月海夜 9

「君がそのままじっとしていたいなら、ぼくは構いはしないよ。」
 自然と閉じようと動く足を大きく開かせ、ジョナサンはディオの身を担ぎなおす。
「これが気に入ったなら、ずっと入れていてもいい」
 ディオは声なく、首を弱々しく振った。
「嫌なら、……出すんだ」
 先ほどより、ディオは意志強く首を横に振る。
 このままで居たくない、こんなもの抜いてほしい。無機質な剣柄は、熱を持たず、埋められても不快なだけだった。ただ太ければいい、硬ければいいなんて、ペニスを知らない男の言い訳でしかない。あの熱や形や、角度や、……何より思う相手の体の一部が入る、という感動が無いのだ。他のものなんて、要らない、他の人間もいらない。
 ジョナサンだけでいい。ジョナサンがいい、のだ。
 ディオはずっとそう訴え続けて、言葉にして、欲しがっているのに、思いは届かない。
 何が、間違っているのか。ディオには分からなかった。
「ンッ……」
 愛液のすべりで、剣の柄が少しだけ重力に負けて抜けてくる。
 ジョナサンはそれを見逃さずに、鞘を持って押し込んだ。
「くうっ」
「このままだと、濡れているから抜けてきちゃうね……」
 膕に腕を入れ、ディオの体を倒してベッドに寝かせた。膝は折り曲げて胸につかせ、赤ん坊がおしめを変える時の形になった。
「はぁッ、う……ッ!」
 腕を背の後ろに括られているので、自然と胸を張り、尻は上がった。
 秘部を見られるのはまだいい。ただ、ジョナサン以外を銜えてしまっている状態を見られているのが嫌でたまらない。それを自力で排出するだなんて、ディオには耐え難い辛さであった。
 甘えても願っても、ジョナサンは許してくれない。何に怒り、何をディオに求めているのか、ジョナサンの考えはディオの思考とは遠くにあった。
「ディオ……」
 腿を掴んだまま、ジョナサンはディオに体に伸し掛った。
 鼻と鼻を擦り合わせて、唇を顔に寄せる。薄く開かれて誘うディオの唇に、ジョナサンは最初にしたキスと同じように重ねた。
「んう……っ」
 ジョナサンの舌がディオの唇のあわせに滑り込む。ディオが積極的に口を動かすと、ジョナサンはあっさりと唇を離してしまった。
「あ……」
 もどかしい。ディオはそんな目をしていた。ジョナサンに縋りたがった。腕も足も、顔も唇も、縋りつきたかったのに、今はそれすらもディオには術がない。
 どんな台詞も、甘い囁きも、何の意味も持てない。
「ディオ」
 前髪をかきあげさせて、ジョナサンは頭を撫でる。
 残酷な振る舞いを好む手は、優しげにディオの髪を梳き、幾度も撫でる。そうじゃあない、そんなことをして欲しいんじゃあない。ディオは目を閉じて、睫毛の先を震わせた。
「こんなこと……、イヤだ……ッ」
 嘘も、虚勢も一切無かった。正直な気持ちをディオは吐露する。視界がぼやけて、ディオは何度目かの涙を瞳に溜めた。
「腕は痛む?」
 肩の後ろに手を入れて、ジョナサンはディオの背を少しだけ浮かせる。痺れて感覚の鈍くなった手指に、ディオは血が流れるのを感じていた。
「抜けよ……ッ、抜いてくれ、……ジョジョ、嫌なんだ、本当に……、いやだ、つ……つらいんだ……」
 肉体の痛みや、異物の不快感より、体に入っているものが「ジョナサン」ではないことが、ディオにとって寂しく、辛かった。ジョナサンの指や、性器、唇で、身体を弄られ、痛めつけられることには、肉体は快感を知るが、肌の触れ合いの無い行為、ジョナサン以外の何かで身体を苛められるのは不愉快でしかなかった。どんな痛みや苦しみも、ジョナサンの肉体、血を感じられる行いなら、ディオにとっては悦びになる。
 だが、こんなものを使われて、肌の熱に触れられないことが、ディオは嫌で嫌でどうしようもなくなっていった。
 初めは相手にされる行いに、確かな胸の高鳴りと期待があった。なのに、今はただ切なく悲しい。ジョナサンが欲しい、ジョナサンだけが欲しい。心身は泣いた。
「嫌っ……、嫌だぁ……ッ」
 か細く言い、さめざめと泣き始めたディオに、ジョナサンはまた相反する気持ちを抱いていた。
 嫌がるディオが泣けば、優しくしたくなる。そして、柔らかく抱きしめたあと、また痛めつけて涙を流させたい。その繰り返しの尽きない欲が、何度も巡ってくる。
 この目、顔、身体、ディオ自身の何かがジョナサンをそう仕向けているのだ。じゃなきゃ、こんな風に相手に欲を抱く訳がない。
 下半身に、熱が溜まっていくのをジョナサンは覚える。
「ディオ、すぐに終わるよ、ぼくは君の意志を知りたいんだ」
 『それほどまでの思い』なのかを、ジョナサンは確かめたかった。
 自分に対して、どこまでしてくれるのか。そして、どこまでも深く、進めたかった。
 相手の思いを確かめるために試すなど、さもしい考えだとジョナサンは思う。だがディオの真意と共に、自身の情も、問いたかった。そして、知りたいと思っている。
「んう、くっう、……」
 体の拒みが自然と筋肉を動かし、よく濡れた秘穴はぬめりのおかげで、握りを少しだけ抜き出させていく。
 剣先が、ディオの弾む息と一緒に揺れる。
「ううっ、んっ、うくっ、」
 かたく瞑った目の際から涙をにじませ、ディオは横向きにシーツに頭を落とした。
 思わずジョナサンは唾をごくりと飲み込む。
 皺を伸ばして広がった秘口が、縮こまったり、また口を開いたりして、剣の握りをゆっくりと、排出していく。秘口は別の生き物がディオの意識とは違って、動いているのではないかと思う。
「んっ、くぅ……っ、見る、なぁっ……!」
 ものが剣であること以外は、排泄と同じ行為を見られているのだ。屈辱であるのは当たり前である。ディオの言葉を無視し、ジョナサンは、さらに顔を近づける。
「うう! あ、くうっ……、ンン……っ!」
 秘穴は愛液を多く分泌させて、一気に柄頭が見えるところまで、ズルリと吐き出した。
 球状の柄頭は、一番太く丸い形をしているので、あともう少しで抜き取れるのだが、その部分が丁度引っ掛かってしまうのだった。
「はぁ……はぁ……あ、う……ッ」
 秘穴は収縮を何度も繰り返し、懸命に出そうと蠢いた。
「んっ、く……ッ! はう……ッ、くっ……」
 潤みが秘口からとろりと溢れるものの、球状の頭は、少し出てはまた中に入り込む。
 あと僅かであるのに、その少しがうまくいかない。
 ジョナサンは、密かにディオを心の中で励ました。あと、少しだから、もう少しだ。
 いつの間にか、ジョナサンの手も汗をかいていた。
「うんぅ……ッ! うんっ……ッ、はぁ、んッ」
 ディオがいきむ。腹に力が加わっているのが、よく見て取れた。腹筋が固く縮まって、へその穴がへこんだ。
「ああっ……」
 秘口はいっぱいに大口を開けて、玉をぬるんと押し出した。球状の柄頭はびちゃびちゃに濡れて温まっていた。ベッドから刃先をはみ出させていた剣は、ディオの秘所との繋がりを失いバランスを崩すと、ガランと音を立てて床に落ちたのだった。
「あ……、ふ……ッ」
 詰まった息を吐き出し、ディオはぼんやりした視線でジョナサンを探した。
 ジョナサンの望みは叶った筈だ、なら応じたディオの願いを聞き入れなくてはならない。
「ジョジョ……」
 ベッドに膝をついて、ジョナサンは顔を上げた。
 はく息がこれ迄以上に熱かった。ディオの身へ手を伸ばし見下ろしたとき、汗ではない水滴が、ひとつふたつ、ディオの体に落ちていった。
「……いいんだろ……っ、はやく、入れろ……っ、はぁ……、ジョジョ、ぶち込めよおっ!」
 瞳の黒目は鋭さを増して、ディオはひん曲がった笑みを見せる。
「君は、下品だな……でも、すごく君らしい」
 ズボンを下ろし、ジョナサンは硬くなった肉棒を、濡れて大口を開けて待つ秘部に差し込んでいった。
「はうっっ、ああ……っ、あああぁああッ!」
 剣の柄よりジョナサンのペニスは一回りほど大きいくらいだ。あれほどに広がって、はち切れそうに皺を伸ばしていた秘部も、まだ裂けそうにはない。始めに抱いたときに、乾いていた秘部は、ジョナサンを無理やりにねじ込ませて血を流していた。だがディオの特質した肉体の変化のひとつである、どこから流れてきて、一体どういったものなのか、不明な“愛液“のおかげで、傷つくことなくディオはジョナサンをくわえ込める。普通の男なら、とっくにアヌスを壊しているだろう。
「気持ちいい……?」
 ディオの足を抱え上げて持ち、ジョナサンは奥を目掛けて腰を打った。
 ぐちゃぐちゃに濡れた箇所は、打ち付ける毎に、淫らに鳴った。
「んうううっ! うあ、ああんっ」
「欲しいところ、きてるだろ」
「おくっ、奥でっ、きて、中で……ッ! ひあぁうっ」
 昨晩と同じく、ディオは中に欲しがった。
 女ではあるまいし、どうして中にしてほしがるのかジョナサンには理解し難かった。
「出せぇ……ッ! くあ、あっ、ひっ」
 首を掴み、ディオはジョナサンに命じた。
 素直に聞き入れる気にはなれず、ジョナサンは抽送を早めていく。
「あうっ! あっ、あっああっ! ジョジョッ!」
 してはいけない、とジョナサンは肉体で感知する。
 セックスも、してはいけない。彼と交わってはいけない。
「いッ、アアッ! ひううぅゥッ! ああ゛あああ゛あ゛あぁッ〜〜〜ッ!!」
 ――駄目だ、この男は魔物だ。人じゃあない、人間じゃあないんだ。
 ジョナサンは泣いていた。
 涙はシーツとディオの髪の間に落ちていった。
「ディオ……」
 腹にこすれていたディオのペニスが、二度目の射精をし、後ろの窄まりがぎゅっと縮こまった。ディオが達したのを知り、ジョナサンはすんでのところで、自身を抜き取り、亀頭を手で覆った。手の平に精を放ち、ディオから身を離した。
「……ジョジョ……」
 起き上がろうとしたディオは腕を括られているので、その場に寝転んでしまう。無言でジョナサンは、腕のベルトをはずし、赤くなった皮膚へ唇を落としていった。小さな傷は、瞬く間に消え、痣になりかけていた肌もすぐに白く元通りになっていく。
「君は……人間じゃあ、無い……」
 声色は震えていた。ディオは起き上がり、ジョナサンの顔を下から覗き込む。
「傷ついた肌も、血も、すぐに元通りだ」
 ジョナサンは俯くので、ディオからは表情が推し量れない。
「初めは信じられなかった。でも何度も目にするたびに実感する……その度にいつもいつも哀しくなる、……どうしようもなく、かなしい……」
 涙が流れていた。ディオは冷血な指で、その雫に触れる。涙は熱かった。それが人の体温だった。
「ぼくには……君を愛せない……。」
 愛せない相手を、抱き続けなくてはならないことが、悲劇だろうか?
 それとも、愛したい相手が人では無いことが、哀しみなのだろうか?

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