やだやだ!更新したい!シリアスもほのぼのもパラレルもエロもSFもコメディも書きたい!!意欲だけがある!妄想だけがある!!それしかねえ……実現する力が……オラにはねえだ……
と、嘆いていても世の中のためにはなりませんので
途中までかけてるのを投げる。
はやくこれ仕上げたいのにな!!
―――
「M&Wで……このボクが……アイツなんかに……」
幾千ものカードが床にばら撒かれた部屋で、瀬人は何度も繰り返して少年の名を呟いた。
「遊戯ィ……許すものか……必ずこの屈辱を……同じ目に、いやそれ以上の痛みを……」
踏み潰されたカードは何も語らない。瀬人にとって使えないカードはゴミ以下の存在でしかない。一度もデッキに入れられないまま、日の目を浴びることなく塵となる運命だった。
「そうか……クク……別の使い道だってあるよな……フフ……フフフフ……」
レアリティの低い同じ柄のカードがいくつもある。M&Wなら意味を成さないが、別のゲームなら違う遊び方が出来る筈だ。
瀬人は新しい遊びを思いついた子供のように楽しげに、けれども不気味に笑いながら、カードをかき集めて、丁寧にケースに仕舞った。新品のカードは角は鋭く、人の肌も傷つけられるだろう。
「ああ、次に奴に会うのが待ち遠しいよ……!」
部屋のカーテンを開け、瀬人は夜闇を仰いだ。風のない空には濁った月を浮かべていた。
「どうかしたの?」
遊戯は、もう一人の自分の顔を覗き込んだ。
「……いいや、何でもないぜ」
遊戯は二人居る。姿かたちがそっくりで、事情を知らない人々はふたりを双子だと思うだろう。けれど、実際は血の繋がりもなく、赤の他人なのだ。
「そう? じゃあ帰ろう」
遊戯は彼の腕を引くのだが、動く気配がなかった。
「相棒……悪い」
「もしかして……また?」
遊戯は鞄を背負い直すと、気まずそうにしている彼に尋ねた。
「ああ」
彼が手にしているのは、小さなメモだった。そこには、恐らく時間と用件、そして女子の名前が書かれているのだ。新学期に入って何度目だろう。遊戯が「また?」と言うくらいなのだから、少なくとも五回以上だ。
「しょうがないね。じゃ、ボクは先帰ってるよ」
「相棒……すまない」
「別に君が謝ることじゃないよ。ちゃんとお話ししてくるんだよ」
「う……うん」
彼――もう一人の遊戯にも、名はある。けれど、彼もまた遊戯としてこの世界で生活しているのだった。同じ名前、同じ体、同じ声。違うのは顔と性格。はじめこそ、誰もが不思議がって、疑問を持った。けれど、ふたりにとってそれが普通であったので、周りも自然と受け入れるようになった。
今でこそ、穏やかに日常を送れているが、それまでの日々は波乱に満ちていたのだった。
もうひとりの遊戯は、女性に好かれる傾向にあった。それは、遊戯にもよく分かる。堂々とした立ち居振る舞いや、あらゆるゲームに精通し、腕前も一流である面。ふとした時に見せる淋しげな表情を持つ面。彼の持つ魅力は、様々な人を惹きつける。
「問題は、女の子だけじゃないってことなんだよなあ」
遊戯は帰り道を歩きながら、思い返していた。同年代だけでなく、年上も年下からもモテるのは、構わない。ただ、男性からも言い寄られていた時は、流石に遊戯が止めに入った。好意を向けられてしまうと、無下には出来ない性格らしく案外押しに弱い。
きっと今回も、女の子に粘られたら、うまく断れなくて困ってしまうのだろうな、などと遊戯は呑気に考えていた。
「あの……」
遊戯が待ち合わせ場所に着くと、そこには一人の女子生徒が佇んでいた。
「悪いな、待った……」
駆け寄ろうとして遊戯が走り出した途端、背後から何者かに腕を取られ、膝をついた。
「……ッ!?」
声を上げようとした瞬間には、口が塞がれ、遊戯は眩暈がした。
――何かを嗅がされている……!
吸いこんではいけないと、全身が拒否するのだが、既に遅く、瞼は閉じられてしまった。
「……ねえ、乱暴なことはしないって……」
「気絶しているだけだ。それに、怪我をさせたりしたら、俺が怒られちまう」
「へへ、こいつ捕まえるだけで……万も貰えるなんてな」
「いいから、早く裏門まで連れてけよ。さっさと終わらせようぜ」
複数人の男女の会話が遊戯の耳に届いていた。かすかに残る意識の中で、最後に聞いた声だった。
そこからぷつん、と電源を切ってしまったかのように、記憶は途絶えた。
次に目を覚ますと、冷たい感触が背中にあった。そして、ふいに水が口の中に運ばれた。
「やあ、遊戯くん、お目覚めかい?」
偽善的な笑顔の少年が遊戯を見下ろして、ペットボトルを傾ける。唇を湿らす程度に落とされていた水が勢いを増して流されていく。
「……ン、……ッぐ! ……がっ、ごほ……ッ」
「おっと、すまない。うまく調節出来なくてね。喉が渇いているだろう? 好きなだけ飲んでくれて構わないよ」
「……ッ、海馬……?」
遊戯は顔を背けて、水を零した。まだ流され続けている水は、びしゃびしゃと遊戯の顔を下り、首元に落ちていった。
「な、何しやがる……貴様が仕組んだのか……!」
「ああ、薬が効きすぎたのかな……目も虚ろで、呂律も回ってない。ほら、もっと水を飲んで……体から抜かないと」
海馬は無理やりに遊戯の唇にペットボトル飲み口をねじ込む。ボトルは傾けられて、残りの水が流し込まれる。
「……ンっ、んん……ッ!」
飲みきれない水は遊戯の唇から零れ、二手に別れながら顎を伝っていった。ようやく状況が分かってきた。何故体が動かないのか。それは両手足が縛られているからだった。手は頭の上にひとつにまとめて括られている。足は開かれて、鎖で固定されていた。
背中に感じる冷たさはコンクリートだろう。寝心地は最悪だ。
天井は高く、光は差さない。オイルの臭いがしている。どうやら何かの工場らしい。だが、ここには瀬人以外の人間は居ないようだ。気配が全く感じられない。
「……ッぷあ……」
「ほとんど零してしまったね。でも気にしなくていいよ。まだ沢山用意してあるから」
「海馬ッ、何のつもりで……こんなこと、しやがる!」
口が解放され、遊戯はすぐさま抗議した。正しい答えなど返ってくるとは思えなかったが、黙ったままではいられない。
「何の……つもり……?」
瀬人は二本目のボトルを開ける。中身はただのミネラルウォーターだ。
「分からない、とでも……言うのか……君が……お前が……!?」
冷静さを装っているようで、瀬人はいつ感情を爆発させるか分からない不安定さがあった。ボトルの中身を遊戯の体にぶちまけて、そのまま床に叩きつけた。
「クク……ククク……ハハ! これはただの復讐なんだよ! そう、オレの苛立ちを解消するためのだけのゲームだ!」
「……海馬……ッ!」
瀬人は目の色が変わり、急に息が荒くなった。興奮状態となった瀬人には、遊戯の言葉は届かない。
「だが……貴様はゲームの対戦相手じゃない……お前を使ってこのボクがゲームをするんだ」
床に置いていたアタッシュケースを開け、瀬人は中から組になったカードを取った。慣れた様子でカードをシャッフルさせた。
そして、瀬人は遊戯の体の上にカードをばら撒いていく。
「海馬、一体……何を」
「黙っていろ。貴様はただの道具なんだ」
意図が汲めず、遊戯はぼやける視界の中で海馬の思考を探った。血走った眼は遊戯を見ていない。置かれたカードらに視線は注がれていた。