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- 2017/10/20 01:34
寒風が吹く季節にも関わらず、童の白い衣は薄く軽かった。触れてみて知ったものだが、かなり上等な布であった。
「肌も見目も、不思議だ。異国の者だろうか」
だとしたら、どうしてあの詩を詠めるのか。里の者にだけ継がれてきた詩は、弔いの場でしか使われない。余所者が知る筈がないのだ。
「見たところ、十いくつ。後にも先にも、こんな子供は里から生まれてはいない」
ならば里の女が、ここを出て産んだのか。いくつか答えを検討してみるが、どれも瀬人には納得がいかなかった。
「おい、起きろ。ここでくたばるな。別の場所にしろ」
頬をはたいてやると、閉じた目の睫が不快げに震える。
「……寒い」
「だろうな」
瀬人はため息をついた。この童は知恵遅れか、面倒事は御免だった。さっさと出て行って貰うのが最善だ。
「ここは寒い」
「なら南へ行けばいい。ここはお前のような者がいるべき場所ではない」
「違う……本当は、もっと暖かくて、静かだった。こんなに寒くて寂しい場所じゃ……」
「……? 何をほざくか。ここは何十年もこの有様だ。夢でも見ているのか」
「どうしてなんだ……瀬人」
今度こそはっきりと耳にした。童は名を呼んだのだ。だが、童の眼には瀬人自身は映されていなかった。
「貴様、先ほどから人の名を軽々しく呼びおって」
細い首筋を握り、瀬人は童を睨みつけた。童は全く動じない。