ずるずる続編 2
「や……めろ。悪い冗談だ。笑えないぜ!」「笑わないでよ。本気なんだから」
ぼくは強気に迫った。そうするのが良いと教えてくれたのはディオだ。ぼくは素直に従った。
「……ぐっう……このぉ」
「何か、ちょっと違うね」
「うぬぅ」
「筋力落ちた?」
ディオの額には血管の筋が浮き立っているし、手に汗もかいているようだった。どうみても全力を出しているに違いないのに、ぼくは実力の半分も出せていない。
「お、ま、えが……ッ、桁外れなんだろうがぁ……ッ!」
そんなつもりは無いのに、これでは弱いモノいじめをしている気になってしまう。ぼくは申し訳なさでいっぱいになった。
「このへんとか、痩せた?」
片手で脇腹のあたりをさすると、服の上でもあばらの感触があった。スマートな体型だとは思っていたが、これは予想外だった。
「あ……ッ、ひあ」
「あはは、くすぐったかった?」
ディオが眉を寄せて怒っているような笑っているような、複雑な感情を混ぜた目をしてくる。ぼくはその手を動かして腹の周りや胸のあたりも触ってみた。
「……いや、痩せたというか。なんか、ちょっと……」
「学生の頃とは違うんだ。運動をする機会も少なくなったしな」
「乗馬は? 狩りは?」
「そんなの部活をやってた頃と比べたら運動のうちに入らないだろう。日常生活と何ら変わりない」
「そりゃあ、確かに」
ディオはぼくの先輩にあたる。同じ学校で、同じ部活。ディオが在籍していた時代もラグビーは学生たちにとって憧れの対象の部のひとつだった。ぼくの先輩たちも、ディオを尊敬している人が多い。ぼくが思っている以上にディオはOBとして有名だった。
「なんか、前と違って……柔らかい気がする」
「太ってはいないぞッ」
明らかにぼくの発言に怒りをみせてディオは否定した。そういうつもりで言ったわけじゃあない。肉質が変わったと伝えたかった。
「うん。太ってはないよ。ただ、このへんとか」
ぼくはディオの胸においたままの手を軽く押した。
「……うっ」
「あ、ごめん。強かった?」
息を詰まらせた声が漏れて、ぼくは反射的に手を浮かせた。ただやはり、押し返してくる弾力がある。
「……もういい加減、そこを離れろ。どけよ」
「いやだよ」
さも当然と言った風にぼくは即答した。ディオは頬を引きつらせていた。
「キス、したいんだ」
再び同じ願望を口にするとディオは歯を食いしばっていた。どうやら苛々し始めている。
「うぐ……っ、何でおれなんだっ、恋人にしてもらえ……ッ!」
「……嫌だな、ディオ。もしかして、ぼくがただの欲求不満にみえるのかい」
「そうだろうが! 十八の男なんて、そんなもんだろう」
「ディオもそうだった?」
ぼくは禁じられた質問をしてしまった。ディオが十八の時の話は、ぼくらの間ではもうずっと語られていない。
「ただの処理だったのかい」
「……何のことだ」
胸のあたりをまさぐっていた手が、少しずつ上に行き、ぼくはディオの首筋を撫でた。
「子どものぼくをからかって、遊んで楽しかった?」
「……知るものか」
「ぼくは覚えてるよ。ううん、忘れたことなんて、一日も無かった」
「だから、まどろっこしいんだよ……おまえはいつだって!」
ディオは膝でぼくの鳩尾目掛けて蹴り上げた。すっかり油断しきっていたぼくは、思いっきり咳き込んでしまった。
「……ッう、げほっ」
「今更になって何だっていうんだ。もうその話は終わりだ!」
ディオはえらく荒々しく叫ぶので、ぼくは泣きたくなった。
「お互い忘れたほうが身のためだ。だから、どけ」
「……な……、何でさ。ぼ、ぼくがもう……、大きくなったから興味無くなったって言うのかい!」
我慢が出来ず、ぼくは目から涙を溢れさせながら訴えていた。ディオは呆気にとられたような顔をしていて、いつの間に噛みしめていた唇はぽかんと開けられていた。
「君は……小さい男の子のぼくだったから、あんなことしてくれたの? 大人の男になったら、もう要らないってことなのかい? ぼくがもっと細くて、背も小さかったら良かったのかい!」
「おい、待て。ジョジョ、声が大きい」
ぼくはディオの襟を掴んで揺さぶるようにして話していた。ディオはぼくの手首をさすり、戸惑ったような顔つきをしていた。
「だって、そうじゃあないか。ぼくの背がだんだん大きくなっていって、離れて暮らすようになってから、全然会えなくなったら、手も繋いでくれない、キスもしてくれない、触ってもくれない! ぼくが……ぼくがどれだけ寂しかったか! 悔しかったか!」
「分かったから静かにしろ」
「分かってないよ! 今だって、キスもしてくれないじゃあないか! 本気になって抵抗してるじゃあないか! ぼくは嫌だよ!」
「キスなら、帰って来たときしただろっ」
ディオは迎えてくれた時のハグの際にする挨拶の口づけのことを言った。
「あれは誰にでもするやつだよ。ぼくが言ってるのは……君が、あのときしてくれた、大人が……する」
「ジョジョ、おまえ本当に図体だけしか成長してないのか……」
「……そうだよ、変わってない。あの時のまんまだよ。だから……ッ」
そう言ってぼくは顔をディオの方へ近づけていった。だけど、あっさりとかわされてしまった。
「そう言えば出来るとでも思ったのか。阿呆」
「意地悪だよ。おかしいよ……あんなにぼくに優しくしてくれてたじゃあないか」
ぼくはディオの首にしがみつくようにして抱きしめた。小さい頃なら、ディオは簡単に抱きしめ返してくれたし、ぼくが駄々をこねたら……そういう事を何でもしてくれた。
「もう十八なんだ。分かるだろう? ジョジョ。おまえは普通に女性と付き合って結婚して家を継ぐのが仕事なんだ……おれとこんなことしてる場合じゃあない……」
「嫌だよ! 絶対、嫌だ。ぼくは、……他の誰かと付き合ったりしてない」
「……恋人くらい居ただろ」
ディオはとうさんが紹介した女の子のことを言っているようだ。
「あの子は友だちだよ。ピクニックに行ったり、一緒に勉強したりする仲なだけ。やらしい気持ちになんか、ならない」
「……なら、あの女優には興奮はしただろ」
ディオはテーブルに置かれた写真の女優を挙げた。
「ぼくがあの写真を持ってたのは君に……似てたからだよ」
「……ッ……そうか……い」
もし、ここで気味悪がってくれたなら、ぼくは潔く引き下がったかもしれない。
それなのにディオは、ぼくの気持ちを昂ぶらせてくれる反応ばかりするのだから、憎らしかった。
ディオは耳たぶまで赤らめて、妙に恥ずかしそうにして自分の顔を隠したのだった。
「何で赤くなるの……そんな顔、されたら、ぼく……ぼく……」
堪らなくなって、ぼくはディオをまたきつく抱きしめた。窮屈になったボトムの前が苦しかった。
「お……ッい、押しつけるな」
「無理だよ……無理! ぼく、もう……したくなってきた」
息が上がり始めて、ぼくは犬みたいに呼吸をしていた。どさくさに紛れてぼくはディオの胸に顔を埋めていた。
「バスルームに行け!」
「……ディオも来てくれるなら」
僅かな期待にときめきながら尋ねると、ディオは真っ赤な顔のままでぼくの頭をはたいた。
「一人でやれ!」
「……なんで……。前なら、仕方ないやつだって言って、手とか口とかで」
「するか!」
ディオはぼくの頭を何度も叩いた。それでもぼくはディオにぎゅうぎゅうとしがみついて腰を押しつけていた。我が儘を許してほしかった。前みたいに甘やかしてほしかった。
大人になったらいけないだなんて言われたら、だったら子どものままでいいとすら思える。
「ぼくのあそこも大きくなったから、嫌なのかい……」
「……ッは!? 何言ってるんだ」
ぼくは、さらにぐっとディオの下半身に自分の股間を押しつけた。
「分かるよね? 体だけじゃあない、ここだってもっと大人になっちゃったよ。十二才の時も周りと比べて大きくて嫌だったけど、ディオがああ言ってくれたから、平気になったんだよ……。もっと大きくなったら、あの時よりディオを喜ばせられるって、思い込んでた」
ディオは出来るだけ腰を引いて、ぼくの腰元から離れようとしている。熱っぽい肌はそのままだった。
「ぼくは毎日見てるから、どれくらい違うのか分からないけど……」
「アッ」
ぼくはディオが顔を隠している手を取って、自分の足の付け根へ運んだ。
「う」
「どう……?」
「や……、くそっ」
ディオが本当に嫌がっていて、打ちのめしたいと思っていたなら、そのまま触れている手でぼくの弱い部分を握りしめるなりして、攻撃すれば良かったんだ。大人しく手をあてがっているディオは、息を押し殺してじっとしていた。
「どう? ディオ」
「……分かるかよ……覚えてないって言ってる」
「服の上からだからかな。じゃあ、ちゃんとディオの目で見てよ」
ぼくは自分がこんなにも、下品なことが言えるとは思っても見なかった。興奮して、脳内の血の巡りが激しくなっているのだけははっきりと分かった。
「ひ……ッあ」
引き千切るようにしてボトムの留め具を外すと、そのまま腿までずり下ろして勃ちあがった自分自身のものを出した。
「う……ううっ」
避けるディオの手の甲にぼくは、ぴたぴたと挑発するように陰茎を当てた。
「どうなの、ディオ……」
「……ッな、なってる、なってるから……早く仕舞えよ!」
予想よりも早く降参したディオに、ぼくは内心がっかりしていた。もっと、焦らしてディオの赤い顔を見ているのも悪くないと思い始めていたからだった。
「うん……だからさ、ディオ……前みたいに」
ぼくは、荒い息をディオの耳元に吹きかけるようにして言った。ディオは自分の指を噛んで、薄く涙を目に滲ませていた。あと少しなんだ。ぼくには余裕が生まれてきていた。
「……はっ……ダメだ!」
「嘘だよ。ディオ、あのときと同じ目になってるよ……ぼくのち×ちんにうっとりしてた頃と同じだ」
「なってない、見るな……ッ」
片手で目元を隠し、ディオはまた唇を閉じている。喉が上下するのが乱れた襟から覗いて、ぼくにもディオの高ぶりが知れた。
「何年ぶりだっけ……五年? 六年になるのかな……ぼくだってずっとずっと我慢してたんだよ……ぼくのち×んちんもディオが恋しくて、泣いてるんだ」
すらすらと信じられない程のいやらしい台詞が流れ落ちてくる。言葉だけでも興奮出来るのは本当みたいだ。ディオはソファーのクッションに顔を埋めるようにして逃げ込もうとしている。
「ね……撫でてよ。良い子良い子ってして……ディオ」
「は……っう」
すりすりとディオの手の甲に鈴口をなでつけると、指が震えているのが分かった。
「手でしたら、……仕舞うと約束しろ」
「うん」
「約束は守れよ……いいか、これが最後だからな」
なるべく見ないようにして、ディオは顔を伏せたままぼくのものに触れた。
手の甲で表面をなぞるようにして、下から上へと撫でられる。さらさらとした滑らかなディオの肌は、少し冷たくて気持ちよかった。
「ディオ……そんなんじゃあ、いつまで経っても出ないよ」
「頑張って出せ」
「無茶だよ」
「……んっ」
つるりとした鈴口をディオは手で包むと、指先を細かく動かしながら、敏感な所を責めてくれた。
「……あっ、それ……すごい、いい」
「くそ……喘ぐな!」
ぼくはわざとディオの耳の中に注ぎ込むようにしていた。吐息混じりに喋ればディオは可愛らしく顔を振ってくれるから、ぼくはくせになっていた。
「あー……、もっと……ディオ、きゅって、手で……ディオの手でして」
久しぶりの他人の体温に包まれて、ぼくは無意識のうちに腰を揺らしていた。ディオの手首を掴むと、竿の部分まで握らせるようにして手を移動させた。
「うあ……っ、ひっ」
ゆるい摩擦よりも、焼けるような刺激を求めて、ぼくはディオの手を重ねて扱き上げていた。
「い……ッう……ッ!」
ディオはうめき声を上げながら、何か恐ろしいものでも見るかのような目をして、ぼくの下腹部を指の間から覗いていた。
「はぁ……はぁ……っ」
こみ上げてきた熱量が、前触れもなくいきなり溢れてきて、ぼくはそのまま出してしまった。
ディオの手のひら目掛けて射精していた。体温でほんのりと赤みがさしているディオの肌に白濁液が飛び散る様は、扇情的だった。
「あ……っ、あ……うう」
受け止めた精液をディオはこぼさないよう手のひらを上にして、動かなかった。