猛獣使い 2

 返事と共にディオの左手の指股を舐め上げる。小さく「ヒッ」と声を上げられて、ジョナサンのズボンはまた一段と窮屈になってしまった。
「ねぇ、これが最後って言うならやっぱり口で、」
 人の、ましてや男のズボンの前を開けることに慣れないその動きは、性的な意味を持たない故かまどろっこしく、もどかしい。
「そんなに噛み切ってほしいのか?」
「う、いや……分かった。すまない、もう言わないよ。」
 無地の黒のズボンは身体にぴったり合う仕立てだ。ズボンだけではなく、コートもベストもシャツもここの所サイズはまめに測り直しがされ、体が大きくなる度に全て新調している。
 まさか正装を着用している時に、そんな所を大きくする予定は無かったので、股の部分だけが不格好に張り詰めている。
「クソ……ッ」
 だからその所為でとにかくその箇所の留め具が開けづらい。ディオはいつまでもいじくり回していたいわけじゃあないのに、なかなか思い通りにいかなかった。
「ん、……」
 うまく動かない指で何とか、ズボンの前を広げた。
 ここは外だ。いつ誰がやってきてもおかしくはない。脱がすのは出来るだけ最小限に留めたい。
「う……っ」
 ディオは久方振りに目の当たりにするジョナサンの陰茎に愕然とした。
 少年の時とはまるで別人のそれは、荒々しく猛々しかった。あの時とは色も形も大きさも反り具合も、何もかも違った。たった2年の間にここまでも成長していたのだ。
 更に増した男の、雄の匂いに息が詰まりそうになる。何とも形容しがたい香気、これがジョナサンの匂いだ。
「ディオ、手袋、……」
「直に触れと言うのかっ」
「いいの? 汚れるよ?」
「……ッく」
 思うがままに事を進められているのがディオは許せなかった。けれど、手袋を汚したくないのは自分の都合でもあるので、渋々右手だけ外して地面に叩きつけた。
 ほとんど八つ当たりだった。
「はぁ……っ……う、」
「ん……、う、わ……」
 ぎこちない手つきでゆるゆると握り、指先だけで竿をさする。
 なまっちょろい動きだったが、ディオの白い手と黒々とした陰部の相反する情景がジョナサンを高揚させてくれた。
「気持ち、わるい……ッッ」
「はぁ、いいね、……その顔……ん、」
 先端から漏れ出してくるぬるつきが指に絡んで、滑りをよくしている。
 卑猥な水音は聞きたくはないのにディオの耳奥に響く。
 逃れたいという一心でディオは目を閉じたが、余計に聴覚と触覚に研ぎ澄まされていった。
「ディオ……はっ、……もっと、こう、」
 額に汗を滲ませながら、熱の苦しみに堪えていたジョナサンはディオの幼すぎる愛撫にとうとう痺れを切らした。
「あ、……!」
 ディオの手より一回りほど大きなジョナサンの手が覆いかぶさり、自身とディオの手と一緒に握りこむ。
 痛むんじゃないかと思うくらい締め付けて根元から先にかけて上下に手で扱き上げる。少年時代と変わらず、強い刺激をジョナサンは好んだ。
「こうやって、……はぁ……はぁ、っ……うあ……」
「あ、……う、……んっ……ん、」
 ディオはもう目を逸らさなかった。むしろ釘付けになっていた。
 律動に合わせて艶のある声を漏らして、同じように荒く息を吐いていた。
 ぐちゅくちゅ、にちゃにちゃと、粘液はディオの手指を汚しながらひっきりなしに音を立てている。
 耳まで犯されるような感覚は、次第に意識を朦朧とさせていく。ジョナサンの荒い息遣いと、粘膜の擦れる音と、すぐそばで続いている会の音楽がディオの頭を混乱させていく。
 ――なんでこんなことに、なんでこのぼくが……、いつまで続くんだこれは……。
 手の中のジョナサン自身は、限界まで膨張している。手は既に重なっていないのにディオの右手は積極的に射精に向かって動きが早まっていく。
 ディオがそのことを理解していたかは分からないが、仕込まれたそれに夢中になっているようだった。
「はぁ、……っう、ああ…そのまま、いいよ、……はぁ、はぁ……」
 右手の中のそのモノは血管が浮き出て、激しく脈打っている。ディオの掌に鼓動が伝わってくる。
 終わりが近づいてきたと知れば、手は一層勢いを増す。
 ジョナサンから発せられているのか、摩擦によるものか、手が病にかかったように熱い。到底自分の物とは思えぬ温度だった。
「くっ、……出す時には、言え! 絶対にぼくの手に出すんじゃあないぞッ!」
 返事は無い、耐え切れぬと歯を食いしばって汗は顔からも首からも垂れ流している。途切れ途切れの息の間に、名前を呼ばれる。直接胸に吹き込むかの呼び声は、体に切ない疼きを起こさせる。
 たまらないと、ディオは息を止める。もうこれ以上は無理だ、早くこの場から消え去りたいと願った。
「ディオ……っもう、……っっ!!」
「んあっ……!?」
 急に引き寄せられたかと思うと、背骨が折れるほどに一度抱きしめられる。
 肺から空気が押し出され、同時に間の抜けた声も出てしまった。背全体を包んだジョナサンの広い手は、曲線美を描くディオの背筋をなぞりながら降りていく。
「ヒっ、う!」
 服の上からの愛撫ですら、我慢できず喘いでしまうディオにジョナサンは笑う。
 もっと与えてやりたい、苛めてやりたい、泣かせたい。どんな反応を見せてくれるだろうか、想像もつかない先の姿にジョナサンは思いを馳せる。思い出の中の少年の顔は薄暗くて、行為そのものに夢中だったからか、細かい表情の記憶は朧げだった。
 コートのテールをたくし上げれば、揃いの黒のズボンに包まれているツンと上がった丸い尻がある。
 大変形のよろしいそのヒップを両手で鷲掴む。
「あうゥっ!」
 尻たぶを摘んで、肉の触感を肌に染み込ませる。この肌と肌で味わいたい。たった数枚の布の厚みが今は果てしなく憎い。
 ディオは太陽の下に晒されている肌すらも白く透き通っている。普段隠されている箇所の皮膚はどれほどの美しさだろうか。
 期待と妄想にまた情が駆け上がっていく。
「はぅっ……やああ、あっ、うう……んっ!」
 指は縦横無尽に蠢いて、尻肉を揉みしだく。
 ぐんにゃりと形を変えるほどに指を深く強くそこに入り込ませる。
 ディオとて身体は鍛えている。腕も足も青年に差し掛かかる年齢に合った筋肉がしっかり身についている。
 しかし、女性のようとはいかないものの男性にしては柔い肌をしていた。
 ほどよくついている筋肉のおかげなのか、または生まれ持ったものなのか、肉質はむっちりとしていていかにも男好きする質感だった。快楽に身を委ね始めているディオの雰囲気に調子付くと、ジョナサンは更に大胆に好き勝手にこねくり回した。
「ひゃっ、あう゛ッ!」
 尻肉を持ち上げてみたり、弾む肉を震わせてみたり、ジョナサンは手の中でディオの柔肉で遊ぶ。その都度「あ゛っ」、「んんうっ」と男を悦ばせる嬌声を上げてくれた。
 抱き寄せてからは、ディオは扱くのをすっかり止めてしまっていた。
 だがジョナサンには亀頭に置かれているだけの手に腰を擦りつけるのと、ディオが見せてくれる媚態で充分だった。
「ううっ……! んん、うう……う゛、あ゛あ゛っ!!!」
 これでもかと肉を左右に割って、隙間に指を食い込ませる。するとディオは正気を失いかけて、獣のうめきに似た声をあげた。
 割れ目にそった指を何度も往復し擦れば、ディオは糸を無くしたあやつり人形のように膝から脱力する。
「ああっ、あぁ……ぅっ」
 ――まずいな。
 ジョナサンは自分の手袋を噛んで、力任せに外した。
「君の恥ずかしい声が周りに聞こえてしまうよ。」
 皮製の手袋をディオの口に押し込む、無理に入れ込めば苦しげに目で訴えてくる。
「困るだろ……?」
 この場くらい優位で居なければと言葉を選んだ。自分だって困るのは同じ立場だが、そう言うことでディオの羞恥心を揺すった。
「優等生のディオなら、静かに出来るよね?」
 不本意だと、ディオは睨んで手袋を噛み潰した。ディオはいっそこの手袋もボロボロにして使い物にならなくしてやりたかった。
 が、精々叶うのはそれを涎まみれにするくらいだ。再び尻に置かれた手の所為で、足も手も口も力は入らない。
「ふぐ……んん、ん、ふっ……」
 乱暴だった手は今度はゆっくりと尻を舐めるように這い回った。円を描いて尻の丸みの縁取りを辿る。
 腰の揺れはスピードを増し、流れ出る汗もそのままに頂点に向かい尽力する。
 ジョナサンの脳内はその瞬間だけディオ一色になった。
「ああっ!! ディオォ……ッッ!!!!」
「ん、……ンゥっ?!」
 爆ぜた。
 ディオの手のひらや指に、灼熱の男汁が降りかかる。
 素肌の手を添えて掻き扱いて、一滴残らず絞り出して深く息を吐いた。存分に快感を与えられて歓びの涙をだらりと流す自身を、思い人に甘えさすよう擦り付ける。
 己の右手を映したディオの瞳は衝撃をうけた状態からやがて激昂になる。
 唾と共にジョナサンの手袋を地面に吐き出し、汚れていない左の袖口で唇を拭いた。
「きさまは……ッ、最後の最後まで……!!!」
 一歩退き乱れ髪を振って、ありとあらゆる罵声をぶつけてやろうと思考を巡らせる。
 最低の、最悪の、変態、変質者、色情魔、猿以下、犬のクソにも満たない、どれを言い放っても陵辱された事実に対する負け惜しみに聞こえるだろう。
 そう考えてしまったら、先の台詞は出ず歯の震えだけが鳴った。
 ジョナサンは緩慢な動作で濡れそぼった性器を適当に自分のハンカチで拭き取って元通りに仕舞い込み、若干よれたコートを伸ばした。
 行きどころのない怒りを腹に抱えたまま、ディオは苦々しそうに右手を振り、精液を落とす。
「穢らわしいッ! このッ!」
 白く濁る粘ついた液体はディオの指一本一本に絡み付いている。忌々しげににその動作を繰り返すディオは、ふうふうと息を荒げていた。
「手、貸してご覧よ。」
 ジョナサンは自分の精液で汚れたディオの右手を無理やりに掴み、顔の目の前へ持ち上げて、彼の目をじっと見ながら大きく口を開けた。
「う、ア……ッ!」
 ゆるく握られていたディオの手の平に、舌を差し入れて垂れる液体を舐めとった。
「ぅ、グ……ッ、やめろ! 触るな!」
 じゅる、とわざと音を立てて親指のつけ根まで舌を這い上がらせて、ジョナサンは人差し指と中指をまるごと口内に入れて、吸った。
「なぁ……ッ……!? やめ、ろって言って……イ……ッ!」
 自らの精液を舐め取るなど正気の沙汰ではないとディオは思うだろうが、それが思い人の手ならば「何てこと」は無いのだ。精の味よりもディオの肌を舌で知る悦びのほうが強かった。
 爪の先まで丹念に舐め、指の股を舌先でなぞりながら、残りの指も同じように銜えてジョナサンは余すところなく舐めしゃぶった。
「や……ゥ……、嫌……だ、きたない……ッ」
「だから、こうやって、綺麗にしてるんだよ?」
 瞳を潤ませて頭を横に振り、脅えながらディオは力なく言った。
 手の甲にちゅうちゅうとキスを何度も繰り返して、やっとジョナサンは右手の拘束を解く。
「ンン……、ッ」
 口の中に溜まった喉奥に絡まる体液をごくりと飲み込む。
 ディオの右手は確かに精液はきれいに無くなったが、代わりにジョナサンの唾液でべとべとに塗れていた。
「……ウ……ッ」
 最早どう反応していいのか分からずに、ディオは後から後からやってくる嗚咽を噛み殺すしかなかった。
「ディオ。」
 ジョナサンは震えるディオの肩に手を置き、顎を上向かせる。
 「……ッぐ!?」
 口づけようとした瞬間、鋭い痛みがジョナサンのこめかみに走った。
「ぼくに触れるなって言っているだろ! ……な、何度も言わせるな!!! この馬鹿が!」
 空いていた左手で、ジョナサンの目の横を思い切り平手で殴ったのだった。
 ディオは上擦った声で無理に大声を出し、怒りか恐怖かでぶるぶると肩を震わせる。脳が左右に揺さぶられる衝撃にジョナサンはふらっと足を縺れさせた。
 他意はなく、ジョナサンは自然と弾みでディオにぶつかってしまった。
「わ、」
 思わずよろけてしまったのだ。縦にも横にも図体のでかいジョナサンは一度バランスを失うと一気に体は重力に負けてしまう。
「アッ」
 ジョナサンの巨躯が伸し掛るとディオはそれ以上倒れ込まれない様、反射的に踏ん張って支えてしまった。そしてディオにとって不幸なことに(ジョナサンにとっては幸運かもしない。)隠しておきたかった秘所に相手の太腿がぴったりと当たってしまっていた。
「…………。」
「ヒ、やッ!」
 まさかと言う思いがまだジョナサンの中にあった。その場所は覚えのある硬さが感じられたが、黒いズボンに隠れているためか、いまいち確認がしづらい。
 意地悪く、膝をずらして動かす。下から撫でさすり、膨らみの形をなぞった。
「嫌ッ!」
「………………。」
 間違いなどあるものか。ジョナサンの疑惑が確信に変わった瞬間であった。
 驚きとかすかな戸惑い、緊張と胸の高まりでジョナサンは言葉が出ない。どう表現していいものか悩んでしまう感情だった。
 脅しに近い行動で、無理を強いたのにも関わらず、ディオは逃げなかった。言動こそ拒否を貫いて罵倒を続けていたが、彼の性格上「当たり前」であったので、ジョナサンにはどうってことは無かった。ただ、体だけはこうも「正直」なのだ。あの時と何ら変わりはない。
「……、ディオも、興奮してるの?」
「ッ!? あっ……?」
 ズボンからくっきり浮き出た形を指で触り、手の中に握り込む。服の下でビクリと大袈裟な程に反応を示して、ディオのモノは更に硬さを増していった。
「し、してない! このッ痴れ者がッ、……触るなと言ってるだろ!」
 べたべたに濡れた手に構うことなくディオは、ジョナサンの腹を殴る。日々鍛えられている肉体はぐっと腹筋に力を込めれば、本気を出せないディオの拳など物ともしなかった。
「どうするの、これ、このまま放っておくの?」
「知るかッ!」
「自分でする?」
「しないッ!」
 ディオの頬はインクを水に垂らして染めるようにじわじわと赤くなっていく。ジョナサンは引きかけていた熱を取り戻せば一気に体温が上昇していった。
「じゃあ……、」
 ジョナサンの動作に合わせて、ディオがその場から一歩下がる。地面に落ちていた小枝を踏み折り、パキリと乾いた音が鳴った。後にひと時の静寂が二人の間を通る。
「ぼくが慰めてあげる。」
 言うよりも欲は先走って、ジョナサンはディオのズボンのボタンを乱暴に外した。
「いい! するな! さわるんじゃあないッ!」
「あれほど静かにって言ったのに、まだ騒ぐのかい?」
 シイッ、と長い人差し指を立ててジョナサンはディオの唇に自らの指を差し出す。幼子に諭す仕草をして、そうしてディオを黙らせた。既に涙目のディオは悔しげに睨むだけ睨んで、きつく唇をむすぶしかない。
 他の誰かに見つかれば、お互い不利なのだと言うことをジョナサンも承知ではあったが、ディオは今のこの状況を自分の「恥」として捉える。己の誇りの問題であったのだ。
「大丈夫、すぐに楽にしてあげるから。」
 何もかも子供扱いであった。ものの言い方も、優しげに撫でる手も、聞き分けのない子供にするのと同じだった。ディオはムズムズと胸の奥を掻き毟りたくなる苛立ちに、腹が立って仕様がなかった。
「早く終わらせるには、君だって協力してくれないとね。」
 荒くなりかけている息を抑えながら、ジョナサンは笑った。裏に意味を含んだ悪い笑みでも無ければ、場を取り繕う社交的な笑みでも無い。嬉しくて、たまらないというこぼれそうな笑顔だった。
 ディオはそのジョナサンの笑顔が苦手であった。特に自分に向けられるとなると、体が動かせなくなるのだ。全開に喜びを露わにしたそれはこちらまで笑ってしまいそうになるからだ。不本意だと顔を硬直させると、体まで固まってしまう。
「……え、……ジョジョ?!」
 ジョナサンはその場にしゃがみこんで、ディオのズボンの中をまさぐった。相手の顔面が自分の秘所の目の前にある。思わずディオは叫びそうになった。
「アッ、……ィ、あ゛ッ?!」
 ディオの声が上がったのは、光景に対してショックを受けたからではなかった。
 勃ち上がったソレをジョナサンは、躊躇いも前触れもなく、自らの口内に収めたからであった。ぬっとりとした感覚が、粘膜中に広がって包まれる。未知の恐ろしさと落ちてしまいそうな快感にディオの喉はひきつる。
「んッ……んんう! ……あ、? ……えッ、何、……ジョ、ジョジョッ?!」
 腰から力が抜けて膝が笑い出すと、ジョナサンはディオの尻から持ち上げて地に足を着かせないように抱いた。
 ビクリビクリとジョナサンの口の中で可愛げに震えて、初めこそ怯えたペニスは萎えかけたが、喉奥まで誘ってやると純粋すぎるほどに快楽を受け取って膨らみを取り戻した。
「ああ、……あう、……ッ」
 行きどころの無くなったディオの手は、ジョナサンの頭髪やジャケットの肩口を握りしめて、ひたすらにその悶痛が過ぎるのを待った。
 ディオからは、ジョナサンのダークブルーの頭頂部が揺れる様子しか窺えない。その頭の下ではおぞましい行いがあるに違いないとディオは熱くなる体とは裏腹に鳥肌が立った。
 ――じゅう、じゅる、ちゅうぅ。
「いっ、んんッ……?」
 ――ジュルル、チュウウ、チュッ。
「アッ、はう……ッ、あう、ンッ!」
 唇と性器の間に空気を含ませて、溢れる半透明の蜜液をわざとらしく音を立ててジョナサンは吸った。自分の下腹部からそんなはしたない音を立てられているなど、全く信じられないディオは「ううっ」と呻き益々生まれたての小鹿みたいに腿をガクガクと震わせて、ジョナサンにしがみついた。
「んんーッ、だめ、だめ……!」
 ジョナサンの口の中で、ヒクヒクとディオの欲棒が破裂しそうにどんどん膨らみ、愛液がどっと濃くなってトロトロと先端からこぼれていく。
 剥き出しになっている吹き出し口にジョナサンは唇をすぼめて吸い付き、愛しい相手に接吻するように、唇と舌で愛撫した。
「ひぐっ……んん、くううッ!!」
 血管が浮き出る程強めに根元を指で押さえて、射精を制御するとディオは上半身すら支えきれなくなり、ジョナサンの頭の上にくたっと体を預けてしまう。
「ああぅッ、いやぁ……ッアッ、あっ」
 何度か唇の代わりにキスをしていた先っぽから口を離すと、ヨダレとディオの先走りでジョナサンの口の周りとディオの秘所は濡れていた。
「ひぃ、やぁ……! ……ッう」
 じゅっぽ、と大きく音をさせながら、また根元まで銜え込み激しく吸い上げる。痛がると困るので、ジョナサンは包み込む唇は少しだけやわやわと力を抜いていた。
 抱きしめた尻を引き寄せ逃げられないよう拘束し、ジョナサンは銜えたソコを小刻みに出し入れして、舌先で裏筋をさすってやる。
「はっ……!? いッ……あああっ、だ、めっ、くち……! はなせぇ…………ッ!」
 ――出していいよ、このまま。
 伝えることは叶わなかったが、思いながらジョナサンは頭を動かした。
「や! ヤだぁ! 嫌だぁッ!」
 嫌だと、髪を振り乱しつつディオはジョナサンの頭に抱きついてきつく押さえ込んだ。今にも崩れ落ちそうに体中を痙攣させ、ディオの腰はガクガクと不安定に揺れた。
「あ゛っ! ああ、いぅうっ、ィヤダぁあああああぁぁッッ!!!」
 喉奥に熱射が叩きつけられる感覚に、ジョナサンはディオがイッたのだと知る。一度でうまく飲み込めず、ジョナサンは口の中で数回に分けて生精を嚥下した。
「―もしかして、こうやって、口でされたことない?」
 ゆっくりそこから唇を離して、ジョナサンは一連のディオの初心な様子を見て思っていたことをつい口にした。
 息すら整わずに汗と涙で頬を濡らしているディオにその質問に答えられる余裕などはなく、腕の支えを抜けばそのまま倒れてしまいそうだった。
 ――ディオは、ヴァージンかもしれない……。
 女も男も、という意味だった。以前「あんなこと」を悪戯でしておきながら言うのも変ではあったが、どう見ても「慣れ」が感じられない。
 そうであるならば、酷な真似をしたと、ジョナサンは僅かばかりの良心を痛めた。確かに何もこんな所で、嫌だと何度も言っていたのに、無理にしなくったっていいものを。後から悔いるから、人は後悔というのだと、改めてジョナサンは自責の念に駆られていた。
 淫部と金の陰毛が、濡れて光っていた。責任は取らねばならない。今こうして自分が胸を痛めている場合ではないのだ。
 ジョナサンは先ほど使ったハンカチで口の周りを拭いつつ、残った愛液をべろりと舐めてきれいにした。
「な、! もうっ……! ふあ!?」
「しないよ、綺麗にして……ほら、もう御終い。」
 ディオは一切信用出来ないという顔をしながら、自分の股に顔を突っ込むジョナサンの行いをただ見守るしかなかった。這い回る舌の感覚は、快楽が過ぎ去った後は不愉快以外の何者でもなく、ヒタヒタと厚いナメクジを充てがわれているみたいだった。
「さ、ボタンもしめた。もう何もしないよ。」
「フン……、当たり前だろ、この変態。」
「変態って……、別にあれくらい誰だってやってることじゃあないか。」
 たかが、オーラルくらいと、ジョナサンは思った。ずっとしゃがんでいた所為か、膝の骨がきしきしと鳴る。立ち上がってもディオはジョナサンの腕や肩を掴んだままで居た。
「誰だって? 嫌がる相手にそうやって、……無理に……っ、するのが……ッ当たり前だって言うのかッ、君は?!」
 俯いたディオが、震える声を悟られまいと気丈に振る舞う。どれほどにはしたない姿を晒しても、ディオは絶対にプライドを崩さないし、特にジョナサンに対しては勝気なままでいた。いや、居たかったのだ。
「泣くなよ、ディオ。君に泣かれると、……。」
「誰が、泣かせてるんだ……ッ」
「……ぼくだね。すまない。」
 また平手か蹴りか、何かしらの攻撃が降って来るのだろうとジョナサンは全身に緊張を走らせていたが、予想に反してディオは大人しかった。念のため汚れていない方の手で頭を撫でてても、怒号が喚き散らされることもなく、受け入れられていた。
 ディオがもし、絵画の中の麗人ならば泣き顔には、美しさだけがあるのだろうが、彼は生きた人間であるので、生理現象には逆らえなかった。ジョナサンは、少しだけ笑いそうになって
「……、鼻水出てるよ、ディオ。」と言った。
 スンと鼻を鳴らして、むすっとした顔でディオは鼻を隠し、
「おまえのハンカチ貸せ。」
 と、ジョナサンのポケットを乱雑に探って、使用済みの白のハンカチを取った。
「あ、それは。」
「うげっ! ……クソッ! 使えるか、こんなもん!!」
 ディオは広げた瞬間に地面にハンカチを叩きつけて憤慨した。ジョナサンが自分の時とディオの時の後始末に使ったもので、つまり精液やらなんやらで、薄汚れていたのだった。
 怒りに感情が移り変わったので、ディオの涙はすっかり止まっていた。ころころとよく感情が変わるのは、昔と同じだと、ジョナサンは思った。初めて会った時だって、ニッコリ笑ったかと思えば堂々と乱暴し、ふんぞり返ってジョナサンに命令したり。そうかと思えば、ころっと態度を変えていい子のふりをしてジョースター卿に挨拶しつつも、ジョナサンに舌を出したりしたのだ。
 器用なのか、素直なのか、真意はジョナサンにはよく分からなかったが、すぐに面に出るということは、ポーカーフェイスではないのだろう。よく考えたら、そこは可愛いと言えるのかもしれない。
「髪、結び直すよ。」
 解いてしまったリボンをジャケットの内側のポケットに仕舞っていたのを思い出し、ジョナサンはディオの髪を手ぐしで梳かした。
「そんな目をしてちゃ、何があったのかって聞かれてしまうね、ディオ。」
 目元は少し腫れていた。よく見なければ分からないくらいの赤みだったが、目尻から頬には涙の筋がうっすらと残っている。聞かずとも、「泣いていました」と顔が物語っている。
「目が赤いよ。」
 伸びた前髪を横に流して、汗で張り付いていた髪を後ろにひとつにまとめる。首の後ろでリボンで結んでやると、位置が気になるのかディオは髪を触って確認をした。
「いい、前髪で隠す。」
 言って、ディオは耳にかかっていた髪を垂らして、目元を半分隠す。伏し目がちになると睫毛の影が濃く落ちて、不健康的な色っぽさが増していた。
 そしてジョナサンはすぐそばに捨てられた自分とディオの手袋を拾い上げた。
 ディオの手袋は土で汚れていた。土を軽く手で払ってから差し出せば、気に入らないといった態度を全面に出しながら奪い取った。
 そこに熱の残り香を感じ取ったジョナサンは、自分の心音が聞こえた。


 時刻は、午前3時を回るころだった。
 最終曲のワルツがしとやかに流れ始めている。
 爽やかな倦怠感で満ちた身体を、ジョナサンはまだ動かす気になれなくて庭に飾られているベンチに一人座っていた。
 帰る前にホールに戻ればいいだろう、最後に挨拶をしておけば恐らく平気だ。
 あとは人ごみに酔ったとか、言い訳をしておけばいいか。と独りごちる。
 あの冬の日から、ずっと心の中で燻っていた情慾が今になってめらめらと赤く燃え出している。
 性的な欲求を果たそうとも、熱は未だに冷めてくれない。
 後から後から乾きが迫ってくるのだ。
 暴きたい、食らいつきたい、舌を這わせて吸い尽くしたい。隠れた本能は自分にさえ牙を向ける。
「参ったなあ……」
 聞き分けの悪い愚息に、ジョナサンは苦笑するしか無かった。

 長かった宴は終わる。
 踊り疲れた紳士淑女たちは挨拶もそこそこに、自家用馬車に次々に乗っていく。
 もう半刻も過ぎれば朝日を拝めるだろう。
 社交のシーズン中、毎夜貴族たちはこうして過ごすのだ。そうして毎年、紳士たちはひと季節にどれだけの成果を上げられるかを密やかに競い合う。それもまた嗜みのひとつだった。
「ジョースターさん!」
 家の馬車を探している最中だった。振り向けば声の主は、あの茶の巻き髪の少女だった。
「ああ、先ほどは……」
「謝らないで。あの、私のほうこそ、あなたに失礼なことをしたのだから……その、」
 社交辞令で詫びるつもりが言葉を遮られる。
 少女は申し訳なさそうに顔を伏せ、あの時と同じ仕草をしている。細い指で口元を隠して喋るのは癖だろうか。
「あなたが謝罪するようなことなどありませんよ。」
 少女の肩を撫で、なるべく背を縮めて怖がらせないように顔を覗いた。口元に弧を描いて微笑みを見せると、明らかにほっとして少女は緊張を解いた。
「あのあと、どうされたかちょっぴり心配だったの。」
「えっ? あ、ああ……。」
「ディオ、あなたのこと怒っていらしたでしょ?」
 怒る、と言うか……怒らせたと言うべきか。
 先刻までの淫行を思い返してしまい、顔が歪む。ジョナサンはだらしなくにやついてしまう頬を無理に引きつらせていたので、少女の目には渋面に見え、余程こっ酷く叱られたのだろうと思わせた。
 ふいに視界に金髪が入ってきた。
 ――ディオだ……。
 この場にも金の髪はいくらでもいる、それでもディオの黄金色は一等光っているのだから嫌でも目につく。そう遠くはない距離でレディに囲まれ談笑している、ジョナサンには決して向けない天使の微笑みで。
 輪の中にはディオの取り巻きの男もいた。別にその男どもがやましい関係にあるわけではないのだが、あの学友のようにディオに対しよからぬ情を抱いているやつもいるかもしれない。
 考え出せば切りが無かった。
「ジョースターさん?」
「ああ、本当に、ディオにはたっぷりしごかれましたよ。」
「まあ、そうなの……」
 純粋な少女は意味をそのまま受け止めて同情し、心を痛めていた。
「ふ……」
 自分で口走っておきながら、なんて下らないんだと、ジョナサンは思わず鼻で笑う。
 巻き髪の少女に、またどこかで、と別れを告げて家の馬車へ乗り込んだ。気持ちのひとつも入っていない体裁を気にかけたありふれている挨拶だった。
 席につくと、コートの内ポケットから、例の手袋が滑り落ちた。あの時に外してから、とうとうはめ直すことはなかったのでずっと仕舞いこんでいたのだ。
 愛用の手袋は羊の皮で出来ていて、柔らかくあつかいやすい。それ故に傷つきやすい。思い切り噛んでいたのだろう、そこにはくっきりと歯型が残っていた。
 眠気の襲う目を閉じると、様々な表情のディオが瞼の裏に浮かんで誘惑してくる。
 怒りに満ちる顔も、苦悶の泣き顔も、どれも好きだと思った。


 あれからディオは幾人に声をかけて回った、そしてそれ以上に人々は群がった。人を惹きつける天性の才があるディオにとって容易いことだ。
 しかも、あの巨漢のジョナサンが居ないのをいいことに男までも寄り付いてきていた。
 計算外の出来事ではあったが、構いはしなかった。ここに居るのは皆貴族なのだから、繋がりを得る好機だと思うことにした。
 その中には大胆なレディも居て、胸元の大きく開いたドレスを見せつけるように擦り寄られたり。すれ違った悪趣味なジェントルマンに、太ももをひと撫でされたりした。
 まるでロンドンの花街とそう変わらないではないかとディオは一人驚いていた。
 上流社会での生活にすっかり慣れたつもりであったディオにとっては、初めての経験だった。
 レディやジェントルマンの行為自体は別段珍しくはない。幼少期にいくつも目にし体験してきたものなのだから。
 ただ、この場で行われたことに衝撃を受けたのだ。
 ――あの堅物がいないからか……。
 傍らにジョナサンは居ない。いつでもいつも、すぐそばにべったりくっついて居るというわけでは無いが、お互い目の届く範囲に居るのが当たり前だった。
 ディオにとってジョナサンという男は、巨体や名前そのものが結界のような役割をしていたのだと思う。
 真面目で静かなる男、それがジョナサン・ジョースター。
 ――何処がだ。あの野蛮人めッ……。
 ディオは爪を噛みかけて、気づいてしまった。そこには淫行の証があった。
 目に映った手袋の、ほんの少しの泥の汚れが恥辱の記憶を一気に噴出させる。
 尻の皮がじくじくと疼く。手の熱がまた上がりそうになる。
 やがて最終曲のメロディが流れ始めた。ディオはこの舞踏会を主催した家の、上の娘を最後のパートナーに選ぶ。
 娘はディオの魅力に取り付かれて、うっとりと手を握っていた。
 ゆったりとした曲調に合わせ、正確にステップを踏む。何事も完璧に熟さなくてはならない。
 音楽を楽しむなどの余裕は無く、脳内はひたすらワルツの三拍子を刻み続けている。背筋から、汗が玉になり流れ落ちる。目は笑っていたが、肉体はくたくただった。踊っていられるのも気力で持っていただけだった。
 ――もう、嫌だ。こんな、屈辱! 一体なんなんだ、ぼくの身体は……!
 いじくり回された体はジョナサンのひとつひとつの動きを覚えている。
「ディオ、私今夜のこと絶対に忘れないわ……。」
「ああ、ぼくもだよ……。」
 返答はロマンティックだったが、ディオはもうそれどころではない。服の下は汗でびっしょりになっていた。

 曲が終わり、この会は終わろうとしている。
 すぐさま馬車に乗り込みたかったが、別れを惜しむ女性陣に捕まり、無下に出来ずにいちいち相手をしてやる。
 一人二人と集まると、ディオは紳士淑女にわらわらと取り囲まれてしまった。
 女はこの際諦めるとしても、男どもはこの上なく鬱陶しかった。
 ごく自然な歩みで自家の馬車に近づきながら、来週の予定を伝えたり、次の約束を交わしたりしていく。
 果たされるかどうかは、最早どうでもいい。良い態度をとっていれば結果は出る、この一時はそれで十分であった。
 目的地とされる場所には一際高い頭が見えていた。
 別に視界に入れたくて見たんじゃあない、図体だけは無駄にデカいやつがいけないのだ、ディオはそう自分自身に言い訳をした。
 巨躯の影に隠れて、みどりの目がジョナサンを見上げている。
 ――またあの餓鬼か……、何が「あの少女はディオに気がある」だッ! ぼくの目を盗んでよくもぬけぬけと!
 唐突にディオは外面を取り繕うのをやめた。本性を出した目には狂気を孕ませている。
 腕を絡ませていた女を振り払って、ディオは大股で歩き始めた。
「あっ、ディオ! どうかして?」
 明らかに変わったディオの空気が取り巻きにも伝わっていった。ほんの数秒前までにこやかに話していたのだ、誰だって怪しむだろう。
「ぼくは気分が悪いッ、いい加減帰らせてもらうよ。」
 人々に背を向けたまま言い放つと、髪は風を切ってゆく。
 急変した態度に不満を漏らすものも居れば、その長髪が揺れる後ろ姿に見惚れるものも居た。
 ディオが馬車に辿り着いた時には、少女の影も形も確認できなかった。
 ――どこのどいつか知らないが、ジョジョに近づくというなら、徹底的に潰すしかない。
 決意は固い。全ては目的が為だった。あの計画が遂行されるまで、ジョナサンに恋人なぞ作らせてはいけない。
 貴族の女であるなら、事の進み具合も早いだろう。そんなことになっては全てが台無しだ。
 ――そうだ、ヤツの全てを奪うためだ、一時の汚辱になど屈するものか!
 強く思えば気が引き締まった。ディオは馬車の扉を開け、先に乗り込んでいた人物を無いものとして席につく。
 どれほど強がっても、内心では気後れしていた。だがしかしディオはそんな自分を認めたくはない。絶対に。
 御者は二人が乗り込んだのを確認すると、馬に鞭を打つ。馬は鼻を鳴らして、慣れた街道を真っ直ぐに駆け出して行く。
 沈黙が続いた。
 整備されている道では蹄や車輪の音はさほど気にならない。
 そもそもジョースター家の馬車は造りがしっかりしているので、箱の中に音が響くことも無いのだ。
 お互いの息遣いが分かる。
 無視を決め込んでいたディオは、ふいにジョナサンを目に入れてしまう。
 彼の、緩んだ口から深い呼吸音がしていた。
「……、おい」
 靴先でジョナサンの脛を叩く。何も返ってこない。
 もう一度、多少乱暴にそこをぶってみる。
 やはりあるのは、そう、間違いなく寝息だけだった。
「このっ……マヌケがッ!!!!」
 ジョナサンの腰掛けている椅子を思い切り蹴り上げると、馬車は突然の衝撃に揺れて傾いた。
 何の変哲もない障害などは見当たらない道だったので、御者も馬も一瞬怯んだ。
 疑問が解決はしなかったけれど、それ以降何事も起こらなかったので御者は気にしないことにした。
 背の後ろの箱の中で、ディオが声を上げて何かを言っていた気もしたが、それは坊ちゃんたちの問題だと、御者はやはり考えないことにした。
 馬は機嫌よく尾を振って、家路へと走っていく。


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