月海夜 3

 右手は鎖を巻いた腕を床に押し付け、ジョナサンは左の手をディオの秘所に持っていく。
 五本の指の中で二番目に細い、――と言っても常人と比べればとても細いとは言い難い薬指を秘穴に埋める。
「ふ、く……ッ、指なぞ、……いらんッ!」
 ぬめる穴の中の媚肉は、もぞもぞとジョナサンの指を喰んだ。ディオは内腿をすり合わせて指を拒もうと試みる。
「うぐ、くそッ、抜け! ……こんなもの!」
 起き上がろうとしたディオの体をジョナサンは腕の力を込めて押し返した。指は深くまでは行かずに、入口の付近でゆるゆると抜き差しを繰り返している。多すぎる愛液のおかげで引っ掛かりはしない。
「ン、ふっ、……く、……ぅ、」
 だが肝心の良い場所には指では到底届かず、ディオにとってもどかしい思いが募る一方であった。背中や頭皮から汗が吹き出し、ディオは唇を噛む。
 両腕をディオの体を押さえるために使っているので、あと動かせるのは頭だけだ。ジョナサンは体を横に向けながら移動させ、ディオの胸元に潜り込ませた。
 破けている衣服は淫らに見える様に、わざとディオは素肌の上に散らばせていた。張り付いた布は、びりびりに裂かれ隙間からは白い肌を覗かせている。
 ジョナサンは器用に口で布を剥ぎ取っていく。細かくなった切れをひとつひとつ、唇で挟み、捲り、床に投げ捨てる。
 隠されていた裸体が少しずつ解放されていく。整い鍛えられた腹筋や胸筋。艶のある滑らかな肌は透き通っていて、静脈が薄らと浮かぶ。陽の下に居た時と比べ、青白く光る肌は人では持ち得ない美しさがあったが、それを美だとジョナサンは認めたくなかった。
「ちく、しょう……いい、そんな、ことは……、もう、いい!」
 首元に絡み付いている最早服とは呼べない布切れを噛んで引っ張ると、ディオの上半身は腕に袖を残しただけの裸体となった。その胸や腹には金色の産毛が生えており、脇にはそれらより少し濃い黄金色の茂みがある。
 純粋なブロンドの持ち主である証拠に、体に生えている毛はどれも金色に輝き、短い毛は汗をかいて湿っていた。
「まだだ、君が泣いて、……泣いて、泣き喚いてくれるまでは、ね」
 ジョナサンはディオの脇に舌を這わせた。ざらりとして毛が絡まる舌触りがある。香ばしい汗のにおいと味がする。ディオは背を反らして肌を波打たせた。瞬間にディオの肌は粟立ち、痙攣させる。
「ア、う……」 
 伸ばした舌をそのまま首に運び、ジョナサンは軽くキスを落としながら、鎖骨をなぞっていく。小さくリップ音がする度にディオは、鼻から息を漏らしていた。そして、秘所にある指は変わらずに入口のあたりをまさぐり続けている。
 ちゅっと肌に吸い付くと、体はぴくりと動き、秘穴にも力が入る。体だけは愛撫を受けた反応を純粋に示してくれている。ジョナサンのゆったりとした責め苦に焦らされつつも、わずかな動きも逃さずに、肌や肉体は敏感に感じ取っている。
「はぁ……、う、ンッ」
 腫れたふたつの膨らみにも舌を出そうとした時、ジョナサンはあることに気がつき、顔を上げた。
「へぇ、珍しい」
 ごく小さなディオの乳首は、輪周りは白肌に映える薄桃色をしていて、真ん中はそれよりもちょっぴりだけ色濃い淡紅色をしていた。
 体に似つかわしくない、ささやかな形にジョナサンは少しだけ笑った。
 そして突起である筈のそれは肌にめり込み、埋まっている。稀のこのように変形した人も居るのだと何処かで聞いたことはあったが、男でもそうなるものであったか、とジョナサンはしばらくディオの奇妙な形を見ていた。
「吸えば出てくるのかな?」
「そんな、トコ……さわる、なッ!」
 まず周辺を舐め、舌先でへこんだ所を湿らせた。ディオは声も上げない。自分はそんな所で感じるものかと決め込んでいる。男ならそう思うのが普通かもしれない。
「……ン、……気持ち、わるい……だけだと……ッ、言っ……!!」
 小さな乳首はジョナサンの口の中に簡単に収まった。歯を立てないよう唇をすぼめて、きつく吸い上げる。
「いっ……ッ!」
 ――ちゅッ、じゅう
 口内で突起は頭を出し、硬く尖って見せた。唇を離し、膨らんだそこを確かめるように舌全体で転がしてやる。
「あ、……ッ?」
 丸く勃起した乳頭を唇で挟んで、舌先でつつくと、更にそこはコリコリと硬くなって充血していく。ジョナサンは目で見なくとも、舌の感触で変化を感じ取れた。
「出てきたね。」
 左胸のぷっくりと勃った乳首は、赤く染まっている。反対側のまだ何も触られていない右胸の方は、埋まったままの状態でジョナサンを待ち構えている。
「でも、」
「んん!?」
 勃った膨らみを舌先で押し潰すと、ディオは目に涙をためてジョナサンを睨んだ。ジョナサンは顔を胸に埋めているので視線は合わない。それでもディオはジョナサンの頭頂部を恨みがましく睨んだ。
「ちゃんと治すには時間がかかるみたいだね、すぐ元に戻っちゃうんだ。」
 丸く尖った先が舌で押されると、へこんで埋まった。口に含み、ジョナサンは先ほどと同じように吸い出すと、ささやかな突起は再び顔を出した。
「……そんな、ところ……ッ、」
「こっちも出してあげなきゃね」
 同様に、右胸の乳首にジョナサンは吸い付き、唾液をたっぷり含ませた口内で包み、思い切り吸い上げ、突起を出してやる。左胸と比べ少々感度が鈍く、強めに吸い出してやらないといけなかった。
「アッ、う……ぐッ!」
 無理に出された乳頭を介抱してやるように、舌で優しく舐める。舌先で形をなぞり、舌全体で感触を楽しむ。その姿は傷を癒してやるようでもあり、獣の食事のようでもあった。
 男の乳首は何の機能も持っていない。無意味で無価値な飾りだ。
ディオは人間よりも優れた存在になったのだ、こんなものは要らないものである筈だ。進化を遂げればいずれは無くなりゆくものに、どうして体を支配されなければならない?
 声を上げたくなくて、ディオは更に下唇を強く噛み締めた。
「ン、ふ、……ッう」
 意地でも感じるものか、とディオは歯を食いしばっている。ジョナサンは、口の中で突起を弄びながら様子を窺った。覗き見たディオの顔は汗をかいて、眉を寄せており、苦悶の表情を浮かべている。だが、快感に堪える色艶のある顔つきだ。そんなのを見たいんじゃあない、とジョナサンはやれやれと言わんばかりにため息をついた。
 前歯で軽く突起をいじり、舌先で先端をつつきながら、口の中に乳首全体を包み入れ、強めに噛んでやる。
「うっ、……ッ!」
 噛んだまま引き上げると、張りのある肌は伸びていく。
「いッ! ……うぐッ!」
 引き千切れんばかりに引っ張り上げ、そして離す。噛まれたあとは充血し、肌は熱っぽく染め上がる。桃色の小さな突起であったそこは、真っ赤に膨らんで形も色もいじられる前とは別人に変わっていた。
 鎖に縛られた腕の抵抗がなくなり、ジョナサンは押さえつけていた手を離した。人差し指と親指で過敏な方の乳首を摘まみ上げると、舌や唇とは違った感覚にディオははっと目を開けた。
 何かを言おうとディオが口を開ける前に、ジョナサンはぎゅっと、摘んだ指の力を込める。
「ンウ゛……ッ!」
 親指と中指でつまみ、人差し指で硬く玉になった乳頭を押し潰し、カリカリと爪を立てる。やがてディオの下半身は震え始めた。
 唇はもう片方の胸に寄せ、ジョナサンはヨダレを多く垂らして舐めしゃぶった。
「んン、……、うう、うぐ……ッ!」
 唇から与えられるぬるついた舌の柔らかさと、ごつごつとした指先から与えられる力強さ。異なる感触の快感がディオの意識を奪っていく。
誰が胸で感じるものか、と決め込んでも、引っ切りなしにやってくる未知の愛撫の連続に、肉体は抗えなくなっている。
 必死に閉じていた口もそろそろ限界が近づいていた。ディオは息を止める。
「〜〜〜〜ッ!!」
「泣くまでやめない」
 ジョナサンは自分にも言い聞かせるように呟くと、親指の腹で乳首をぐりぐりと押し潰した。
「ウウゥゥッッ!」
 締め付けたままであった秘穴から指を抜き、愛液ですっかり濡れそぼった手指を、口を離した方の乳首に擦りつけた。
 ぬっとりと絡みつく液は、半透明で白っぽかった。不死身となったディオの体は、想像を絶する仕組みで働いている。小さな傷であればすぐに修復し、傷口は簡単に再生する。鋭い爪や牙は人の肉体を容易く切り裂き、指先からですら血や体液を吸収出来、そして体内でエネルギーに変換する。
 泉の如くあふれる愛液もまた吸血鬼の持つ特徴のひとつだろうか。だとしても何の利がディオにあるのかは分からない。
「君の出したものだ、こんなに沢山……感じてるんだ?」
 半透明の愛液を胸に塗り広げ、ジョナサンは両指を使ってディオのつんと主張する乳首を抓った。
「ヒッ!」
 一際高く鳴いたのを聞き、ジョナサンはもっと強く乳首をねじる。乳首の根元の部分は柔らかい皮膚で、先端にいくほど硬くなり尖っている。違う触感を指の腹で楽しみ、硬くなっている所を陰茎にしてやるのと同じく、細かく扱いてみる。
 愛液のぬめりは指の動きを助けてくれる、縦に擦り上げぴんと尖らせれば、今度は横に回すように擦る。
「……アウッ、ぐっ、アアッ!」
 牙で傷つけてしまった唇の際から血を流して、ディオは口を大きくあけて鳴いた。
 色めいた声に、ジョナサンはディオの顔を見下ろす。
 幾重にも目尻に涙のあとを作り、瞬きをすればまた同じ道にひとすじ流れ落ちていく。
 ディオはジョナサンを見上げて、はぁはぁと荒く呼吸をしている。
「もう……いいっ、だろ、……いい加減……っ、入れろ……っ」
「強請り方が下手だね、……まだだよ、ディオ」
 伏せた瞼に唇がふれるだけのキスをして、ジョナサンは涙の味を確かめた。汗も、体液も、同じ塩味がある。まだわずかに残っているディオの人間の体の味だ。


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