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冬コミペーパー サンプル

 この宇宙には、数多の可能性を秘めた、別の次元があるという。たとえば、この世界の自分も、別の世界にも同じ容姿、同じ名前で存在しているのかもしれない。

 海馬瀬人という男もまた、数多の次元に存在し、その全ての次元で彼は一人の人間を追い求めている。

 どの世界でも、どの時代でも、どの彼も、必ずアテムを求め止まないのだった。それが海馬瀬人という男であるからだ。

 地球――日本、そして童実野町。

 何の変哲もない平和な国の、平凡な街。中心部に構える塔のようなオフィスビルも、どれもこれもが見覚えのあるものだ。

 だが私達が知っている話とは、何かがほんの少し違っている……そんな話。

 

 

 来春には無事に高校を卒業する、らしい。

 二年の途中からほとんど通っていなかったので、何の感慨も無いものだ。

 大体、既に社会人として生きているのだから学歴など今更どうでもいいものだった。学校側からわざわざ「卒業生」として名を連ねて欲しいと頭を下げて頼んでくるほどだ。

 海馬瀬人は世界的大企業『海馬コーポレーション』のCEOである。

 就任後まもなくは学生服を着て、現役高校生社長であることをアピールせざるを得なかったが、今となってはその肩書が霞んでしまうほどの活躍をみせていた。

 関係者も、他者もほとんど瀬人が高校生であることを忘れているだろう。

 空には厚い雲がかかっていた。

 季節は冬。本格的な寒気が街にやってくる頃だった。

 

「海馬、デートしようぜ!」

 前触れもなく、やってきた彼は唐突に言った。

 年末年始の瀬人の予定表は分刻みの過密スケジュールである。この時期、どの会社社長もそうなのだろうが、とにかく顔を出さねばならないパーティーだの式典だのイベントだのがぎっしり詰まっている。

 その点に関しては前以てアテムに説明していた筈だ。

「……何だと」

 恋人のきらきらとした瞳に瀬人は思わず目を細める。睡眠不足の脳には眩しすぎた。

「貴様……オレがあれほど言っただろうが! この時期は邸に戻る時にだけ相手をしてやると! そんな時間があったらオレはとっくに貴様に使っているわ!」

「え……っ、そう、なのか」

 思わぬ告白に、アテムはまんざらでもないという表情を浮かべた。

 しまった、と瀬人は奥歯を噛みしめるも、既に本音をぶちまけてしまったのだからもう遅い。

 怒っても当り散らしても仕方ない。仕事をこなしながら瀬人は尋ねた。

「何故また急にそんなことを思いついたんだ?」

「これだぜ! ここ。学生同士で回ると、限定カードが貰えるって書いてあるぜ!」

 アテムが持ってきた一枚の紙は、まぎれもなく海馬コーポレーションのロゴマークが大きく印刷されている。

 十二月のキャンペーンのひとつであった。

 毎年、季節のイベント毎に行われる本社近辺でのスタンプラリーだ。

 対象年齢は小学生から高校生。M&Wの上級者から初心者まで、参加すればイベント限定カードや特製グッズが貰えるとあって、好評の企画だ。

「この前、相棒と杏子が行ってきたみたいだぜ。オレ達も行こうぜ」

 参加要項には、このように明記されている。――カップル同士、ペアでのご参加をお願いします――

 おそらく、イメージアップといった所だろうか。

 デュエリストは圧倒的に男性が多い。勿論女性デュエリストもいるにはいるが、現状なかなか増えにくいらしい。

 カップルでの参加となれば、必然的に男女比は半々となる。女性でも楽しめるゲームというイメージを広めたい、という思惑もあってのことだろう。瀬人はこめかみを押さえた。

「アテム、よく見てみろ。ここにカップルでの参加と書いてあるだろうが」

「そうだぜ」

「オレと貴様は男同士だろうが」

「でも恋人同士なんだからカップルには違いないだろ?」

「……そういうことではない」

 不思議そうに答えるアテムの素直さに、瀬人は脱力した。きっぱりと自分達をカップルと言うのだから、参る。聞いている方の顔が赤くなりそうだ。

「男女でなければならんのだ」

「なら男女になればいいんじゃないのか?」

 アテムはにっと笑って、瀬人を指さすのだった。

 

 

――

割と長くなった…相変わらず短い話が書けませんな

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