ゆめかまぼろしか 2

「くしゃん」
 静寂を破ったのは、ディオのくしゃみだった。
 あんまりにも、控えめで、おとなしくていじらしげなそれに、ジョナサンの意地はどろどろに溶かされた。
 似合わないのだ、とても。あのディオがそんなくしゃみをするもんかと、思いたかった。
 ディオは、自らの腹を差し出して、腕を伸ばして暖めてくれた。気まぐれな優しさだったろう、何を考えての行為だったかは読み取れない。
 腹の内の心情がどうであっても、ジョナサンにとっては紛れもない「優しさ」だったから、結局彼は、相手を突き放せない。甘さを思いやりとも呼べるし、気遣いを生ぬるいとも言えた。
 ――別に……いいんだ、もう。ぼくは、ぼくに起きたことだけを本当だと思えばいいんだ。
 そっと、手がディオの背中にさわって、拒まれないと知って、後ろからやわやわ抱き寄せる。
「今夜は、もうぼくは黙るから……、ディオも意地悪言わないでくれよ。」
 涙こそ出ていないけど、姿は泣いて縋る子どもと同じ様だった。ディオの両の手は冷たくなっている。ふたりともかすかに震えていた。
「”今夜”、だけだな。」
 ディオの胸に回している手に、手が重なる。指先は表面をなぞって、小指にたどり着くと絡まった。指切りの約束に似ているとジョナサンは、応えながらに思う。
「ぼくも、君の体が今なくなったら、……死んでしまうんだもんなぁ?」
 ディオは睫毛の先だけが見える程度に振り向く。闇夜を纏った笑みは妖しかった。
「そうだろう、ジョジョ?」
 ジョナサンの言葉を掘り返して言う。
 生死をかけるとは大袈裟だったが、現実として、ここにある。
 ――そうだ、ぼくたちは、お互いをなくしたら死ぬんだ。
 体は嫌になるほど、正直だ。

 夜着の布をとっぱらって、ふたりは裸になった。身につけていたもの全部、何もかも脱いだ。正真正銘の裸体だ。
 素肌と素肌が求め合って吸い付く。
 初めて知る他人の肌だからか、ディオだからなのか、ジョナサンの体は触れ合った箇所から歓喜で粟立った。
 ――ゾクゾクする。でも寒気じゃあない、悪寒でもない……。
 生唾を自然と飲み込んだ。膨れた喉仏が上下するのが分かる。
 ジョナサンはやけに喉が乾いていると思った。
 ――飲み物がほしい、水でもなんでも、いや、ディオの汗がいい。体液がいい。……ディオの唾がいい。
 口付けへの憧憬が心に溜まるとジョナサンは自覚して、慌てた。自分が何を今思い望んだのかと、心の内で叱咤する。
 ――紳士とは、あるべき姿とは……。
 幼少から叩き込まれた紳士的観念を総動員し、精神統一をはかった。一刻も早くこの邪な望みを消し去りたかった。
 ――神よ、主よ……下劣な悪魔からぼくをお救い下さい。どうか過ちを冒すことのないよう、お守り下さい……ああ、主よ……ああ、ディオ……ディオ!
 胸中で十字を切る。ジョナサンの腰は不自然に折れ曲がり、うずくまる形になった。
 ディオはそんなジョナサンを聖母のように両腕で包んでいた。
 男、ましてや少年に聖母などと不似合いな表現であったが、金の髪も、整った顔も美しく、肌はいい香りで、腕の中の心地はリッチモンドの花畑に横たわるように安らかで幸福な気分だった。
 これは、愛しさかと、心の声がジョナサンに問いかける。
 頷く代わりに、ディオの胸に頭をうずめた。

 幾重につまれた布団のあいだで二人はじっと黙って時が刻むのを待っている。
 窓枠は動かない、きっと風はないのだろう。
 雪はどうだろうか、耳には何も届かない。ジョナサンは邸の外を、想像してみた。
 しんと静まり返った、真っ暗な空に、白い景色だけが光って広がる。どの方角もみな雪に覆われて、世界は輝くのだ。
 舞い降る結晶は、音もなく黙って、ただただ地面に降り積もる。
 恋心も同じだ。
 静かで、黙っていて、ゆっくり確実に、占めていく。
 気が付いたときにはもう、一面の白銀。
 ジョナサンは、これが愛しさかと、己の心に問うたのだった。

「なぁ、ジョジョ」
 おしゃべりはしないと言った筈のディオが口火をきった。
 頭上から小さな声で名前を呼ばれるのは、なんだか時めくものだった。
 赤い舌がちらりと覗いて、白の歯が眩しく映る。
「ぼくたち、やっぱりもっと『仲良く』すべきだよなぁ。」
「えっ……あ、ああ。」
 聖母は決してしない顔つきで、ディオは猫撫で声を出してジョナサンの髪を梳いた。そこに色はなく、気持ちのいいものであった。
 なのに、どくどくと心音が高まって、左胸が動いていた。
 そして、やはり喉の乾きをジョナサンは覚える。
「きっとジョースター卿――父さんだって、みんなだって、そうしてほしいと思ってるよな……。」
「そうだ、ね。」
 ディオの短い爪が頭皮にかすれた。指はすっと通り、耳、うなじを指先が這う。ジョナサンは声を上げそうになって、思わず息を詰めた。
「ジョジョ、君は?」
「……、え?」
「君はぼくと、”仲良く”したいかい?」
 くすり指が、ジョナサンの唇の縁取りを、撫でる。
 ――なんてことだ……!! ああ……、神様……っ!!
「ディオ……ッ!!」
「いけないなぁ、大声は出すなよ……な、ジョジョぼっちゃま……。」
 なんたる失態、なんという羞恥。みるみるうちにジョナサンは真っ赤になって、泣きそうになる。
「さ、ジョジョォ……答えは?」
「…………、…………ぃ」
「え? 聞こえないよ。」
「…………し、……たい…………」
「はは、OK!」

 頭から布団をすっぽり被ったまま、ディオはジョナサンの腹の上に跨った。そこはまるでごく小さな密室であった。テントのようでもあって、何か秘密ごとをしているのだと思わせる。
 ディオは自らのペニスをジョナサンの硬い腹筋に押し付けて、軽く擦った。半勃ちだったモノが、ややあって大きく育っていく。色大きさ共に幼くはあるが、ちゃんと大人の形をしている。
 ぬめった粘液はかさついた肌を潤わせていった。
「ふふ……っ」
 吐息を篭らせ笑んでいるディオを見て、ジョナサンはその目を真っ直ぐに見れずに伏せた。
 尻肉にジョナサンのそそり立った先のでっぱりが、つん、つんと動きに合わせて当たっては、もどかしくて切なくなった。
 わざとディオは無視しているのかと、口惜しくなるが、そうではなかった。ディオは分かっていない。
 相手の上に乗るということは、自分が雄(ゆう)であると知らしめる為であった。
 攻めて、いじめて、可愛がって、犯してやる。男として雄としてディオはそう考える。
 男の肉体になんぞ欲情は起きなかったが、ジョナサンに対しての『欲』はまた違った問題であった。
 ジョナサンを、いじめてやろう、追い詰めてやろう。新たな手口で、体も心も、甚振ってやろうという嗜虐的な情欲がジョナサンだけに向けられている。
 そして、見つけた。隠されていた、見えなかった弱点。
 『性への廉恥心』
 知ってしまえば、もうディオの熱は止められない。そこをつつきたくて、抉りたくてたまらなくなる。
 ――早く苦しんだ顔をぼくに見せろよ、悔しいと歯を噛めよ……! それだけがぼくの飢えた野獣の腹を満たせるんだ……!! ああ……っ良い、したい、したい……早く!!
 歪みきった劣情がディオの肉を昂ぶらせる。あそこは天を向いてぎらぎらと光り、今にもはちきれそうに硬く尖っている。
「フフ、何驚いてるんだ、同じものだろう、男なんだから。」
「う、うん、」
 目が離せなかった、釘付けだった。
 ブルネットのジョナサンは体毛も色濃く生えている。成長の証である髭や陰毛も人より早く――11、2才頃から生え始めていた。
 大人の男へと体が変化していく中、腕、足、胸、へそや下腹部と濃さや量も、人並み以上に多いのではと、思いかけていたのだ。
 今、確信になりつつある。
 ブロンドのディオは、言えば当たり前なのだが、どこもブロンドであるのだ。
 手も腕も腹も、脚や指、そして勿論アソコも。
 じっくり見ると、特にその恥かしいところは、髪の色よりワントーン下がった金に茶がちょっぴり混じっている。
 感動だった。すごい、素晴らしいとジョナサンは思う。
 触り心地はどうだろう、自分のはごわついてもじゃもじゃとしているけれど、ディオのは見るからにさらりとして、軽やかに映るのだ。
 こう、きちんと生え揃っているという表現が正しいだろう。
 へその下に、人指しゆびが伸びる。
「ふ、っ……」
 産毛ほどの毛はキラキラ眩く、白の腹に似合っている。
 焦らすように、ゆっくりと降りて、ディオの欲望をうまく避け、指先が毛の始まりに着く。
 中指を増やして、ついと撫で下ろした。
「……はぅ」
 金の恥毛は、癖も少なくて、ジョナサンとは全く違った性質を持っていて、ひどく驚かされた。そして、とても興奮させた。
「すごいな……」
「……ん、……え?」
 思わず声に出していた。ジョナサンは多分、何がどう凄いのか、どういった素晴らしさなのか言葉では説明出来なかった。
 ディオの体は、完璧とすら思えた。白の肌、金の毛、琥珀色の瞳――きっと芸術家なら、誰だって描きたくなる、彫りたくなる、その美を残しておきたいと、手にしたいと願うだろう。
 その才能を塵ほど持たないジョナサンには、とても贅沢なことに思えた。自分にだけ映し出される最上の美を、独占しているのだ。
 爪先に絡ませた金毛を、目で、手で楽しんだなら、次は口にしてみたいと興味がわいた。
「ディオ、きみの……あ、……ココ、舐めてもいいかな?」
「は、ハァッ……!?」
 うっとりしていたまなこは、すぐに強い光を伴ってジョナサンを睨んだ。答えを聞かずとも、イヤだと分かる。
「そんなことまで、許してない!」
「そう。」
 ディオは拍子抜けした。案外あっさり引き下がったので、全力で拒んだ自分がばかみたいに思える。
 ――これを、口に……? そんな汚らしいこと、御免だ。
 唇での愛撫の存在を知っていても、そこにはまだ踏み込めない。とくに潔癖なディオにとっては、えらく恐ろしいものだった。
 ジョナサンは次第に息が荒くなるのを自制するのが難しくなってきた。ディオが乗る腹も、小さく上下し、本番行為を錯覚させてしまう。
「ディ、ディオ……。」
 助けを求めるように、声はか細く苦しげであった。
「いいぞ……ジョジョ、イイ声だ……、もっと聞かせろよ。」
 同じくしてディオも息を荒げる。身を屈めて、ぴたりと胸をくっつけてジョナサンの顎を掴んだ。
「ああ、その顔……いいっ……! ふふふ、もっと、もっとだよ、ジョジョ……。」
「ディオ! ディオ……ッ!」
 泣き出しそうに眉を歪めジョナサンは瞳を潤ませて、紅潮した肌を晒す。余すところなく、ジョナサンの情けなくて仕様もない姿を眺めるとディオはどんどん満たされていく。
「ディオ、ぼくは……っ、」
 自然、腰は揺れる。腹の周りの熱をどうにかしたくて、ジョナサンはディオの太ももに手を伸ばした。
「おっと、おまえは手を出すなよな……ぼくが攻めてるんだ、ジョジョ、さぁぼくの名前を呼んで哀願してみろよ。」
 握りかけた手はぴしゃりと打たれ、どけられる。腹にあたるディオのイチモツは、先走りで滑りが良くなってぐりぐりグニグニと擦り当てられる。
「う……っディオぉ……」
「ふ、はっ……いーいザマだぁ!!」
 快感への逃げ口を閉ざされ、ジョナサンは汗だくになっていた。
「辛いだろ、苦しいだろ……いいよなぁ、ジョジョ、君のその顔……そそるよ、いいね……ふふっ」
 猫にするみたいに、ディオはジョナサンの顎の下を愛しげに撫でた。痛みなのか、悦楽か、入り混じったジョナサンの目も、口もこの上なくセクシーに苦しんでいる。
 それがディオにとって最高だった。こんなに満たされる気持ちは知らなかった。相手を征服していく快感は直接的に性器へと伝わる。
「ああ、ジョジョ……、はあぁ……っ」
 ディオはジョナサンの首に抱きついて、腰を振った。腹筋の割れ目がごつごつして丁度良かった。皮がぐずぐずに擦れて自分でイイ所を探り出して、ディオは高みに登っていく。
 先端は赤く充血して、パンパンに膨れ上がったかと思うと、ぶるぶるっと身悶えし、勢いよく精乳が弾け飛んだ。
「あッ! ふ……っ、ん……う……んく……ぅ」
 乱雑に残り汁を絞るように掻けば、ジョナサンの腹と胸はディオのはしたない恥乳にまみれて汚された。
 浅黒い肌に白い粘液はびっちょり濡れて目立った。手で塗り広げてやれば、ぬちぬちと音を立てながら糸を引いて離れる。
 ディオは雄の征服欲が満たされていく。自分の欲が、相手を辱めたと思うと、動悸は治まらなかった。

「どうだ、……男に、こんなことされて、どういう気分か教えろよ、ジョジョ。」
 顔の前で手を組んで、ジョナサンは隠している。精液でぬるついたままの手で、ディオは泣きっ面でも拝んでやろうと、腕を無理に広げさせた。
「……ん?」
 さぁ、顔を真っ赤にして泣いているヤツをコケにしてやろうと、わくわくしていたディオは予想外の面構えにきょとんとしてしまった。
 目を閉じたジョナサンは、涙を流したあとは残っていたが、そこには獰猛な本能を抑える男の姿があった。
「すごく、危ない気分だよ……。」
 蒼の目が合う。
 瞬間、ディオは射竦められてしまった。
「……な、……ヤ……ッ!」
 細く薄い腰を力任せにずり下ろされて、ディオは股の間にジョナサンの若いが逞しい肉鉾を滑り込まされた。
 驚愕であった。色味こそ大差はないが、その大きさは、とても15歳のものとは思えぬ凶暴さだった。
「な、なんだ……これ……ッ」
「なんだじゃ無いよ。ほら、ディオにもあるじゃあないか……。」
 射精し終え脱力しているディオのモノと一緒にジョナサンは、誇らしげにそそり立つモノを添えて握る。
「う、え……っ」
「すごいなぁ…ヌルヌルだ、いっぱい出しちゃったんだね、ディオ。」
 精と先の愛液でぐちゃぐちゃになっているそこを合わせて軽くしごく。簡単にディオは復活して快感を受け入れた。
「んんっ……んぐう……。」
 他人と比べて、どうだとか、実に下らなくてディオは気に止めたことはない。人並みであるはずなのだ。そう間違いなく。
 だけどコレはおかしかった。なんて凶悪で、極太なんだとディオは思う。けれど負けを宣言するようで、絶対にそれは言えなかった。
「達してすぐって、辛くないのかな? ねぇディオ…きみってすごいね…。」
「やめ、め……、だメェ……! ……ッあ、う、っんん……」
「もうこんなに硬くして、気持ち良くなっちゃってるね。すごいなぁ……えらいね ディオ。」
 ジョナサンの親指はいい子いい子と、ディオの敏感な頭部分をなでなでする。
「ヒィっ……!」
「そんなに泣かないでよ……、ね、よしよし。」
 穴にそって何度も何度も太い親指で撫で回されて、ディオは腰が抜ける。そして、あろうことか親指は爪を立てて谷間を刺した。
「あぐ、ああう゛っ、んんんぅぅうッ!!」
「あっ、」
 仰け反って倒れそうになる体を、ジョナサンはあいた手で支えた。そして無情にも、親指で発射口を塞いで、残りの指で根元をぎゅと縛り付けた。
「あ゛、ぐぅ、なにする……ん、だ……この……っゆびを、」
「立て続けにイったら疲れちゃうだろ。それともそんなに、コレが……」
 ジョナサンは親指の動きを再開させて言う。
「いいのかな、ディオ。」
「イっ……や、あ!」
 ねばねばっと半透明の涙をディオは自身から溢れさせて、ジョナサンの親指を更に濡らす。男の分身とは誰のでも快楽に正直で素直で従順なカワイイ生き物だ。
「どっち? イヤ? イイ?」
「ヒ、ふあ、……んん、……ン゛ッ」
 ディオはくたくたになっている腕を無理やり持ち上げて、てのひらで口を覆った。沈黙を守るという意思が表れていた。
 ――こんな……ことして、絶対許すものか……クソ、ジョジョ……ッ!!
 ディオにはどうして立場が逆転しているのか、理解出来なかった。確かにジョナサンの雄の象徴には驚いたし、その大きさは認めざるを得ない。
 だけど、それくらいなんだ。怯む要因には、いささか足りない。
 ディオは蜂蜜色の瞳をそっと開けて、滲む視界にジョナサンを入れる。
「ディオ……。」
 背中にある手で撫でさすられて、這い上がってくる何かにディオは震えた。
「あう……っ」
 急変したこの態度だ。手つき、目つき、声色……それら全てがディオを狂わせる。獲物を捉えた野獣にじわじわと追い詰められる感覚。内蔵から食われるという錯覚。
 弱者や雌のように惨めな気分になってしまう。
 ――この、ぼくが……ッ?! ジョジョのやつより『劣る』だと……?!
「言ってくれないのなら、ぼくの好きにさせてもらうよ。」
 絞められていた指が離されほんの少し安堵するも、ジョナサンの淫棒がディオのそこに擦り付けられた。
「イ゛ッ、やめろ、何をして……っ」
 ジョナサンは答えず、自らの手でふたつの肉棒を握った。
「は……ッ!? う……んん、ぃうッ!」
 自分でするのとは全く違う他人に与えられる強烈な愛撫にディオは、はじけ飛びそうになって全身が痙攣した。
 あてられたモノの熱さや、粘膜同士のぶつかり合いによる甘く激しい衝撃は簡単に理性を崩壊させてしまう。
「あああ、いやだぁ……、やめ、……イヤ……ッ壊れぇ……!!! るゥッッ!!!」
 ――ちゅぐっちゅぐっ、じゅっぷじゅっぷ、にち、にちゅ、にちゃ、にちッ……!
 音を引切り無しに立てて、ジョナサンはごしごしと扱き上げる。摩擦でそのまま火が付いてしまいそうだと思えた。
 互いの我慢の証拠である白蜜液は、ジョナサンの腹部だけでなくディオの尻まで流れてぬったりと広がっていった。
 相手の白蜜が互いの催淫剤になっているみたいで、ふたりはおかしくなっていく。
 布団の中に篭る淫麋で艶かしい空間は、外界をすっかり遮断して本来の目的も忘れられた。
 自分たちが何者かで、ここは一体どこなのか、という疑問が無くなる。欲望のかたまりだけが、ふたりに残った。

「ジョ、ジョォ……。ん、あ、」
「ディオ……はぁ……はぁ、……。」
 休まないジョナサンの手に手を添え、息も絶え絶えのディオはもの悲しく色っぽく相手の名前を呼んだ。
 ジョナサンは自分も辛かったが、ここで果てれば何もかも終わってしまいそうで、どうしてもそれが嫌で両の根元を強く締めてしごいていた。
 鬱血してぎちぎちに硬く勃起し、快感も苦痛に変わりそうだと思う頃、ディオは引きつって掠れた声を出して言った。
「あ……う、ん……イッ、痛い……ッ」
「っ……え? ディオ……? ココ?」
 射精をせき止めている手なのかと、ジョナサンは指をずらすように動かして確かめた。するとディオはかぶりを振って違うと言う。
「じゃあ、こっち?」
 にゅるりとしごく手を止めて、指で輪を作り亀頭の部分をくりくりと回した。
「ひあ゛、ぅ……!」
「これ、痛い? ぼくはこのくらい強いほうが感じるけど。」
 下から上にかけてジョナサンはぎゅうっと搾り上げる。ぬるついた指では、さして力は込められない。指の隙間から粘液がじわりと伝い落ちる。
「う、あっ……痛いんだよ……っ、もっと……ああ、……、これ、だからっテクニックのないやつって、嫌だ……。」
 言葉にディオらしさが戻り、ジョナサンは何の気なしに笑った。いつもの皮肉めいた台詞に色めいた嬌声が交じっているのだから、おかしい。
「それは悪かったよ……、こうかい?」
 手を緩めて、肉鉾で突く。刺激は生ぬるいがそれがイイとディオのソコがぴくぴく返事をして、もっとと強請っている。
「ン……ンゥ……」
 ――なんだよ……もっと繊細にしろってことか? 女のコみたいなこと言うんだな。なら、相応に優しく丁寧にしなくっちゃなあ……。
 ディオの皮を壊れ物をあつかうように、殊更優しく上下に擦って、絞めていた根元を時折離したり、またきゅっと絞めてやったりした。
「や、ァ……ん……っ」
 ――声まで、女のコみたいだ。
 それまでとは明らかに変わったディオの喘ぎは、艶めきが増していた。快感と痛みの中間の耳を刺す声だったのに、今はただ気持ちいいのだと伝わってくる声だった。
「はぁ、ああ、あうっ……あっあっ!」
「ディオ、ん……」
 右手で自分の根元を押さえ、左手はディオの陰嚢を撫でていた。肉棒同士が抱き合ってきゅうきゅうと擦れている。半透明のだらしない汁がふたりの棒の先からとろりとろりと擦れるたびに、溢れてジョナサンの腹に水たまりを作る。
「ひぅ、ん……、んっ、ひっ……」
 やがてディオは、両腕をベッドにつき、上半身を支えながらゆっさゆっさと腰を振り始めた。
 好きなイイところに当たるのか、ペースを乱さずに規則的に腰は揺れた。
「ああ、ディオ……、いい……、もっと動かして、はぁ……っ」
「はふ……あ、はっ、はっ……」
 ――ぎし、ぎし、ぎしっ……
 木製のベッドは、ディオの動きと共に唸った。粘膜同士が触れ合った水音よりもずっと性行為を感じさせるとジョナサンは思う。
「あん……っ……」
 ぷるりとディオの陰茎がジョナサンの極太のでっぱりに打ち付けられた。ふたりの迸りは近い。ディオは膝を立て脚を左右に大きく開き、大事なところ全て丸見えにして、律動を再開した。
 白腹に、へそに、金の恥毛、妖しく揺れ躍る淫茎に、奥に縮まっている媚肉の花弁。
 また、ジョナサンは喉が乾く。
 ――むしゃぶりつきたい……!
 気狂いだと罵られてもいい、と飢えに乾きに欲がもたげる。あの金の体を、全て舌で味わいたい。肉の味を堪能したい、と悪魔の自分が舌なめずりしている。
 ――そんなこと思うなんて、ぼくは……っどうかしている……!!
 男の雄自身をくわえたいなどと、下劣な思いに浮かされている自分をジョナサンはなけなしの理性で恥じた。
 どう見ても、男だ。
 粘液でぬらついて、赤く染まって、淫猥に光っているからいけないんだと自分勝手にディオを責めた。
「ああッ、ジョジョォ……!」
「ディオ……だめだ、ぼくは」
「やん……っ! やぁ、ん……、あっあっ、……ぁくぅっ!」
 ――このの生臭さがむわっと鼻についてディオは戦慄く。
「あ……? ひ、あ……。」
 ジョナサンは、体を上げて、ディオと向き合った。
 全身から溢れ出る言い様のない気配。オーラ、色気と言われるものだろうか、ディオは知らずに圧倒されていた。
「は、……っあ……ジョ、ジョ……?」
「ディオ……、いけないひとだ……、ぼくを、こんなにも……」
 少年が大人になるまでの短い期間の曖昧な存在であるはずの姿が、一気に成長して男の匂いを漂わせる。
 ジョナサンはディオの背中を押して近寄らせ、口を少しだけ開ける。
 ――飲みたい……ディオの、あの唾液を……。
「いや、いや、嫌だッ!」
 熱望していた唇を求めると、ディオは駄々っ子になって、拒んで暴れてしまった。
「どうして? ディオ。」
「ダメだ! おまえとは、しない……ッ!」
「ディオがそんなこと言うなんておかしいね……。」
 ――エリナには無理やりしたくせに……。
「男となんかぁ、出来るかッ!」
 こんなことは出来るのに、キスは出来ないと言うディオは、変だとジョナサンは思った。
 そのこだわりや信念なんて力づくでいくらでも奪えたが、あえてジョナサンはしなかった。口付けだけは違う、互いが求めたい。その時が来るまで待とうと決めた。
「なら君の、チャームポイントに……。」
 かり、と皮膚を歯で甘く齧って耳たぶのほくろに唇を寄せた。
「あ、……! はぅ……っ」
 ――ちゅるる……じゅう、ちゅっ……ちゅうっ……
 サクランボの実に似た食感に、ディオの芳香がふわっと混じる。
「んっ! んん…っ…くふ……ああ、やあ……」
 ほくろをひとつずつ舐め上げ、耳の軟骨を唇だけで挟んで味わう。腰をくねらせて、ディオは全身を総毛立たせた。
「耳って、すっごく気持ちいいんだね? 今度ぼくのもディオがしてくれよ……。」
「ん、っふ……誰が……ぁ、するか、ばか……っあっ」
「いじわる……。」
 耳穴に舌を送り込んで、ぬちぬちと舐め回した。止めどない快感に襲われてディオはそのわがままな手でしっかとジョナサンにしがみついてしまった。
「あんんっ……! ヤダ、イヤ、……やぁあん……っ!」
 いやだいやだといくら言っても、体は求め欲しがって、くねくねと腰を動かしている。
 堕ちる――、とジョナサンは漠然と思った。
 何が……? 誰が……? 分からない。ただそれが頭に浮かび上がったのだった。

「んふ……ぅ……く……っ」
 耳への責めが終わると、ジョナサンは頬や額に口付けしていった。する度にディオは小さく喘いでくれて、とても敏感になっているのだと分かった。
 背中を撫でながら首筋に口付けるのが一番イイらしく、ディオはもっとと言う代わりに抱きついてくる。
 隙間なくぴったりと肌が合わさると膨れ上がった乳頭部分がコリコリと当たって、そこも良かった。時々気休めに摘んでやると、ディオはお返しとばかりにジョナサンの肩口をかじった。
「……ぃって、」
「フン……、いい気味だな。……っふ」
 血が滲む直前である。しっかり歯型を残して、痕をつける。それもまた、ディオのらしさだとジョナサンは思った。
 ディオは、ジョナサンの何もかもに深く爪痕を残したがった。肉体、精神、環境、何をしても、ディオがジョナサンの中にいる。
 今は……もう、ディオだけしかいない。

 ――そろそろ…限界だ。
 甘く揺すっていた腰の動きも、速くなっていく。ディオは辛そうに眉根をよせていて、汗が止まらなかった。ジョナサンも同じ顔をして、ディオの動きに合わせてやっている。
「はぁ……はぁ……、んん……、」
「じょじょぉ……もう、もう……」
 呂律が怪しくなって、ディオは開いたまま放ってあった足をジョナサンの腰に絡ませた。ディオの全身がジョナサンを求めていた。
「あっ、あっ……あっ、ふ、う゛……っ」
 夢中になって体全部ででピストン運動をし、昇りつめていく。
 ――ぱちゅん、ぱちん、ぱちん! びたん!
 肉と肉がぶつかって、はたき合っている音がする。それはジョナサンのがっしりした太ももと、ディオの尻肉がぶつかり合って出していた音だった。
 ディオが上下する度、ボリューミーな桃肉がどすんと落ちて、肌にしっとりとした触感を残していく。
「あん……、やぅ……んっ、じょじょ、じょじょ、……」
 その細腰からは想像がつかないほど、ディオの尻はもっちりと丸く大きい。そして、今はどこもびしょびしょにヤらしい汁でいっぱいになって、ぬめっている。
 ディオの腰周りをよく観察すると、背骨から骨盤にかけては男性的であるのに、臀部はドンと張り出している。
 その所為で、やけに尻が大きく見え強調されている。
 普段は服に隠れていて、きっと誰も気にしたりしないだろう。おそらく本人も尻のことなど、いちいち確認はしていないのだ。
 カーブの角度、ヒップの限界点の高さ、何よりもその肉質…。
 太ももだけが桃肉を知るのが勿体無くて、ジョナサンは静かに手を伸ばす。
「……ディオ……。は、……んく……。」
 目の前の御馳走に喉を鳴らしながら、ジョナサンは触れた。
「……ひゃっ!? あ……っ??!」
 始めは片手が、するすると丸みを確かめて肉鞠を手にする。
 汗と蜜の所為でねばっこい手触りであったが、肌理細やかで美しい肌なのだと知る。次に触れる時は、一番最初に触れようとジョナサンは独りごちる。
 絶対にそこは、すべすべと滑らかなのだ。白くて、つるんとした、むきたてのゆで卵の肌だ。それに、ほかほかに温かいに違いない。
「……あ゛! どこを……、な……、や……っいや、だっ!!」
「ディオ、本当に君ってすごいよ……君のオシリ……、とってもいいよ……。」
 まもなく、もう片方の手もやってくる。ジョナサンの両の手で収まるかどうかの肉が、指間からはみだす。
「はあ……!」
 むにむにと揉みしだいて、手のひら中で愛撫する。10本の指がそれぞれのやりかたで、尻肉の全てを這い回った。
「うう……っ、やだ……あ、ああ、あぁああっ!」
「オシリ、いいんだろ? ねぇ、ディオ、ちゃんと自分の体見て御覧よ。」
 言われてディオは思わず見てしまう。胸を、下腹部を、足を。
 ガクガクと震えながらも、やらしい舞いを続ける下半身。主張してピンと尖った乳飾りは、女の様に紅く色付いて、淫茎は脈打ち血管を浮かせ、わんわんと泣きじゃくっている。
 ――ちがう……こんなのっ! こんな、いやらしいっ……こんなのぼくじゃあないッ!!
「これが、君の体……、君の欲望だ……。」
 心を読んだかのように、ジョナサンは吐息混じりに言う。
「あ、ふ……、なに? なにを、……ん、」
「全部本当なんだよ、これが君……そして、これがぼく……。」
 鋭い動きで腰を打ち付けて、ジョナサンは自分のモノとディオのモノを握りしめる。
「こんなにはしたなく、びくびくしてる……。」
「アッ……! ぁあ゛、ひあ、……っふあああっ!」
 背筋がぴんと反って、ディオは唇から涎を垂らして声を張り上げる。
 とろりと一段と色濃くなった果汁は、ディオがもう『ダメ』なのだと知らせていた。
「ディオ……、もういいよね、一緒に……」
 ジョナサンはディオの尻を下から持ち上げて、激しく揺さぶってやる。
 真っ赤に燃えるアソコは、擦り上げられていけば、ドドドドと溶岩がせり上がってきた。
「ングゥゥ……っ!」
 一気に汗を吹き出して、ディオは喉を晒して反り返った。背骨はみしみしと軋ませている。
「はぁ……あああッ、ディオ……ディオッ!!」
 痛がるディオを無視して、ジョナサンは最後のとどめを刺す。力をこめて火をふきそうな程に掻き上げた。
「くあっ……ぃやっ……ダメ、それっ……! ああッ、ぃやああッ、熱いぃぃいいいぃぃぃッ!!!!!!」
 甲高く叫びながら、ディオはジョナサンの手で絶頂に導かれた。ディオにとっては耐え難い屈辱であるが、固いプライドは今は形も残っていない。
「ああ、っ……う、ううっ……はぁあッ」
 ほぼ同時にジョナサンも果てた。
 我慢し続けた欲望の淫熱は、ふたり分が混じり合って、どろどろと股ぐらに降りかかった。
 若い男のものすごいにおいが、布団の中いっぱいに広がる。
「はぁ……あ、……はぁ……。」
 最後のひと仕事に残り汁を掻き出すように、扱く。
 たら、たらっと零れた精液は、ディオの萎んだソコに、雫となってぽたぽた落ちた。
「ぁう……う……、うう……。ん、ふぅ……」
 金の茂みに白濁がたんまり絡み付いて、ジョナサンは目に毒だと思った。これ以上、耐え抜く自信が無かった。
 ――だって、今そこが美味しそうに見えたんだ……。

 事が済めば呼吸は落ち着きを取り戻していく。ディオはぐったりと横たわり、ほとんど失神状態で眠りに落ちていた。人の手で与えられる強い快楽に肉体は持たなかったのだ。
 適当な布で特に汚れている場所だけを、さっと拭く。発情した頭は何をしても性欲のスイッチを押すので、ジョナサンは出来るだけ見ないふり、知らないふりを決め込んで後を片付けた。
 汗まみれの肌は、簡単に体を冷やす。致し方なく同じベッドに入り、ジョナサンはディオの肩を抱いた。
 ――あったかい。
 腕の中のぬくもりは、情事の熱とはまた別物だった。心の真ん中に灯る明かりの優しさがある。
「ああ……神様……」
 口から出たのは、祈りの言葉であった。ジョナサンは、何度も何度も謝っていた。この行為を過ちとするのは、自分の心が決めるのだろう。
 だけど、弱い心は神に縋る。
「きっと罰があたる……、ぼくは、なんてことを……」
 思いとは裏腹にジョナサンは眠るディオの髪先に口付けを落とした。許しを乞う、子羊の気持ちで。
 ――君は、どうなんだろう……ディオ。
 真っ白な顔には何の感情もなく安らかに眠るひとがいる。生え際ともみあげのあたりに薄く汗をかき、湿っていた。
 ジョナサンは飽きもせず、呼吸で微かに動くディオの唇をじっと見つめていた。
 外の世界には、夜明けが迫っていた。




 願ったところで、ちっとも朝は待ってはくれない。
 永遠にある夜など誰にも存在しないように、世界は等しく明日を迎える。
 朝日は、信じれらないくらいに眩しかった。春を勘違いした小鳥が歌うんじゃないかって程にだった。
 その日、ジョナサンは寝坊した。
 とても珍しいことであった、ここ最近はきちんとした暮らしを心がけていたので、ジョナサン自身も「しまった」と思ったものだ。
 規則正しい生活を送るのはジョージに叱られない為でもあり、真っ当な紳士を目指すからでもあった。
 真っ当な、紳士……。
「ぼくの目指す真っ当な紳士は、絶対にあんなことはしない……。」
 朝、目を覚ましてからしばらく覚束無い頭で記憶を辿って、いる場所を思い出してから、布団を見た。
 そこにいる筈の(居てほしいと思う)人物の姿は、無かった。
 居た、という証拠もなかった。確かに自分はディオの部屋にいるのに、すべてが夢みたいだった。
 何かないかと探れば、シーツは汚れていたように見える。あんなに乱れたはずなのに、あまり汚れていなかった。
 だから、どこか嘘のようにも見えていた。
 裸のままでいる自分が滑稽で、ジョナサンはローブだけ羽織って、すぐに自室へ戻ってしまった。

 その日は冬らしくなく、日の出が早かった。前の晩の豪雪が嘘みたいね、と皆が口にしていた。
 積もりに積もった雪は、昼過ぎには跡形もなく溶けきって、からっとした空気に地面はあっと言う間に乾いてしまったのだった。
 一面の雪はまぼろしだったのかと思うくらいに、きれいさっぱり無くなった。
 そして、その日ジョナサンはどんなにディオを探しても見つけられなかった。
 一日中、邸の中や敷地や街や、あらゆる場所に出向いたが、どこにもいなかった。
 不思議なことに誰に尋ねてもディオの行方を知る者はいなかった。
 陽が落ちる頃、やっと邸に帰ってきたディオは、普段と変わらない様子で
「やあ、ジョジョ。どうかしたかい?」と笑って、いつもと同じように食事をし、当たり前に本を読んでいた。
 何もかも変わらない、むしろ以前よりずっと柔らかい印象で、ジョナサンは夢か現かと混乱した。

 結局もやもやとした気持ちを抱えたまま食事を終わらせ、ジョナサンはディオのことばかり見ていたのだった。だが会話など特に弾むわけもなく、ただ苦行のような時が過ぎた。
 そしてやっと自由になり、ジョナサンはこっそりと執事に人払いを頼んでおいた。適当に「あまり聞かれたくない男同士の内緒の話さ」と理由をつけた。
 ようやく二人きりになれるタイミングを作り、ジョナサンは急いでディオが食後いつも本を読んでいる大階段近くの客間に向かった。
 やはりそこには、普段通りのディオがいた。ジョナサンの興味のない本が何冊も机に並べてあり、小難しい顔をしてページをめくっている。
 ジョナサンの存在に気が付いた素振りもなく読書に熱中するディオを見て、ジョナサンはたったひとつだけ変わったところを見つけた。
 左耳のほくろがあるあたりが、熟れたように赤い。
 ――あれは、ぼくが……。
「ディオ、耳の、それ」
「あっ!!」
 行動に深い意味は無かった。伸びた腕は、ただ確かめたくて耳たぶに向かっていっただけだ。
 触れるか触れないかの所だった。素早くディオは本で隠すと、瞬く間に頬や首に血が集まって、白い肌を染め上げた。
「やめろっ!!!」
「いや、あ……、その、それ……それって、ぼくが」
「……言うな、もう、それ以上」
「やっぱり、そうなんだよね……、昨日のこと、本当だったんだ……。」
 ディオは認めたも同然であった。耳の印は、ジョナサンが舌や唇で嬲った証拠だった。
「おまえは…………あれを夢にしたいんだろう、なら、それ以上」
「なんの話をしてるんだ、ディオ……」
 意図が掴めず、ジョナサンは狼狽えた。
 どんどん下を向いてしまうディオの顔を確かめたくて、回り込み表情を見て言葉を失った。
「おまえが言ったんだ、……クソッ……、なんだ、もう。」
 この世のどんなものより透明な雫が、ディオの瞳から玉になってはらはらと落ちていく。
 止め方が分からないのか、ひたすらに袖口で何度もディオは目の下をごしごしと拭いていた。
「ディオ……ぼくが、君に何を言っ」
「うるさい! もう全部忘れろ!! 記憶から抹消しろ! そして死ね!! デカマラ野郎!!!」
 手にしていた本をジョナサン目掛けて投げ捨てれば、見事にジョナサンの顔面に直撃し、その隙をついてディオは部屋から飛び出した。
 大体においてディオが愛読する本というのは冗談ではなく「人を殺せる厚さ」である。
 角で脳天を打ち付けられるよりかは、ましだったろう。ジョナサンは床に落ちる血を見てしみじみ思った。
 血は、鼻血であった。
「でか、まら……? やっぱり、ディオもちゃんと覚えてるんだ……」




 話はここまで、事実とは異なるかもしれないけど、ぼくの記憶ではこうだった。
 あれから、結局二年もぼくたちの間には何も無かった。
 本当のことが知りたくて何度かディオに聞こうとしたけど、はぐらかされたり、黙られてしまったり、時には逃げられたりして、全く事は進まなかった。
 そして、今になってやっと、止まっていた時計が刻みだしている。
 ぼくの心にある雪はまだ溶けていないのだ。



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