月海夜　３０

　辛うじて身を立たせているというのに、ジョナサンの胸の上に落ちようとすれば、ディオは無理やり起こされてしまう。ジョナサンは優しいけれど、決してディオの思い通りにはしてくれないのだった。
「ディオはぼくに乗るのが好きだったろう」
　下唇を噛み締め、ディオはジョナサンに目で訴える。
「そんな顔したって、だめ」
　口を開くのも腹立たしかったので、ディオは首を振った。
「なら、ずっとこのままだ」
　跨る腿をジョナサンは掌でぴしゃりと打った。水分量が多い肌は、はじけて揺れた。
　腹と尻は耐え難い疼きをディオに伝え、痛みは足先にまで広がろうとする。緩んだ孔の入り口は、濡れ汁を洩らして今か今かと媚肉をむずむずさせている。湿り気を帯びた浅い呼吸をディオは繰り返した。
「足を、開いて……」
　微塵も動こうとしないディオにジョナサンは落ち着いた口調で命じた。
　すると閉じていた足をそろそろと拡げ、ジョナサンの前に晒す。二本の指で窄まりを隠す尻肉を分けると、花開くように蕾は咲いていく。
「持ち上げて。うん……ゆっくりでいいから」
　膝は小刻みに震えていた。言われた通りにディオは腰を上げる。ジョナサンは自分の手で、硬くなり過ぎている雄棒を上向かせた。先端はディオの豊臀を掠める。
「う……ッ」
　熱の根源が触れる。いくら汗をかいて熱を高めても、ディオにはジョナサンの持つ熱さには敵わない。この男は炎そのものだった。
「ん……ッ！」
　まだ一ミリも侵入されていない。ディオは額の汗をジョナサンの胸の上に垂らした。そしてジョナサンの腹に両手をつき、前かがみになり崩れた。
　眉を寄せて牙を唇に食い込ませる苦痛にも喜悦にも取れるディオの表情を、ジョナサン特等席で観賞する。この時の必死な形相は、殊更ジョナサンの男を昂ぶらせてくれるのだった。自分が、自分の肉体が、そうさせているのだという優越感だ。
　ますます天を向く雄形に、ディオの敏感部がじんじんとして変わりようを感じ取る。
　意を固めたディオは、目を開いて息を全て吐き出した。
「く、あ、うぐッ！」
「……ッ、ディオッ！？」
　みちみちみち、と肉孔が卑猥音をたてつつ、雄幹を吸い込んでいく。
「あっ、んん！　くああぁぁぁああぁあぁああッ！！！！」
「そんなっ、一気に……、ううっ」
　尻の肉がジョナサンの足の付け根につく。開かれた足間に在ったそそり立つものは全て消えてしまった。
「はあ……っ、ああ……もう無茶するなぁ……」
「フン、誰がきさまの……言いなりになど……あっ、く……なるものか……」
　それでこそディオだと、ジョナサンは笑った。艶美に舌なめずりし、ディオはいきり立つ雄棒を腹中（なか）に馴染ませる。
　内部でジョナサンが脈打つと、ディオの腰がびくりとして肉を引き締める。いくら口先で余裕ぶろうとも、充血した涙目だけは誤魔化せない。ジョナサンは手を伸ばして、ディオの頬を包んだ。
　温かで大きな手に、ディオは頬擦りした。精悍な体つきに相応しいジョナサンの手は肉厚で、指の一本一本も太く骨太だ。以前はこんな手ではなかった。
　手にはその人の人生が表れるというが、ジョナサンの手には苦労と努力が刻まれ、それらが彼の手の皮を厚くしている。
　ジョナサンの体であればどこもがディオにとっては好ましいが、中でもこの手が特に気に入っている。指で、掌で、手背で、そっと身体に触れられる瞬間。ディオに対して硝子細工を扱うような仕草をする手。この男に一番の愛を受けているのは、自分なのだと実感できるからなのだった。
　手の平にディオは口付けをした。ちゅっ、と軽く唇と肌の密着した音がする。
「ん、んっ、ん……」
　首を傾けて、ディオは誘われるままにジョナサンの手と指先に唇を落とす。そうしている内に腰が自然と前後に動き始めていた。
　親指の爪を甘噛みしていると、ジョナサンはディオが夢中になっている手を外してしまった。
「あ……」
「もう、おしまい」
　未練がましく舌は手を追いかけたが、無視してジョナサンは手をディオの肩にもっていく。そして少々強引にジョナサンは自らへとディオを引き寄せる。ディオはジョナサンの腹の上に覆いかぶさる形になり、二人の鼻先がまた近づいた。
「ちっともぼくに構ってくれないんだから……、自分の手に焼いてしまいそうだよ」
「……阿呆ゥ」
　程なくして、唇は互いを求めて吸い付いた。

「ん……ッ！」
「……はあ、あ……、ディ……んん」
　一度キスをしてしまうと、なかなか終わらせられない。戯れが長く長く続けばこのまま唇の粘膜から溶け合って一体化してしまうのではないかと錯覚するくらいに、麻痺してくる。舌の上を這う舌の、どこからどこまでが自分で、どこからが相手なのか分からなくなってくる。体温を共有し、だんだんと相手を丸ごと自分の中に入り込ませていくような……、または自分が相手の中に入っていくような感覚がしてくるのだ。
　呼吸音の僅かな違いで、ジョナサンもディオもその錯覚から抜け出せる。それを、惜しいとディオは感じ、ジョナサンは安堵する。
　まだこの身は、独りのまま。魂は未完成だ。
「ディオ……ディオ……、ぼくは……もう、」
「辛いか？　なあ……ジョジョ」
　キスの合間に言葉を途切れさせながら二人は会話する。ディオは下半身をぎゅっと締めて、更にジョナサンの欲望を戒める。
「ああ、きつい……、ディオ……もっと、してくれ……動いて、中で、君の中に、全部ぶちまけたい」
　いつもより一段と低く囁かれた雄雄しいジョナサンの本音に、ディオは背筋を粟立たせた。
　これだ。この内なる暴君こそ、ディオの前にしか姿を見せないジョナサンのもうひとつの真実だ。それがいい。それこそが好ましい。ディオは愛の台詞を吐く代わりに、両腕でジョナサンの身を抱きしめる。
「手を、ディオ……握って」
　向けられた両手をディオは指を交互に絡ませて握ってやった。祈りの形になる。
　入り込んだ雄身は、ぴったりと隙間もなくディオの秘器官に埋まっている。
　胸を起こし、ディオは足裏に力を込める。重くなった腰を上げるのに、時間を要した。
「はあぅ……んんう！」
　ずるずる、ぬりゅりゅ、と内臓を掻き回されるような音と触感がディオを襲う。
　硬く育った幹胴が、濡れて光りながらその身を現していく。腹奥に居ついた違和の存在は、抜けると無性に寂しく、切なくなる。
　いくら腰を引いても、先端は見えてこず、堪えきれなくなった膝がぺたりと敷布の上につき次に尻が落ちた。
「んん！　あう！」
「くっ」
　肉棒は恐ろしい程身体の奥にまで突き刺さり、ディオは腹内の肉が破かれる気がした。
「はうう、ん！」
　ストロークは焦れるくらいに長く、ディオはのろのろと腰を持ち上げては一気に落とす。
　秘部の肉襞は、ぴっとりとジョナサンの粘膜にまとわりつき、剥がされるように引き抜かれ、入り込めば媚肉は我先にと喰らい付く。
「んん〜〜ッ！　ぐぅ、う」
　握る手に力がこもり、身を支える腕は細かく震えている。ディオは首筋を赤くして玉雫の汗を噴き出させていた。
「ディオ」
　呼びかけに応答はない。一抹の余裕もないといった限界のディオの顔色に、ジョナサンは喉を鳴らして唾を飲み込む。可愛いと言いたくなる。
「ふあっ！　あ、……くっ！」
　繋いでいた手を引き、ジョナサンはディオの身体を自らの方へ寄せた。交わりは一層深まり、ディオはジョナサンの胸にしがみつくしかなかった。
「ぼくを……困らせようとして、わざとしてるの？」
「ち、が……あっ、あっ！」
　耳を舐りながら、ジョナサンは膝を立てて腰を打ちつけた。尻の肉に嚢袋がビタリとぶつかる。音の大きさだけで、その強さが分かった。
「ディオは……本当、ぼくにだけイジワルなんだから」
「お……っ、まえ……こそ……ッ、あ、うっ、ん、ンッンウ！」
　反論しようとすれば、口は塞がれた。唇の触れ合いをディオは受けるばかりだった。
　一切の抵抗も許されず、ディオはジョナサンの成すままになり、身を揺さぶられる。
　深い部分で、ひたすらに奥を狙い撃ちにされ、ディオは腰が砕け散りそうになる。限界はもう随分前に達してしまっているからか、全身が性器になったかのようにどこを触れられても喘ぎ声が洩れる。
「んっ、あ、はあ……ッ！」
「してって、お願いしたのに、これじゃあ全然だめじゃあないか……」
　ディオのウエストの細い所をジョナサンは両手で持って起き上がらせると、自分の体も起こした。寝台に腰をおろし、ディオを乗せて向き直った。
「やっぱり、どちらかが一方的にするんじゃあなくて、二人で一緒にする方がいいかな」
「んっ、……く」
「ねぇ？」
　乱髪を手櫛で整えてやり、ジョナサンはディオの目を見て問う。赤くしたディオの瞳には、涙雫を湛えている。
「うぐ……ッ、くう、くそぉ……、知るか……も、う……ッ、あ」
　悔しさからジョナサンの首と肩に爪を立てて引っ掻くように掴んだ。それを物ともせずジョナサンはディオの耳に唇を近づける。
「好きだよ……」
「ん……ッ、んッう……！」
　あまりにも唐突な恋詞に、ディオの背筋は伸びる。
「好き、ディオ」
「ひゃ、め、ろぉッ！　……あう！」
　脳内に直接送り込まれる媚薬めいた声色の言葉に、肉体、肌は蕩ける。足の爪先が張り、骨の芯は痺れた。
「君は……？」
「ん……ッ、」
　言わせようとしているのだ。ディオはすぐに分かった。
　夢の中にいるジョナサンに対しては、いくらでも『好き』と言えたのに、本物を相手にすると口を噤んでしまう。嘘ならすらすらと簡単に放たれる短い単語が、本心であればあるほど喉から先へ出ていこうとしない。体でなら本人が嫌というほど好きだと、愛していると伝えられるのに。
　代わりにディオは真っ直ぐにジョナサンの目を見つめた。唇はその言葉の形を紡いでいる。一度も瞬きもせず、ジョナサンは見守った。
　膝がジョナサンの胴体を挟んで、ディオは益々ジョナサンに抱きついた。誰がどう見ても恥ずかしがっていた。顔をジョナサンの首元に埋めて、両腕はむずがゆい思いを発散すべく背を引っ掻く。
　愛おしさが溢れてしまいそうだった。ジョナサンは、腕の中にいる相手がどれくらい自分を好いて、大切にして、想ってくれているかを確かめて、その気持ちに溺れた。
　――今自分はどんな顔をしているだろう。きっと、ディオが言うにだらしのない間抜けな顔つきになってしまっている。
　緩んだ口や頬は、二人にある穏やかさのあかしだった。

「はあー……ッ、あ、あ、あ」
　ディオの腰元を持ち、尻を少しだけ浮かせてやり浅く出し入れする。突かれる度に、ディオは開きっ放しの口から吐息混じりの甘喘ぎを零した。
　雁首の張り出た部分が内奥の一点を抉れば、ディオは食んでいる秘口を強く締める。
「……ッ！　はっ」
　締め付けられると、ジョナサンは動きを止めて射精感を耐えた。両手に包んだ尻肉に指を食い込ませて、奥止まりで肉棒を静める。
　肌が合わさるように抱き合っていると、擦れたディオの胸のしこりから乳汁が一滴垂れる。きつく糸で痛ましく縛られた乳首は、赤黒く鬱血していた。
　乳首を繋ぐ糸の真ん中を取り、ジョナサンはディオの口に運んだ。
「噛んで」
　大人しく糸を噛んだディオは、胸の膨らみが引っ張られて眉根を寄せる。
「んんッ、ううっ〜〜」
　口から外そうとすると、ジョナサンはまた糸を戻し入れた。嫌だとディオが首を振ると、糸を千切れんばかりに繰り寄せる。
「うっ、くっ……ッ！」
「痛いほうがいい？」
　胸板の肌が不自然に盛り上がり、乳頭も細長くなる。構わずジョナサンは自分の方へと糸を引いている。
「んぐっ……！」
「自分でするより、ぼくにこうされるほうが……いい？」
　左右に首を振り否定しても、肉体の変化を認められジョナサンの笑みを消せはしなかった。総身に痛みが与えられると、男の快感が素直に起ち示す。
「ち×ぽ入れられるのが好きなら、自分のはいらないよね」
　指先で頭を擡げる牡棒が弾かれれば、腰が跳ねてディオの至る所から汁が洩れた。
「ひっ、イッ！　……いッ、」
　腹に手で欲自身を押し込まれ、ぐりぐりと手の平で磨り潰される。その間も絶え間なく牡汁がジョナサンの指をぬるつかせていた。
「おち×ちんもお尻も……おっぱいでも気持ちよくなりたいなんて、ディオはすっごくワガママだ」
　糸を噛み、ジョナサンはあいた手でディオの尻を持ち上げる。破裂しそうな性器を無遠慮に握られ、その間も更に身は大きく振るわれる。下から突き上げられ、上で弄り回され、ディオの体はばらばらになってしまいそうだ。
「あっ、あぅ、ああっんっ、んっ、んん！　や、やっ、ふあ」
　一体どこで感じて、何で一番悲鳴を上げさせられているのか。訳もわからず、ディオはかぶりを振る。
「はあ……あ……っ、もう……出すよ……ッ、君の、おなかの中……ッ、出してあげるよ……ッ」
　口移しでジョナサンは銜えていた糸をディオに噛ませた。無言で糸を噛み、ディオは鼻息を荒げていた。
「ん、ふ……ッ！　うう！！　うぐっ！」
　下から突き上げられると尻肉が弾音を立てる。腕を掴んでいた手が、またジョナサンの首に絡み、無力な赤子のように抱きつく。足の爪先を敷布に立てて、ジョナサンの調子に合わせてディオは一層激しく上下に跳ね回った。ぬぽっ、にゅぽっと一層水音が激しく鳴る。
　揺さぶりと共に、男の硬い腹でディオの牡棒が擦られた。自分と男の腹筋に挟まれた牡茎は、筋肉の溝によって皮がずり下げられ露呈した秘頭部は痛むほど擦れた。
「んんんんんッ！　んんんぅううぅううッッ！！」
　何度目かの噴出では、薄くなった青白い液が水っぽく腹回りに飛び散っていく。ほぼ同時に胸からも白い汁が出てジョナサンの胸部を濡らす。
「はあ、く……ッ、ディオ……ッ！！」
　急に頭が掴まれたかと思うと、深い口付けをされていた。驚きで目を丸くしているディオは、自分の身の状況が飲み込めなくなった。いつの間にか視界に天井が映り込み、ジョナサンの体躯が圧し掛かっている。
「う……ッ、くう…………ッ、はっ……あ」
　開いた両脚が抱え込まれ、腕は両手で押さえつけられていた。腰にはずっしりとした重量感があった。
「んっ、んっ！　んうううっ！　ううう〜〜〜〜〜ッッ！！」
　押し倒され、身動きのとれない体勢になっていることにディオはやっと気づいた。口を塞がれているので、訴えはジョナサンの唇の中に飲み込まれてしまう。
　最奥に入りきっているのに、ジョナサンはまだ中へ進もうとしてずん、ずんと、腰を当ててくる。
「はあ……はあ、んっ、ディオ、ディオ……ね、分かる……？」
　ようやく口を離したジョナサンが、愛しげに腹を一撫でしてディオに微笑みかける。
「あ……っう……はああ。ああっ……あ、あ、う」
　溜めに溜め込んでいた所為で、吐精はやけに長く続く。中で出されていく度に、ディオは内部に力が入った。
　精液を一滴も洩らさず腹の中に収めても、尚も硬く存在を主張して雄棒は中でビクついている。
　肉襞は収縮して、もっと奥へと誘い込むようにジョナサンの雄幹を抱いた。
　拡げられていた足をジョナサンの腰に絡めて、ディオは自らの唇を微笑む男の柔らかな唇に押し当てた。

　体重の殆どをディオに乗せてしまっていたので、ジョナサンは起き上がろうとした。自然と、交わり部分も離れていく。形状を整えたままの肉棒がつるりと抜け取れた。
「は……ぁッ」
　胸を圧迫されていたからか、ディオは詰めていた息を吐き出す。だらしなく開いた足は、膝を立てたまま動かない。
　尻も、下腹部も、胸も、顔も、何かしらの淫らな汁に濡らされている。
　くったりと横たわるディオを見ていると、また催しそうになるのでジョナサンは成る可く冷静になろうとした。
　すると白い手が、暗闇の中で動いているのが視界の端に映り込む。
　手は悪戯に、自慰の動きをしてみせた。見せ付けているかのように、息をするようにごく自然に動く。
　胸から腹へ、指が濡れている箇所を触っていく。金色の翳りを通り、性器を通り、肉に阻まれる窄まりに着く。
「ディ……ディオ……？」
　思わずジョナサンは声をかけてしまった。けれど、ぼんやりとしているディオの目には光はなく、意識は浮遊している。
　中指が割れ目に沿う。既に縮こまった秘部に指が埋まっていく。
　横目で見ていたジョナサンは、あまりに指の動きに集中してしまった自分に気づき、首を背けた。
　だが、どうしても瞳の中に映してしまう。結局欲望に負けてしまい、正面に向き直った。
「ア……く」
　折り曲げた指で内部を引っ掻くようにして、混ぜている。にち、にち、という粘る音がして、白いとろみが孔の奥から掻き出されてきた。
「あ」
　ジョナサンは気の抜けた声が出てしまっていた。
　ディオはその指を口に持っていき、出されたばかりの新鮮な精子を舐めとったのだ。
　何故か見ている側のジョナサンが赤面してしまった。
「ん、む……ジョジョォ……」
「あっ、ああ、何だい……？」
　名を呼ばれて、ジョナサンは姿勢を正した。頬が変に熱くなる。
「一度くらいで……このディオが満足すると思うか？」
　左右の手でディオは自らの媚肉をかき分け、汁だくになっている秘口を拡げて見せた。
「なあ、それとも、もう降参かァ？」
　血流は爆走して、射精後の倦怠感など吹き飛ばしてくれた。すぐに雄身に気合いが入り、ジョナサンはがっついてディオに覆いかぶさった。

「んっ、ふッ、んっ、んっ」
　一度目より、抽送は急かされる。
　もっと素肌を感じたくなったジョナサンは、ディオが唯一纏っていた薄い布地の服を引き裂いてしまった。脱がす時間すらも惜しかった。裸になったディオの肌を隅々まで口付けし、一時も離れまいと深く体を繋げた。
　奇妙に身をくねらせて、二人は互いの肌を舐め、撫でて、知っていく。
「ああ、ああ、ジョジョッ……ジョジョッ」
　うわ言のようにディオは名を呼び続けた。これまでより息は荒く、悶える姿は熱病におかされた人そのものだった。
　敷布とディオの背の間に腕を入れて、しっかと抱きしめる。暴れまわる肉体が動きを止め、迷いなくディオの腕はジョナサンを目指す。
「ディオ、ディオ……ッ！」
　互いの名以外を忘れ去り、ただひたすらに繰り返し呼び合うだけだった。名の中に様々な感情が入れられる。それらは言わなくても不思議と分かる。求め合う生命の叫びだった。
「ひっ、くっぅ……ッンン！」
　腹中（なか）で大きく回されて、射精を伴わない幾度目かの絶頂にディオは顎を反らした。
　搾り取る勢いで内奥の肉は、咥え込んだ猛りを締め上げる。
「はあ……っ」
　ジョナサンはディオの頭皮に鼻をつけて髪の匂いを吸い込んだ。最後が近い印だった。
「うあ、あっ、ジョジョ、ジョジョぉ、うっ、く……っ、なかに、全部っしろ、して……ェ」
　腰に巻きついたディオの足がじたばたと喚く。踵でジョナサンの腰を叩いて責付いた。
　欲しがった淫孔は、洩らさぬよう一層口を結んで、ぎりぎりとジョナサンを噛み食う。
「うう〜〜っ、ううっ、んんっ、は、んっ！」
　腹奥に、どんと突き上げられる衝撃が通った。薄目を開いたディオが見たものは、男の極みの瞬間の安らいだ表情だった。
「あ、あ、あっ」
　剛直が奥を優しく突いて、体内に生命力が満ちていくのがディオには感じられた。熱いエネルギーが腹奥からじわりと広がり、ジョナサンの炎が灯される。
「ジョ……」
　顔を上げて名を呼ぼうとした唇は、名の持ち主によって閉じられてしまった。
「ん……、ん」
　滑らかな唇で唇を挟んで塞がれ、ディオは目を閉じ、やがて体の芯から力を無くしていった。


　次にディオが浅い眠りから目覚めると、未だ夜明けは訪れていなかった。
「う……ん？」
　胸のあたりを触るむず痒さに目を凝らしてみると、見知った蒼髪が埋もれている。
「んっ、くう」
「あ、ごめん……痛かった？」
　糸が、ぷつりと食い切られる音がした。乳首に括り付けられていた糸をジョナサンは歯で器用に切り外していた。柔らかくなっていた乳頭が、その刺激によってむくむくと形を変えて硬く尖ってしまう。
「ん……んム」
　癒そうとしてジョナサンは乳首を口に含むと、優しく舌で丸い乳首を包み込んだ。
「はあ、うっ」
　糸で縛っていた根元の部分はくっきりと溝になって赤くなっていた。その線を滑らかになるまでジョナサンは舌で往復する。
「はあ……あっ、あ！　いい、そんな……っ」
　くりゅくりゅと舌が乳首を転がすので、ディオは背を浮かせてシーツを掴んだ。
「痕になるから、治しておかないと」
「ほ、放っておけば……治る……ッ！」
「……知らないの？　こうして舐めると、ディオの傷って治りが早いんだよ」
「はっ、ア……ッ」
　先ほどまでの愛撫とは違って、ジョナサンは決して痛めつけないように優しく、静かに、本当にただ手当てをしてくれているよう舐めているだけだった。だが、却ってそれがもどかしさをディオに与えている。
「こっちもね」
　舐めていた乳首から口を離し、反対側に移る。膨らんだ乳首を口内に入れ、やはり同じように縛られていた所を舐め癒してくれる。
「はあっ、ああぁ」
　あえてディオの姿態を無視して、ジョナサンは傷が残らないよう脆い器官を慰めていた。しかし、ディオは動物的な挙動で股にジョナサンを挟み込み、いやらしくくねっていた。
「んっ」
　入念に施した乳首への治療が終わり、ジョナサンは口元を拭った。眠りかけていた肉体や欲望を強制的に起こされたディオは、自分の手で下腹部をまさぐっていた。
「い、いい加減に、しろ……ッ」
「ぼくは何もしてないよ」
　悪びれもせず、ジョナサンはディオの額に幼いキスを落としてやった。
「……ッ、しろよ……」
「何を？」
「足りない……、いくらしても、足りん……ッ！　おまえはずっと、ずっとおれの中にいろっ！」
「うん……、ずっと、ずっと一緒にいようね」
　言ってジョナサンは、硬さを保ったままにあった強張りをまるで元の位置に戻すかのように、肉体をひとつにしていった。
　夜は恋人達に永久を授けてくれるのだった。