が浮かぶ。
痛みの元に、ジョナサンが顔を向けると、そこには、瞳を三日月に形を変えて笑うディオの顔の半分が覗いていた。
視線を外さないディオは、色っぽく瞬きをして、自分の上唇を舐めて見せる。濡れて光る口を開けて、ディオはジョナサンに見せつけるように雄をくわえ込んだ。
「く、……う、」
――じゅるるっ、ちゅうぅ
ディオは両手で肉棒を支えて、先端を飲み、棒を飲み、やがて半分ほどが粘膜に包まれる。
「んっ、……んんっ、……ン、ふはあっ」
口中の上のざらついた部分に、亀頭が触れる。ディオはその瞬間に、またジョナサンを抜き出してしまった。
「どこまで大きくするんだ……、全く仕方のないヤツだな。」
横向きにディオは肉茎を食み、唾液と先走りで十分に濡れた先を手の平に包み入れて、撫で回して、あやした。
「あんまり大きくするから、おれの口に入らないじゃあないか……。」
頬を肉棒によせ、肌にくっつけ、ディオは片手で軽くしごいてやる。頬のすべすべとした肌触りは冷たく、肉棒はその冷たさにも感じ入った。
耳にかけていたディオの金髪が、顔を下に向けたときに落ちて、髪が陰茎に絡みついた。長く伸びている金髪は、粘液に濡れて湿っていく。ディオは気にせずに、手を動かしていた。
「んッ、んく……」
口に入りきらないとは言っても、ディオはたまらずにジョナサンの先っぽを腔内に含む。膝をすり合わせて、ディオは腰を浮かせた。
半透明のぬるついた液体が、ディオの白い顔や、指、髪を汚していく。ディオのブロンドは、幼い時代のジョナサンにとって憧れの象徴だった。まばゆいばかりに輝く金色の髪は、太陽に透ける蜂蜜色から、自らが光る濃い黄金色へと成長と共に変わっていった。金色には神々しさすら、感じていた。それが今、輝きは自分の精を絡みつかせている。ジョナサンはディオの額から、散らばる前髪を撫で付けて、湿った髪を耳にかけてやった。
「ディオ……ッ、ディオッ!」
潤んだ瞳をディオにジョナサンは向けた。ディオも同じく涙目で、ジョナサンを見る。
舌を長く伸ばして、裏筋を擦り、両の手でディオは細かく根元から扱き上げる。
「んッ、んう゛っ、おまえは……ッ、おれのために、おれだけのために、……射精すればいいんだ!」
くわえ込んだまま、ディオは口の中で喋り続けた。
「あ、ああー……ッ!」
ジョナサンは自分の服の首元を掴んで、思わず強く握りしめていた。自然と腰を振ってしまい、ディオに目掛けて欲を放っていく。
「んぐッ! ううっ、あ、……くぅ……ッ、熱い……ッ!」
意識せずとも、ジョナサンは射精の瞬間に波紋の呼吸をしていた。体外へ放たれる精液には、微量に波紋の力が入り混じっていた。精射をディオの肌にうつと、その皮膚は赤く爛れる。そして治癒するときに煙がわずかに上がる。
片目を閉じたディオの瞼や、色付き始めたなめらかな頬、ふっくらとした唇のどれもにジョナサンの精液がかかり、火傷を作っていく。肉がはがれ、ディオの綺麗な顔が醜く焼けていった。白濁が流れ落ちる道筋にそって、赤い傷が作られるが、みるみるうちに肌は再生していく。
肉を焦がすような匂いと、花が焚かれていく香りがしていた。
「ん、……く、ん、」
喉につまる精液を、音を立てて飲み、ディオは残った精を舌に乗せてジョナサンに見せた。
ディオは、指先に舌で転がした精を取り、人差し指につけたまま、精液の糸を上に伸ばした。粘着く糸は、ゆったりと糸から玉に形を変えて、またディオの口の中に帰っていく。波紋の力が薄まった精液で遊び、ディオは口の中で泡立てて見せる。
「ん、……ふふっ、嘘はついて無いようだ。」
腔内の残滓も飲み干すと、ジョナサンの目を見て、それから、ジョナサンの自身に話しかけるように、鈴口に口付ける。
「溜め込んでいた分、匂いも……味も、濃いな」
まだ硬さのある肉棒に顔を摺り寄せ、ディオは満足げにジョナサンに抱きつく。
「おまえのここも、これも、みんなおれのために、あるんだ。……いいか、無断で自慰などしたら、おまえのペニスを食いちぎってやるからな」
ここ、と言い唇が肉棒に触れ、これと言い指先が皺のよった皮袋を指す。
尖った歯をちらつかせて、肉の幹にあてがう。長い爪も、ジョナサンの腰骨に突き刺さった。
「良質な精を生産してくれよなァ? おまえの体調もここの味ですぐわかる。」
「じゃあ、……今日はどう、だった……?」
「疲れているな? 新鮮さが感じられないから不味い。」
「こんなの、美味しいわけないだろ。」
「今日は、だ」
ベッドに腰を掛け直して、ディオは足を組む。磁力が生じているかのように、ディオの唇にジョナサンは無言で近づいていった。
「ん、……ん」
自分の性器を口にした後、すぐキスをすることに、あまりジョナサンは抵抗がなかった。
渋さか苦味か、どんなものにも似ていない味がしている。鼻をつく臭いはあったが、ディオの舌を攫えば、どうでもよくなっていった。