月海夜 21

 片足を縄で寝台に繋いだまま、ようやくジョナサンはディオの身を離した。秘孔からは、どぷりと白濁液が零れ落ちる。一度も抜かずに抱き続けていたことが窺い知れる。
 最初にこの館を訪れたときと同じような想いをジョナサンは心に持った。
 怒り、悲しみ、恐れ、絶望。――何故、裏切ったのか。
 あの時と何ら変わっていない。自分も、そしてディオも。ただ、勘違いしていただけ……なのだろうか。ジョナサンは、ぼんやりとした眼で登り始める太陽を眺めていた。
 彼を殺したかった。
 肉体的にではなく、心の死を望んでいた。男としての尊厳を奪うことで、プライドが人一倍高いディオを痛めつけられると思っていた。
 だが、ディオは違った。ジョナサンとの行為を楽しみ、悦んでいた。
 肉体は、愛し合う。そして、いつしか心までも惹かれるようになってしまった。馬鹿馬鹿しいものだとジョナサンは自身の単純さに呆れる。だが肉体の繋がりで、思いも繋がるものだと今も信じている。
 ディオはただの食事だと言っていたが、ジョナサンには伝わるものがあったからだ。でなければ、今こんなにも辛いとは思わないだろう。だから、ディオも自分と同じように、思ってくれているものだと信頼しきっていた。
 ディオにとってジョナサンの首を掻く隙はいくらでもあった筈だ。ジョナサンはディオの前で気を許した姿など毎日見せていた。本当に殺す気であったなら、わざわざこんなに面倒なやり方をしなくていい筈だ。
 ディオは昔から、ジョナサンの心を傷つけたがっていた。元より、ディオがジョナサンの精神を殺そうとしていたのだった。
 期待をさせ、存分に幸福を匂わせてから、突き落とす。いつだってディオはジョナサンの幸せを奪っていく。
 それが、ディオにとっての生きる意味だったのだ。

「君はこれで満足かい……?」
 ジョナサンは窓辺に立ち、カーテンを開ける。陽の光が部屋を照らす。
 寝たままのディオは唇を歪めた。腹が揺れているのが見え、ジョナサンは益々かっとなって声を荒げていた。
「これが……ッ! おまえの、望みだっていうのか! ぼくの全てをめちゃくちゃにしたかったのか! 生活も、人生も、家族も、……心さえもだ! これがおまえの思うとおりだっていうのか!」
 拳に力が入り、カーテンは握られていた箇所から破られてしまった。ちぎった布切れを床に叩き落し、ジョナサンは壁を叩いた。
「どうしたいんだ……ッ、くそッ……!」
 ディオは長い髪で顔を隠し、肩を震わせていた。笑っている。吸血鬼の肉体にとって、強引な性交ぐらいでは痛みも無いのだろう。括られている手足も大した傷ではない。片足の縄も簡単に引き千切れるくせに、ディオはわざと縛られたままにしているのだ。
 何もかも初めからディオの思い通りだったとしたら、ジョナサンにとってこれほど虚仮にされたことはない。
 いっそ、太陽の前にディオを突き出してやろうか。
 ジョナサンは陽光を見て考えた。本当に、吸血鬼の肉体は灰となって散ってしまうのだろうか?
 共に生活をしていて、ディオはたまにしか食事をしなかった。ジョナサンの精気だけで事足りると言っていたが、果たしてそれも本当なんだろうか。ディオが吸血鬼である明確な証拠がない。
 銃弾に撃たれても死なず、処女の血を奪い、傷もすぐさま治ってしまう。
 傷が治るのは幾度か見てきたが、ジョナサンはディオが吸血しているところや、致命傷から蘇るところは目撃していない。ディオが真に吸血鬼であるなら、唯一恐れるものは、太陽だけだ。
 日の光、吸血鬼と相反する波紋の力。
「ディオ、君が……ぼくの行動も全部予想し、分かっていたというなら……、もうぼくは君の思い通りにはならない!」
 やがて窓から差し込む光は、部屋の半分を明るくさせた。ディオが自身の身を日陰に運んでいたのをジョナサンは見逃さなかった。
「君が望む愛し方はしない」
 ディオがジョナサンを殺すというなら、ジョナサンはそれに対するのではなく、挑むことにする。殺すというなら、愛すしかない。
「なッ!」
 縄を取りはずしてやってから、ディオの手を引いて窓辺まで連れ立った。
 壁際にディオを押し込むと、少し怯えているように見えた。途端ディオの目の色が変わる。
「こわい……?」
 見下ろす顔を近づけると、前触れなくディオは殴りにかかった。右頬にディオの拳を受けても、ジョナサンは微動だにせず真っ直ぐに瞳を向けた。
「どけ!」
「なら殺せばいい」
 ぎろりとしてディオの眼光は鋭さを増した。先ほどとはまるで違う色になる。腹を狙った膝がジョナサンに入ったが、それでも巨躯の足は僅かにも動かない。
「ん、ぐぅ……」
 口を覆われ、ディオはジョナサンの手の甲を掻いた。片腕でディオの腿を掴むと、ジョナサンは無理やり張り詰めた肉棒をぬるついた秘所に突っ込んだ。
「……ッ、ぐ……ッ!」
 総身の真ん中に突き抜ける衝撃でディオがバランスを失うと、ジョナサンは床についていた方の足も抱え上げた。両足が空に浮かび、ディオは詰めていた息を吐き出す。
「はァッ……う゛……ッ!」
 一気に根元までが入り込み、ディオは思い切りジョナサンの背を引っ掻いていた。
 落ち着く間もなく、ジョナサンはディオの腰を揺すった。
「あっ、うっ! くっ、うぐっ!」
 冷たく硬い壁が背骨に擦り付けられ、思わずディオはジョナサンにしがみついて、みっともない体勢になった。
「ディオ……、今なら……、ぼくの首を狙えるだろう……ッ、早く、殺せ」
 背に回した手を首に持っていき、そのまま爪で刺せば人間の肌は容易く切れてしまう。ディオなら首を切断することも出来る筈だった。
「あっうっ、はあっ、う……ッ!」
「喘いでいないで、さっさとやればいいだろう……ッ! ディオ……ッ!」
 口調がきつくなると、ジョナサンは己の昂ぶりを感じた。冷めている頭とは真逆にどんどんと熱が上がる。激情は限界を知らない。
 なまぬるい行為の中にあった緩やかで穏やかな時とは違う。ジョナサンは燃え滾る自身の欲望が解放されていくのを自覚していく。
 最初の交わりよりももっと深い。そうだ、この感覚だ。敵である相手を蹂躪する。殺し合う相手との行為。憎悪すべき対象を、肉体的な意味で愛す不思議な悦び。呪いのような結びつきは魂の伴侶とも言える。あの時も今も、同じだった。この危機的な状況下に於いてのみジョナサンの倒錯性愛が顔を出してくる。
「んぐ、うあ……ッ、あっ、あっ!」
 最奥の肉壁に当たっているようだ。ディオは首を左右に振って、汗を散らす。
 涙と涎を垂らし、ディオはだらしなく声を上げていた。背の指には力が入り、ジョナサンの広い背中に痕がつけられていく。
 昂ぶりと共にある苛立ちと怒りで、ジョナサンはもっともっとディオを追い詰めたくなる。泣き喚かせて、謝らせたい。従わせたい。
 腕を無理やり引き剥がし、ディオの手足を床につかせる。寝台の横にある大鏡の正面に立ち、ジョナサンはディオの顔を鏡に向けた。鏡は古いものだったが、手入れはされており、鮮やかに二人の姿が映し出される。
「見るんだ」
 大鏡には四つん這いになったディオが居た。後ろ髪を引き、ジョナサンはディオの顔を前に向かせる。そしてそのまま、強張りを挿入していった。
「は、ぐ……ゥ」
「目を閉じるんじゃあない、ディオ。君の酷い顔を、自分の目で見るんだ」
「や、め……ッ、ぐ、ぅ……ッ、あっ」
 唯一ディオに出来る抵抗は瞼を固く閉じることだけだ。髪を強く引かれようと、尻を叩かれようと、ディオは瞳を開けなかった。
 なんとかしてディオに言う事をきかせたいジョナサンは、髪から手を離した。
「ヒッ! ぐ!」
 今まで放っておかれていたディオ自身に、ジョナサンは手を伸ばしていた。淫汁を零していたソコは、突然の刺激に震え上がる。
 抽送の激しさと同様に、強引に猛々しく扱かれ、ディオは逃げるように床を引っ掻いて耐えた。
「あう! イゥッ、うやああッ!」
 体内と表面で、ディオはジョナサンを感じて乱れた。痛いのか、悦いのかも分からず、ただ悲鳴だけが洩れる。
 極まる寸でのところで、ジョナサンは握った手を根元で止めてしまった。堰き止められた精が中で暴れている。
「ん、ぐッ……はぅう……ッ」
 前の手は止まっているのに、後ろからの律動は変わりない調子でディオを揺すっている。
「ううう〜〜〜ッ! んうううッ! ジョ、ジョォ……ッ!」
 熱源は逃げ場を失って、ディオは狂い悶える。無意識に甘えるような声色で覆いかぶさる男の名を呼んでしまう。ディオのへたり込みそうになる尻をジョナサンは片手で持ち上げ、もう片方の手は性器を支えている。
「苦しいかい? ……言う事を聞かないからこうなるんだよ」
 ジョナサンは先ほどとは打って変わって優しい口調でディオの耳を嬲った。耳たぶをしゃぶり、耳殻を食んだ。
「は、ぁ……あ!」
 ディオの全身の力が抜けていく。膝から崩れると石床に亀頭が擦られて、ディオはびくりびくりと背中を波立たせる。
「顔を上げて、ディオ」
 腰を持っていたジョナサンの手が、ディオの顎を掴む。鏡はディオの荒い吐息を浴びて曇り始めている。
「は……ッ、……くっ、ぐッ、うう」
 涙で潤んだディオは鏡の中の自分と目が合った。ディオは自分自身のみっともなく喘いで、熱っぽくなった顔に得も言われぬ恥ずかしさを覚えた。こんな肌を、こんないやらしい姿を、今までジョナサンに惜しげもなく晒し続けていたのだ。
「うぐ……っ、う……」
 快楽以外の涙がディオの頬に流れた。悔しさと恥ずかしさが入り混じる。それなのに、ディオは不思議と事実を受け入れることが出来ていた。
 余裕のない表情は、ディオだけではないからだった。ジョナサンは穏やかさを装っているが、背後に映りこむ姿は、汗まみれの必死な雄獣の眼であった。
 ふいにディオは、ジョナサンを抱きしめたい衝動に駆られた。胸にこみあげるものがある。衝動の意味は、まだディオには分からない。ただ、ジョナサンをもっと感じたいという欲望が身を占めていた。それをただの肉欲としてディオは認めるだけだった。

「はや、く……ぃ、……せろ……ッ」
 枯れた声を絞り出し、ジョナサンの握られた手に手を重ねた。一時も緩められないディオ自身は、血管を浮き立たせて張り詰めている。ぬるぬるとした淫水は石床に糸を垂らしていた。
「だめだよ……それじゃあいつもしてることと同じじゃあないか。ぼくの好きなようにやらせてもらうから」
 ジョナサンは言うと、ディオの背から離れた。背中の体温がなくなると、ディオは不安になってしまった。些細なディオの感情の機微をジョナサンは読み取って、笑う。繋がりがぎりぎりまで抜かれ、ディオは思わず秘部に力がこもった。
「ん……ッ、ふ……くう」
 じゅるる、と粘膜の擦れあう音がしている。先端だけが埋められた状態で、ディオは腹を持たれて起き上がらされた。
 ジョナサンの膝の上に抱かれて、両足を全開に開かれる。ジョナサンの片手は相変わらずディオの起ちっぱなしの欲をきつく掴んでいて、まだ許されそうにもない。
「あっ!」
 柔らかく拡がっていた秘孔から、つるりとした先端部分が抜けていった。突如、ディオの半身に喪失感が吹き抜けた。まだ、終わらせたくない。離したくない。ディオは荒く呼吸を繰り返した。
 あやすようにジョナサンはディオの頬や首筋にキスをする。そして優しく追い詰める。
「ここ、見てご覧。すっかり変わってしまったね。こんなになって……、こんなに大きく口を開けてる」
「う、んんッ!」
 熱い肉に満たされていた孔が、空気に晒されると温度差に媚肉はひくりとして縮こまる。無理やりにジョナサンは指で尻肉を拡げて、ディオの中を鏡に映しこむ。
「ディオ? ほら、ちゃんと見ないと、最後まで出来ないよ」
 ディオ自身を支えている手が再び握り込まれ、ディオは眼を開けて鏡の中の自分の醜態を捉える。
 小さかった胸の突起は、散々に弄られてふっくらと育っている。今日の交わりではまだ一度も触れられていないのに、体は勝手に反応してジョナサンの愛撫を待っている。
 割れた腹には、ふたりの汗と濁った汁が流れている。汗水は臍から翳りまで濡れていた。
 起ちあがった男の猛りは、赤く痛々しく腫れている。さめざめと泣くように淫汁は穴から生まれてはジョナサンの指に絡んでいく。
 そして、その下にあるぽっかりとあいた秘所は、物欲しげに蠢いている。内部は赤く淫らに男を待っている。
 孔の前にはそそり立った逞しい雄の存在がある。ディオは自分の肉体よりも、ジョナサンのものばかりを見て喉を鳴らした。
「ジョジョ……ジョジョ……ジョジョォ……!」
 身がくねり、ディオは我慢が出来なくなった。早くひとつになりたい。欲しい、と身も心も訴えてくる。
 始めからひとつであったかのように、ディオにとってジョナサンの体は全てが心地いい。無くしてしまえば、生きていけなくなるような恐れすらある。
 だからこそ、ジョナサンを殺してしまいたい。この世から失くしてしまいたい。ジョナサンそのものが、ディオにとって、恐怖であったからだ。でも今はそんなこともどうでもいい。この熱を、果たしたい。欲を、解き放ちたい。
「さあ、もう一度、よく見るんだ……。君がぼくの一部になるところを」
 囁かれ、ディオは自分の秘所とジョナサンの欲棒に触れた。入り口にぴたりと合わさり、ディオは大きく息を吐いた。


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