面従腹背 6

「ん、ふ……っ」
 重なってきた唇を開かせ、ジョナサンは僅かな隙間に舌を潜り込ませた。奥に縮こまるディオの舌は、ジョナサンがひと舐めすれば、おずおずと応え始める。
 ディオの口腔へ侵入し、小さな部屋に閉じ篭るディオへ呼びかける。優しく、決して慌てずに、ノックをする。
「く、……ッン」
 隙間なく合わさっていた唇と唇が、ちゅっと音を立てて離れ、ジョナサンは伸ばした舌をディオの下唇と歯の間に差し入れた。
 ディオの背中に置かれた手からは、震えが伝わってくる。感じるたびに、ぴくりぴくりと背筋が張った。
 ようやく誘い出されたディオは、薄く口を開けその赤い舌をジョナサンの口の中に入り込ませた。
「ンッ! ……ンン!」
 迎え入れた舌を、軽く噛んでやるとディオはジョナサンの口内で声を洩らした。逃げられないように、唇で挟むと、ディオはジョナサンの肩を強く掴む。
 離すまいと後頭部と背に回した腕に力を一層込め、キスを続けさせる。
「あっ……は、ぅ……」
 ジョナサンの肩を引っかき、ディオは爪を食い込ませた。たまに一瞬離れると、甘やかな切ない声が上がった。
 粘膜の刺激には誰だって弱い、激しくぶつかるなら尚更だ。ジョナサンも、唇と唇のキスはこの上なく気持ちがいいと思うし、性器への直接の愛撫では人並みに感じる。
 でもディオはおそらく、人並み以上に感じやすい。自分から仕掛けるキスで舌を入れてこなかったのは、口の中がひどく感じやすいからだろう。
「んっ、んう、ん……」
 苦しいと、ディオは歯をかっちり閉じて訴えてきていた。ジョナサンはとろけきった唇を、名残惜しんで小さく啄んだ。
「ンッ……、んんッ、しつ、こいな!」
 唇から外れても、ジョナサンはディオの鼻先や、あごに口付けていた。甘えた様子でじゃれついてくるジョナサンを鬱陶しげにベッドに押し付けると、胸が開いた寝巻きを脱がせにかかった。
 力任せにぐいぐいと引き抜こうとするので、ジョナサンは自然に背を浮かせて手伝った。裾の長い寝巻きの下には何も着けていない、正真正銘の生まれたままの姿になり、恥じらいなど全く見せてなかったジョナサンにも少しだけ羞恥の色が顔に出ていた。
 腹に跨ったディオはその顔を満足そうに見つめ、目をそらそうとするジョナサンの顎先を手に取り、にやついた。
 素肌の腹に、じんとした熱さをジョナサンは感じた。熱源は、むくむくとはっきりとした硬さに変化していく。
「ディオ……、ぼく、」
 耐え切れず、ジョナサンはそばにあるディオのむっちりと育った太腿に手を伸ばした。一番肉付きのいいところに伸びた手は、肉の感触を味わう前にぴしゃんと甲をはたかれ、ベッドのシーツに縫い付けられた。
「おまえは手を出すな」
 手の平を天井に向けられ、そこにディオの温かくなった手が重なる。きゅっと繋がれ、組まれた形はまるで恋人同士がする組み方で、今までディオに対して散々いやらしいことをしてきたくせに、ジョナサンは些細なそれに赤面した。
 両の手を拘束し、互いの自由はない。ディオは、ジョナサンの手を押し付けたまま、首に噛み付いた。
「ひゃっ」
 気持ちがいいと言うよりも、擽ったくて堪らなく、思わずジョナサンは吹き出した。笑うと腹が揺れて、ディオは冷めた目つきでジョナサンを見下ろした。
 ディオの望むような淫麋な雰囲気にならず、むうと唇を尖らせると、少々不機嫌気味に今度はジョナサンの耳をかじった。
「ははっ、くすぐったい」
 腕が暴れ、ジョナサンはくっくっと身を捩らせて笑った。まるで、おまえの愛撫は下手くそだと言われている気分にディオはなる。
「動くな! 黙って感じてろ!」
 苛立ちを隠せずに、ディオはぎりぎりとジョナサンの手を握った。再び、首筋に舌を這わせ、鎖骨まで舌が降りていく。
「う、ククッ」
 ディオは舐めながら見上げて睨めつける。視線が合ったジョナサンは笑い声を殺して、腹筋を震わせた。
 むきになったディオはジョナサンの張りのある胸元にかじりついた。見事に揃った白い歯は、くっきりとした歯型の模様をジョナサンの肌に咲かせる。
「イタッ、痛いって、ディオ!」
 手はまだ押さえ付けられていたので、ジョナサンは下半身を捩った。ふいに、放置されていたジョナサンの「自身」が軽く頭をもたげた状態で、ディオの臀部をかすめた。
「……、猿が……!」
 ディオは体を持ち上げて、下がっていた尻を移動させた。
「何のこと?」
 知っていたが、ジョナサンはあえて聞き返してみた。ディオは下唇を噛み締めて、手の力を更に強めた。
「君だって、……いや、なんでもない」
 ――自分だって興奮しているくせに、人のことを猿呼ばわりなんてして。
 ディオの口の悪さは今に始まったことではないのだ。ジョナサンは喉まで出かかった台詞の続きを、ひと飲みでかき消した。

 首筋や胸元を舐め、齧られる。時折肌に吸い付き、ジョナサンの服で隠れそうな場所はいくつかのディオの烙印が押された。
 二人の繋いだ手は熱を持ち、汗ばみ濡れている。ディオが、唇に集中すると手の力が緩まるので、ジョナサンはたまにそっと握り返したり、指の腹で相手の手の甲を撫でたりした。反射的にディオの手は、ぴくん、と可愛く震える。
 その時、小さく呻く声が聞こえるので、ジョナサンはこんなことでも感じるのだろうか、と少々不安になった。
 触られたくらい、息がかかったくらい、大したことは無いだろうとジョナサンが思う特別意味を持たないような動きにも、ディオは敏感に感じ取るので、これ以上したらどうなってしまうのか、不安と……やはり期待があった。
 妖しげな薬香が効いているのだとすっかり思い込んでいるディオは、好き勝手にジョナサンの肌を乱していた。と、言っても、未だに胸より下には手を出さずに、行為の先は進まなかった。
 目を瞑り、頬や耳を熱っぽく紅く染めた小さな顔が、自分の胸の中にいる。ジョナサンは、犯されている自覚なんてこれっぽっちも、浮かばなかった。これではただ、奉仕を受けているだけではないかと思う。  
 上に乗られて、愛撫を受けるのもいい。そのまま乗っかってシテもらうのも、さぞ良い光景なのだろう。苦しげに眉を顰めて、汗を飛び散らせて金髪を揺らすのだ。
「ン……ッ!?」
 また新たに尻に違和感を察したディオは、ジョナサンの乳首を銜えながら鼻にかかった声を上げた。
 無意識のうちにディオは高く腰を上げて、軽く足を開いていた。体を密着させていると、ジョナサンの下半身や自身の下腹部が当たるので、自然と四つん這いの体勢になっていたのだ。
 その丁度いい高さに、ジョナサンの膝頭がうまい具合に一致する。爪先を立て、ジョナサンは狙いを定めた。
「はう……っン」
 ズボン越しではあったが、尻の割れ目に膝が入る。シーツから足を浮かせて、ジョナサンはぐいぐいと膝を割り込ませるようにそこに押し付けた。
「ンッ! ……やめろ……ッ!!」
 体に力が入らないのか、ディオはくたりと頭をジョナサンの胸にくっつけ、繋いだ手は震え始めた。体は脱力していたが、指先が白くなるほどに強い力で握られる。
「うっ……ふ、ぅンッ……」
 丸いカーブにそって、ジョナサンは膝を撫で下ろす。見えはしないし直接触れてもいなかったが、その奥まった秘花は今のディオの指のように、きゅうっと締め付けているだろうと思った。
「カワイイ声……、どうかしたの、ディオ」
「この……ッゲス野郎……っ! おまえが、一番……分かって……」
 固く閉じた入口に目掛けて、ジョナサンは、膝を尻に割り込ませて非情なほどにグリグリと左右に擦ってやった。
「くぅ、ア゛ッ!」
 腰から上の身体をディオは制御できなくなった。ジョナサンの胸元に縋り、むなしく喘ぐだけの自分を許せず、ディオは口を両手で塞いだ。一言も漏らすものかと決める。
「ココ、うずうずしてきた……?」
 拘束が解かれたジョナサンの手は、真っ直ぐにディオの腰に伸び、開いた尻をもっと割開く。ズボンの縫い目は裂けそうだった。
 服の下で秘花は無理やりに咲かされて、乱暴な膝はその秘所に入り込む勢いで迫った。
「ン゛ン゛ン゛ン゛〜〜〜〜〜ッッ!!!」
 決意も崩され、ディオは泣いた。とうとう涙がこぼれてしまった。冷たい雫が、ジョナサンの胸の谷間に小さな水たまりを作る。
 だけどそれは悲しみの涙では無く、悔しさからでもなく、零し続ける本人にも意味が分からない。急所を攻められるのは痛みだけだとディオは体に言い聞かせた。だが、ズンと尻に走る重い感覚は、痛みではなかった。何よりもそれが一番信じられなかった。

 ジョナサンの胸に伏して、ディオは動けずにいた。力をなくした腕はシーツの上に放り出されている。
「はぁ……う、……ッ」
 足による責め苦が終わると、ジョナサンの手はディオの体に触れたまま這い上がっていく。裾がきっちりとズボンに仕舞われているシャツを上に引っ張りあげて出し、ジョナサンはディオのズボンの留め具を外した。
 嫌だ、やめろと、抵抗するとばかり思っていたが、拍子抜けだった。相当な効き目があったのだろう、ディオは鼻をすすり、それ以外は何も言わなかった。布越しに少し擦りつけただけで泣いてしまうなんて、これ以上の行為にディオは耐えられるだろうかと、ジョナサンは自分が責めているのに不憫に思った。
 ジョナサンは起き上がり、ディオの体を仰向けに寝かせた。腰の下に手を入れて少し体を浮かせてやり、ズボンを脱がせる。靴の紐も解き、丁寧に片足ずつはずしベッド下に落とし、靴下も抜き取った。血色よく染まっている足の小指がやけに可愛かった。思わず、ジョナサンはそこに口付ける。嫌とでも言うように、指はきゅっと握られてディオは膝をすり合わせた。
「ディオ、」
 名を呼んでも顔は背けられている。足を閉じ、軽く膝を曲げて立たせ、ごく自然に秘所を守っていた。
 襟に手を置き、ディオはまだ黙っていた。ジョナサンは息と共に言葉も飲んだ。汗ばんだ肌に金色の髪が張り付き、真っ白な雪肌は熱を持つ場所から桃色に変化していく。そこには、ベッドの上でだけで生まれる美しさがあった。シーツの皺ですら計算されているかのように完璧であった。最後に残されたシャツの一枚を剥ぎ取るのも勿体無いとすらジョナサンは感じた。
 ボタンをひとつ外すごとに心拍数が上がっていく。焦らしたくて時間をかけているわけじゃなかったが、全ての動きが緩慢になった。ディオは視界が滲み、目を閉じた。
 全てのボタンが外され、ジョナサンはシャツの合わせに手をかける。
「う……っなんで、」
 ディオは睫毛を震わせて、やっとのことで声を絞り出した。
「なんで、ぼくが……っ」
 悔しくてなのか、ディオはシャツの袖口を噛んだ。くぐもり詰まった声は、泣き声に聞こえる。
 そっと、シャツを開く。痛ましく残っていた夜の痕に、ジョナサンは「ああ」とつぶやいた。
「うっ……ぐ、」
 過敏なディオの乳首は、今夜も変わらずに実を育てていた。赤い尖りは血の色だ。つつけば血が吹き出してしまいそうに、腫れている。
 シャツが乳の上をかすめ通ると、ディオは眉を寄せて唇を噛んだ。
「痛い?」
 問うても返事は無い。ジョナサンは親指で片方の乳首の、丸く膨らんだ部分だけを撫でてみた。
「ンッ!!」
 ディオの身は聞くよりも正直に答えてくれた。大きく仰け反った体は、痛みの度合いをジョナサンに教える。
「痛いんだね」
 ほとんど力を入れずに親指と人差し指で乳首を挟み、ネジを回してやるようにクリクリとひねった。
「ん、グうっ……!!」
 更にディオは引きちぎれるほどに袖を噛みしめて、声を押し殺した。痛みがまさり、今そこで良くはなれないのだろう。汗は玉になり、首筋に浮かんだ。
 乳をいじめるのをやめ、ジョナサンはディオの首や胸の汗を拭ってやる。上気した肌は熱い。
 緊張し続けているディオの口元を、指先で撫で噛んでいるシャツを外してやった。袖にきつく残った歯型は、ディオの恥じらいとプライド、そして我慢の証拠だった。
「汗をかいてしまったね、これも脱ごうか」
「……いい!」
 ほとんど裸体を晒していたが、ディオは最後の抵抗をした。本当は無駄だと知っていても、ディオは諦めきれずにボタンの外れたシャツを合わせた。
「大丈夫、ぼくだって今日は全部脱いでいるんだ、これならフェアだろう?」
 幼子を諭す言い方でジョナサンは手を進めた。やんわりとディオのシャツを掴む手を崩すと、肩からシャツは落とされた。ベッドの上に、静かに布が落ちる音がした。

 逃げたいと心は訴えていたが、肉体はそうは思ってはいない。ディオは一度くしゃりと顔を歪め泣き出す寸前の目をして、ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
 明かりに照らされるディオの白い背中を前にして、ジョナサンはその場に座りこみ、ゆるく曲線を描く背骨を見つめた。
 腰をくねらせている所為だとジョナサンは思ったが、やはり男にしてはウエストがくびれている。
 だが、それなのに肉付きがいい。思えばラグビーを始めた時期から、ディオの食欲も増えた。問題はジョナサンを基準として食事の量を増やしたことと、二人の運動量や体質は全く違っていたことだった。
 ここ数ヶ月の間に筋力も増え、身長も伸びたが、その体の成長には少々多目の脂肪がディオの身体につき始めていたのだ。
 だからと言って決して太っているわけではない。絶妙なバランスを保ち、見る角度によってはどこか女性的な体つきに見せる。明らかに膨らんだ胸や、突き出た尻肉や、むっちりと丸みを帯びた太腿。それらが男らしくあるはずのディオを中性的に見せ、あやしげな色香となっていた。
 露出されない背は白く、金色の産毛は肌を輝かせていた。指の先で背の骨をなぞるとディオの足の指はひくひくと動いた。
「……、ン、ふ」
 指の先だけが肌に接していたが、やがて手の平全体で背の皮膚を確かめた。汗でしっとりと湿っているが、何も纏っていない為にジョナサンの手よりもずっと冷たくなっている。
 ジョナサンは背骨の終わりに、唇を寄せた。
「ひ、……くぅっ」
 ぴんと背を反らして、ディオはシーツにしがみついた。強い刺激よりも柔らかくて優しい愛撫にこそ、ディオは逃げたくなる。奪い犯す行為ならば暴れられるものの、愛しいと伝えてくるかのような指や唇での行いには、体は硬直した。
 唇は軽く肌を吸い、舌を出して、つうと肌を滑っていく。背から、腰へ、そして尻へ舌は渡った。一枚の繋がっている体の皮膚でも、場所によって味が異なることを知った。少しずつ秘所に近づくほどに香りが濃くなり、味も増す。
「ンン……!」
 丸い尻の頂点に舌が登り詰めると、ジョナサンは両手を使って臀部を下から寄せ上げた。胸の膨らみとは違う肉の柔らかさがあり、押し返してくる弾力は強かった。
 指の腹が柔肉に食い込む。つまめるくらいに肉は指の間からはみ出して、ジョナサンの情欲を更にかき立てる。
 思わず、食らいつきたくなりジョナサンは歯を立てていた。
「はう、ぐっ……!!」
 歯で感触を味わえば、次は唇だけで吸い上げた。ちゅう、と音を大袈裟に立てることで、ディオに何をされているのか想像させ、その心の内をジョナサンは考えると胸の鼓動が高鳴るのを覚える。
 傷も染みも汚れも無いそこを、口や手はすき放題に荒らした。ディオは尻や足の筋肉を引き締めて、嫌悪を示してきたが、結局はジョナサンの腕から逃れられなかった。
「こんな真っ赤になるんだね……痛そうだ」
 一度口付けた箇所をジョナサンはしつこく何度も吸い、齧り、舐めた。片方の尻肉には赤い花びらを一枚飾り付けたようにうっ血し、数日間は消えない痕が残った。この印が消える頃、今度はもう片方に痕をつけてやりたいとジョナサンは思っていた。
 割れ目の始まりに指をそえると、ジョナサンは間に指を潜り込ませた。まだ力の入っている小さな窄まりは、指の感触に怯えて口をきつく閉じた。
「あ!」
 ディオは腕で上半身を支えて、ジョナサンに顔を向け、困ったというより、信じられないものを見る目で声を上げた。
「近寄るな!」
「ディオ?」
 起き上がったディオはすばやく後退る。行き着く先はヘッドボードであるので、逃げ場はないのだが、距離を取りディオはジョナサンを罵った。
「この……ケダモノが! おまえ、穴があれば何でもいいんだろう!? だったらそこいらにいるヤギや羊にでも相手をしてもらえ! 畜生にはお似合いだッ!」
 言ってディオは自らの肩を抱き、その場にうずくまった。ここまできて、急に怖気づいたのだろうか。
「穴、ね……。なんだ、やっぱり君、自分が入れられる側だって自覚してるのかい?」
「うるさい!!」
「そうやって喚き散らすのは事実だって言ってるようなもんだよ、君は嘘つきだけど、本音を隠すのは下手だね」
 ため息をつき、ディオのほうへとジョナサンはにじり寄った。わずかに乾いた衣擦れの音がした。
「無理やりになんてしないよ、ぼくは本当に嫌がっている相手に欲情するようなサディストじゃあないからね」
「な、……何だって、今、なんて言った」
「え? ぼくはサディストじゃないって」
「違う」
「無理やりにしない?」
「……おまえは、ぼくが、い、嫌がってないと、思ってるのか?」
「自分の心に聞くほうが早いんじゃあないかな? ……いや、体にかな」

 ジョナサンはかさついている自分の人差し指を自らの口の奥まで入れて、たっぷり濡らした。
 わけの分からないまま、ディオはただその理解不能な動作を見ているだけで、先ほど言われた台詞を頭の中で繰り返していた。
 ――心……? なんでそんな……、おれは、始め、アイツを自分の手で犯そうとして、……それでキスを……
「足を開いて」
 ジョナサンはディオの足首を掴み、膝を割った。驚きで思わずジョナサンの手を振りほどくと、あの続きをしようとしているのだと気付き、ディオは体を反転させた。
「ああ、でもそのほうが恥ずかしくないか」
 横向きにベッドに寝かせられ、ジョナサンはディオに覆いかぶさった。
「嫌だ……! 嫌だ……ッ!! アッ」
 頭を振り、ジョナサンの胸を叩き、足はジョナサンの腹を蹴り上げた。うめき声が低く上がったが、それでもびくともせずにジョナサンは体を押し付ける。
「ン、ンン、ンンっ……」
 唇を奪うと、途端にディオは脱力した。ジョナサンの肉厚の舌で、舌が絡め取られてしまうと、腰から力は抜けていく。同意の上でする甘いキスや自分から求めるキスより、何よりもこうして乱暴に食い尽くされて口内を暴れまわられるキスが一番ディオは感じていた。嫌だと思うほどに、体の熱は上がった。
「あ……ふあ、あッ!!」
 濡れていた指先が尻の肉をかき分けると、閉じた秘花をつつき、爪先が入り込む。
 ダメ、と言いかけると、ジョナサンはまたディオの口を口で塞いだ。熱が上がりゆく口の中は、何もかも溶かしてしまうほどに燃えている。
 口付けにディオが意識を向けると、指はすんなりと窄んだ入口へ侵入していく。傷つけたくないと、ジョナサンは様子を伺いながら、指をゆっくりと埋め込んでいく。
 初めは爪が埋まるまで、次は第一関節、第二関節、ほんの少し曲げて根元まで、みっちりとディオの小さな口はジョナサンの指を最後まで受け入れていった。
「あ……! な……なんで、なんで……っ!!」
 しっかりと体内に指の存在をあることを知り、ディオはひくひくと穴を筋肉で締め付けたり、緩めたりして、ジョナサンの指を食んだ。
「どうしてこんなに簡単に入っちゃうのかな……ねえ、ディオ」
「アッ……! アア、ううう」
 指を回すとディオは一段と高い声を上げた。きつめな筈のそこは案外柔らかく、スムーズに動かすことが出来る。体には拒みなどは、一切みられなかった。
「ココは慣れているの? ぼくに教えて欲しいな……どうして君が受け入れる側だって言ったのかとか、それって君がこうされることに……」
「アッアッ、するかぁっ! んッ……する、もん……ッかぁッ!」 
 入れたときと同じように、またゆっくりと抜き始める。今どこが入口に触れているか、ディオにも伝わるようにぬるぬると出していく。
「本当?」
「うう……ッ誰がこんな……ことっ……、しない……イッ、しないイイイイッ!」
 ぎりぎりまで指を抜き、そして勢いよく奥深く突き刺すと嬌声と悲鳴の間の泣き声が上げられた。辛くとも律儀に答えるのは、その質問に沈黙すれば、肯定と取られるのがディオは嫌だったのだ。否定しなければならない、なにが何でもだ。
「生まれつきかぁ……君の可愛い乳首と一緒で、ココも初めからそう出来ているのかな」
 ここと言って、ジョナサンは指を動かした。粘った唾液が泡立って、出し入れするとじゅぷと音が立った。 
「嫌、嫌あ、やあ、ああっ……嫌ぁあ!」
 中は口内と同じように燃えるような熱さであり、ぬるぬるとして柔らかで、かつ滑らかである。奥へいくほどに、だんだんときつく肉襞は締め付けていく。
「初めてで、こんなお尻で気持ちよくなれるものなのかい?」
「ないッあう……! してない……こんなの、イ、う……ッ! うあ! アアッ!」
 気持ち良くないと、ディオは言いかけたが、擦り上げられる指は確実に快楽のポイントを押さえ続けていた。男の穴の中にある決定的なスポットにはたどり着いていないのにも関わらず、ディオは無様で情けない喘ぎ声を漏らしていた。
「ンン、くう……っ!」
 指は一度引き抜かれ、失った硬さにディオは胸を撫で下ろすのと同時に喪失感を知った。物足りなさがあった。
 ジョナサンはディオの目の前で、先ほどまで入れられていた指を再び自分の口の中に入れて舐めしゃぶった。体内の味を見られているという屈辱で、ディオの頬や耳は直ぐ様真っ赤に染まり、ジョナサンを引っぱたいていた。
 笑ってジョナサンは、ディオへ向いてまた指を舐め、次は中指と薬指も唾液まみれにした。
 片方の手で尻を固定されると、ディオは戸惑って目を泳がせた。嫌だと思っても、期待した尻奥の密やかな花弁はジョナサンに言われた通りに、うずうずと口を開いたり閉じたりしている。
 こんなことが気持ち良い筈はない、自分は男だ、……ディオは必死に熱を冷まそうとしたが、息は荒くなり、視界はぼやけてきた。
「ディオ、そうだよ、力をそのまま抜いて……」
 最早筋肉すらもディオの命令は伝わらなかった。言葉も、体もどこもかしこも自由がきかない。肉体から脳内だけが切り離されて、魂が浮いてしまっているようだった。
「ん、んくぅ……!あああ!」
 人差し指と中指がいきなり同時に押し進められたが、やんわりとして緩む穴の入口の皮膚は伸び広がり、裂ける予感もなく受け入れていった。
 秘所とディオの表情を見て、ジョナサンは安心した。痛みも苦しみもないようだ。むしろ、まるでごく自然に体はその行動に慣れ親しんでいるとさえ思った。
 女であろうと、男であろうと、体の穴に初めて他人の欲の象徴を受け入れるのには勇気と覚悟がいるだろう。一度二度、三度、と行為を重ねれば、次第に体が順応していく筈だ。何事にも言えるが、はじめから上手くいくことなんて無いのだ。数を経て、経験をすることで自身が体で覚えていく。
 知識はあったので、多少は痛みを和らげられるくらい出来るだろうとジョナサンは思っていた。
 同じ男であるから、女の体を良くさせるよりか、ペニスをどう刺激すればいいか知っている分、少しは良くさせられるだろうと思ったのだ。
 だがディオのペニスには、今日はまだ触れていない。まともに見てもいない程だ。それでも、ディオは体中で敏感にジョナサンの愛撫を受けて、喘いでいた。
「んんう、んんう、うっ」
 爪を整えておいて正解だったとジョナサンは数時間前の自分を褒めたくなった。指先で強く抉ろうとも、ディオの大事な部分を傷つける心配がない。かき回して、指で穴を広げて隙間をあけると、ジョナサンは薬指を捩じ込ませた。
「あぐ、んんんうっ!!」 
 腹側に指を曲げて中で一際違和感のある場所を、ぐにりと人差し指が押したと思うと、ディオは胸を張って震えた。
 強い収縮が起き、ジョナサンは思わず指の動きを止めて、蠢く体内の粘膜に感じ入っていた。

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