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習作

「おい」

ひやりとした感触に遊戯は身震いをして、その元凶に対して呼びかけた。

「いい加減オレで暖を取るのはやめろ」

「ならこのベッドに入らなければいい」

横になり窓側に顔を向けている遊戯からは、家主の表情は知られない。出て行こうとした所でどうせ引き留めてくるのだろう。

「……う」

冷たくなっている指先が、そろそろと腹回りから胸元へと上がっていき、脇の下をくすぐる。

「く……っ」

「まだだ」

逃げようとする上半身を捕まえられ、男の胸の中に無理くり収められる。鎖骨のあたりに着いた両手ががっちりと遊戯の身を固定した。

「お前の手は、冷てえんだよ……」

「だからこうしているんだ」

「あったまる道具ならいくらでもあるんだろ」

部屋には暖房器具がついており、その設定は高めの温度にされている。にも関わらず、こうして身を合わせてくる理由は何なのだと遊戯は問う。

「野暮なことを言う」

「オレの身になってみろ」

「逆だな」

「何だよ」

「体温を上げる為だけなら、いくらでも方法はある。だがその中で、オレが選んだのがこれだ。これは、この上ない贅沢なやり方なのだということが、貴様には分からんのだろうな」

「……ふうん?」

遊戯は服の隙間に入れられている指に手を重ねて、握ったり緩めたり繰り返した。肌の上にある手は次第に暖められていき、やがて同じ温度となった。

「なあ、海馬。あっためるのは、ここだけでいいのか?」

 

 

――

 

 

本格的に寒さが増すと、カップリングのラブ濃度が上がって大変よろしい

夏は夏で「エロイことするに持ってこい」

冬は冬で「ほっこりエロイことするに持ってこい」

なのであった

習作

「意気地なし」

夜も更け、あとは寝るだけの体(てい)となり、今日もよく働いたと自らを褒めてやるところであった。

ぬくまった布団へと潜り込んだ最中に、不機嫌な声が突き刺さったのだった。

「誰がだ」

「他に誰がいる。海馬に決まっているだろう」

寝台の主は、半身ほど出して腕を組み冷めた目をしている。何故、今ここで、この状況でそんな悪口を浴びせられなければならないと、海馬は自身を落ち着かせながら訊いた。

「オレのどこが意気地がないというんだ。そもそもそんな謂れなど……」

「なら何故、手を出さない」

話の途中で遊戯は口を挟んできた。やけに堂々としているので、海馬は思わず向き直った。

「手……だと? いきなり何を言い出すんだ。また妙な知識でも植えられてきたのか」

一般常識や社会通念に疎い遊戯は、時折ズレた考えをしだす。偏った情報はお友達らの意見を鵜呑みにする所為だと海馬は思っている。遊戯は彼らに対してやけに素直なのだ。

「違う。ずっと前からオレ個人で考えてきたことだ。それに本にも書いてあったぜ。三か月、オレは我慢したんだ」

「一応尋ねるが、それは何の数字だ」

「褥を共にして、三か月だろうが。それなのに接吻もしてこないとは、貴様不能なんじゃないか?」

「…………おい」

「現代医学なら、どうとでもなるだろう。ならさっさと治せ、海馬」

「おい、待て」

「別に恥ずかしがる必要は無いぜ。病気なら仕方のないことだ。オレは笑ったりしないから」

「待てと言っている。話を聞け」

遊戯は朗々と正面を向いたままで一方的に喋り続けるので、会話を遮ってやるように腕を伸ばし、肩を引いた。

「何でオレが貴様に手を出すのが前提で話が進んでいるんだ」

「だって、そういうことじゃないのか、これは」

 

海馬家のベッドは広くて、大きくて、贅沢なつくりをしている。遊戯がそこで寝るようになって、早数か月。共寝もするが、個々でも使用している。

「いや……、ん……? 何だ、オレには話がよく分からん……。どうも疲れているようだ。もう寝る」

話し合いは無駄とみて、海馬は布団の上に横になり、背を向けた。これ以上付き合っていられない。

「寝逃げはダメだぜ! いいから、病院に行け!」

「煩いわ、寝かせろ! 大体、オレの健康状態は良好だ!」

諦めの悪い遊戯は、海馬の肩を揺さぶり起こそうとする。細腕からは想像できない腕力があり、海馬の上半身はぐらついた。

「だったら何で」

「どうしてそうなる。話が飛躍しすぎている!」

海馬と遊戯の頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。どうにも相違があるようだ。このまま放っておいてほしい海馬と、何としてでも状況打破を狙っている遊戯。静かに時が過ぎるわけはなく、緊迫感が漂った。

「このオレが貴様の寝台にわざわざ出向いてやっているというのに。尚且つ、このオレにここまで言わせておいて、男として恥ずかしいと思わないのか、海馬!」

「待て、オレも貴様も男だろう。それがどうして、手を出すだの、出さないだのの展開になっているんだ? 出す出さない以前の問題だろう」

「現代の男子はひどく奥手だとは聞いてはいたが、ここまで用意してやっても、まだ言い訳を続けるのか……見損なったぜ、海馬!」

ため息をつきながら遊戯は落胆したように海馬に吐き捨てる。その顔つきと物言いが海馬の癪に障るのだった。

「それは無性に腹が立つからやめろ」

「がっかりだぜ、海馬!」

「やめろと言っている」

「金玉ついてないんだな、海馬!」

「遊戯ィ、貴様ァ!!」

そこまで言われて男として怒らずにはいられないのは、本能というべきか尊厳と認めるべきか。遊戯の右手が海馬の下腹部を弄る。

「……やれば出来るじゃねえか」

遊戯の身体を反転させ、シーツの上に押し倒すと、したり顔で言われた。小さな唇から覗いている赤い舌が、誘うように咥内で蠢いている。

「オレにその気はない。貴様が何を想像しているかは……知りたくもないが。万にひとつもその可能性は無いからな。ここを使わせているのは、気まぐれな貴様に合わせてやっているだけだ」

「その気がないなら、とっとと追い出せばいいだろ。さあ、早くやれよ」

遊戯は海馬へと両手を伸ばした。子供が起こしてもらうのを強請る仕草だった。しかし、海馬はそれすら無視をした。

「だから意気地なし、って言ってるんだぜ」

「……フン」

開いていた手を拳にして、遊戯は海馬の胸を叩いた。

「突き放すなら、そうしろよ。中途半端にされるほうが、バカを見るんだ」

胸を二度叩き、その手が寝間着のシャツを握った。弱いような、強いような曖昧な力加減で離す様子もなく、遊戯は動かない。

「オレに冷たくされたいのか、どっちなんだ」

「お前はどうなんだよ。オレに冷たくしたいのか」

「……さあな」

「そういう所がオレは嫌いだぜ」

「嫌いで結構だ。貴様に好かれたいとは思っていないからな」

胸元の二つ目のボタンが片手で外され、開いた海馬の胸の肌の上に遊戯は触れた。

「ここまでしても、分からないなんて、言うなよ」

「……何が貴様をそうさせるんだ」

遊戯は、胸元に手を滑り込ませ、海馬の体の線を確かめるようにして手を使っていく。さらりとした肌触りがある。温かい肌が手のひらに心地よい感触を覚えさせる。

「オレが良いと、言ってるんだぜ」

「情けない顔をするな」

「手でも、何でも……出せばいいだろう」

「やめろ」

 

 

――

リハビリ

おや? 何故こんな話になったんだ…?

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