微笑みのみどり 10


 胸から手をどけて、ぼくはディオの足を持った。膝の裏に手を入れて、少しずつ腰を引く。
「はっ……、あ……っ」
 圧迫感がなくなると、ディオは安堵のため息をつく。それも一瞬で、肉体は持て余している体内の熱の終極を求めている。
「ううう、ジョジョ、ジョジョォ……っ、もう、もう……っ」
「うん……大丈夫、大丈夫だよ、ディオ……ッ!」
「アッ、うあっ!」
 言って、ぼくは腹奥まで突き刺した。肢体は人形のように揺れる。
 ディオはもう体の何処にも余計な力を入れない。唯一込められるのは、お尻の穴だけだった。
 穏やかな抽送が始まった。ワルツのように、まろやかな音楽を奏でていく。
 自身の欲望に任せた乱暴な行いも想像したけれど、ぼくはディオを第一に考える。相手を思えば、そんなことは出来やしなかった。
 ただでさえ、ぼくの肉体自体がディオにとっては凶暴なのだから。
「あっ、うっ、ん……っ、あふっ、あっ……ん」
 穴の隙間からは、ちゅぽっ、ちゅぽ、と出し入れの度に淫らな音がする。お互いの体液が流れてたっぷり潤っている証拠だ。
 ディオは口元に手をおいて、声を出したそうな、聞かれたくなさそうな仕草をしていた。
「気持ちいいかい?」
 ディオの下腹には、きちんと起った性器がぷるぷると律動に合わせて、首を振っている。
 腹の中、奥にある箇所がぼくに擦られて、ディオはいつの間にかエレクトしていた。
 普通なら、こんなすぐに出来ることじゃあないけど、ディオは特別エッチな体をしているんだろう。多分、そうなんだ。ぼくは勝手に納得した。
「ん……んっ……う、ん」
 はにかみながらも、ディオは小さく頷いて返事をする。ここまでしても、ディオは恥らえるのだから、恐れ入る。何年たっても、同じことをぼくは思うのだろう。
「んっ、ジョジョ……、んう……」
「なあに?」
 ディオは首を横に向けて、後ろ手にしてぼくを呼ぶ。舌を出して、下唇を湿らせている。接吻が欲しいという合図だった。
「どうしたの……、ディオ? 言って?」
「んぅ、ぅっ、ん〜〜〜っ」
 ぼくはわざとらしく腰を振って、ディオから言葉を奪った。そうでなくても、多分「キスして」なんて言えないのをぼくは分かってしている。
「はうっ、ジョジョっ、やっ、や、くち、……して……っ、んっ」
「何? 何してほしいの?」
「ううっ、ジョジョのぉ……っ、してぇ……っ! してっ!」
「しょうがないなあ」
 可愛らしくむくれた唇は、いやらしく強請られても幼い少年の姿のままで、ディオは無意識にその魅力を発揮する。ぼくは表面上ではやれやれといった雰囲気を出しているけれど、何から何まで翻弄されっぱなしだ。身も心も、ディオに振り回されている。
「んっ、んむ……ん、ふあっ……ハァ……っ」
 懸命に吸い付いてくる唇を離すと、ディオはもっともっとと欲しがって、身を揺らす。腰が揺れる。お尻はゆさゆさと上下している。
「はっ……あ、……んっ、んぷ、んっ、んくっ」
 ぼくは地面に座り、抽送を止めた。それでもぷちゅっ、ぷちゅっ、と音は止まなかった。
 ディオは自らの腰を動かしていた。未熟な肉は、初めて知る男を隅々まで味わい尽くす。
「ディオ……んっ、好きだよ……っ、はあっ……っ」
 キスの合間に、ぼくはディオへの思いを繰り返し告げる。好きだと囁くと唇やお尻や、背中、全身で返事をしてくれる。嬉しさや喜びを、ぼくにそのまま伝えてくれる。
「はっ、あん……ジョジョっ、ジョジョっ、すきぃ、すきっ……」
 腹奥で、どっとぼくの体液が溢れる感触がした。可愛い人から、可愛い言葉がこぼれる。ぼくは、それこそディオを全部自分のものにしてしまう勢いで抱きしめる。
「ぼくも……好きだよ……大好きだよ、ディオッ!」
 目を閉じて、ぼくは何十回目かのキスをする。

 全ての意識がディオへと向けられていたので、ぼくは気づかなかった。
「ひ……ィ、やっ!?」
 ディオは、喘ぎ声とは違う悲鳴をあげた。一気にディオの総身は強張った。
「え……? ああ……なんだ」
 ディオはそれを見て、なんだか怖がっているみたいだった。ぼくはディオの悲鳴に驚いてしまったけど、なんてことは無かった。
「可愛い子牛じゃあないか」
 視線の先には、まだ乳離れもしていないだろう子どもの牛がいた。犬と同じくらいの大きさだ。黒目がちな瞳をきょろきょろさせて、こちらを見ている。
「ううっ、あっち行けぇ!」
 無駄にディオは足をばたばたと揺らせて、威嚇をする。子牛は意味が分からずに、その場から動こうとはしなかった。
「ディオ……大丈夫だよ。怖くないよ。」
「うっ、……うくっ……うあっ」
 ぼくは、止まった抽送を再開させてディオを宥めた。子牛は、やはりぼく達を不思議そうに見つめている。
「やっ、やあっジョジョ、や、や! うううう〜〜〜〜っ! いゃぁだっ」
 全身を振って拒絶の意を表し、ディオは足を閉じようとしたり、自分自身の下腹部を手で覆ったりした。
「……どうしたの? 何を恥ずかしがってるんだい? 平気だよ、ディオ。見てご覧、あの子牛はぼく達が『何をしてるのかな』って見てるだけだよ……?」
「やぁっ! やっ、ジョジョ、動くなあぁっ! あうっ、んっ」
 動物の視線は純粋だからこそ、少し不気味だ。子牛は生まれて間もないだろう。そんな無垢な存在に、性行為を見られているというのが、ディオには羞恥なんだ。
 遠く、牛舎付近には牛の群れがいる。おそらくそこから来たのだろう。子牛は、ぼく達の正面に未だ佇んでいる。
「ぃあっ、ああ゛っ! くぅ〜〜〜〜っ」
 きゅうう、とディオのお尻の穴が収縮して、締め付けが一層強まった。
「だめっ、いやっ、いやだっ、や、やっ、来るぅっ!」
 その声に煽られて、ぼくは腰を進めるスピードを速めていく。片手でディオの胸を揉み、もう片手ではディオの性器を擦った。
「やあ! いゃあっだっ! ひあ、ああああぁぁあぁあーーーー〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!」
 ズンと、ぼくのものが奥深くに突き刺さった瞬間。
 ディオは中と外とで、果てた。
 二度目の射精では、精液自体は若干薄まっていたが、元気よく飛び散っていった。
「ああ、ディオが大声を出すから……逃げちゃったじゃあないか……」
 ディオの大きな喘ぎ声に驚いた子牛は、一目散に群れへと駆け出していってしまった。
「いけない子だ……」
 ディオは気を失いかけて、息を乱している。まだ硬いままのディオのものを、ぼくは手に取った。
「はぁ……あ、や、ひぁ」
 精液で濡れた先っぽを、ぼくは無情にも手早く扱き上げた。それがどんな苦しみかは、十分承知している。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁああっ! やだあああぁぁあ゛ッ! うああああっ!」
「あー、ディオ……ぼくも……もう……っ」
 手を休ませることなく、ぼくは腰も突き動かしていく。ディオは身悶えて、ぼくの腕の中で全身を捩じらせる。
「ぐぅっ、あく! ううううぅぅっ! あふうっ、んんんんん゛ぅぅ〜〜〜〜ッッ!!!」
 痙攣し続けていた腿が止まると、ディオの先っぽから、ぷしゃぁと噴水のように半透明の汁が噴出した。
「あっ、う……、んっんんうっ、はぁっ……ううっ!」
「わ、……まだ、出るね……」
 扱けば、水は留まることなくディオの中から出て行く。草原に、朝露のようなディオの雫が散っていった。
「あんなに遠くまで、濡らしちゃったね……」
「うく……、あ……も、もう、いい……っ、手、やだ、もう、や、やだぁ」
 ディオは泣いて、ぼくの手首を握った。最早、快楽とは言えない拷問のような責め苦だった。ぼくは慰めて、頬と耳にキスしていった。
「ごめんね……ディオ」
「ん、ん……っ、ジョジョ、くちも……」
「うん……」
 唇を重ね合わせながら、ぼくは腰を引き、自身のものを抜いていく。先端だけを埋めたままで、ディオをジャケットの上に寝かせなおして、ぼくは開かれた足の間に座った。
「ん、んふ……」
 腰を押し進めるだけで、ぼくのものがディオの体内へと沈んでいった。
 開いた両足をぼくは自分の腰に絡ませてやる。
「は……ぁ、ジョジョ……?」
「ディオ、好きだよ……」
 落ち着かせるように、ぼくはディオの頬を撫でて言った。ディオは、ぼくを瞳に映して、困った風に眉を寄せて笑った。
「くあっ! あうっ!」
 これまでのディオに合わせたリズムとは違って、ぼく自身のために腰を揺すった。
「あああぁぁぁっ! ううんんんんんっ!」
 全ての喘ぎ声が絶頂時と同じ声色でディオは鳴く。喉が枯れるくらいに、叫んでいる。
「ディオッ! ディオッ! ……ディオッ!」
 泡立った体液が、じゅぽじゅぽとディオのお尻の穴から溢れ出る。
 ディオの細腰をしっかり持って、深く早く抽送が続く。
「ぐっ、んぐっ! あぐぅっ……っあう、んうううっ!」
 ぼくのジャケットを掴んでいたディオの手が空を掴み、そして、ぼくを抱いた。
「んっ……んんっ、ふあ、あっ、あっあっ!」
 ディオは唇を貪り、ぼくにしがみついた。手も足も、唇も、腰も、ぴったりとぼくを抱く。
「ディオ……んっ、ディオ……ッ! 好きだっ! 好きだ、ディオ……ッ!」
 脳内が、ディオだけになっている。ぼくが何者で、ここがどこなのか、全ての雑念は去った。ぼくはディオのものになった。ディオもぼくのものになっているんだ。
「あああっう! ジョジョォーーーッ! あっ、すきっ、あうっ、すきぃぃぃっ!」
 頭から爪先までの血という血が、下腹部に集まってくる。耳の奥では、煮え立つ音が聞こえる。
「んむ……っ! んっ んん゛っ! ぐ、んんっ!」
 汗だくになっているディオの顔が綺麗だった。ぼくは、口づけと抽送を繰り返し続ける。
 頭上の晴天の光が眩しかった。陽に当たった金髪は、きらきらして、ぼくは錯覚する。
「あああっ! あああぅぅっ! んんんぅううっ!」
 この世のものではないものをぼくは穢している気になる。それとも、既にぼくは天国にいるんだろうか。
「ああっ……ディオッ! ディオ……ッ! ディオーーーーーッ!」
 ぼくは、ぼく自身の神の名を繰り返し呼んだ。
 神の子は、ぼくを許すように笑んだのだった。


 倒れ込むように、ぼくは気をやった。ディオの腹奥で、ぼく自身が震えながら精液を噴出しているのが分かる。
「あぅ……っ、ん……」
 ディオは口を半開きにして、お尻と穴をひくつかせていた。射精が続いている最中、ぼくは性器を半分ほど抜き出した。
「はあぁ…………、くっ」
 このままでいたいくらいに、心地よかった。外気に晒すと、余計に名残惜しい。
 性器も、びくりと脈打つ。熱が冷めていってしまう。
「え……? ん……っ」
 ぼくは、ディオのしっとりと汗ばんでいる手を取った。
「……ふっ……くっ」
「……あ、あ……や、ジョジョ……っ」
 ぼくの性器を握らせて、残りを掻き出すようにディオの手を借りて搾り取る。
 柔らかい手が、ぼくの硬いままの性器をすべる。竦んだ手をしっかりとぼくは上から握って、擦り上げた。
「ああ、ディオ……ッ、全部、出るよ……ッ」
「あっ、うっ……んんっ」
 穴の浅い部分で出された精子は、すぐに洩れ出してしまう。隙間を縫って、ダラッと粘り気のあるぼくの精液がディオのお尻の間に伝った。
「あっ……ん……んんっ……」
 快感が通り過ぎ、ぼくは胸の中に詰まった息を吐き出す。ディオは、見開いた眼でぼくの性器から視線を外さない。
 太い部分を抜き出してやると、ぬるりとした汁はぼくの性器の先端とディオの窄まりの間に糸を垂らした。そして、ぼくのジャケットに染みを作っていた。
 ――終わってしまった……。
 ぼくはしばらく何も言えずにディオを見下ろしていた。ディオは膝をくっつけて、何度も瞬きをしている。
 何か、言わなくては……。告白? いや、好きなのだとは何度も言った。それとも謝罪? 何を謝るのだろうか……それではまるでぼくが悪いことをした、と認めることになる。そうじゃあないだろう。
「……くしゅっ」
 風は冷たかった。
 ぼくはディオの控え目なくしゃみを聞いて、我に返った。
「……服、着ようか」
 ディオは無言で頷いた。

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