面従腹背 3
「んんんんッ!!」
胸をいじられていた時よりも直接的な刺激にディオは呻いた。反動で太ももの間にあるジョナサンの上半身を更にぎゅっと締め付け、力の抜けていた腕を持ち上げてジョナサンの肩を押した。
「もう、……もういい、だろ……!」
ジョナサンのジャケットの肩をぐしゃぐしゃにしながら掴み、ディオは息を整えて言った。可哀想なくらい顔や胸元は火照っている。ジョナサンは掴まれた肩からその体温の高さを知った。
「何が『いい』の? さっき言ったじゃあないか、君の言う事なんて聞かないって。」
俯きかけたディオに目線を合わせるべくジョナサンは彼の顔を見上げて、片方の手でディオの顎の下を撫でる。まだ髭は生えていないのかと、確かめるようにその肌を擦った。剃り跡は見られず、ただ滑らかな感触だけがあった。
「ぼくは好きでこうしてるんだよ。」
「……ハァッ?!」
意外にもディオは驚き、潤ませていた瞳をまんまるくして顔を上げた。動揺してほんの少し惑ったがそれはわずかな時間で、しおらしげな態度は長くは続かなかった。
「す、好き、だと……?」
「え? ああ、うん。」
同じことを先刻も言った筈だ。好きにさせてもらうと、ジョナサンはそう言ったのだ。そこに何が引っ掛かることがあるのだろうかと、ジョナサンは自分の言葉を改めてみた。
『好きにさせてもらう』と、『好きでこうしている』
似ているようで、意味合いが違う。さっきのは、好き勝手にディオの体を弄ってやるとの宣言であった。
今のは、ディオに対する好意としての告白ではないだろうか。少なくともディオはその意味を受けたから、狼狽えたのだ。
「……そうか、……好きだって言われたから、吃驚したのかな?」
ズボンの繋ぎ目をついと指でなぞれば、張った頂きが敏感に反応する。
「あっ、ン!」
ディオはどうしていいのか分からなくなっていた。この苦しみから解放されたいと思っているし、ジョナサンにこれ以上何もされたくないとも思っている。頭では逃げるべきだと考えるが、体はこの欲に負かされたいと願っているのかもしれない。
肉体と精神がバラバラになってうまく思考は働かず、故に指一本にすら命令が届かない。
「好きだよ……。」
ジョナサンはディオの太腿に頭を寄せ、ディオの秘所の目の前に顔を置いて、決してその秘部を握ることなく人差し指だけで盛り上がりを撫で上げ、そしてゆっくり下ろす。
「ん、……! い、やぁ……ッ!!」
「あ、また動いたね。嬉しい?」
ここでもし、素直に感情を受け入れることが出来たならディオはもっと楽になれただろう。それでもディオは頑なに自分の体の思いを否定し、心と向き合うことも拒んだ。
ぶんぶんと首を振って、ジョナサンの肩に置いた手で精一杯押し戻した。ジョナサンはディオのその抵抗はあまり意味を成さないと知っていたが、それでも無視を決め込んでいた。
「ヤッ……は、ぐぅっ」
そのままジョナサンはディオの秘所に顔を埋め、服の上から膨らんだ部分を甘く齧った。そして腫れたディオ自身を口に挟みこんだ状態で篭った息を、ハァっと吐き出す。秘部は益々熱を帯びた。
「あッ、アア! 熱……ぅッ」
吐息と唾液でほんのり湿って、ズボンの股の部分はお漏らしをしたかのように、恥ずかしい染みが色濃く広がった。秘所から唇を離して少し遠目にソコを見ると、ジョナサンは満足げに笑む。
「ディオ……?」
「……はぁ……やだ、……もう嫌だ」
焦らされて辛いのか、ディオの腰はひくひくと痙攣し、足は爪先立ちになって支えきれそうもなく倒れる直前であった。
「何が嫌? ねぇ、ディオ。」
嫌どころか、悦んでいるではないかと、ジョナサンは内心で甚く罵って辱める。本当は耳元で盛大にその台詞を言ってやりたかった。もし口にしたのなら、ディオはどんな目をするだろう。まだ怒りに燃えてジョナサンを睨みつけるのだろうか、それともぐずぐずに溶けて懇願でもするのだろうか。
刃向かうならまた泣かせてしまいたくもなるし、従うならとことん可愛がってやってもいい。ジョナサンは自分の飼っている野獣がどれほど危険な夢を抱いているのか、やっと気付いたのだった。こんなにも乱暴な自分が居たなんて……。それを目覚めさせたのは、ディオなのだ。
「こんな……こんなの、やだ……。」
「こんなって何? 言ってくれないか。」
ジョナサンは舌を伸ばして湿った布のざらつきを味わう。ズボンの上っ面をそろりと舌が這うのは、実に焦れったいだろう。ディオの膝から下はぷるぷると震えが止まらない。
中指と人差し指を軽く曲げてジョナサンは肉棒の下の盛り上がりを持ち上げてみる。少しだけ他の場所より硬い袋状のかたまりがある。
「さわ、さわる、な。」
声は低くいつもの少年の声であったが、弱々しく泣き出しそうに上擦っている。
「手が嫌なの?」
唇をまたその熱元にあてると、ディオの返事より早く歓喜で彼自身は頷くのだ。態度が、もっとして、とジョナサンに伝えてくる。
「ちが、う、……ん、ッ」
「口がいいんだ。」
わざとらしくジョナサンは大きく口を開けて、布地が張り付いてくっきり形が浮かんだソコにかぶりついた。軽く歯を立てるとディオは高く悲鳴を上げる。
「ああっ、……ッ!! や、そこ、い……アアッ」
「自分じゃあ言えないクセに、欲しがりなんだから……、口がいいんだろう? ……ん、」
上から丸ごと銜えられないので、顔を横に向けてジョナサンは唇で肉棒を挟み込みながら、頭を揺すった。にちにちとズボンの下から粘った音が溢れ出してきていた。
「や、やああ、ああ、嫌ッ! 嫌ッ!」
肉付きのいい太腿でディオはジョナサンの首をしめつけて、肩口をぎゅうぎゅうと握る。やめて欲しいなら離せばよいものを、ディオは無意識にジョナサンを食い止めて首を振るのだった。
「何が嫌なの、ディオ、ほら……」
口を離して、ジョナサンは手の平をディオの亀頭あたりに擦りつけて布ごとさすった。その摩擦は痛みを感じるようで、ディオはまた力を失いすぐに太腿の拘束は解かれた。
「やだ……服……、変……! いやあぁ」
布越しの感覚が気に入らないのだろう、ディオは濡れた服を脱ぎたがった。ジョナサンに裸体を晒すよりもその不快感が今は勝った。それに股ぐらだけが湿っている服が嫌で嫌で仕方ない、決して漏らした訳では無くとも、姿に恥を覚えるのだ。
「脱ぎたい?」
「ん、」
ジョナサンの問いかけに素直に首を縦に下ろす。余程それが許せないのだろう。
「湿って気持ち悪いもんね。」
ズボンのボタンに手をかけ、ジョナサンは留まっているボタンを愛撫と同じ動きでくりくりと指の先でいじっていた。一向に外される予感がしない。
「でも、このまましたらどうなるかな……」
元々外す気などジョナサンは考えもしていないのだ。相手を油断させて気を緩ませたかっただけだった。
「なぁっ、あ、ヤアア……ッ!! んんん!」
「ちゃんと出来るよね、大丈夫。」
握り込みはせずに、手の平を押し付けてそのままごしごしと磨くようにジョナサンはディオの欲棒をこする。ズボン越しでもはっきりと分かる程に肉棒は膨れ上がり張り詰め、愛撫を受ける毎に硬くなっていった。
「嫌だって……うう、言って……!!」
口の端から、飲みきれなかった唾液を垂れ流してディオはジョナサンのジャケットを引っ張った。どこかを握り締めて掴まっていなければ堪えられないのだ。
「ダメだよ、このまま出すんだから。」
湿っていると表現するより、最早そこは濡れ始めていた。ジョナサンの唾液とディオの愛液が入り混じり、ジョナサンの大きな手の中からは動きに合わせてチュクチュクと粘ついた音が響く。
「わぁ、すごい音……聞こえる?ねぇ、ほら。」
「んッ……や、あっ、あっ、ああっ」
――にちゃあ
少し手を離せば、染み出した粘液がズボンから糸を引いてはしたない音を立てる。下からディオの様子を仰ぎ見れば、彼は現実を直視したくないといった風に皺を寄せて目を瞑っている。まつげは痛々しく揺れていた。
「ディオはこんなおっぱいもあるのに……」
こんな、と言ってジョナサンはディオの胸へ手を伸ばす。散々弄り回されたディオの小さなおっぱいは、ジョナサンの手を悦んだ。きっと本人は何と言っても否定を続けるのだろうが、乳を揉まれるという行為に体自身は快感を知ってしまったのだ。
器用に片手の指をうんと伸ばして、両の胸を寄せ上げる。沈んだ指が胸肉に包まれ、少し乱暴にジョナサンは胸を弾いた。
「……ここは男の子の匂いがしてる。」
未だに閉じようとする腿を割開き、ジョナサンはぐっと鼻を秘所に埋めると聞かせるためにすう、と音を立てて思い切り吸った。
「んく、やっ、あ、アッダメ、そこ、嗅ぐなぁあッ!!」
犬が何かを探る時のようにしつこく同じ場所に鼻を擦りつけ、幾度も吸って嗅いで、ディオの香りを体に覚え込ませる。その匂いは甘酸っぱく芳しいが、雄の獣臭さが入り混じっている。
「いやらしい。」
ジョナサンの額から汗がじわっと滲み出る。ジョナサン自身もまた興奮が治まらず、行き場のない熱を持て余し、手が自然と欲に向かった。ズボンの中で痛々しく張り詰めて、解放を求める彼自身もソコを濡らしていた。
乱れるディオのいじらしさとは裏腹の強情な性分に、ジョナサンは愛しさと苛立ちを芽生えさせていた。本の中でしか見たことのない、卑猥な言語がすらすらと己の口から発せられ、当たり前に彼を追い詰める自分に誰よりもジョナサン自身が驚いていた。
そんな趣味など無いのに、ディオが「嫌」だと甘く叫べば、股間が馬鹿正直に熱くなる。ディオが恥かしがればもっと見たくなるし、ディオが泣けば、もっと苦しめたくなるのだ。
「やだ、やだあっ、やぁだぁ……ッ!! あっ、あっ、」
最低だと、ジョナサンは冷めた感情を持ちながらに思う。
こんな欲望は持ってはいけない。だけど、止められない。ジョナサンはこんな時までも、自分のひどく真面目な性格を呪った。今はそんなこと考えなくてもよいだろう、と思っても何故か頭の片隅には冷静な自分が軽蔑の眼差しでこちらを見ているのだ。
何もかもに申し訳ないと謝りつつ、ジョナサンは自身のペニスを握り、性急に扱き始めた。
「あッ!」
閉じていた目を開けて、ディオは足を引きつらせた。限界がすぐそこまで来ている。
「ディオ……! いいよ、我慢しないで」
目線を合わせるも、口はそのままディオの性器につけた状態でジョナサンは優しく言う。長い睫毛は汗か涙かの水に濡れ、縋る瞳は真っ直ぐにジョナサンを捕らえていた。
「うう、やああああッ!!」
歪んだ口からディオは泣き声を上げて、ジョナサンの髪を握った。嫌がって引き剥がそうとしているのか、愛撫が欲しくて押さえつけようとしているのかジョナサンには分からなかった。ただディオの手は汗ばんでとても熱かった。
「全部見ててあげる、ディオの顔も、ここも、全部。」
言って口の中に入るだけ肉棒を誘い、じゅうう、とジョナサンは吸った。
「ひあ゛うううううぅううッッ!!!」
足を顔の位置まで持ち上げて、ぴんと張らせた後、絶命したかのようにがくりと脱力して床に投げ出される。精液の熱がジョナサンの唇に感じられた。証拠はまだ見れなかったが、ディオは達したのだ。
そしてその瞬間の一段と高い声は、ジョナサンの冷静さを吹き飛ばしてくれた。他人を自分の手で導いた絶頂とは、こんなにも満ち満ちた思いなのかと、ジョナサンは息が荒くなる。
「ああ、やうう……ふあ、ううっ」
出させてもまだジョナサンはディオの秘部に舌を這わせていた。ディオを味わったまま、自分も欲を放ちたいと思ったのだ。
――ちゅぷ、ちゅる、ちゅう
射精前とは違って、濃い風味が口に広がる。確かな精液の味だ。
「あう、……! んぐぅ、うあっ……あっ、あ、」
ディオは人の言葉すら話せなかった。受ける愛撫に対して、自然に発せられる喘ぎだけしか開きっぱなしの口からは出せない。だらだらと涎が溢れ、首に流れた。
全身を支える力も無くし、ディオはソファーにくたりと横たわった。このソファーは二人で座るには若干窮屈だが、一人が座るには贅沢な作りであり、ディオの上半身なら優に余る。
「ああ、ディオ……、ディオ……!」
ほとんど意識を手放しているディオの名前をジョナサンは呼んだ。ディオの開いた唇は、濡れて光っている。
思わず、ジョナサンはボタンが弾け飛びそうな勢いでズボンの前を寛げた。早くこの熱を何とかしなくては、と焦っていた。
「ディオ……、ねぇ、口を開けておくれ。」
薄く開いた目は虚ろにジョナサンを映し出す。聞こえているのかいないのか、ディオは唇をほんの少しだけ動かした。涎にまみれたそこは、とても卑猥に見えていた。
「……う、ん……っあ、」
横になった所為で、胸の膨らみは真っ平らになっている。本来は平らであるのが正常なのだ。ジョナサンはその平地になった胸を手で撫でさすった。
「や、あっ」
ぷくんと乳首はすぐに勃ち上がり、ジョナサンの手の平を楽しませてくれる。
「ディオ……、ううっ」
あ、とディオが声を発したその時、ジョナサンは膝立ちから腰を上げて、扱いていた欲棒をディオの眼前に持ち出した。
「ああっ……!! ……、ディ、ディオ……ッ」
唇の赤さに意識が奪われ、ジョナサンはあっけなく情欲を吐き出してしまった。
口の中に入れたいと思った矢先のことであった。
「はぁ……ハァ……、う、」
仕方なくディオの開いた唇に己の肉棒の先端を押し付けて掻き扱くと、残り汁が勢いよくぴゅっと吹き出し、ディオの口の周りに飛び散った。
「ん、ンく……。」
ぼんやりと朦朧したディオが性射を顔に受ける姿は、あまりに背徳的であった。自分がしでかしたことであるのに、ジョナサンは信じられないと思っていた。
精液など、出してしまえばただの汚物であり、拭き取るか水で流してしまうものだ。なのに、ディオの顔に出したそれをジョナサンは暫く見つめていたくなった。
飛沫はディオの顔中に広がってべっとりと白肌や金髪をを汚している。頬と唇の紅色、黄金色の絹髪が絶妙なコントラストを描き、白濁が映える。
覚醒させないよう、ジョナサンは恐る恐る手を伸ばして、唇に触れた。柔らかい唇からは吐息が漏れている。そっと輪郭を撫で、指先についた精液を唇の合わせに流し込んでみた。
とろりとした白蜜は、ディオの口内に落ちていった。一滴、そしてまた一滴とジョナサンの精子がディオの体内に入り込んでいく。
――もしかしなくても、ぼくはとんでもないことを……しているんじゃあないだろうか……?
親指でディオの唇を自然に閉じさせると、ジョナサンは胸がどきどきとした。
そして、ディオの喉がこくん、と鳴る。息を詰めてジョナサンはその音を噛み締めた。
――飲んだ……ッ! ぼくのを……、ディオが……!
全て自分が行ったことであるのに、ジョナサンは顔が赤くなるのが分かった。こみ上げてくる罪悪感と、それを上回る得体の知れない高揚感。
「ディオ……」
名前を呼んでも、相手は目覚めやしなかった。