微笑みのみどり 8

 待ち焦がれた場所へ、ぼくは舌を伸ばす。
「……ッ! う!」
 びくん、とディオの総身が跳ねる。
 淡い色の縁取りを唇で食み、尖らせた舌先で硬くなっている乳首を転がした。
「んっ、ふ……っ、」
 鼻から抜ける声に甘みが増している。早くかわいい声が聞きたくなって、ぼくはディオの胸に吸い付いた。
 ちゅっ、じゅっ、と下品な音をわざとらしく立て、大きく舐め回した。
「くうっ……ううぅんっ」
 唸りに似たディオの鳴き声は、口を閉じていても洩れ出してしまうようだ。それでもまだディオは、口を開けまいと必死の形相をしていた。
 唇を素直に開いてくれるのは、キスのときだ。
 ぼくはディオの胸から唇を離して、きつく閉じている小さな口に唇を当てた。
「んっ……」
 優しくタッチするように柔肌に触れていく。ぼくは舐めていない方の乳首をきゅっと指で挟んだ。
「はぁうっ……!」
 親指と人差し指で、痛みを感じない程度に乳首を摘み上げる。周辺の肌が引っ張られて、平らな胸が不自然な形を描く。
「んっ、んっ……あゥっ……!」
 ディオの舌がぼくの舌を求めて口を開けるその瞬間に、ぼくは摘んでいる指の力を強くした。
「ヒっ! ……くうっ」
 ぼくの下半身は、じんと熱くなった。ディオも同じ気持ちみたいで、腿の間にあるディオ自身はひっそりと濡れ始めていた。
「そうだよ、声を出して」
「ん、んん……、」
「ダメだよ……口を閉じないで、ディオ。ぼくの手に集中して……」
「ンム、……あ、あぁ」
 ぼくの首に腕を回したディオは、キスをやめたくないとしがみついてくる。
 地面に左肘をつけて、ぼくは自分の体を支えると、右手の腹でディオの胸をやわやわと揉み解した。
 掌を広げれば、中指の先と親指が両方の乳首に届いて、同時に刺激できる。
 ツンと上向いている乳首を肌にめり込ませるように、指の腹で押し潰す。
「あっ、いぅ……痛っ」
「イヤ?」
「いや……じゃ、……ないっ」
「そう、良かった……」
 額と額をくっつけながら、ぼくは時折軽いだけの接吻をして、ディオの表情の変化を楽しんだ。
「はぅ、うくう……ッ、んんっ、ん……」
 いつ深い口付けがされるか分からないディオは、待ち構えて唇を緩くする。そうなると、声が抑えられなくなってしまう。
 まだ、自分自身の嬌声に戸惑いのあるディオは、鼻にかかる甘えた声を発する度に羞恥に身悶えていた。
 幼さの残る少年の顔色がぼくの手によって、或いは唇によって、次第に淫れた女にそれなっていく。
 人間の喜びとは、何かを育てることだ。植物、動物、文化や社会……、そして人。
 ぼくの腕の中で、ディオは変わっていく、成長していく。それがぼくにとっての喜びだった。
「アアッ! んう……っ」
 一際高く声が上がった。
 その大きさにディオは自分で驚いて、口元を手で覆った。
 ディオの肌に、ぼくが爪を立てたからだ。敏感な乳首を爪の先で傷つけないようにしながらも、深く抉った。
「んあっ、っつう……! い、た……っ!」
 多少痛みを伴うくらいの方が、ディオは感じると知っている。でも、まだこのディオは、そんな自分の性癖を覚えていない。
「痛い? ごめんね……もうしない」
 痛いと訴えてくる声に、ぼくはさっと指を退けた。
「……あっ、…………ジョジョ……、」
 薄く開いていた目が、ぼくを窺い揺らぐ。
「うん?」
 言ってほしいんだ。ぼくは、ディオの言葉で聞きたかった。
「なあに……?」
 額から顔を離して、ディオの困ったように恥じる顔を目に入れる。ずるくて、やらしい聞き方だと思う。察してやることも出来るけれど、それではぼくにとって意味が無い。
 大事なのはディオの明確な意思と、ぼくに対して望んで欲しいということだ。
「それ……っ、やめる……な」
「それって?」
「指で……」
「指?」
 ディオの言葉を繰り返して、ぼくは右手の指でディオの唇の表面を撫でた。
「指で、……何だい? 教えて、ディオ」
「……ッ、うう……〜〜っ」
「ほら、また。ダメだよ、唇を噛んだりしちゃ」
 噛み締める歯を諫めるように、ぼくは親指の腹でディオの唇に触った。
「嫌だ……っ」
「ディオ?」
 今日、何度目かのディオの涙が流れる。悲しさや悔しさのどれでもない、熱い涙だった。
「いやだ……」
「なら、やめにしようか……」
 ぼくは思っても無いことを口にする。
 ディオは裏切られたと言わんばかりの形相をして、涙目のままでぼくを睨んだ。
「嫌なんだろう? ぼくは始めに君に約束したよ……君が嫌がることは絶対にしないって」
 ディオの顔色は益々曇っていく。ぼくは、ディオの上から身を起こそうとして、地面に手をついた。
「ジョジョ……ッ!」
 ぼくの手首を掴んで、ディオは引き止める。ディオの手からぼくの全身へ、ぞくぞくとした快感が走っていく。
「あ、……う、……嫌じゃ、ない……」
「嫌じゃない?」
「だから……、だから……っ!」
 ディオは、ぼくの手首を握る手に力を込める。震える唇は、勇気を振り絞って欲を言葉にしようとしている。
「…………もう、降参だ……」
 先に耐えられなくなったのはぼくだった。潤んだディオの目に見つめられるのは、一番弱い。
「君を試すようなことをして悪かった……、ディオに全部言って欲しかったんだ」
 一度離れかけた体が戻ると、ディオはぼくの手首を持つ手を緩めた。
「ぼくに何をして欲しくて、何がいいのか、全て言ってほしかった。ぼくは、君に求められたいんだ」
 ディオは黙ったまま、ぼくの告白を聞いていた。それから軽く身を起こして、ぼくの頭を抱き寄せる。
「……ん」
 柔らかな感触が、頬にあたって、それから唇に触れる。
「ディオ……」
「はやく……」
 ディオの精一杯の答えだった。

 いつまでも、欲望を内に秘めたままでは、互いに満たされない。
 ディオもそれを理解して、ぼくの与える快楽に抵抗しなくなった。
 ぼくの手に身を任せ、声を上げるようになった。我慢せず、未知の感覚を受け入れる。すると、身体からは自然と力が抜けていく。
「はぁっ……うぅん……」
 腰をくねらせて、ディオは息を吐き出した。
 ぼくはディオの右胸の乳首にしゃぶりついて、空いた両手で腰や臀部を撫で摩っていた。
 何かにしがみついていないと落ち着かないディオは、ぼくの頭を抱いていた。快感が走ると、ぼくの髪を強く引く。
 舐め回された乳首は、ぷっくりと大きく、充血して赤くなっている。
 散々に弄って遊んでも、ぼくはしつこく乳首を口にした。
「ヒ、や……っ! あっ、う……っ」
 以前、恋人のディオに言われたことがある。――『母を知らずに育ったからか、君は乳首に余程の執心があるようだ』……その通りかもしれない。
 今も、何度もディオの胸に吸い付いてしまう。いくらしても物足りない。
「あふ……っ、や、や……っ、うぐ」
「いたた、ディオ……? そんなに強く引いたら、抜けちゃうよ」
 後頭部の髪をひかれて、顔を上げる。ディオは訴えるような目でこちらを見ていた。
「何か言いたげだね、どうしたの?」
 荒い呼吸をしながら、ディオはぼくをじっと見つめ続けている。
「知ってる……くせに……っ!」
 ディオは、ぼくの腹に触れたままの性器を、更にぐっと押し付けた。
 張り詰めたそこは、可哀相なくらいに起ち上がって泣いている。
 ぼくも男だ。その気持ちはよく分かった。
 でもぼくは、知らん振りしてやった。
「ああ、そういえば、ここばっかり構ってしまったね」
 ぴんと立っている右胸の乳首を指し、そのまま指先ではじいた。
「んくぅっ!」
「こっちは、何もしてあげてなかったね」
 詫びるように、ぼくは左胸にちゅっとキスしてやる。
「ちが……っ、ちがううっ! ああっ、あうぅ……っ!」
 続けざまに、乳首を思い切り吸い込んでいく。ディオは背中を反らせて喘いだ。
 前歯で軽く噛み、舌で乳輪を円を描くように舐める。ぼくの口の中で、ますます乳首は大きく硬くなっていく。
「んんんんんぅぅっ!」
 腹の下でびくびくと震えているものを感じる。ディオの性器はぱんぱんに膨らんで、ぼくに存在を主張してくる。
 流石に、胸だけの愛撫で射精は無理があるだろう。ぼくは片手でディオのものを握り込んだ。
「うあっ、あああぁぁ! はな、はなせぇ、やっ、嫌だあ!」
「嫌ならやめるよ、ディオ」
 ぼくの制止の言葉に、ディオは髪を振り乱して首を振る。
「だめっ、だめえ! いやっいやっ、いやだっ、ああぅっ」
「どっち? 言ってごらん。ディオ、……言って」
 ディオが出していた先走り汁のおかげでで滑りがよく、ぼくは急くように手を動かした。
「うううっ、んんぅぅっ! ジョジョ、ジョジョ……っ! きもちっ……い……っ」
「いい子だ……ディオ……もっと言って、」
 手全体で包み込んで、ぼくはひたすらに扱いてやった。かなり力を込めても、ディオは痛みを自身の中で快感に変えてしまう。
「いいっ、……あっ、や……! で、でるう……っ!! 出ちゃう……っ!!」
 ディオが気をやりそうな瞬間、ぼくはまた左胸にかじりついた。
「あ゛あ゛――っ! ひっ! ぐぅ……!」
 二点からの刺激に耐えられず、ディオはあっという間に絶頂した。
 勢いよく飛び出たディオの精子が、ぼくの手と腹にぴゅっ、ぴゅっと散っていった。
「はあ、……ああ、……あぅ……」
「すごいね……ほら、いっぱい出たよ」
 朦朧としているディオの眼前に、濁った汁にまみれたぼくの手をかざした。
 指と指の間には、粘っこい汁の糸が垂れていた。
「う、……うく……ぅっ」
 恥ずかしいのか、悔しいのか、ディオは口を曲げてしまう。
 見せ付けるようにぼくはディオの精液をひと舐めする。ぱっと、ディオは目を逸らしてしまった。どこか軽蔑しているような、自分がそんなもの出すわけない、と思っている顔だ。
「気持ちよかっただろう?」
 ぼくの問いかけに、ディオは無視を決め込んでいる。息を整えるように、ディオは深呼吸をしていた。
「でも……まだ天国には遠い」
「え……っ?」
 ぼくは体を起こして、ディオの足を大きく開かせた。ディオの両膝を折り曲げて抱え持つ。
「や、……ジョジョッ? 何してっ……くっ」
 粘液が乾かぬうちに、ぼくはディオのお尻にそれを塗り広げた。しっとり汗ばんでいる白いお尻は、恐怖に怯えている。
「君を傷つけたりはしないよ……、でもそのためには、もっと君の協力が必要なんだ。君が暴れたら、怪我をしてしまうかもしれない。だから……ディオ、ぼくを信じて」
 小さく縮こまってしまっているお尻の奥に、ぼくは小指でノックする。
「や、やだ、やだ……、ジョジョ……嫌だ! それ、やだ、……やめろ!」
「入るよ……」
 入り口は狭いが、一度入ってしまえば、すんなり指は奥へと進む。
 粘膜独特のぬるりとした感触が、小指を包んだ。肉がきつくまとわりついてくる。
「あっ……! あ、あ、……っ」
 身体の内側に訪れる衝撃は、ディオの理性を奪う。ぼくは緊張で汗が噴き出していた。その汗がディオの内腿に滴り落ちて、ディオ自身の汗と共に流れていった。
「あ、あ、……いやだっ、いやっ! やめるって、言った……だろっ……」
「そうだね、そういう約束だ。……じゃあ、出すね」
 ぼくは、ゆっくり小指を穴から引き抜いていく。
「うう〜〜〜っ! だめっ、ヤ……っ!」
 きゅうっと、ディオのお尻が引き締まって、更に指を締め付けてくる。
「ディオ……抜いてあげたいのに、君がぼくの指を離さないから、これじゃあ無理だ」
 ぼくは意地悪く囁くと、ほんの数センチだけ抜けた小指を元あった位置へ戻していく。
「ふぅうっ、ん゛うううっ! や、だっ、抜けって、ばぁっ!」
「うん、抜くから……ちゃんと力抜いてくれないと……」
 そしてまた、ぼくは時間をかけて、絶対に傷つけないように指を抜き出していく。
「あ、あう゛……、んん、んううう!」
 無意識にディオは、抜けかける指に力を込めて引き止めてしまう。腹の筋肉が、ぐっと力が加わったのが分かった。
「ほら、また……」
「ひう、ちがうう、やだ、嫌だあ、や、あ……っ!」
 ぼくは小指を根元まで押し戻した。
「あぁっ、うくう、んんっ、はう……、」
 ぼくの指がディオのお尻の中に、ぎっちりと収まっている。一番細い指でも、こんなきつくて感じてしまうのでは、先が思いやられる。
 はっきりと言葉では「いやだ」と不快を示すのに、ディオは身体の自由がきかないのか、指を離そうとしてくれない。
 違うところから良くしてやろうと思うが、これではどうすることも出来ない。無理をすればディオの体に負担がかかる。傷つける虞がある。それだけは避けたい。
「ディオ、嫌なんだろう? だったら、言うことを聞いて、力を抜いてくれ……」
「うくっ、やうぅ、んううう!」
 ぼくが少し身を屈めて、ディオに近づく。するとディオは、今までと違った声を出した。
 くぐもった声が、急に艶めいた声に変わった。
 中で指が腹のほうに当たったんだろうか……。いいところには長さが足りない気もする。
 何だか様子が変わってきた。ディオは、また息が荒くなってきている。
「抜くよ……」
 ディオの髪を撫で、ぼくは殊更のろのろと小指を出していく。
「はう……っ、う……っ」
 ちゅぽん、と水音が立って指が抜けた。その上にあるディオの性器は萎えかけていた。
 不意に爽やかな風が吹き抜けた。汗ばんでいる身体には心地いいものだった。
 ディオはぼくが支えていなくても足を開いたままで、上半身はくったりとして気だるげに寝そべっている。
 力ない腕が、ぼくの肩を掴んでディオの方へ寄せられた。ごく当たり前に唇が重なる。
 常にキスをしていないと安心しないのか、ただ単純に口付けが好きなのか。それとも、ぼくが好きで仕様がないんだろうか。またはその全部か。ぼくはごちゃごちゃと考えていた。
「はあ……」
「ディオ、……君と気持ちよくなりたんだけど……、まだだめかな……?」
 ずっと昂ぶりっぱなしの自分自身を、ディオの腰に宛がう。ディオは視線を下にして、ぼくの下半身を黙って見てから――。
「無理」
 きっぱりとした口調でディオは言った。
「出来ないことも、ないと思うんだけど……」
 何故かぼくは、立場が弱くなってしまった。ディオの目は冷たい。
「見た目ほど、そんな大きくないからさ……ちょっと触ってみて」
「うげっ」
 半ば強引にディオの手をぼく自身へ持っていくと、ディオは奇声を放った。
 好きな人の手に触れられて、ぼくの分身は歓喜に身を震わせた。ビクンと大きく脈動する。
「うぎぃ……っ」
 敏感な亀頭にディオの手指が当てられて、ぼくのものは勝手に悦んでしまう。
 しまった……、これじゃあ逆効果か……と諦めかけたとき。ぼくは、ディオが興味深そうな目をしているのに気が付く。
「何食べたらこんなに……」
 言いかけた言葉をディオは喉の奥に押し込んだ。ぼくは口元が緩みそうになる。
「こんなに、何だい……?」
 ぼくはディオの手首をぐいと引き、ディオの白い手にぼく自身を掴ませた。
「……お、……おおきい」
 ぼくの意図が分かったのか、ディオは恥じらいつつ言った。大きければ得をするわけではないけれど、そう言われるのは男としては誇らしい。
 照れた顔を見せるディオが、身をもじもじと捩じらせると、お尻の間から先ほどの残り汁が垂れた。
 ヒクヒクとして穴が開閉している。ぼくのものを見て、触発されたようだ。
「ディオ、もう少しだけ……もう少しだけでいいから、頑張ってみないかい? ぼくも努力する」
「……ぼくの嫌なことはしないって言ったろ」
「ああ」
「気持ち、……良くするとも言った」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、もう……」
「これはセックスじゃあない、あくまでセックスに至るまでの過程だよ」
「…………そ、そんなの、」
 分かってる、とディオは呟いた。
「駄々っ子はおしまい。ああ……それともディオはまだ子供だから無理だったのかな?」
 わざと子ども扱いをして、鼻面をつついた。すると、ディオはぼくの見え透いた挑発に簡単に乗ってくる。
「誰が……っ、子供だ! おまえなんか、ぼくがヒイヒイ言わせてやるよ!」
「それは嬉しいな。……なら、もう嫌だとか、やめろだとか、駄目だ、なんて言わないね」
 ディオの細い顎を掴んで、ぼくは静かに低く言う。口角は上がっているのに、目だけは真剣そのものだった。
「……う」
「言わないね?」
「……クソっ」
 ぼくの手を払いのけて、好きにしろ、と言わんばかりに体を広げた。あまりの潔い姿に意外な一面を見た。何だかディオに対して男らしさを感じてしまうほどだった。

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