面従腹背 7

「ア゛ッ! アアアアアッ!!!」
「ディオ……お尻ほじられていったのこれで何回目だい?」
 すっかりとろけきった秘穴は、指を銜える入口はきつく、奥深くは広げられて粘膜はほどよい力加減で絡み付いていた。
「出して……ないっ!」
 射精を伴わない絶頂を信じないディオは、ジョナサンから見れば秘部をヒクつかせて説得力ない姿で首を振った。ペニスの刺激よりも強く何度でもいってしまう穴の奥にある快楽点を、延々とずっと弄られ、数え切れないほどジョナサンの前でディオは絶頂に導かれた。
 シーツを辛うじて掴み、たまに噛んでは口のはしからヨダレを垂らすので、ディオの頭のある部分はくしゃくしゃに皺が寄り、何箇所かヨダレ染みを作っていた。
「うそ、出さなくてもいってる」
 ディオの体で一番弱く、一番恥ずかしい所を攻めて続けてどれくらいのときが経っただろうか。いくら弄っても飽きることが無く、ジョナサンは何度も指を出しては入れ、抜いては奥へかき回して刺して、興奮を昂ぶらせていた。
「ディオのお尻の中、すごくきゅうーってなるんだよ、それから細かくぴくぴくって動いて、……ああ、自分じゃあ分からないか、ぼくには指から全部分かるんだけどな、……ディオがまたいっちゃったんだって」
 一切触れられていないディオのペニスは硬く天を向き、色を変えてぱんぱんに膨れて、待ちきれないと先端から愛液を零し泣いている。その辛さはジョナサンもおなじだった。
 はやくこの熱を治めたいと、腰が揺れたが、ぐっと堪え続けていた。耐えて、我慢して、解放のときを待つ自身もまた、濡れていた。
「指だけで何度もいってるなんて、おち×ぽ入れたらもっとずうっと気持ちよくなっちゃうね……?」
 突き刺したままの指を一気に引き抜き、ジョナサンはその手で尻肉を広げて、すっかり口を開けた秘穴を開かせた。横に寝たままの状態のディオの片足を持ちあげ、ジョナサンは肩に抱える。
「やっ! ヤダァ!! 嫌だ、それ……ッ! ダメだっ……そんなの、こっちに向けるんじゃあないっ!」
「確かめるだけ、少しさ……ほんのちょっぴりだけ」
 待ち構えたジョナサンの欲棒はディオの秘花の入口に接吻ると、窄んだ穴はもじもじと開く。自身を片手で支え、もう片方の手でディオの尻たぶを割開いた。
 長いこと焦らされてよくほぐされた秘穴は、充血して淡く色づいていた。ディオの呼吸に合わせて、秘所もまた口を閉じたり開いたりしている。
「息をはいて……、さあ」
 言われてディオは詰める息を吐く。偶然だったかもしれないが、まるで素直に聞き分けてくれたみたいでジョナサンは嬉しくなった。そしてその一瞬の体の隙をつき、緩んだ秘穴に目掛けて肉棒を埋め込む。
「――カッ、はぁ! ……ぐうう……ッ!!」
 先端がじりじりと埋め込まれていく。ディオは体中が力んでいた。強張りのせいで痛むのだとたとえ知っていても、簡単には力を抜けやしない。未知の感覚に恐れて、頭は混乱していた。
「すごい……ああ、熱い……」
 張り出した部分、一番太くなっている頭が秘穴にすっぽりとはまる。ジョナサンは宣言通りに「ほんのちょっぴりだけ」をディオの体内に入れ込んだのだった。
「ウッ……あっ、ああ、うっ」
 ディオはシーツを掻き毟って手繰り寄せた。何かに捕まって堪えたいのだが、柔らかい布では心もとなく、ディオは無意味にまとまったシーツを抱いた。
 ぐずぐずに溶けて柔らかくなっていた秘花でも、ジョナサンの太い肉棒を易々と受け入れるにはまだ早かった。皺の寄っていた窄まりは、皮膚がぴんと伸びて限界まで広がり、赤さは薄紅桃色に変わっていた。
「やっぱりディオはこうされるのが好きなんだよ。嫌だ、嫌だって口で言っても逃げはしないで、ぼくにいじめられて一人で楽しんでいたんだろ……ずるいなァ」
 抱えた足を舐めつつ、ジョナサンは更に持ち上げた。ぐいと腰を進められると、秘穴の奥が侵蝕されていく。腹の中にジョナサンが居る。ディオはそうは思うと、自分でもどう動かしているのか分からない筋力が働き、媚肉は悦びうねった。
「そんなに……ぎゅって抱きしめないで……」
 肩に足を引っ掛け、ジョナサンはディオの頭の左右に両手をつき、横向きになっている顔にキスをした。頬から輪郭を辿り、そして左耳の三つ並ぶほくろを舐めた。
「いやっ、だあア、アアア、アアッ!」
「よく見てごらんよ、ほら……どんどん飲み込んでいく」
 半分ほどが秘花に食われてゆき、ジョナサンは汗を垂らした。ひとしずくが額から流れ、ディオのこめかみに落ちる。それらはまたディオの汗と共になって、顔の横を伝ってシーツに染みていく。
「ちがうぅッ、ちがう……ッディオはぁ、ディオはぁぁっ、ちがう……こんなのおぉっ!」
 寄せ集めたシーツのかたまりを抱き、ディオは体ごとイヤイヤと振って喚いた。片足は持ち上げられジョナサンの肩にあるので、足掻いても突き刺さった肉棒は微塵も動きはしなかった。
「自分のことディオって言うの? ちいさい子みたい、かわいい」
 耳に唇を近づけ息を吹きかけて囁くと、ディオはびくびくと腕の下で身悶える。
 もっと深く繋がりたいとジョナサンは、股の下にあるディオの片足を曲げながら広げた。角度が変わり、横向けに寝ていたディオの身体は天井を見上げる形になった。
「指よりもっと分かるね……」
 両足の膝裏を抱え、ジョナサンは短い間隔で揺さぶった。半分ほど入った自身の頭のくびれギリギリまでを抜き、そしてまた同じ位置まで入れる。快楽点に届くか届かないかの、すれすれのあたりを擦られ、ディオは背を浮かせた。
「なっ、これ……っ! あうううゥッ!」
「ああ、ディオ、またかい? まだ全部入っていないのに、もう?」
 激しくはないが、軽く達したディオは秘穴をきゅうきゅうと動かして、媚肉は奥から搾り取るように震えた。
「よく分かるよ、びくびくってしてる。ぼくに指でいじられてからいきやすくなっちゃったんだね……でも、すぐ気持ちよくなれていいね、ディオ」
 吹き出した汗で張り付く金の髪が、顔のそこら中に散らばっている。ジョナサンは髪をかき分けてやり、隠されていたつるりとした額や、火照る頬を手で撫でた。何かを求めるように、ディオは唇を僅かに開き、その間から濡れた舌がちらりと覗く。
 きりりと上がった目や眉も、とろんと溶け、睫毛が伏せられている。潤んだ瞳は光をうけて眩かった。
 両足は、ジョナサンの意のままに開かれ、腿の裏を押されてベッドに押し付けられる。柔軟性に富んだ身体は、無理な体勢も難なく受け入れた。開いた足の中心に、猛った雄棒を食わされている。為すがままにされていたディオは強引に開かれた足が、自分の腹のすぐ隣にあることを知り、なんと情けない格好をしているのかと、恥じ入った。
 自尊心を傷つけられたり、屈辱的な行為を強いられる度に、悔しさや憎しみが増える。だが同じように、心の奥底にある自身が否定し続けるある性癖は、肉の中で痛みを悦びに変えて、腹にある男に食らいつくのだ。

 ジョナサンはディオの足首を掴み、自分の肩に乗せた。身体を屈めると、自然にディオのふくらはぎまでがジョナサンの背に回った。
「ゆっくりだけど……入ってくね」
「ヒッ! ぐ……ひぐうっ!!」
 ――にゅぐぐ、くぷぷぷ……っ
 指では届かなかった最奥が、ジョナサンの凶暴な欲によってこじ開けられていく。灼かれる痛みと、それを上回る未だ嘗て得たことのない良さに、ディオは歯を食いしばって意識を保つ。
「はあ…………ああー……っ」
「あっ、あっ……ん!? ん、やっ、ああああぁぁっ!!」
 欲しくて堪らなかった箇所に、ジョナサンの太い雁首が抉るように通り抜けた。腰骨の固さを尻で感じて、とうとう全てが入ってしまったのだと、ディオは霧がかる思考の片隅で思った。
 ジョナサンの下半身の剛毛さを不愉快に感じたが、ディオは言葉を紡げずに、はぁはぁと荒く浅い呼吸を繰り返す。
 尻の奥深くで異なるリズムが脈打ち、意識とは逆に肉襞は絡みつき、吸い付いていく。
「やっやあっ、あっ、あっ! うう、……くうっ」
 中をじっくり味わうように、ジョナサンは動きを止めてディオの最奥に居座った。自分ではどうすることも出来ない熱を持て余して、ディオは足をばたつかせジョナサンの背を叩く。自らが起こした振動ですら、ディオにとって微弱な快感の波となった。
「ねぇ、ディオ……君はいじわるされると、嬉しいんだ」
「うう〜〜〜っ、ふっあ……」
 唇を摘み、ジョナサンはそっとキスを落とした。唇同士の皮膚がかすめる程度の口付けだった。ディオは口の中に舌を入れて欲しがって、口を開ける。
「困った子だ。……だからね、」
 奥をつつかれ、ディオはびくびくと尻肉を痙攣させる。ジョナサンは、ぬるつく媚肉から自身をじわじわと引き抜く。襞のひとつひとつが、ジョナサンを我先にと抱き、離したくないと引き止めていく。
「い、ううんぅっ……、あああ、ああ゛っ!」
「だから、いっぱい優しくしてあげる」
 ――でも、意地悪でも優しくでも、こうして突っ込まれるのは同じことか……。
 ディオの腰を両手でしっかり支えると、ジョナサンは抜けかかった肉棒で、一気に貫いた。
「あああッああああぁぁぁッッッ!」
 ディオは足の指を思いっきり握り締め、眼前の男の頭を胸に抱き、果てた。すっかり穴で達することに慣れてしまった身体は、射精も忘れて、体内で得る快感に酔いしれた。
 だがこれで終わるわけが無かった。むしろ始まったばかりなのだった。
 
「あっああ、……イヤだ、イヤぁだ……あっ!」
 規則正しく、一定の調子でジョナサンは同じところを攻め続けていた。
「んんっ、んんっ、ふう……ぃっ、あ、あくっ、う……」
 奥をずんずんと深く責められ、辛く苦しい圧迫感がディオを襲ったが、それよりも少し手前での敏感な箇所を何度も執拗に突かれるのはもっと酷い快感だった。
「もうっ、もう……! 離、し……っ、やめて……くれ……、ジョジョ、ジョジョぉ!」
 放って置かれていたディオの欲自身は、どろどろとした白濁汁を垂らし始めていた。僅かな刺激さえあれば、今にも爆発しそうだ。それを止めているのは他でもない、ジョナサンの手であった。
「言ってくれたら、離してあげる」
 根元を強く手で縛りせき止められているために、ディオの棒の肉の色は変色し濃い赤紫色になっていた。
 ディオの耳元で告げた言葉は、口にすればディオのそのプライドが地に落とされるくらい、いやしい単語であった。言うものか、と唇を噛むと、ジョナサンは更に手の力をきつく込める。
「ああうっ! ……ふぐっ……うう゛っ、あ」
「言うんだ、……言わなきゃいつまでもこのままだよ」
 イヤイヤとディオは首を横に振り、唇は震えながらかすかに開かれる。歯で強く噛んでいた唇は真っ赤に熟している。
「さあ、言って」
「やう、ディ、ディオはぁ、ジョジョ……のっ、あっ、あっ……うう……ジョ、ジョジョの、おち×ぽがぁ、あぐっ、っす、すきぃ……っ」
 喘ぐ声に混じって、躊躇いがちに赤い口から淫猥な台詞が流れる。とてつもない征服感がジョナサンの心に充満し、肉の打ち付け合う音が部屋に響くほどに腰を振った。そして同じように手の動きは早まった。
「やあああ゛ッ! 手ぇっ……手ッ、はなし、ああっ、はなせ……えっ」
「誰が……ッ、一回で……離してあげるって……言った? ……ほら、もっと、」
 局部からは粘った水音がねちねちと鳴り、腰と尻はパンパンと肉のぶつかり合う音がしている。
「ジョジョの……ッ、おっ、おち×ぽ好きっ! 好き……っ! ああ、やあっ離して離してくれ……イヤだ、手ぇ、ええっ」
「まだ、まだだ……ッ、足りない!」
「じょじょぉのぉッ……! おち×ぽすきいッ……やあッ、じょじょお、すき、すきっ……!!」
「ディオ! 違うだろ、……好きなのは、コレだろ! ぼくじゃあないッ!」
「ああっ! ああッ……すきぃ、すきッ、ジョジョ……好き、すきぃい、いいッ!!」
「君がッ! 欲しいのは! これだろ、これだけあればッ! ……いいんだろ!!」
「すき、す、……んむ……んう……」
 ディオの目は虚ろだった、ただ解放を待ち、ひたすらに意味の無い言葉の羅列を並べているに過ぎない。ジョナサンは煩いとでも言うように、口を塞ぎ、ディオの好きな荒々しいキスをした。角度を変え、舌を吸い、繰り返される愛を閉じ込めた。
「嘘つき! 嘘つきだ、君は! ……嘘つきだ……っ!!」
 追い立てるように、腰を叩きつける。お互い息も絶え絶えになり、終わりが見えてくる。
「すき……あ、ジョジョ……うあ、……好き」
「駄目だ……ディオ、言わないで……」
「ジョジョ、……ジョジョお、ん、んく……んんッ!」
 奥の奥まで、ジョナサンは自身を打ち付け、有り得ないと知りながら、孕めばいいとディオの腹の中に精を吐き出した。射精の瞬間に、再び接吻ると、手を離されたディオもまた同じくジョナサンの腹部にびくびくと打ち震えながら飛沫を撒き散らした。
「う、……はぁ、はぁ……っ」
 全て出し終えると、ジョナサンは幸福感で満ち足りた気持ちになっていることに気付いた。
 愛ではない、あの言葉には何の感情も無いんだと言い聞かせても、動悸がして嬉しくってどうしようもなくなった。
 


「…………」
 萎えた陰茎を秘部から抜くと、半透明になりかけたジョナサンの精液がディオの穴から、少しずつ漏れ出していく。
 若い鍛えられた筋肉は、先程まであれほどに大きな勃起を銜えて広がっていたのだが、すぐにきゅっと口を閉じて、そこは行為前と変わらずに小さな窄まりになった。
 ただ、激しい摩擦が起きたために窄まりの周辺はこんもりと盛り上がり腫れて赤みがさしている。
「……あ……、ン……ッ」
 ディオの声と共にヒクついた穴からは、こぽこぽと白濁液が雫になり止めどなく流れる。
 そこは女性器ではないのだ。ソコには精液を留める場所は無い。まるで無駄な行為だと言われているようだった。
「ディオ……」
 ジョナサンは指で粘る精を掬い取り、秘穴に中指を差し入れた。
「ア……ッ! ……もう……ッ!」
 またするのか、とディオは言いたげにジョナサンの腕に爪を立てる。ジョナサンはディオの目を見つめて、小さく首を振った。
「ン、ンん……」
「出すから、じっとしててほしい」
 ジョナサンの肩と腕をしっかと掴み、指が容赦なく進めば、爪を皮膚に立ててくる。
 肉溝をなぞり上げ、ぬるぬるとした感触の在る場所を掻き出す。
 入口はぎゅうっと、締める力が戻っていたが、奥はまだ交わりの余韻に浸って柔く溶けている。
 続けざまに行えば、一度目とは違った良さが穴の中に広がっているのだろう。ジョナサンは指の固さだけで、しばしその心地よさを想像した。
「や、……う、変な……ところ、さわ、る……なァッ!」
「ああ、すまない」
 指先が探るように動くのを察知して、ディオはジョナサンの肩を殴った。
 はっとしてジョナサンは、ゆるゆると指を抜いた。今度は何の欲も抱かずに。
 指で道を作れば、奥まで流し込まれた精液はジョナサンの中指に糸を引きつつ、溢れ出した。
 人と比べるものでは無いだろうが、おそらく一度にしては多量の汁がディオの尻の蕾に注がれていた。秘部からこぼれ出されると、尻の下には染みが作られた。
 ジョナサンは自らの腹を見て確信する。射精させると、ディオは眠気に襲われると昨晩知ったので、ジョナサンは最後までこちらでいかせるのは我慢させようと決めていたのだった。
 耐えて溜め込んでいた精でも、このくらいの量なのだと腹についたディオの白濁を見て思う。
 ジョナサンのよりかは濃い白さがあり、粘り気も強い。腹に張り付いて、流れ落ちずにこびりついていた。
「あとは、ぼくが始末するから、君は横になって……」
「ウッ……いっ……!」
 薄い毛布をディオの肩にかけたとき、何かに痛みを感じて顔をしかめた。
 毛布が、ディオの胸を掠めたのだった。
「え……」
 赤く勃ち上がった状態の乳首は、腫れがますます酷くなっていた。行為の最中、ディオが痛いと訴えたので、今日はほとんど触っていなかった。
「痛むのかい?」
 返事は無く、ディオは小さく俯いた。
 これでは服を着るのもままならないだろうと思い、ジョナサンは室内用のローブを手にして、部屋を出た。
「そのまま、待ってて」
 やはりディオは返事はしなかった。

 真夜中の邸は不気味に静かだった。
 これでは邸中に声が響いたのではないかと思い、ジョナサンは頬が紅潮した。理性が戻ればジョナサンの真面目な質が自身を叱咤する。
 急ぎ足で目的のものを持ち出して、長い廊下に足音を立てないように気を配りながら部屋に帰った。
「ディオ、お待たせ」
 息を弾ませて、ジョナサンは駆け寄るとディオは先ほどと変わらない姿のまま、首だけを向けた。言葉はなかった。
「身体を拭くね」
 水で湿らせたタオルで、顔をふき、汗をぬぐった。とくに汗をかいていた首や、脇をよく拭き取り、まだ濡れている性器とその周りもふく。
「お尻、上げて」
 べちゃべちゃに濡れている尻のあたりは、股に手を入れて、優しく汚れを拭き取ってやる。ディオは顔を背けて押し黙っていた。
「……中、まだ……」
「ん?」
「いい……、それ、よこせ」
 膝をすり合わせたディオの様子に、ジョナサンは合点がいった。
「足、開いて、自分でそこも広げて」
「は? ……何言って!」
「拭くから、ちゃんと。変なことはしない、ぼくがちゃんと後始末したいんだ」
 お願いだ、と付け足すと、ディオはまた無言になった。膝を合わせて立て、首は横を向いたまま身体だけがジョナサンの方に開いた。
「冷たいよ……」
「ン……」
 タオルを小さくまとめ、ディオが両手の指で閉じようとする尻たぶを自ら開く。そこを丹念にぬぐった。傷つきやすく、柔らかい肉肌をそっと撫でるように拭く。
 ディオは口を閉じて、一言も漏らさなかった。息もしなかったのか、顔は赤らんでいた。
「きれいになったよ」
「……ああ」
 告げると、ディオはそこから手を外し、足を畳んで座った。
「あと、……そこだね」
 ジョナサンはディオの胸を指した。軽く腕を組み、自身の身を抱くと、ディオの胸には谷間が出来ていた。
 白い箱をサイドテーブルに置き、中からジョナサンは小瓶を取り出し、中身の透明な液体を脱脂綿に数滴垂らす。
「ちょっとだけ、我慢して」
 ジョナサンは軽くディオの乳首に撫で付ける。ヒヤリと冷たくそれは触れた。
「う……! い、っ……」
「染みる……? 傷になってるのかな……」
 もう片方の乳首もその綿で撫でられ、ディオは痛みを耐えて眉を寄せる。
 ツンと鼻につく匂いで、ディオは消毒薬を塗っているのだと知った。
「ごめんね、ぼくが……噛んだりしたから」
 箱から小さく切られたガーゼとテープ、包帯を取り出し、ジョナサンはそろそろとディオの乳首にガーゼをあてる。
「何を」
「当たるだけでも痛いんだろ、だからこれを貼って」
「そんなもの……!」
 要らないと、ディオはジョナサンの手をはたいた。
「でも、服を着るのも大変じゃあないか、だから」
 落ちたガーゼを拾い、ジョナサンは諦めずにディオの胸にあてた。
「貼るから押さえてて」
 ジョナサンの言う事を聞くのは癪に触ったが、ディオは渋々了承し、片手でガーゼを押さえた。
 ガーゼの上と下をテープで貼り、もう片方の乳首も同じようにガーゼを貼った。
 赤の両の乳首がある場所に、全く反対の色をした白いガーゼがあるのはおかしかった。だがこれで擦れて痛むことは少なくなっただろう。ディオはあまり納得していないようだったが、無いよりはいい。
「あとは、」
 ジョナサンは包帯を手にし、ディオに向き直った。
「腕を上げて」
 訝しげにジョナサンを睨み、ディオは胸の高さほどに両腕を持ち上げた。
 背中から手を回して、ジョナサンは包帯を一重、二重と巻いていく。緩まぬよう、時々、きつく締めて、ガーゼが隠れるまで巻き続けた。
 まるまる一本を使い切り、端を留めてジョナサンは体を離した。
 明らかな膨らみは、きつめに巻かれた包帯に締め上げられて、胸の中心に肉の筋が通っていた。胸に谷間が出来ていた。
 その姿は男装の麗人を思わせる。
 少女が、膨らみかけの胸を布で押し潰して、男のふりをしているかのようだった。
「これで終わりか」
 ディオはジョナサンの目を真っ直ぐに見て言った。眼光はいつもの鋭さが戻りつつあった。
「ああ、うん……終わり」
 終わりか、とは、この始末なのだろうか。それともこの行為全てに対しだろうか。ジョナサンは歯切れ悪く返事をした。
「……疲れた、寝る」
 申し訳程度に肩に引っかかっていた薄手の毛布をかけ直すと、ディオはベッドに横になった。
 数秒もたたない内に、深い寝息が聞こえ、ジョナサンはぼんやりと規則正しく動く毛布の山をしばらくの間見ていた。

 何故か、頬に熱い雫が流れていた。
 ジョナサンは悲しいのか、嬉しいのか、分からない。
 「もしかして」、の答えはそこで静かに息をして眠っている。
 



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